140号 SPRING 目次を見る
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ 「スタンダード・プリコーション(標準予防策)」と感染経路別対策
- ≫ 感染予防具体策について
- ≫ モリタ院内感染予防システム
- ≫ 除菌システム製品
- ≫ JIS T7324:2005適合滅菌器
- ≫ その他の院内感染予防策
- ≫ まとめ
- ≫ 院内感染予防 モリタシステム製品のご紹介
はじめに
平成19年4月1日に施行された「改正医療法」にともない医療機関ごとの医療安全管理が義務化され、歯科でも医院ごとの院内マニュアル作成が求められるようになり、院内感染予防対策についても、それぞれに対策が講じられている。
そうした中、モリタから院内感染予防対策をより分かりやすく、より効果的に行えるよう、新しく3品目の除菌システム製品と新たな滅菌器を平成24年春に発売することとなった。
本稿では院内感染予防の基本的な考え方とその具体策、システム製品の使用目的および特長を紹介する。
「スタンダード・プリコーション(標準予防策)」と感染経路別対策
問診で全患者の感染内容を完全に把握することは難しい。このことから全患者の血液、体液や分泌、排泄物は感染症のおそれがあるとみなして対応する必要があり、これを「スタンダード・プリコーション(標準予防策)」と呼んでいる。また医療従事者は、この考え方を同じレベルで認識していることも重要である。一方で感染症発症には「感染源」「宿主」「感染経路」の3要因があり、それぞれの対策が必要となるが、その中でも「感染経路」を断つことが最も効果的と言われている。
感染予防具体策について
院内感染予防対策の一つとして治療に使用した器材は洗浄・消毒・滅菌・保管の4つのプロセス(図1)が行われる。
また、使用された器材はリスク別に分類(表1)され、それぞれに適した対策を講じる必要がある。
●洗浄の重要性について
十分な洗浄は消毒に近い効果が期待でき、感染リスクを低減させることができる。逆に不十分な洗浄は蛋白等の汚れが残留し、その中に多くの微生物が残存することになり、その後の消毒、滅菌を不完全なものにする。
確実な消毒、滅菌を行うためにも事前の洗浄により対象物から蛋白等の汚れを十分に除去することが極めて重要となる。
●消毒について
歯科臨床現場の消毒では消毒剤が広く使用されるが、「濃度」「時間」「温度」の三要素が消毒効果を左右するため、製品ごとに決められた使用条件を遵守する必要がある。また消毒剤によって殺菌効果のある微生物や使用できる対象物に違いがあるので、消毒剤の特性をよく理解した上で使い分ける必要がある。
●滅菌について
歯科臨床現場の滅菌では高圧蒸気滅菌器が広く使用されるが、滅菌にはバリデーションが求められる。
滅菌バリデーションとは滅菌保証が科学的根拠を有し、再現性をもって達成される滅菌条件を求め文書化することであり、無菌保証レベル(SAL10-6以下※①)が確実に得られていることを検証することである。
●保管について
消毒物および滅菌物は湿度の影響を受けにくく、衛生的で直射日光があたらない場所で保管する。
※①:SAL10-6とは滅菌後の微生物生存確率が1/100万ということを意味する。
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図1 器材処理のプロセス
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表1 感染リスク分類表
モリタ院内感染予防システム
感染リスクの程度および対象物に応じて洗浄か消毒か滅菌か、効果、安全性、経済性も含めて対策を講じる必要がある。
モリタでは各項目別で院内感染予防対策に必要な製品を有効性が科学的に確立され、安全性も高く、環境への負荷も少ないものでシステム化することとした。
除菌システム製品
