140号 SPRING 目次を見る
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はじめに
2001年に歯科用CT「3DX MULTI‑IMAGE MICRO CT」<(株)モリタ製作所>が発売され、10年が経過しました。その間モリタ製作所は、“高画質”と“低被曝”、あるいは、“撮像の簡便性・小型化”と“症例に応じた様々な撮像領域の実現”といった、相反する課題を解決するために、日夜研究開発を続けています。同時に優れたコストパフォーマンスも、時代から要請されています(図1)。
これらの課題に対する“答え”として、最先端のデジタル技術に伝統の“匠の技”を融合した新製品「Veraviewepocs 3Df」が発表されました。
系譜
第1期は、1971年の世界的にヒットしたパノラマ装置「Panex」を筆頭に、1979年には世界初の直流X線装置を搭載した「Veraview」が発売されました。1994年には“匠の技”を結集し、世界で初めてパノラマ装置に多機能断層撮影装置を搭載するに成功しました。
第2期ではパノラマ装置のデジタル化と、多機能断層装置を歯科用CT「3DX MULTI‑IMAGE MICRO CT」として世に送り出しました。2007年には、それらを融合して、世界初のデジタルパノラマと歯科用CTの複合機「Veraviewepocs 3D」を発表しました(図2)。
このほど発売された「Veraviewepocs 3Df」は最新のデジタル技術と長きにわたり蓄積してきた“匠の技”を融合させたもので、もはや“デジタルを意識させない”ものとなっています。
以下に数々の特長を紹介いたします。
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図1 歯科用コーンビームCTの必要要件
被曝と画質、簡便性と多機能など、相反する課題の解決と、時代の要請でもあるコストパフォーマンスの追及が求められた。
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図2 3Dfの系譜
第1期のアナログ時代、第2期のデジタル時代を経て、それらが有機的に融合し、3Dfが誕生した。第3期にふさわしく、デジタルと“匠の技”が融合されている。
CT機能
デンタルアーチ型FOV
(Dental Arch fitted Field of View)
従来の「Veraviewepocs 3D」の最大のFOV(Field ofView;撮像領域)は直径8cm高さ8cmでした。この撮像領域では、前歯部から智歯後方までの全顎撮像を行おうとすると、症例によっては智歯部が撮像領域に入らないといった問題点がありました。
この問題を単純に解決する方法として、撮像領域の直径を8cmから10cmに拡大する方法が考えられました。しかし、この方法を導入すると、診断領域外の周囲軟組織の被曝線量の増加が問題となりました。
そこで図3に示すように、歯列の形に沿ったデンタルアーチ型FOVを新たに開発し、搭載しました。これによって、全顎撮像が可能となりました。
さらには、直径10cmの円形の撮像領域に比較して、斜線部分の被曝線量を低減することが可能となりました。同部位には放射線感受性の高い唾液腺やリンパ節などが分布していることから、その効果が期待されます。
図4には従来の直径8cmの撮像領域で撮像した場合のXYZの断層像とVolume Rendaring画像を示します。
図5にはデンタルアーチ型FOVでの撮像結果を示します。前歯部から下顎枝までをカバーしています。この画期的な開発により、無駄な被曝線量の増加をさせずに撮像領域の拡大が可能となりました。
上顎の歪の低減
図6に示すように、歯科用CTとパノラマの複合機では、X線管球とX線センサーまでの距離が短いなどの物理的な制約から、上顎を撮像する場合はX線の打ち上げ角度が大きくなり、症例によっては“幾何学的な歪”が問題になる可能性がありました。特に、CTデータから外科用ステントを製作する場合は、この点が危惧される場合がありました。
この問題を解決するために、チンレストを下げることで、上顎を下顎に相当する位置で撮像するようにしました。これによって、X線が上顎に対してほぼ水平方向から入射するようになり、歪をより低減することができました。
図7には本方法による、デンタルアーチ型FOVで高さ5cmで撮像した上顎を示します。
従来の撮像領域およびスペックの踏襲
もちろん従来同様に、直径4cmで高さ8cmと、同じく直径4cmと高さ4cmの両者の撮像領域も搭載されています。従来機では、この2つの撮像領域を同時に同じ機種に搭載することはできませんでしたが、その不便さを解消しました。
図8に直径4cm高さ8cmで撮像した顎関節を示します。画素サイズも従来同様に、0.125mmを基本とし、画素サイズの変換が可能となっています。
パノラマスカウト −簡便な位置付け−
