179号 WINTER 目次を見る
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大阪府堺市
院長
医療法人徳積会 徳積会デンタルクリニック
平沼 和美
特別養護老人ホームや高齢者施設に入所されている高齢者の訪問診療を行っています。10年前は義歯をつけている方が70~80%を占め、残存歯が5、6本というのが一般的でした。一方、近年は施設に入所される方がますます高齢化しています。さらに歯数が20本以上あり、きちんと治療されている方もめずらしくありません。各施設の方からは誤嚥性肺炎などのリスクを予防する目的で、「入所者さんの歯をきれいに磨いてほしい」という口腔ケアの要望が増えています。
私たちが担当させていただく各施設は、高次機能障害や認知症などで意思疎通が難しい要介護3以上の方が多く、歯ブラシをもてない方や、歯ブラシはもててもうまく歯に当てられない方がほとんどです。また、介護が必要な方は食事形態がおかゆなどの「とろみ食」になり、どうしても歯面に糖分が残りやすくなります。週1回の訪問の間に、歯磨きを少しでも怠ると歯面のエナメル質が脱灰するなど、う蝕が進行し、次の訪問までに1、2本の歯が失われることもあります。進行をできるだけ遅らせるためには、私たちがいかに効率よく歯面にプラークを残さずツルツルに磨けるかが重要になります。
そこで、2、3年前から活用しているのが音波式電動歯ブラシ『ソニッケアー』です。それ以前は歯ブラシを使って手磨きをしていましたが、どうしても時間がかかってしまい、入所者さんを疲れさせてしまったり、汚れを落とそうとして力が入り、痛みを与えてしまうこともありました。そこで対応法を検討していたところ、たまたま主人が開設する歯科医院でソニッケアーのデモを拝見したときに、「これは使えるのでは」と感じました。さっそく性格がおだやかで残存歯の多い入所者のおひとりに了解をもらって使用してみました。最初は振動に少し驚かれたようですが、すぐに落ち着いて受け入れてくれました。その後も口の中がスッキリする気持ち良さを感じていただいているようです。ソニッケアーは歯に軽く当てるだけで効率的に磨けますので、私たちも力をかけなくてすみます。もっと早くから導入していれば良かったと思っています。
もともとチェアに座ることが難しい入所者さんはイスに座っていただき、頭を支えた状態で歯磨きをしますので、ソニッケアーはそのような状況でも使い勝手がよく助かっています。たとえば、写真の症例では最初に歯ブラシで口腔全体の残渣を取り除いてから、次にソニッケアーのセンシティブブラシを使って磨きます。さらに、歯間ブラシやタフトブラシで細かい汚れを取り、残った汚れの除去や仕上げを再びソニッケアー センシティブブラシで行っています。これを2、3周くり返して6分程度で終了します。
下顎前歯の内側を磨くと、舌下腺を刺激し唾液が大量に出ます。本来はソニッケアーで磨いた後に口腔内の汚れをうがいで洗い流すのが効果的ですが、介護レベルが上がり、うがいができなくなる方も増えています。そのような方は、誤嚥のリスクを防ぐために唾液や痰をガーゼで拭き取るようにしています。
また、口腔内が汚れて炎症が起きてしまい、歯間ブラシを入れると痛みを訴える方には『お口を洗うジェル』(日本歯科薬品)を緩衝材として歯間ブラシにつけ、ジェルで汚れをからめて除去しています。とくに無歯顎で唾液分泌が非常に少なくなってしまった方などは、口腔内の粘膜成分が固まり、剥離上被膜や痂皮となります。これを無理に除去しようとすると出血しますので、ガーゼやスポンジ、粘膜ブラシなどにジェルをつければ口腔内をやさしく清掃できます。汚れが喉に流れにくいので安心です。
とろみのある食事が多くなると歯面の脱灰だけではなく、粘膜にも汚れが付着するので、歯面と同様にしっかりケアすることが大切です。ソニッケアーは歯面と歯肉の境目も角度を変えて当てるときれいに磨けます。歯冠長が短い女性には、『ソニッケアー キッズ』を使うこともあります。ラバー製ハンドルが振動を吸収してくれますので、高齢者にも適していると思います。
コロナ禍で入所者さんは家族の方に会うこともかなわず、その結果認知症が進行し、ますます意思疎通が難しくなっていると感じることがあります。会話が成立しなくなってしまうと、つい無言で処置をしてしまいがちになりますが、お会いできないご家族の分までたくさんお声がけして、お一人おひとりの尊厳を大切にした対応を心がけています。これからもスタッフとともに、「口腔内がきれいな状態で、気持ちよく過ごしてほしい」という思いを込めて、訪問診療を続けていきたいと思います。
症例1-1 加齢とともに自浄作用が低下し、歯の表面や歯頸部に歯石や残渣が多く見受けられる。-
症例1-2 ソニッケアー導入後はブラッシング圧をかけず効率的に汚れを落とすことができるようになった。(センシティブ ブラシを使用) -
症例1-3 ブラッシング後の状態。目立っていた歯石や残渣は概ね除去できている。 -
症例2-1 舌苔が目立つだけでなく、乾燥により汚れが痂皮のようにこびりついている。
症例2-2 ソニッケアーの舌磨きブラシを使って舌を優しくマッサージするように磨いていく。-
症例2-3 週1回/2ヵ月程度のケアで舌苔や痂皮などの汚れもかなり目立たなくなった。 -
症例3-1 歯ブラシでは除去できない歯間部の清掃には歯間ブラシを活用する。使用しているのはDENT.EX 歯間ブラシ(ライオン歯科材)。 -
症例3-2 DENT.EX 歯間ブラシは歯間空隙に合わせて7種類のサイズを展開していて使い勝手がいい。 -
症例3-3 歯肉を傷つけないよう細心の注意を払いながら清掃していく。 -
図1 施設の管理栄養士さんとともに摂食状況を確認。どんな食形態が適切かを確認しながら適宜アドバイスを行う。 -
図2 施設での口腔ケアの様子。入所者さんの体調や姿勢に常に気を配りながら慎重に行っていく。 -
図3 左から「ソニッケアーセンシティブブラシ」と「舌磨きブラシ」、「Systema SP-Tメディカルガーグル」、「Check-Up rootcare」。
目 次
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