今回、新発売となる除菌剤は除菌クロス「ミクロジッドセンシティブ ワイプス」(図A)、印象体用除菌/洗浄剤「デンタボン」(図B)、器具用除菌/洗浄剤「ギガセプトインスツルAF」(図C)の3製品である。この3製品は除菌剤ではあるが、いずれもEN(欧州規格)に基づく試験データがあり、アルデヒドフリーで環境にも優しい製品である。
ここではモリタの既存製品と併せてシステム製品として紹介する(図2)。
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図2 チェアサイドにおける院内感染予防システム製品群
器具用
《ステップ1》
【酵素系洗浄剤】
ウルトラ・クレンザイム(図D)
泡、超音波、浸漬洗浄が可能な酵素系洗浄剤である。器具の洗浄をはじめ、印象体や衣類についた蛋白、脂質汚れを特殊ブレンドの酵素で強力に分解、除去する。また50~500倍希釈で使用するため非常に経済的である。泡洗浄は汚れた器具に直接触れずに洗浄できることと、汚れの乾燥を防ぐ効果や、洗浄槽が不要という利点もある。
「ウルトラ・クレンザイム」で蛋白、脂質汚れを落とすことによって、その後の消毒/除菌、滅菌を行うことができる。
使用方法については、泡洗浄の場合は専用泡ボトル一杯の水(200mL)に原液4プッシュ(4 mL)を入れ、50倍に希釈にする。その後、専用泡ボトルから作製した泡状の洗浄剤で器材を覆い、約3分間放置する。
浸漬洗浄もしくは超音波洗浄の場合は水2Lに原液4プッシュ(4 mL)を入れ500倍に希釈し、浸漬洗浄の場合は約10分間、超音波洗浄の場合は約5分間洗浄する。
《ステップ2》
【器具用除菌/洗浄剤】ギガセプトインスツルAF
洗浄効果もあり、超音波洗浄器との併用も可能な器具用除菌洗浄剤である。防錆剤配合なので金属性器具に対しても安心して使用できる。また、33倍に希釈して使用するため非常に経済的である。使用方法については、2 Lの水に専用計量キャップ3杯分(約60 mL)の原液を入れ、33倍に希釈する。その後、作製した除菌剤に浸漬洗浄の場合は約15分間、超音波洗浄の場合は約5分間作用させる。※使用例 図3~7
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図3 ウルトラ・クレンザイムによる器具の泡洗浄
図4 ウルトラ・クレンザイムによる器具の洗浄(浸漬法もしくは超音波洗浄法)
図5 水洗
図6 ギガセプトインスツルAFによる器具の除菌(浸漬法もしくは超音波洗浄法)
図7 水洗
チェア/環境表面用
【除菌クロス】ミクロジッドセンシティブ ワイプス
環境表面は基本的には清掃が基本とされているが、血液等が付着している場合は消毒/除菌が必要となる。一般的にはアルコール製剤が抗菌スペクトルも広く、器材への影響も少ないため広く使用されているが、B型肝炎ウィルスは不活化しないことと、血液に直接接触させると蛋白凝固を起こし、汚れとして固着する可能性があるため使用方法には注意が必要である。また薬剤の環境表面への噴霧は薬剤の塗布状況が分かりにくく、作業者への吸入毒性リスクとなる可能性もある。
「ミクロジッドセンシティブ ワイプス」は清拭と除菌が行えるクロスであり、アルコールフリーなので血液も直接拭き取ることができる。使用方法としては、汚れた部分をミクロジッドセンシティブ ワイプスで清拭した後、約1分間放置し、その後、清潔な布等で薬剤を拭き取る。
※使用例(図8、9)
【バキューム回路洗浄剤】マザックP(図E)
ベースンおよびバキューム配管は口腔等の粘膜が直接触れないため洗浄対応が基本とされているが、血液、唾液等が排出されるため清潔に保つ必要がある。「マザックP」は過炭酸ナトリウム中に含まれる酸素によってバキューム回路内を強力に洗浄するとともに除菌、消臭効果もある洗浄剤である。)
【チェア給水管路クリーンシステム専用洗浄液】ワープルC(図F)
日本ではチェア管路内の水質に対する規定は上水道の水質規定に準じるが、配管内の水の滞留による水質低下やバイオフィルムには注意が必要である。「ワープルC」は0.1%程に希釈した過酸化水素水をチェア未使用時にチェア管路内に滞留させ、管路内を洗浄することができる。
図8 ミクロジッドセンシティブ ワイプスでの清拭
