180号 SPRING 目次を見る
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はじめに
前歯部審美エリアにおける抜歯即時埋入は、一定の臨床条件を満たせば予知性のある治療法であることが近年報告されている。また口腔内スキャナーをはじめとするデジタル機器の進歩は歯科臨床の治療プロトコルに大きな変化をもたらしてきている。
今回はCBCTのDICOMデータと口腔内スキャナーであるTRIOSのスキャンデータを活用したフルデジタルでの抜歯即時埋入症例について報告する。
症例供覧
症例は70歳女性。右上中切歯の外傷による歯牙の動揺を主訴に当院を受診した。全身状態に特に問題はなく、非喫煙者であった。同歯は暫間固定による歯牙の保存を試みたが歯牙の動揺と同部位からの排膿、出血があり保存不良と判断した(図1)。
モリタ社製3DXによるCBCT撮影をおこない歯槽骨の診査をしたところ、唇側骨は菲薄であるが存在すること、インプラントの3次元的なポジションと初期固定が可能なこと、中程度のPhenotype、またインプラントポジションの唇側に2mm以上のGapが確保できることから抜歯即時にインプラント埋入をおこなうことに決定した1)(図2)。
CBCTからのDICOMデータとTRIOSからのスキャンデータ(図3)をマッチングして、ガイディドサージェリーによりインプラントポジションをシミュレーションした(図4)。この位置に合わせてガイドを作製(図5)するとともに、反対側同名歯のサブジンジバルカントゥアをコピーして反転しカスタムのヒーリングキャップ(図6)を作製した。
手術時に外傷歯を歯槽骨にダメージを与えないように最小限の侵襲のもとに抜歯をおこなった。唇側骨には歯槽骨のパーフォレーションは確認できなかったので、抜歯窩の唇側の骨のGapには骨補填材を填入し(図7)、唇側部の歯肉には部分層弁を作成して結合組織移植を併用した。
最後に事前に作製しておいたカスタムのヒーリングキャップを装着して歯冠側の抜歯窩に適合するように高さを調整して周囲の軟組織を外側性垂直マットレス縫合にてカスタムのヒーリングキャップに極力適合させた(図8)。同じく術前に反対側同名歯の形態をコピーしたメリーランドブリッジを接着させた。これにより即時荷重のリスクを回避して抜歯前のサブジンジバルカントゥアと歯冠形態を完全に再現することが可能であった(図9)。
手術部位の治癒を約3ヵ月待った軟組織の状況を示す。軟組織の治癒の状況は骨補填材と結合組織移植の併用と、カスタムのヒーリングキャップの装着により反対側同名歯とほぼ同じ形状が維持されていることがわかる。軟組織の治癒後に同じく術前のデジタルデータにより作成したプロビジョナルを装着した。この形状もカスタムのヒーリングキャップと同じ形状をデジタルによりコピーしている(図10)ので従来おこなっていたようなランニングルームの調整等は必要なしにインプラントフィクスチャーに荷重を開始することができた。さらに軟組織の成熟を待ち最終補綴物に移行する際には、軟組織の状態とこのプロビジョナルのサブジンジバルカントゥアを直接口腔内スキャナーであるTRIOSにてスキャンした。口腔内でプロビジョナルを装着してある歯肉の状況のスキャンと、スキャンポストを装着した状況の歯肉のスキャンと、装着されていたプロビジョナルを口腔外に外したものを直接スキャンしたデジタルデータをトリプルスキャンテクニック(図11)を用いてマッチングして最終補綴物の作製をおこなった2)。これにより従来おこなっていたカスタムのインプレッションテクニックなどを用いなくても最終補綴物の作製が可能になっただけでなく、口腔内に装着されているプロビジョナルを完全にコピーすることが可能なので軟組織に与えるプレッシャーがなく術後の軟組織のリセッション等の形態変化を最小限に抑えることが可能であった(図12)。
術後の軟組織の変化をTRIOSを用いて術前術後とを比較検討したところ軟組織の形態変化は唇側歯頸ラインがわずかに根尖方向に変化してきたが、唇側のボリュームは結合組織移植に伴いむしろ術前より増加していることが確認できた。このようにデジタルデータを用いた診査診断により術式の簡便化と治療期間の短縮、チェアータイムの短縮が可能なだけでなく臨床的に良好な結果が得られた(図13)。今後デジタルデータを用いた治療プロトコルは非常に有効であると考えられる。
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図1 術前の口腔内写真を供覧する。 -
図2 モリタ社製3DXによる外傷歯のCBCT像を示す。 -
図3 TRIOSによる口腔内のスキャンデータを示す。 -
図4 ガイディドサージェリーのためのインプラントポジションのシミュレーション画像を示す(使用ソフト:coDiagnostiX)。 -
図5 ガイドをシミュレーションして作製した。 -
図6 カスタムのヒーリングキャップのデジタル画像を示す。 -
図7 フラップレスでインプラントを埋入して唇側のGapには骨補填材を充填したところを示す。 -
図8 唇側に結合組織移植をおこない、カスタムのヒーリングキャップを装着したところを示す。 -
図9 即時荷重することなくサブジンジバルカントゥアはカスタムヒーリングキャップにて再現されている。 -
図10 インプラント埋入後4ヵ月後にカスタムのヒーリングキャップをコピーしたプロビジョナルを装着した。 -
図11 Triple Scan Technique の手順を示す。 -
図12 最終補綴物装着後1年後の口腔内写真を示す。 -
図13 インプラント上部構造装着後2年後のX線像を示す。
- 1) Gonzalez D, Cabello G. The Threelayer technique for immdeate implants on teeth without a buccal bone wall : a case report. The International Journal of Esthetic Dentistry 2018;13:358-375.
- 2) Monaco C, Evangelisti E, Zucchelli G. A fully digital approach to replicate peri-implant soft tissue contours and emergence profile in the esthetic zine. Clin Oral Implants Res. 2016 Dec;27(12):1511-1514.
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