151号 WINTER 目次を見る
■目 次
- ≫ はじめに
- ≫ アバットメントデザイン例
- ≫ まとめ
■はじめに
昨今、歯科業界にCAD/CAMやCTなど広い分野でデジタル化が組み込まれてきた。
単独のデータからの画像処理のみに関わらず、例えば、CT−CAD/CAM、CT−CAD/CAM−インプラント、CAD/CAM−歯科矯正など、それらはすべて数値化されたデータであるが故に様々な組合せ応用が可能になる。
近年のデジタルデンティストリーは、特に歯科技工業界にとって過去に類を見ない変革期であることは皆が肌で感じ取っていることであろう。それは、日本のみならず世界的な潮流であることは間違いない。
さて、カタナプロダクションセンターでも純チタンを使用したカスタムアバットメントの加工を開始した(ラインナップは図1の通り)。
2007年より開始したジルコニアのフレームおよびクラウンの加工からミリングセンターとしての事業拡大を展開していく。
今回は様々な手法を用いて、いかに製作していくかを紹介する。
ワークフローに関しては図2に図式したスキャナーを所有する施設からのデータ送信、プロダクションセンターに模型を送付する場合、歯いくつかのパターンがある。
- ・骨の最低限の容積や前後左右の幅径と歯肉の関係
- ・歯肉のバイオタイプ
- ・インプラント−インプラント間、orインプラント−天然歯間
など、インプラントの持つ特異性については、先人の先生方の研究を最大限厳守しなければならない。
図1 カスタムアバットメントのラインナップ
図2 各方式のワークフロー
■アバットメントデザイン例
このケースの特徴は、クラウン(上部構造)が装着されるであろう位置よりも若干遠心舌側にインプラント体が埋入されているということだ。
5番が近心傾斜(歯根が遠心傾斜)されており、近心寄りに上部構造を位置させなければならない。これは比較的緻密骨が多いとされる下顎骨に対して血管が走行する海綿骨の容量を確保するためと近遠心の骨量を確保するため(最低でも1.5mm)と考えられる。
臨床上よく見られることだが、結果として遠心の歯肉の量が近心よりも少ない。歯肉の生物学的幅径(Biologic Width)は垂直方向と水平方向の比率によることが大きいとされる。
ここでは、唇頰側・隣接(隣在歯が存在する)・それらを結ぶ隅角の部分の3つのゾーンの捉え方が必要になってくる(図3)。
唇頰側に関しては、図4が示す通り、榎本紘昭先生らの研究によるとインプラントの場合、垂直的幅径:水平的幅径=1:1.5、天然歯の場合はその逆で1.5:1の生物学的幅径があるとされる(図5)。
また、プラットフォームスウィッチング(図6:Platform Switching)の概念によるように、できるだけ水平的幅径を確保しようとする。それは、インプラントの太さよりも上部構造の立ち上がりの太さを細くすることにより、歯肉の容積が増えインプラント上部まで骨を誘導することが可能になる。
その結果、インプラント周囲の骨が生理的に下がらないようになる。骨と歯肉の関係を相関的に維持安定させる重要な考え方だ。
隣接部においては、骨量(骨幅)と血流の関係について前述した通り良好な環境が整備されているのであれば、今度は歯肉の生物学的幅径に加えて、サブジンジバルカントゥアーをコントロールすることによって歯肉の隣接部を調整できる。
サブジンジバルカントゥアーをConvex(膨らませる)ことは隣在歯という壁が存在することによって歯肉はその容積を維持しつつ歯冠部を埋めようとする。いわゆるクリーピングアタッチメントである。
本症例では最終上部構造のスープラ(歯肉縁上)の形態を考慮したうえで歯肉の若干の形態修正をする。
インプラント体からの立ち上がりはストレートにし、1mm程度からは最終的な上部構造の歯肉縁に向かって形態付けをする。
マージンの設定は歯肉縁下頰側1.5mm、隣接1mm、舌側0.5mm(図10)としそれぞれに適したサブジンジバルカントゥアーを付与する。
そして、上部構造の対合関係を画面上でチェックしてから、同じデータでプロビジョナルと最終補綴物を設計する(図11)。
骨と歯肉、歯肉と上部構造の緊密な因果関係を考えたうえでアバットメントの設計にあたりたい。よって当プロダクションセンターでは注文書に図12に示すような選択肢を設定した『フルデザイン』発注を準備した。
ショルダーとエマージェンシープロファイルの形態分類。『フルデザイン』ではこの形態分類を選択肢とし、その他の数点の必要事項記載でセンターに発注を行うことができる。
図13~17は、チタンアバットメントとカタナジルコニアMLクラウンを用いた臨床例である。