図9 清潔な布(ニチエイ デンタルタオル)による液剤の拭き取り
印象体用
《ステップ1》
【酵素系洗浄剤】ウルトラ・クレンザイム
《ステップ2》
【印象体用除菌/洗浄剤】デンタボン
CDC(米国疾病管理予防センター)ガイドライン、日本補綴歯科学会では印象体は“セミクリティカル器具”に相当し、高水準消毒が必要とされている。印象体の消毒/除菌処理を行わないで作成された石膏模型は印象体にある病原性微生物が伝播されることとなる。
「デンタボン」は洗浄効果もあり、各種印象材に使用できる印象体用除菌/洗浄剤である。
また100倍に希釈して使用するので非常に経済的である。使用方法としては、2 Lの水に専用カップすりきり1杯(20g)のデンタボンパウダーを入れ、100倍に希釈する。その後、作製した除菌剤に印象体を5~30分間作用させる。
また印象体の性状への影響を考慮し、30分以内で使用することが重要となる。
※使用例 図10~13
図10 ウルトラ・クレンザイムによる印象体の泡洗浄
図11 水洗
図12 デンタボンによる印象体の除菌(浸漬法)
図13 水洗
JIS T7324:2005適合滅菌器
現在、小型高圧蒸気滅菌器については改正薬事法のもと滅菌性能の保証や滅菌器の安全性が一層求められるようになり、JIST7324:2005の要求事項が設定され、既述の無菌保証レベル(SAL10-6以下)を確保することが求められている。今回、モリタから発売される小型包装品用高圧蒸気滅菌器「スマートクレーブ」も、このJIS規格に適合している。
スマートクレーブ(図14)
滅菌から乾燥までを扉を閉じたまま行うことができるフルオートタイプの小型高圧蒸気滅菌器である。本器は二重ドアロックやセルフチェック機能等、十分な安全性が確保されている。
またJIS規格に基づく滅菌性能はもちろんのこと、歯科の臨床現場で効果的な3つの特長を備えている。
1. 連続使用が可能
一般的には1度目の作業工程が終了し2度目の作業工程に入る場合、20~30分の庫内冷却時間を必要とするものがほとんどであったが、スマートクレーブはインターバルなしで2度目の作業工程に入ることができ、1日の稼働率を上げることができる。
2. 130℃以下の低温乾燥が可能
一般的な乾燥機能付きの滅菌器は乾燥工程でハンドピースや一部樹脂製品等の耐熱温度以上になることから、それらの器材には乾燥工程が行えないものがほとんどであった。
スマートクレーブは130℃以下の低温乾燥モードがあるので、135℃までの耐熱性がある器材であれば滅菌バッグに入れた状態で扉を閉じたまま滅菌+乾燥工程を行うことができる。
3. 日本語表示パネルにより作業工程、メンテナンス、エラー内容の視認性が向上
スマートクレーブは必要な情報を液晶パネルに日本語で表示する。これにより作業工程内容と残り時間、メンテナンス時期とメンテナンス方法、エラー内容とその対応策が一目で分かるようになっている。
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図14 フルオートタイプ小型包装品用高圧蒸気滅菌器「スマートクレーブ」《新製品》
その他の院内感染予防策
~手指対策~
院内感染予防対策には器材への対策とともに手洗いが重要である。手洗いには《日常的手洗い》《衛生的手洗い》《手術時手洗い》があり、「薬用ハンドソープ」「消毒スクラブ」「速乾性手指消毒剤」(図15)を使い分けることになる。
~その他の防止策~
その他、院内感染予防対策としては「針刺し事故対策」「飛沫感染対策」「空気感染対策」が必要となる。
針刺し事故は注射針の廃棄やリキャップ時の事故が多いとされているが、注射針に触れずに安全にカートリッジシリンジへの着脱、廃棄が行えるシステム製品(図16)も販売されている。
また、「飛沫感染対策」や「空気感染対策」には防護具、口腔外バキューム、空気清浄器等の対策が必要となる。
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図15 速乾性手指消毒剤 「セフティーナDNシステム」「ダイヤ薬用アルコールジェル」(600mL)
