177号 SUMMER 目次を見る
■目 次
- ≫ デジタルは低画質・高被曝?
- ≫ アナログの限界
- ≫ 時代の要請が生んだCBCT
- ≫ 薬事承認と“3DX multi image microCT”の命名
- ≫ パノラマ装置への搭載
- ≫ ゼロからの開発“Veraview X800”
- ≫ 謝辞
■デジタルは低画質・高被曝?
1990年代初期から、モリタ製作所と日本大学はX線パノラマ撮影法のデジタル化に取り組んだ(図1)。
当時のコンピュータの能力は現在の1/1000以下で、画質はフィルムの従来法(以下アナログ)に比較して劣り、しかも被曝線量は4倍以上と実用には至らなかった。
しかし、この経験がのちの歯科用コーンビームCT(computed tomography)(以下 CBCT)の要素技術となった。
図1-
図2
■アナログの限界
当時、インプラント治療が行われるようになり、多機能な断層撮影が求められるようになった。
モリタ製作所はこれに応えるべく、“Veraview Scope”を1994年に開発した。
この装置は歯列の横断像を撮影することができる画期的な製品であった。しかし、アナログの限界があり、歯列横断画像の画質は十分とはいえなかった。これがCBCT開発のトリガーとなった。
■時代の要請が生んだCBCT
医科では1970年代にCTが実用化され、生体の冠状断の画像を得ることが可能となり、画像診断に革命をもたらしていた。しかし、被曝線量が大きく、硬組織の微細な構造が観察できない問題があった。歯科分野で広く応用するには低被曝で高画質の専用装置の開発が不可欠であった。当時の技術としては、それらは実現不可能と考えられていた。しかしながら、共同研究を行ったモリタ製作所の森田隆一郎社長(当時)からは、“10年たっても新しい”といえる画期的な製品の開発を目指し大号令がかけられた。
私は照射野を小さくすることで、これらを実現した(図3)。1997年には試作機(通称 Ortho-CT)の臨床研究が日本大学歯学部付属歯科病院で開始された(図4)1)。
図3-
図4
■薬事承認と“3DX multi image microCT”の命名
薬事承認に向けてCBCTの有効性および安全性を証明する必要があった。有効性においては、3年間に3,000件を超える症例を重ねることで証明を行った。安全性に関しては、被曝線量を精密に測定することで行われた。
これらが立証され、晴れて“歯科・頭頸部用小照射野X線CT装置”の薬事項目が新設され、第1号機として登録された。ここに“3DX multi image micro CT( ” 以下3DX)と命名された(図5)
図5
■パノラマ装置への搭載
国内初となるパノラマ撮影装置にCBCTを搭載した複合機“Veraviewepocs3D”が、2007年に発売された(図6)。
この装置には、世界初のパノラマスカウト機能が搭載された。これによって、撮影したい部位をパノラマ画像上でクリックするだけで、必要な部位の3次元画像が得られるようになった(図7)。
その後、“歯列弓型の照射野”を世界で初めて開発し“Veraviewepocs3Df”に搭載した。これによって、直径10cmに相当する広い領域を低被曝で撮影することが可能となった(図8)
図6-
図7 -
図8
■ゼロからの開発“Veraview X800”
“Veraview X800”(以下 X800)は3DXと同様にゼロから開発された。X800は複合機であっても専用機の3DXと同等の画像が得られることが目標とされた。精度を確保するために、装置自身の剛性が2倍に引き上げられた(図9)。
さらに、X線の打ち上げ角度を可変にすることで、常に理想的な角度から撮影できるようにした。これによって、複合機で問題になっていた金属アーチファクトを大幅に低減することが可能となった(図10)。さらに、独自開発したディテクターの画素サイズ自体を、0.1mm角と極小にすることで高解像力を実現させた(図11)。
また、パノラマにおいては、フォーカスの合っている部分を再構成することで、ボケのない鮮鋭な画像を得るようにした。これは冒頭で述べたデジタルパノラマで原理が提唱されていたものであったが、30年の時間を経て実用化に成功した(図12)
図9-
図10
図11-
図12
■謝辞
30年以上共同開発を続け、実現不可能といわれた歯科用CBCTの発売から20周年を迎えられたことに心からから感謝申し上げます。今後も、あゆみを止めることなく、画期的な診断装置を開発していきたいと思います。
- 1) Arai Y, Tammisalo E,. etc. Development of a compact computed tomographic apparatus for dental use. Dentomaxillofac Radiol, 1999, 28, 245-8.
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