147号 WINTER 目次を見る
■目 次
- ≫ はじめに
- ≫ 各国における器械による洗浄、消毒、滅菌
- ≫ WDについて
- ≫ クラスBオートクレーブについて
- ≫ 新製品「ウォッシャー・ディスインフェクター WD-150」「クラスBオートクレーブBC-17」について
- ≫ 関連商品
- ≫ まとめ
■はじめに
歯科の臨床で使用した器材の適切な処理は院内感染予防の1つとして非常に重要である。しかしながら、歯科では多種多様な材質、性状の器材が使用され、医科と比べても器材の処理方法は煩雑である。全ての器材をディスポーザブルにできればよいが、経済的にもそれは難しい。通常、再使用する器材は洗浄、消毒、滅菌、保管というサイクルで回転することになるが、これまでスタッフが手作業で行ってきた洗浄、消毒の工程を自動で行えるウォッシャー・ディスインフェクター(以下:WD)や、あらゆる耐熱性器材を滅菌できるクラスBオートクレーブ(以下:クラスB)が歯科の臨床現場でも使われるようになってきた(図1)。
■各国における器械による洗浄、消毒、滅菌
医療器具の洗浄、消毒、滅菌対策としてヨーロッパを中心に世界各国でWDやクラスBが使用されている。歯科ではWDに対応したハンドピースも多くなり、対応するハンドピースにはWDマークが付与されている(図2)。クラスBについては義務化されている国もあり、その流れはグローバルスタンダードとなりつつある。
また、ヨーロッパでは院内感染予防の保証の観点と、責任問題の所在の証明手段として洗浄、消毒、滅菌データの保存が推奨されており、データ管理がしやすいWDやクラスBは有用な機器である。
図1 WD、クラスBを用いた器材処理のプロセス
図2 WDマーク
■WDについて
WDは自動で洗浄するだけの器械ではなく、次のようなメリットがある医療機器である。
①誰もが高いレベルの洗浄と熱水消毒を自動で行うことができる。②専用アダプターを用いることで内腔物の洗浄も可能である。③鋭利物を手洗いする際の切創事故を防止することができる。④スタッフが洗浄、消毒に手を取られないという時間的メリットがある。⑤消毒剤を使用しない熱水消毒により環境負荷が少ない。
2006年4月にWDに関する国際規格ISO15883の主要部分が承認され2011年に国際承認された。日本国内では2012年に日本医療機器学会より「洗浄評価判定ガイドライン」が示され、一般的な鋼製小物に対する洗浄後の残留タンパク質について、ATP測定値※1が許容値200μg以下、目標値100μg以下が勧告された。また、熱水消毒を評価するために、従来の温度と消毒時間を用いる評価方法とともにA₀(エーノート)値という概念が用いられている。
※1:微生物、血液、体液に存在すると言われているATP(アデノシン三リン酸)の量を専用機器で数値化したもの。
熱水消毒は「温度」「時間」を注意すれば多種多様な微生物に有効であり、環境負荷も少ないため、器材に対する消毒法の第一選択とされている。消毒剤を用いる場合は、これに「濃度」の管理と環境、人への影響を考慮する必要がある。
熱水消毒に関してイギリスのガイドラインでは、ほとんどの病原性微生物は、71℃3分以上、80℃1分以上、90℃1秒以上で死滅すると定義されている。
熱水消毒のレベルを示すA₀値とは、例えばA₀ 600ならば80℃で600秒間熱水消毒することを意味している。
また、WDには観血処置で使用した器材やB型肝炎ウィルス対策としてはA₀ 3000以上が求められ、ドイツではより厳格なA₀ 12000以上が求められている。一方、日本ではリネン類に対してA₀ 600以上が規定されているだけである。
WDは血液などの蛋白汚れを落とすことを目的とし、予備洗浄、熱水消毒工程があるバリオTDプログラムが組み込まれた医療機器である(図3)。
予備洗浄とは血液などの蛋白汚れが固まらないように最初に43℃以下で洗浄することであるが、家庭用の食器洗浄器は蛋白汚れではなく、油汚れを落とすことを主な目的としているためこの予備洗浄機能がなく、専用洗剤も油汚れを落とすことを目的とした洗浄剤が用いられていることと、熱水消毒機能も搭載されていないことに留意しなければならない。
■クラスBオートクレーブについて
真空を引きながら滅菌するものをプレポストバキューム方式と呼ぶが、中でも蒸気注入と真空引き工程を3回以上繰り返すものをクラスBオートクレーブと呼ぶ。リネン類などの多孔質物やハンドピースなどの内腔物の細部まで蒸気を行き渡らせ、気圧を下げることにより低温乾燥も可能であり、多種多様な器材が滅菌処理される歯科に適したオートクレーブと言える。
●小型高圧蒸気滅菌器のヨーロッパ基準- ・使用水が使いきりであること。
- ・給水、排水タンクが掃除できること。
- ・クラスBモードの他にプリオンモード※2やボウィーディック※3、ヘリックステストモード※4があること。
- ・乾燥時や真空後の吸気はバクテリアフィルター※5を通して行われること。
- ・滅菌工程が記録できること。
※2:プリオン:狂牛病でよく知られる感染性蛋白粒子であり消毒液は無効。
※3:ボウィーディックテスト:リネンなどの多孔質物への蒸気浸透性テスト。
※4:ヘリックステスト:ハンドピースなどの内腔物への蒸気浸透性テスト。
※5:バクテリアフィルター:0.2μm粒子を99.97%以上捕集するフィルター。
