179号 WINTER 目次を見る
キーワード:水平性、垂直性の複合骨欠損/GBR成功のポイント/PASSプロトコール
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ 症例概要
- ≫ リスクアセスメント、問題点
- ≫ 早期インプラント埋入と同時GBR
- ≫ 考察
- ≫ まとめ
はじめに
スマイル時に口腔外に露出する審美 領域のインプラント治療というだけで 治療の難易度が上がるが、特に歯周炎 や急性感染が原因で抜歯に至り、周辺 歯槽骨が大きく吸収され、機能的、審 美的に長期間安定する結果をもたらす だけの十分な骨量がない場合はなおさ らである。そのような状況では空間保 持能力を有する非吸収性メンブレンを 用いて、スペースメイキングを行う必 要がある。本症例報告では水平性、垂 直性の複合骨欠損に対してTiハニカム メンブレンを用いGBRを行い良好な結 果を得られたので報告する。
症例概要
主訴:右上前歯部の違和感
患者年齢、性別、職業および全身既往歴:68歳、女性、主婦、特記事項なし
歯科既往歴:6年前に他院で両側上顎中切歯の補綴処置を受ける。他院から抜歯後のインプラント治療を主訴に紹介受診。
口腔衛生状態
ブラッシング:1日2回。歯間清掃:時々。市販のハンドル付きフロスを使用。メインテナンス頻度:散発的。
リスクアセスメント、問題点
審美インプラント治療はその内容に関わらず3段階の難易度(ストレートフォワード、アドバンス、コンプレックス)でアドバンスつまり中等度以上の難易度に設定される1)。難易度を踏まえた上で、個々の症例にどのような落とし穴があるのかチェックリスト2)を用いて漏れなく確認することが予測できない問題を未然に防ぐ手助けとなる。当症例ではスマイル時の中程度リップライン3)、欠損領域が単独歯、臨在歯に修復既往があり3項目がハイリスクに分類された(図1)。
早期インプラント埋入と同時GBR
重度歯周炎により抜歯した6週間後に軟組織治癒は完了している。歯槽堤は水平的に顕著に吸収が見られた(図1、2)。フェザー替刃メスのNo.15c、No.12dを用いて歯槽頂切開と、周囲の歯牙に対して歯肉溝内切開、3遠心隅角部に骨に達する切開を加え、歯肉骨膜弁を歯肉歯槽粘膜境を超えて全層弁で十分に剥離した(図3)。この時点で骨膜減張切開を加えて十分なフラップの伸展を確認。骨欠損は頰側のみならず口蓋骨の欠損を認め、水平性と垂直性の複合欠損を認める。
3次元的に補綴主導位置へインプラントフィクスチャーを埋入し(図4)、Tiハニカムメンブレンを口腔外で適切なサイズにトリミングした後、頰側に2カ所ボーンタックでメンブレンを固定。露出しているフィクスチャー周囲に骨移植材を移植し、Tiハニカムメンブレンを口蓋側に向けて湾曲形態を付与し(図5)、5-0ナイロンを用いて単独水平マットレス縫合と単純縫合にて一次閉鎖を行った(図6)。術後2週間で全ての抜糸を行ったが切開線中央部にピンホール上のくぼみを認め、ペリオプローブで触診するとTiハニカムメンブレンがごくわずかに露出し口腔内と交通していた。患者には2週間前にセルフケアチェックとプロケアを7ヵ月間行い、臨床症状も特記事項なく経過した(図7)。
術後7ヵ月目にリエントリーを行い、Tiハニカムメンブレンを撤去したところメンブレン下に十分な新生骨様組織を確認した(図8、9)。
通法通りの二次オペによるヒーリングアバットメントの装着と、治癒後4週間後に印象採得を行い、チタンカスタムアバットメントとジルコニアクラウンをラボサイドで合着した上部構造をスクリュー固定でセットした。その際、患者の希望もあり1を同じくフルジルコニアで再補綴した(図10)。患者の年齢を考慮した自然な仕上がりになっており、患者の高い満足が得られた(図11)<補綴修復担当医師:木戸淳太>。
図1 右上中切歯部、抜歯後6週間後 正面観。
図2 右上中切歯部、抜歯後6週間後 切縁から。頰側のボリュームが減少している。
図3 水平性かつ垂直性の骨吸収を認める。口蓋骨は部分的に歯槽頂部で喪失している。
図4 インプラントフィクスチャーを3次元的に補綴主導位置へ埋入。
図5 インプラント周囲に骨移植材を填入し、Tiハニカムメンブレンを頰側2ヵ所3mm高さのボーンタックで固定。口蓋側は固定なし。
図6 水平マットレスを根尖側、より歯冠側の2ヵ所で縫合し、切開線は単純縫合で閉鎖。
図7 術後7ヵ月の創部。一次閉鎖がなされているように見えるが中央にピンホールサイズのTiハニカムメンブレンの露出を認める。術後は2週間毎に来院いただき消毒とプラークコントロールを徹底した。
図8 Tiハニカムメンブレン撤去後、メンブレン直下に認める新生骨様組織。十分なボリュームの回復を認める。
図9 メンブレン直下に認める新生骨様組織が口蓋側にも確認された。
図10 チタンカスタムアバットメントに穴あきジルコニアクラウンをラボサイドで合着したものを口腔内でスクリュー固定。患者の希望により1補綴の再治療も行った。<補綴修復担当医師:木戸淳太>
図11 最終インプラント上部構造装着後のスマイル時のリップライン。
考察
GBRを成功裏に導くためにはPASSプロトコール(P:Primary Closure(一次閉鎖)、A:Angiogenesis(血管新生)、S:Stability of wound( 創部安定性)、S:Space maintenance(空間保持))を全て満たす必要がある。特に新生骨に十分な量と適切な形態を与えたい場合は非吸収性メンブレンの使用が有用であるが、Tiハニカムメンブレンはその機能を有しているため複雑な骨吸収に対するGBR処置に適している。
まとめ
Tiハニカムメンブレンを用いることでインプラント周囲に必要な十分な骨様組織の再生を図ることができた。
- 1) Dawson A, Chen S, Buser D, Cordaro L, Martin W, Belser U. ITI The SAC Classification in Implant Dentistry. Quintessence Publishing Co, Ltd.
- 2) Belser U, Martin W, Jung R, Hammerle C, Schmid B, Morton D, Buser D. ITI Treat-ment Guide. 審美領域におけるインプラント治療単独歯欠損修復 Quintessence Publishing Co, Ltd.
- 3) Tjan AH, Miller GD, The JD. Some esthetic factors in a smile. J Prosthet Dent 1984; 51(1):24-8
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