直径4cmの撮像領域を選択した場合、撮像の位置を簡便に行えないと再撮像の原因になったり、過去に撮像した位置が再現できなかったりする不都合が生じます。これを解消するために、「Veraviewepocs 3Df」では従来同様のパノラマスカウトを搭載しています。
この機能は、過去に撮影したパノラマ画像の上から、撮像目的の部位をクリックすることで、撮像の部位の情報が自動的に撮像装置に伝達され、装置自身が撮像領域へ移動します。これによって、患者の移動は不要となり、安定した撮像領域の位置再現性が得られます(図9)。
DR(Dose Reduction)機能
撮影中のX線量を部位により調整することで、画質を低減することなく、被曝線量を最大40%低減できるようになりました。デンタルアーチ型FOVとの併用で約50%の低減を実現しています。
インプラントと下顎管のスーパーインポーズ・情報端末へのWeb配信
最新のviewerソフト「i‑VIEW 2.0」ではCT画像上にインプラントや下顎管をスーパーインポーズした状態を確認することができます。データの変換などは一切必要としないので、簡便に使用することができます。
また、「i‑VIEW Link」を用いることで、画像をiPodなど情報端末へ転送すること(Web配信)が可能となりましたので、院内での画像の活用が容易になりました。
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図3 Dental Arch fitted Field of View (デンタルアーチ型FOV)
撮像領域(FOV)を歯列弓にフィットさせることで、単純に直径を10cmにしたときに比較して、図中の斜線の部分に照射される被曝線量を低減することが可能となった。 -
図4 直径8cm高さ8cm
智歯の一部分が撮像されていない -
図5 Dental Arch fitted Field of View (デンタルアーチ型FOV)
智歯部分を含めて、下顎枝の前半まで撮像されている。 -
図6 上顎の歪の低減
高さ8cmで上顎を撮像すると、図上のように、X線の入射角度が大きくなり、断層像に歪が生じる場合があった。上顎を下顎に相当する位置で撮像することで、歪の低減を可能とした。 -
図7 Dental Arch fitted Field of View (デンタルアーチ型FOV)
高さ5cmとして上顎を撮像。 -
図8 直径4cm高さ8cmで下顎枝を撮像
左右の顎関節とデンタルアーチ型FOVを撮像することで、顎骨全体の診断が可能となる。 -
図9 パノラマスカウトによる直径4㎝高さ4㎝の撮像
パノラマ像上でCT撮像したい部位をクリックする。
パノラマ可変断層機能
パノラマにも新機能が搭載されました。図10に示すように、前歯部では歯の傾斜が著しいことから、図中の緑で示す“薄い断層域の間”に、矢頭で示すように根尖部や歯冠部が入らない場合がありました。そのため、画像がボケてしまうことがありました。
これを解決するために、撮像後に断層域を図右に示すように、歯の傾斜に沿うように設定することで、ボケを取り除くようにしました。
結果を図11に示します。処理前に比較して処理後は根尖部などのボケが取り除かれ、鮮鋭になっていることが確認できます。
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図10 パノラマ可変断層の原理
撮影終了後に正中部の歯の傾斜に沿って、断層面を設定することで、画像のボケを修正する。 -
図11 パノラマ可変断層の効果
撮影直後のパノラマ像では図左に示すように根尖部がボケている。図右では、断層領域を歯に適合させることでボケがとり除かれている。 -
図12 統一された照準
パノラマと6種類のCT撮像の位置付けは犬歯に側方ビームを照準する方法に統一されている。
撮像方法の統一
前述したように、本機種はすべての撮像方法を包含したものとなっています。
しかしながら、撮像方法は統一され、非常に使い勝手の良いものとなっています。たとえば、どの撮像であっても最初の患者さんの位置付けは、“犬歯に側方レーザービーム”を合わせるように統一されています(図12)。このように、操作は単純化されミスがないように工夫されています。
まとめ
新型歯科用CT「Veraviewepocs 3Df」は、単なるパノラマと歯科用CTを複合したものではありません。両者を“匠の技”によって有機的に融合することで、医療現場で“デジタル”を感じさせることなく、自然に活用できるように細部にいたるまで工夫がなされています。
3次元画像診断を通じて、歯科医療に貢献できればこれほどの喜びはありません。ぜひ一度、実機を試用していただければその違いをすぐに理解していただけると思います。
パノラマ装置を発売して以来、半世紀にわたる技術の蓄積と、常に“患者さんにやさしく”というコンセプトを感じていただければ幸いです。
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