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図16 針刺し防止システム「セフティーナDNシステム」
まとめ
院内感染予防対策を講じる際の使用製品については科学的根拠に基づいたものであることが重要である。
また使用目的、使用方法が分かりやすく、誰もが同じように使いこなせることと、人、器材、環境に対して負荷が少なく、低コストであることも重要となる。
今回、モリタでシステム化した製品群が、院内感染予防対策の一例として、歯科医院ごとの感染予防対策の一助となればと考える。
院内感染予防 モリタシステム製品のご紹介
院内感染予防対策をよりシンプルに、より効果的に行うためにラインナップされたモリタシステム製品。このたび新たに除菌システム製品と滅菌器が新製品として加わり、さらに充実のシステムになりました。
- チェア/環境表面用
チェア/環境表面用除菌クロス「ミクロジッド センシティブ ワイプス」
シュルク&マイヤー(株)
260300
- チェア/環境表面用
バキューム回路洗浄剤「マザックP」
(株)ジェイエムエンジニアリング
マザックP スターターズパック107880
マザックP リピーターズパック107881
- チェア/環境表面用
チェア給水管路クリーンシステム専用洗浄液「ワープルC」
シュルク&マイヤー(株)
107885
※モリタの給水管路クリーンシステム搭載チェアのみお使いいただけます。 - 器具(小器具)用
器具(小器具)防錆/除菌/洗浄剤「ギガセプト インスツルAF」
シュルク&マイヤー(株)
260302
- 印象体用
印象体用 除菌/洗浄剤「デンタボン」
シュルク&マイヤー(株)
260301
- 小型高圧蒸気滅菌器
フルオートタイプ小型包装品用高圧蒸気滅菌器「スマートクレーブ」
高園テクノロジー(株)
270001
- 関連製品
酵素系洗浄剤「ウルトラ・クレンザイム」
(株)オクト・ワン
150mL(泡洗浄用ボトル付)260100
150mL単品 260101
- 関連製品
速乾性手指消毒剤「ダイヤ薬用アルコールジェル」
(株)菱化デンタル
600mL 233212
80mL 233213
- 関連製品
ディスポーザブルタオル「デンタルタオルN」
(株)ニチエイ
204822
- 関連製品
セルフシールタイプディスポーザブル滅菌バッグ「アシュアープラス」
サルタン
85×165mm 200枚入 620010
70×255mm 200枚入 620011
90×255mm 200枚入 620012
140×280mm 200枚入 620013
180×330mm 200枚入 620014
255×380mm 200枚入 620015
305×457mm 100枚入 620016
- 関連製品
針刺し防止システム「セフティーナDN システム」
(株)ニチエイ
ワンタッチカートリッジシリンジⅡez 203190
廃棄ボトルS 203170
廃棄ボトルSリリース用フタⅡ ワンタッチシリンジⅡ用 203172
- 関連製品
薬液浸漬容器「ステリソーカー」
ザーク
632061BL
- 編:日本補綴学会歯科学会 補綴歯科治療過程における感染対策指針
- 編・訳:池田正一他 歯科臨床における院内感染予防ガイドライン:2003
- 監修:日本医療機器学会 編:小林寛伊他 改訂第3版 へるす出版)医療現場の滅菌
- 監修:前田芳信 編:柏井伸子 クインテッセンス出版)歯科医院の感染管理 常識非常識
- 編:大西正和 酵素系洗浄剤「ウルトラ・クレンザイム」の臨床
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- Clinical Report 睡眠時無呼吸患者に対する口腔内装置の適応について - 改良版NKコネクターII -
- Risk Management 歯科における院内感染予防対策とシステム製品
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