図3 subgingival contourの与え方(藤原康則先生)
図4 榎本紘昭『究極のインプラント審美』(クインテッセンス出版)より改変
図5 垂直的・水平的生物学的幅径
図6 Platform Switching
図7 スキャンボディーを装着しスキャン
図8 インプラント体を出現させてスキャン
図9 インプラント体を出現させて表示
図10 歯肉部をスキャンして、その辺縁を表示しマージン設定の目安とする
図11 上部構造の形態や対合関係を設計し、対合関係も調整しておく
図12 弊社規定によるマージンとサブジンジバル形状
図13 今回製作したチタンアバットメント
図14 アバットメント製作時に設計した同じデータで製作したプロビジョナルレストレーション
図15 図14同様に製作したカタナジルコニアMLクラウン
図16 1つのデータで同時製作したアバットメントとプロビジョナル、カタナジルコニアMLクラウン
図17 全て同じデータで製作した、左よりプロビジョナル、ML
■まとめ
カタナプロダクションセンターは2007年よりジルコニアの切削加工で事業を開始したが、今回新にチタンアバットメントの切削加工を開始し、当センターにおいてもこれまで培ってきたインプラントの知識や情報を最大限発揮しアバットメントの製作に臨み、より良い歯科治療の提供の一翼を担いたいと考えていえる。
今回、症例掲載にご協力をいただいた国賀就一郎先生(明石市開業、国賀歯科院長)に感謝の意を表したい。
- 1) 大村祐進:矯正的挺出の有効活用法を探る,10の目的と臨床での使いどころ the Quintessence,2009 ; 28(7) : 72.
- 2) 大村祐進:審美補綴のためのマージン設定と印象採得, the Quintessence,2002 ; 21(2) : 89-100.
- 3) 下地 勲:歯根膜による再生治療, 東京:医歯薬出版,2009.
- 4) 大村祐進:歯周補綴における審美的アプローチ, the Quintessence,2004 ; 23(5):979-982.
- 5) 大村祐進:審美補綴におけるブラックトライアングルへの対応, 日本歯科評論,2003;63(12).
- 6) Robert S.Stein:Prosthetic procedures and periodontological awareness. Importance of emergence profile.月刊歯科技工,1987 ; 15(1) : 30-39.
- 7) 筒井照子, 中村健太郎, 増田長次郎, 平野健一郎:「力を読む歯科臨床」, 歯界展望,2009;別冊vol.113 No.4-vol.114 No.1.
- 8) 増田長次郎:補綴装置に働く力, 歯科技工別冊,Fundamentals of esthetic dental technology.
- 9) 古家 豊:プレス ジルコニアによる補綴物製作,歯科技工別冊,ジルコニアレストレーション.
- 10) 増田長次郎:歯科技工,匠.
- 11) 古家 豊:歯科技工,匠.
- 12) 藤原康則, 古家 豊:歯科技工「包括歯科臨床の実践」.
- 13) 藤原康則、増田長次郎 :「カタナジルコニアオールセラミックを用いた審美修復」, デンタルマガジン142号, 48-51, 2012.
- 14) 古家 豊:「カタナジルコニアシステムを用いたインプラント上部構造への応用,デンタルマガジン131号, 74-77, 2009.
目 次
モリタ友の会会員限定記事
- Dental Talk CAD/CAM メタルフリー修復の新たな展開~デジタルデンティストリーの発展~
- TREND 歯科切削加工用CAD/CAMレジン材料「カタナ アベンシア ブロック」について
- CLINICAL REPORT オステルISQ アナライザを用いたインプラント安定度の評価
- TREND 新しい「デンタポート」のモジュールとその特長について
- CLINICAL REPORT 新しいう蝕除去用バー 切れ味がよく、錆びないステンレスバー
- CLINICAL HINT 歯科衛生士ができるお口の健康づくりシリーズその1知っておきたいお口の筋肉の生理や働きの基礎知識
- TREND ノリタケデンタルスキャナーSC-5を使用した CADでのアバットメントデザイン
- TECHNICAL REPORT カタナチタンを使用した カスタムアバットメントサービス について
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