140号 SPRING 目次を見る
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ 口腔内装置の適応
- ≫ 破断例に対応して改良されたNKコネクターⅡについて
- ≫ おわりに
はじめに
閉塞型睡眠時無呼吸症(obstructive sleep apnea syndrome: OSAS)は睡眠関連呼吸障害の一つである。睡眠関連呼吸障害とは、睡眠中に無呼吸、低呼吸、低換気、低酸素血症など呼吸に関連した異常が起こる疾患群で、呼吸運動は継続しているが気道が閉塞・狭窄することにより無呼吸・低呼吸が起こるのがOSASである(図1)。
OSAS治療のゴールドスタンダードは経鼻持続陽圧呼吸療法(nCPAP)であることに変わりはないが、非侵襲的および安価な治療として軽症あるいはnCPAPに不耐性を示すOSAS患者に対しては、口腔内装置による治療が行われることが多い。
最近では口腔内装置をnCPAPと併用導入し、計画的にnCPAPを離脱させ口腔内装置に移行、必要に応じてnCPAPに回帰させる循環ループ法によりnCPAPの脱落症例を皆無にできたとする報告1,2)もみられ、今後、ますます口腔内装置の適応は拡大され、歯科医師が医師と綿密な連携をとりつつ、睡眠呼吸障害の治療の一翼を担うことが期待される。
そこで本稿では、口腔内装置の適応について当科での臨床データをもとに改めて整理し、さらに2009年11月より販売されているNKコネクターの破断例に対応して改良されたNKコネクターⅡについて解説する。
口腔内装置の適応
口腔内装置の適応について、当科における治療の流れに沿って解説する。
まず、内科あるいは呼吸器内科などを受診したOSAS患者がポリソムノグラフィー(PSG)検査の結果、軽症から中等症のOSASと診断され、口腔内装置が有効であると思われた場合や、nCPAPが何らかの理由で使用できない場合、具体的には圧力が強くて使用しづらい、圧迫感に耐えられない、出張が多くて携行が面倒、旅行時に同室者に見られたくないなどの理由で口腔内装置の治療依頼が医科から歯科へ紹介となるケースが大半である。
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図1 いびきのメカニズム。睡眠中に舌筋および舌骨舌筋が弛緩し、舌体が後方に落ち込んで、上気道が狭窄し呼吸により振動していびき音が発生する。
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図2 側方頭部X線規格写真(側方セファロ)の計測点と計測角および距離について
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表1 顎顔面形態とAHI の関連(Pearson's coefficients)
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表2 顎顔面形態とAHI 改善率との関連(Stepwise regression analysis)
しかしながら、最近ではマスコミあるいはインターネットで口腔内装置による睡眠時無呼吸の治療法を知り、直接歯科を受診する患者も少なくない。その場合、保険診療を行うには医科からの診療情報提供が必須であることを説明し睡眠呼吸障害の適切な治療を促すのもわれわれ歯科医師の重要な役割と考えられる。
医科からの紹介により歯科を受診した後、口腔内装置が装着可能な歯の状態、顎関節などの周囲組織についての診査を行う。具体的には残存歯の状態、上下歯列の咬合状態および補綴物の状態について診査を行い口腔内装置装着前に治療の必要があれば行う。
さらに側方頭部X線規格写真(側方セファロ)を用いた顎顔面形態および咽頭部形態の計測を行う(図2)。
これにより医科からのPSG検査の結果とともに口腔内装置による治療効果予測を行い、適応について決定する。これは口腔内装置による治療効果を安定して得るための重要な検査で、歯科医師により適応を判断する重要な指標となる。
紹介されたすべての患者に対して適応について詳細に検討することなく効果の不十分な口腔内装置の作製を行うことは、医科からだけではなく患者からも信頼を失うことに繋がりかねない。
当科では保険診療を開始した2004年4月より全例において側方セファロを撮影し口腔内装置の治療効果予測を行っているので、その一部を紹介する。
2004年4月から2010年3月までの6年間で内科あるいは呼吸器科でOSASの診断を受け、当科を紹介され受診した患者94名のうち口腔内装置の適応で治療を行い治療効果が評価可能であった87例を対象とし、顎顔面形態と無呼吸低呼吸指数(AHI)改善率の関連について検討した。改善率=(装着前AHI-装着後AHI)/装着前AHI×100(%)として算出した。
結果としては、当科における平均AHI改善率は65.2±18.5%で、他の報告3)とほぼ同じであった。また顎顔面形態において下顎平面からの舌骨間距離(MP‑H)および軟口蓋長(PNS‑P)がOSASの重症度と相関していた(表1)。
さらにAHI改善率を予測する顎顔面形態を検討した結果、下顎後退度(ANB)が高値、MP‑HおよびPNS‑Pが低値の症例が治療効果が高く、それぞれ治療効果予測因子となり得ると考えられた(表2)。
つまり小下顎症の傾向にあるOSAS患者には口腔内装置は有効と考えられ、舌骨が低位および軟口蓋長が長いOSAS患者は効果が低い可能性があるということである。
実際の臨床では、効果が低いことが予測されたからといって、口腔内装置が必ずしも禁忌だということにならないが、装着後のPSG検査において効果が不十分であった場合、それを患者は理解しやすく、さらに他の治療法(nCPAPなど)へのモチベーションは強くなり、かつその治療のコンプライアンス向上につながるものと考えられる。また冒頭にも述べたが、nCPAPと口腔内装置の組み合わせによる治療の提案もなされており、適応は広がりつつある。
治療を行う上で目標を設定することは重要である。本疾患の診断基準がAHI 5以上であることから治療後にAHI 5以下になることが望ましいが、実際の臨床でそれを達成できるケースは非常に少ない。AHI が30以上で高血圧の罹患率が上昇したという報告4)や20以上で生命予後に有意差があるなどの報告5)があることから、当科では装着後のAHIが軽症のOSASの診断基準であるAHI15以下あるいは初診時AHI の50%以下まで減少することを治療目標としている。
