140号 SPRING 目次を見る
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ 疑似歯肉を付与するケース(インプラント)
- ≫ 低溶陶材との併用
- ≫ まとめ
はじめに
昨今、特にインプラント症例などにおいて、埋入位置や深度のズレを補正することを目的に、上部構造体(歯冠補綴物)に歯肉形態を付着させ、審美性を改善することは臨床上必要な手法である。しかし、技法に関する情報は少なく、個々の歯科技工士の創意工夫によって製作されている。今回は追加発売された歯肉色(メタルフレーム用「AAA、EX‑3プレス」、ジルコニア用「セラビアンZR、セラビアンZRプレス」)<(株)ノリタケデンタルサプライ>について、当社(カロス)で金属焼付用陶材にて標準的に用いられている手順を、参考までに紹介したい。
インプラント症例は歯牙が元々欠損している、すなわち骨および歯肉の吸収が引き起こされている場合が多い。また、埋入時インプラント体周辺の骨の血流の問題で欠損部に近接して埋入できず、本来あるべき歯根の位置からずれてしまうことも多々ある。そのような場合には、疑似歯肉を形成することによって、あたかも歯牙と歯肉が存在するかのように見せかけなければならない。天然歯の場合は、疑似歯肉の性質上使用することは少ない。それはサブジンジバルカンツァを含む歯周環境の取り扱いがあまりにも困難なためで、もし疑似歯肉を付与する場合は、ハイリップではないことやペリオコントロールが健全になされることを条件に使用したい。
疑似歯肉を付与するケース(インプラント)
設定したアバットメントのジョイント部が隣在歯と比較して、深度、近遠心位置、頰舌側位置が大きくかけ離れている場合、疑似歯肉を付与する。
以下、スーパーポーセレンAAAを用いた製作方法および留意点を挙げる。
通法に従い、金属色をペーストオペークにて遮蔽し、マージンの先端約2mm程度をペーストオペークモディファイヤーPOピンクで被覆する(図1)。本症例では歯肉色陶材の築盛量が多いため必要ないが、マージン部を覆う歯肉色が特に薄く仕上がる症例においては、マージン部の歯冠色が一部浮き出てしまうため、あり得ない色彩表現となってしまう。ステインだけでは隠せないため、オペークモディファイヤーの使用を勧める。
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スーパーポーセレンAAA Tissue 1~Tissue 7
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スーパーポーセレンAAAモディファイヤーカラーガイド 211
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- ・Tissue1 一般的な歯肉色
- ・Tissue2 淡い歯肉色
- ・Tissue3 暗い歯肉色
- ・Tissue4 Tissue1、2、3に混合し、明度を高める補助陶材
- ・Tissue5 赤みが強く、オペーシャスボディのような不透明な陶材で、強く赤みを表現したい部分の内部に使用する
- ・Tissue6 鮮やかなピンク色を表現したい部分に使用する
- ・Tissue7 赤みが強い陶材で、強く赤味を表現したい部分に使用する
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図1 オペークモディファイヤーの塗布。
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図2 オペーシャスボディの築盛。
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図3 オペーシャスボディの焼成。
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図4 ボディ陶材の築盛(正面観)。
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図5 ボディ陶材の築盛(切縁観)。
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図6 カットバック。
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図7 エナメルやトランスルーセント、ラスターポーセレンなどを築盛。
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図8 歯肉色陶材(Tissue6)の築盛。
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図9 この段階では歯肉色の築盛は控えめにしておく。
オペーシャスボディの築盛に際しては、歯冠部の明度・彩度のコントロールも当然必要だが、ポンティック基底部も築盛することでインプラント(支台)部と同じ条件にし、この後に築盛する歯肉色陶材の量をある程度均一にする狙いもある(図2)。
オペーシャスボディ焼成後(図3)、ボディ陶材を築盛する(図4、5)。最終的に表現したい歯冠部より、若干長めに築盛しておく。また、歯冠部の出具合も揃えておく。予めオペーシャスボディによって骨格を作っているので、全体がほぼ同じ収縮を得られる。
カットバック、さらに歯冠部の築盛は通常通りに行う(図6、7)。歯肉色陶材(Tissue 6)の築盛(図8)の際には、歯肉色のシェードテイクは当然必要になる。最深部には目標よりも若干彩度の高い色調を選択した方が、粘膜らしく見え、角化歯肉とのメリハリも効く。
歯肉色陶材の量が少量であるなら、この段階で築盛する必要はない。最終段階で大量に焼成すると、歯冠部の構造が壊れてしまうので、現段階で少しは最終形態に近付けておく。ただし、最終的に形態を整えるので、この段階では歯肉色は控えめに築盛しておく(図9)。
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図10 一次焼成。