オートクレーブの主な方式としては、プレポストバキューム方式と重力置換方式がある。
重力置換方式とは、被滅菌物を充填したチャンバーに蒸気を入れ、蒸気と空気の重さの違いによりチャンバーに残留する空気を排除する方法である。日本国内で多く見られる形式のオートクレーブであるが、内腔物や包装された器材の滅菌には適さないものも多く、使用には注意が必要である。
一方、プレポストバキューム方式は真空引きによって、強制的にチャンバー内の空気除去を行うオートクレーブであり、多孔質物や内腔物内の空気も除去し、蒸気を隅々まで行き渡らせることができる高性能なオートクレーブである(図5)。
図3 WDのバリオTDプログラム
図4 ヨーロッパにおける小型高圧蒸気滅菌器の分類
※(株)名優/gke社 資料参照
図5 クラスB滅菌器の一般的なプログラム
■新製品「ウォッシャー・ディスインフェクター WD-150」「クラスBオートクレーブBC-17」について
今回、モリタから発売される「ウォッシャー・ディスインフェクター WD-150」と「クラスBオートクレーブ BC-17」はヨーロッパや国際規格に準拠し、日本で使いやすい仕様にした国産のWD、クラスBである。WD-150、BC-17とも直感的な操作が可能な日本語タッチパネルを採用し、メンテナンス方法やエラー内容も日本語表示してくれるので、操作で迷うことも少なくなる(図6)。また、WD-150、BC-17は本体(20回分)とSDカードにデータ保存できる。洗浄、消毒、滅菌データの保存はもちろんのこと、エラー履歴の確認にも有効である。
●ウォッシャー・ディスインフェクターWD-150(図7) 「WD-150」には次のような特長がある。
1. 見える洗浄漕。
前面のガラス扉から洗浄工程が見え、庫内LED照明の色の変化で少し離れた場所で作業していても工程の進行状況が確認できる(図8)。
2. 便利機能が標準装備。
低温排水装置、洗浄剤自動注入装置、温風乾燥機能が標準装備されている。低温排水装置により耐熱配管への交換工事も不要であり、洗浄剤自動注入装置により、使用毎の洗浄剤投入の手間も不要である。また、扉を閉めた状態でHEPAフィルターを通した清潔な空気で温風乾燥するため、処理後の器材を清潔な状態に保つ。
3. 多彩なモードを搭載。
すすぎだけの10分洗浄モードから、A₀ 12000(93℃10分)の洗浄/消毒モードまで多彩なモードを搭載している。また、洗浄漕内を洗浄/消毒するモードも搭載されている。
「BC-17」には次のような特長がある。
1. 使いやすく、清潔なカセット式給水採用。
カセット式給水方式で給水がしやすく、本体タンクも汚れない(図10)。
2. 歯科向けのソフト乾燥モード搭載。
ハンドピースや樹脂製品のように熱の影響を受けやすい器材向けに、缶体内の最高到達温度を135℃以下に保つソフト乾燥モードが搭載されている。
3. 多彩なモードを搭載。
乾燥までのトータル時間が約32分の時間短縮モードから、2008年に厚労省からもガイドラインが示されたプリオンモード(134℃18分)まで多彩なモードを搭載している。
図6 日本語タッチパネルにより、操作やメンテナンスがわかりやすい。
図7 WD-150
図8 工程ごとに洗浄槽内のLEDライトの色が変わる。
図9 BC-17
図10 カートリッジタンク給水方式で給水がしやすく、本体タンクも汚れない。
■関連商品
スタッフの作業エリアは不潔域と清潔域に区別される。汚染物一時保管、廃棄場所、洗浄域、消毒域、滅菌域は全て不潔域として扱われ、消毒、滅菌後の保管域が清潔域として扱われる。また、不潔域スタッフと清潔域スタッフの動線を分け、交差感染がないようにする。
今回、モリタから発売されるコンポヴァリエはWD、クラスBの設置にも考慮した不潔域と清潔域が分離されたシステムコンポである(図11)。限られた診療スペースの中で、効率よく動線分離する手助けとなる。
図11 清潔域、不潔域の導線を考慮した院内感染予防対応キャビネット。
■まとめ
歯科においても院内感染予防対策は医院ごとにマニュアル化することが義務付けられているが、必要な取り組みとコスト面のバランスを取ることは難しい。ただ、基本的にはスタンダードプリコーション(標準予防策※6)の考えに基づき、全てのスタッフが同じレベルで院内感染予防策を行うことが求められる。観血処置が多く、多種多様な器材を使用する歯科において、使用後器材の処理方法をわかりやすく、作業者を選ばず高いレベルで器材の洗浄、消毒、滅菌がシステマチックに行えるWDやクラスBを使用することは、院内感染予防をシンプルで確実にする解決策の1つになると考える。
※6:標準予防策:全患者の血液、体液や分泌物、排泄物は感染症のおそれがあるとみなして対応すること。
- 1) 監修:日本医療機器学会 編:小林寛伊他 医療現場における滅菌保証のガイドライン:2005、2010
- 2) 監修:日本医療機器学会 編:小林寛伊他 改訂第3版 へるす出版)医療現場の滅菌
- 3) 監修:日本医療機器学会 編:安原 洋他 医療機器学 第83巻第1号
- 4) 監修:前田芳信 編:柏井伸子 クインテッセンス出版)歯科医院の感染管理 常識非常識
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