破断例に対応して改良されたNKコネクターⅡについて
2009年、NKコネクターを商品化し市販を開始した(図3)。操作が簡便なこともあって臨床における評価は概ね良好であるがブラキシズムを有する患者など一部の症例においてベルトの破断がみられた(図4)。
破断様式として、いずれもコネクターの幅が広い部分から狭くなる境界部分に生じており、下顎の側方運動に伴ってこの部分に応力が集中し「折れ」が生じ、その繰り返しにより疲労・破断したと考えられる。
そこで、NKコネクターⅡ(図5)では、コネクターの幅が狭くなる部分を緩やかな曲線で移行し、コネクター全体がしなやかに湾曲する形状とし、一ヵ所への応力集中をできるだけ回避する設計とした(図6)。
作製手順は先発のNKコネクターと同様6)であるが、改めて簡単に解説する。
1)上下装置の作製
石膏系の材料を用いて模型のブロックアウトを行う。装置の維持力源としては、歯冠の近遠心中央部付近のなだらかなアンダーカットに仕上げる。口蓋側のアンダーカットはすべてブロックアウトし把持のみとする。熱可塑性樹脂プレート成型器(ミニスターS scan/ショイデンタル社)(図7)を用いて上下顎装置を成型する。著者らはデュラン(厚さ2.0㎜)(ショイデンタル社)を使用している。下顎装置の前歯部前方に下顎位誘導用のノブをトレーレジンなどで作製付与する(図8)。
2)下顎前方位の設定
上下に装置をセットし、水平位にて「いびき音テスト」7)を行う。いびき音が消失あるいは一番小さくなる位置で咬合採得用シリコンを注入し、下顎位を決定する(図9)。著者らはこの方法により、下顎位の再調整を行わなければならなくなるケースをほとんど経験していない。
3)NKコネクターⅡによる上下装置の連結
連結部の溝の部分にレジン泥を隙間なく流し込み、上下装置に圧着する。圧着位置は、概ね上顎犬歯付近と下顎大臼歯付近で、クリップを用いて固定すると硬化時間に反対側の作業もでき、便利である(図10)。
コネクターのキャップ外周にレジンを盛り足して補強し、硬化後研磨し完成させる(図11)。
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図3 先発のNKコネクターを用いて連結した口腔内装置
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図4 NKコネクターの破断例。破断はいずれも幅が広い部分から狭くなる境界部分に生じた。下顎の側方運動に伴ってこの部分に応力が集中し、「折れ」が生じ、その繰り返しにより疲労・破断したと考えられる。
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図5 NKコネクターⅡ
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図6 コネクターの形状変更。上段に先発のNKコネクター、下段に形状変更したNKコネクターⅡを示した。幅が狭くなる部分が緩やかな曲線で移行し、ベルト全体がしなやかに湾曲する形状とし、1ヵ所への応力集中をできるだけ回避する設計とした。
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図7 ミニスターS scan
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図8 術者が下顎を誘導したり、顎位を保持したりするのに便利なように、下顎装置にはノブを取り付ける。
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図9 下顎前方位の設定。いびき音テスト行い、下顎位を決定する。装置間にシリコンを注入し、顎位を採得する。
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図10 クリップを用いてキャップを固定すれば、レジンの硬化を待つ間に反対側の作業が可能となる。
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図11 NKコネクターⅡにより可動式に連結され、完成した口腔内装置。
おわりに
OSASに対する口腔内装置による治療の普及はまだまだと言って過言ではない。経済的で簡単・便利である特性を維持しつつ破断に対処し、耐久性を向上させたNKコネクターⅡ(図10)を開発した。
口腔内装置が簡便に作成できるようになった半面、適応を十分検討し患者に装着することが重要であると考える。装着する前にしっかりとした適応診断をわれわれ歯科医師が行うことにより、OSASに対する口腔内装置による治療おいて理想的な医科歯科連携ができるのではないであろうか。
- 1)河野正己:口腔内装置.日内会誌2004;93:1133‑9.
- 2)河野正己:睡眠時無呼吸症候群 口腔内装置の適応と意義.THELUNG‑perspectives 2010;18:236‑40.
- 3)高田佳之,小林正治,他:睡眠時無呼吸症候群患者への口腔内装置による治療のためのガイドライン作成.日歯医学会誌2007;26:25‑30.
- 4)Young T, Peppard P, et al.: Population‑based study of sleep‑disordered breathing as a risk factor for hypertension. Arch Intern Med 1997; 157:1746‑52.
- 5)He J, KrygerMH,et al. : Mortality and apnea index in obstructive sleep apnea.Chest 1988; 94: 9‑14.
- 6)永野清司,田上直美,他:NKコネクターを用いたいびき防止装置の製作.デンタルマガジン2010;132:88‑92.
- 7)Esaki K: Treatment of sleep apnea with a new separated type of dentalappliance (Mandibular advancing positioner). Kurume Med J 1997; 44:315‑9.
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