179号 WINTER 目次を見る
■目 次
- ≫ はじめに
- ≫ 症例1 骨形態の把握
- ≫ 症例2 血管の予測
- ≫ 症例3 正確な距離
- ≫ 将来展望
■はじめに
歯科用CBCTの1号機が株式会社モリタから発売されて20年以上が過ぎ、現在では臨床検査において必要不可欠なデバイスとなった。特にインプラント分野においては、術前の診断のみならず、術後の経過、合併症の診断に及ぶまで評価できるようになった。術前の診査・診断においては、X線パノラマ撮影を用いていたものが2D→3Dとなり、みられなかった断面からの正確な情報が得られ、画期的な進歩を遂げた。今回の寄稿では、CBCTから得られた情報がインプラント治療において特に有効であった点について症例を用いて解説し、後半では次世代の活用法についても触れてみたい。
■症例1 骨形態の把握
60歳男性。近隣の歯科医院で36を抜歯。インプラントによる補綴を希望し来院。術前のX線パノラマ写真では36相当部に小指頭大の透過像が認められた。精査のため、CBCTによる撮影を行った。歯列横断では直径6mmの透過像が確認され、頰側骨頂部には棒状の骨が近遠心的に走行しているのが観察された(図1-1)。治療計画として、2回法のインプラントを選択し、埋入と同時に骨造成も行うこととした。術中では、軟組織の剥離・掻爬を行い骨形態を確認すると、CBCTで予測されたとおりの解剖学形態を呈していたため(図1-2)、予定どおりの埋入と骨造成が行えた(図1-3)。また、4ヵ月後には上部構造を装着することもできた。このように特異な形態を呈する骨に対する埋入の場合、術前の骨形態の把握によるフラップデザインから使用するインプラントの形状や骨補填材にいたるまで、CBCTによる情報が不可欠であるのは明らかである。また、患者様からすると低侵襲な治療や治療期間の短縮という形でCBCTの恩恵を受けている。
図1-1 36相当部のCBCT所見。骨の大幅な欠損と棒状の骨形態(矢印)が観察される。-
図1-2 同部位の埋入時所見。骨欠損部の上方に棒状の骨がみられる。 -
図1-3 埋入時所見。β-TCPを補填。
■症例2 血管の予測
54歳男性。歯の動揺を主訴に来院。将来的な展望も考え、下顎はインプラントによる全顎的な補綴を希望。CBCTの撮影はハレーションの影響と被ばく線量を考慮し抜歯後に予定したため抜歯はX線パノラマ写真を参考に行った。下顎前歯部抜歯中の口腔内写真を図2-1に示す。抜歯後不良肉芽を掻爬している際に、下顎前歯部舌側から動脈性の出血が突如おこり数秒で抜歯窩から口腔底へ血液が溢れていく状況となった。すぐに出血部位を特定し、縫合糸にて結紮を行い止血したが、予期せぬ出血であった。抜糸後にCBCTを撮影し、同部位を観察したところ、下顎前歯舌側の観察では骨頂部に小孔が確認された。舌下動脈の終末枝の走行が推察され、掻爬時に損傷し動脈性の出血となったと考えられた。インプラント治療を予定していたのであれば、抜歯前にCBCTの撮影をすべきであったかどうかは議論の余地はあるが、少なくともインプラント埋入時にはこれらの血管については十分に予測可能である。図2-2は同部位の下顎骨立体像である。直径数ミリ程度の舌側孔が鮮明に観察されることから、モリタ社製のCBCTの精度の良さが伝わる画像である。
図2-1 下顎前歯部抜歯時の動脈性出血。-
図2-2 出血部位のCBCTにおける立体像。舌側孔(矢印)がみられる。
■症例3 正確な距離
72歳女性。インプラントによる上顎の固定性ブリッジを希望。CBCTによる精査では、薄い骨が全顎に及んでいた。その中でも上顎右側臼歯部には骨造成を必要とせず埋入できる部位が存在したため、前鼻棘からの距離をCBCT上にて計測した(図3-1)。術中では計測距離をもとにドリルをスタートし、画像と同じ位置に骨が存在していたので予定どおり骨造成をせずに埋入することができた(図3-2)。術後に承諾を得てCBCTを撮影したところ、予定していたどおりの位置へインプラントが埋入されていた(図3-3)。当時はガイデッドサージェリーが現在のように簡便かつ正確に製作できる時代ではなかったためフリーハンドで埋入していたが、CBCTの登場で距離の3次元的な把握が可能となり、埋入手術の予知性が向上したのは言うまでもない。
図3-1 術前のCBCT像。上顎の水平断で前鼻棘からの距離を計測。-
図3-2 埋入後の口腔内所見。CBCTから得られた距離どおりに埋入。 -
図3-3 埋入後のCBCT像。ほぼ同じ位置に埋入。
■将来展望
これまでの症例でCBCTにより微細な骨構造を簡便に把握できることがご理解いただけたと思う。最後に微細構造の観察だけでなく、口腔内カメラ、顔面写真とコラボレーションされることをおみせしたい。現在では、CBCTから得られたDICOMデータと口腔内カメラからのSTLデータを重ね合わせ(図4-1)、ドリルガイドを作成してインプラントの埋入をすることは多々行われるようになった。さらに近年では軟組織の情報をこのモデルにマッチングさせ、顎骨、歯牙、歯肉から顔面に及ぶ軟組織が一つの画像でみられるようになった(図4-2)。現時点では補綴する歯のポジションを画面上にて移動させることはできるが、それと同調して軟組織も形態を変えることはできない。近い将来可能となる日が来るのを期待したい。
筆を置くにあたり、データ保管の安全について付記したい。近年の自然災害の報を耳にするたび、歯科医院も不測の事態に遭うことは例外ではないと感じる今日この頃である。当医院では、モリタ社の新しいクラウドサービス「DOOR CLOUD」を導入することとした。災害への備えだけでなく、クラウドならではの利便性の向上など、今後のサービス展開へも期待が寄せられる。
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図4-1 サージカルガイドの設計。CBCTと口腔内カメラのデータを統合。(インプラントスタジオ/3shape社) -
図4-2 顔貌と口腔内の軟・硬組織データのマッチング。(デンタルシステムズ/3shape社)
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【 原 俊浩 】モリタ友の会会員限定記事
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- 178号 Contribution 歯周治療へのCBCTの応用
- 177号 Contribution 歯内療法におけるCBCTの有用性
目 次
モリタ友の会会員限定記事
- Contribution CT発売20周年記念特別寄稿 CBCTを用いたインプラント周囲組織の評価方法について
- Case Report 審美領域のインプラント治療にTi ハニカムメンブレンを応用した症例報告
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