147号 WINTER 目次を見る
■目 次
■はじめに
近年、修復治療の分野において接着修復に用いる材料の進歩や新製品の発売にはめまぐるしいものがある。とりわけ、ボンディング材やコンポジットレジン等の接着材料の開発には各社しのぎを削っているようにも感じられる。その背景にはインレーを代表とする従来から行われている金属を用いた物理的嵌合に頼った合着を基本とする治療から、コンポジットレジンやセラミクスを用いた接着修復を Minimal Intervention のコンセプトで行うことが、すでに歯科界でのトレンドではなくスタンダードになってきているという動きが後押ししているのではないかと考える。
このこと自体はグローバルな流れではあるが、日本における歯科診療は特異的で保険診療の範囲(限られたコストと時間)のなかで行わざるを得ないのが現実である。よって、短時間でコストを抑えて結果を出さざるを得ないという特殊な環境から生み出されたものが高性能フロアブルレジンとワンステップボンディング材であると考える。
最近のフロアブルレジンは物性(曲げ強度)で従来のペーストタイプのコンポジットレジンを上回るものも登場し、色調再現性や研磨性・耐摩耗性においても見劣りしないものも多い。
ペーストタイプのコンポジットレジンと比較してフロアブルレジンの劣っている点を挙げるならば、重合収縮量と形態付与に対する操作性の難しさである。
重合収縮によっておこると考えられるトラブルに関しては、一度に重合させる体積を減らし数回に分けて積層充填することとボンディング材を正しく使用することにより臨床上問題のないレベルに解決できると考える。
積層充填を行う際、充填時に異なるシェードを用いることにより、審美性の獲得にも貢献してくれるという利点も大きい。賦形性においては、フロアブルレジンを用いる部位により、粘調度を代えることで対応し易くなってきている。
本稿では、今回クラレノリタケデンタルから新しく追加発売された粘調度の異なるクリアフィル マジェスティ ESフロー(Super Low・High)と歯面処理時間が極端に短くなったトライエスボンドND クイックを用いた臨床例をお見せしながらコンポジットレジン充填を行うにあたり大変便利な周辺器材を共に紹介したい。
■臨床例
以下に臨床例を供覧する。
症例1:74歳 男性。下顎大臼歯 Ⅰ級窩洞症例<図1〜12>
症例2:34歳 女性。上顎第二小臼歯 Ⅱ級窩洞症例<図13〜20>
- 症例1
図1 下顎第一・第二大臼歯の咬合面にアマルガム充填と周辺に二次う蝕が認められる。
図2 アマルガムと二次う蝕を除去。周辺の着色部位の削除の判断は患者の年齢やリスクファクター、ダイアグノデント ペンの数値を参考にMIな窩洞に努めた。
図3 う蝕検知液にて感染象牙質を確認する。
図4 う蝕検知液で染色された感染歯質が除去された窩洞。
図5 未切削エナメル質部分には、リン酸エッチングを行う。
図6 水洗・乾燥の後にトライエスボンドND クイックを塗布する。
図7 塗布の後ただちにエア・ブローを行う。このボンディング材はプライミングの待ち時間が極めて少ないのが特徴である。ワンステップボンディング材を使用するにあたっては、エア・ブローをしっかりと行いボンディング材の中に含まれる溶媒と水を飛ばすことが必須である。
図8 光重合を10秒間行う。
図9 クリアフィル マジェスティESフロー HighA3D にてライニングを行う。ESフロー Highは流れが良く窩底部を薄くを覆うことができる。
図10 クリアフィル マジェスティESフロー SuperLow A2 にて咬合面形態を付与していく。流れにくい特性を利用して再現したい隆線を築盛してゆく。
図11 裂溝や窩の部分はヒューフレディ社の3Aエクスプローラーを用いて形態付与を行った。
図12-1 咬合調整と研磨を行った術後の状態(咬合面観)。
図12-2 咬合調整と研磨を行った術後の状態(咬頭と窩の形態がわかりやすい角度の写真)。- 症例2
図13 上顎第二小臼歯にメタルインレーが装着されているが、X線像にて二次う蝕がみとめられた。もともと空隙があり食片圧入を前医院にてインレーで治療したとのことであった。
図14 メタルインレーを除去し感染象牙質も除去された窩洞。
図15 ラバーダムクランプ(ヒューフレディ社)を用いて、ラバーダムを装着し防湿を行う。
図16 近心壁の復元を必要とするためにコンタクトマトリックスシステム「コンポジタイト3D」(ギャリソン社)を装着する。このセクショナルマトリックスシステムは、ウエッジと併用できるうえにリングが隣在歯にセパレートする力をかけるため隣接面コンタクトと歯冠豊隆を適合良くかつ容易に再現してくれる。窩洞をクリアフィル マジェスティ ES フロー High A3Dにてライニングを行う。一度にこの量を充填するのではなく、2度に分けて積層している。
図17 クリアフィル マジェスティ ES フロー SuperLow A1にて、咬合面形態を築盛していく。この場合、辺縁隆線部と頰側咬頭とに分けて重合させている。
図18 築盛し終わってセクショナルマトリックスを外した状態。
図19 形態修整・咬合調整・研磨後の咬合面観。
図20 術後の咬合面形態。この形態はカービングされたものではなく低粘調度フロアブルレジンの築盛によって得られたものである。
■おわりに
先行発売されているクリアフィル マジェスティ ESフロー Low を実際に臨床で使用してみて筆者が従来より使用していたフロアブルレジンよりも操作性・色調再現性・研磨性に優れていることを実感していた。
今回、それに加えて低粘調度の ESフロー High と賦形性に優れた ESフロー Super Low がラインナップに加えられた。適材適所にフロアブルレジンの粘調度を選択することにより、フロアブルレジンのみによるコンポジットレジン充填の適応症も拡大されることであろう。
ライニングや極めて小さい窩洞には ESフロー Highを、3級や5級窩洞にはミディアムフロー(ESフローLow)を、咬合面形態や4級窩洞の隆線部には ESフロー Super Low をと使い分けることで効率的で細やかな充填操作ができるようになった。
フロアブルレジンだけでなく、治療部位や患者のもつ条件によりボンディング材も使い分けをすべきだと考える。例えば、深在性のう蝕には抗菌性をもつ2液性(メガボンドFA)を、プライミングの時間を費やせない条件下での治療にはトライエスボンドNDクイックをと、できるだけテクニカルエラーを起こさない材料選択をすることが重要である。2級窩洞においては、ギャリソン社のコンタクトマトリックスシステム(コンポジタイト3D)がコンポジットレジン充填の適応症を拡大させてくれる。
また、装着することに慣れていないと敬遠されがちな防湿であるが、接着操作の精度の向上をはかるうえでは避けられないことである。
ラバーダム防湿は、術野の確保という点で術者が恩恵を受けるだけでなく、患者からも治療時間中の開口が楽であったとの感想をよく耳にする。
防湿器材は装着する煩わしさよりも用いたことによるメリットのほうがはるかに大きいということを一度使用していただければ実感していただけるはずである。
術前の診査にて適応症であると診断すること、イメージした治療のゴールを具現化することができるスキルを身につけることが大前提ではあるが、コンポジットレジン・ボンディング材・周辺器材の特性を理解して正しく臨床でもちいることが、修復治療の本来の目的である残存組織の保全と審美と機能の回復をMinimal Interventionのコンセプトのもと達成しえるものと考える。
さらなる今後の歯科材料の進歩に期待を抱きながら、今回提示させていただいた症例の長期予後を観察していきたい。
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