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図11 インターナルステイン前。
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図12 インターナルステイン後。
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図13 歯冠部陶材最終築盛1。
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図14 歯冠部陶材最終築盛2。
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図15 歯肉色陶材(Tissue3)の築盛。
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図16 二次焼成。
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図17 水性マジックにより塗りつぶす。
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図18 基底部を削り込み、調整する。
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図19 基底部調整前。
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図20 基底部調整後。
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図21 歯冠部形態調整。
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図22 歯肉色陶材・角化歯肉部の調整(Tissue 1)
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図23 歯肉色陶材・角化歯肉部の調整(Tissue 1+Silky 1)。
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図24 三次焼成。
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図25 形態修整終了。研磨した状態。
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図26 完成。
一次焼成(図10)の後、内部(象牙質)構造の形態調整とインターナルステインによる色調調整を行う(図11、12)。
さらに、歯冠部陶材の最終築盛(図13、14)と歯肉色陶材(Tissue 3)の築盛(図15)を行う。ここでも歯肉色陶材を築盛しているが最終形態ではない。
二次焼成(図16)後、ガム模型に水性マジックで塗りつぶし(図17)、若干多目に築盛しておいた基底部をガムに沿うようになるまで削り込んでいく(図18)。その際、強く歯肉を押すと、歯肉が退縮してしまうので注意が必要である。上部構造を置いても、ほとんどリバウンドしない状態まで調整する(図19、20)。
そして歯冠部形態調整であるが、その際、歯肉色陶材のことは気にせず形態修正を行う。削ってしまっても構わない。歯冠部は最終形態で仕上げ、隣接する歯肉スキャロップに合わせるようにしていく。表面性状の付与は、最後に全部まとめて行う(図21)。
歯肉色陶材・角化歯肉部の築盛前に歯肉部にグレーズ材を塗布しておく。また、歯冠部の形態を損ないたくない理由から歯肉色陶材に3割程度のグレーズ材を混合して築盛する。グレーズ材を混合したことで、通常焼成温度より20~30℃低い温度で焼成できる。
筆者が行っている「表面陶材を低温で焼成する技法」は臨床を行う上でとても有用な技法であり、ここに紹介する(図22~26)。
歯肉色陶材は若干多めに築盛し、筆の先を利用して、天然歯でいうサルカスのように形成していく。また、築盛の仕方によっては、歯軸が変わってしまうことがあるので注意する。
疑似歯肉を付与するということはペリオコントロールが困難になることを意味する。よって、少なくとも歯肉と接触する部分は機械的に十分に研磨しておく必要がある。また、いかなる箇所においても凹みのないように形態付けしておく。
必要であれば、グレーズやステインの塗布を行う。
なお、今回使用した歯肉色陶材を図27に示す。
低溶陶材との併用
スーパーポーセレンAAAと併用可能な陶材にEX‑3プレス LF陶材がある。EX‑3プレス インゴットをプレスした上に築盛するための低溶陶材(Low Fusing、ローフュージング)であるが、熱膨張係数は金属に合わせてあるので、スーパーポーセレンAAAとの併用が可能である。
スーパーポーセレンAAAの歯冠色陶材の焼成最高温度は930℃であるのに対し、EX‑3プレス LFティシュ陶材の焼成最高温度は760℃(係留:1分)である。
歯冠形態を先にスーパーポーセレンAAAで仕上げ、その後EX‑3プレス LFティシュで歯肉部分を築盛・焼成しても歯冠部分の収縮を心配することなく製作することも可能である(図28)。
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図27 今回使用した歯肉色陶材。
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図28 ティシュ陶材焼成スケジュール。
まとめ
歯肉色陶材を使用する症例はインプラントや天然歯支台で、やむを得ず利用するケースがほとんどだが、退縮した歯肉部を補うテクニックとしては有意義であろう。
疑似歯肉を付与したことによる審美的改善、リップサポート、歯軸の人為的変更など数多くの優位点がある。
しかしながら、同時にペリオコントロールが困難になることも踏まえて対処する必要がある。
私たち歯科技工士が対峙する模型は、石膏やガム材であるが、実際は歯牙や補綴装置、歯肉であること、また全く不変な状態が維持されるものではないことを念頭に置いておきたい。
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