177号 SUMMER 目次を見る
Case Report
非吸収性メンブレンの臨床応用
キーワード:インプラント/GBR法/非吸収性メンブレン/審美領域/術後検証
■目 次
■はじめに
現代のインプラント治療では、機能性、清掃性、審美性などへ配慮した上部構造を作製するという補綴主導型インプラント治療の実践が求められている。そのためには適正な位置にインプラントを埋入することが重要であるのだが、歯周病学的、補綴学的に理想とする位置にインプラントを埋入しようとしても、その部位にインプラントを埋入するために必要な骨量が存在していないことも稀なことではない。このような場合には、GBR法などの骨造成を行うか、そうでなければ妥協的な治療結果を受け入れるしかない。加えて、インプラントを埋入するための母床に骨量が大幅に不足している場合には、インプラント治療そのものを断念せねばならなくなる。
このように、インプラント治療における付加処置としての骨造成は、患者満足度の向上、治療結果の永続性に加えて、インプラント治療が適応とならなかった症例においてもそれが可能となるなど、医学的価値は極めて高い。
骨造成における代表的な手法としてGBR法が挙げられる。GBR法においては過去から様々な術式の改良やメンブレンの開発がなされているが、本稿ではGBR法に必須であるバリアメンブレンに「Tiハニカムメンブレン」を使用した症例を供覧し、その有用性について考察を加えてみたい。
■症例
① 背景
患者は20歳の女性、初診日は2019年8月8日である。以前に後続永久歯の先天性欠如からインプラント治療の相談のために当院を受診した既往がある(乳歯は機能しており、疼痛もないことから経過観察とした)。その後、2019年7月にバイク事故により顔面部に外傷を受けた。救急搬送された病院では全身的な初期対応がなされ、歯科的には上顎左右中切歯が歯根破折および脱臼にて抜歯となり、その後の対応は初期対応した病院歯科から当院を紹介された。患者は女子大学生であり、顔面部の瘢痕創もさることながら、最も審美性に関与する上顎左右側の中切歯を失ったことに相当な精神的ショックを受け、人前に出るのが嫌になったとのことである(図1、2)。
図1 初診時顔貌写真:オトガイ部および口角部には広範囲に瘢痕創が存在する。-
図2 初診時口腔内写真:上顎の両側中切歯には欠損と唇側部の陥凹が認められる。
② 検査結果・医療面接
歯冠破折に伴う仮性露髄により急性症状があった 2の抜髄処置とともに各種検査を行った。パノラマX線、デンタルX線に加えてCT撮影を行った。口腔内写真からも明らかなように、左右中切歯と共に唇側骨が欠落していたが、その他に顎骨の骨折を疑う所見はなく、顎関節にも異常所見は認められなかった(詳細は割愛)。患者および両親は当初からインプラント治療を希望していたことから、デジタルシミュレーションおよび3Dプリンターで作製した骨模型を用いて医療面接を行った。現状でもインプラントを埋入すること自体は不可能ではないが、大幅な唇側骨の喪失により、このままでは審美的に満足していただける形態の最終上部構造を作製することは約束できないと説明した(図3~7)。患者はそれでもインプラントによる修復を希望したことから、外科処置をステージに分け、まずはGBR法による骨造成のみを行うこと、約6ヵ月程度の治癒期間を設けたのちにインプラントを埋入すること、必要に応じて結合組織移植術による軟組織の増大を行うこと、を全て承知していただいたことから当院でのインプラント治療を引き受けた。
図3 初診時CT前頭断:鼻腔底までの距離は短く初期固定を得るための既存骨は少ない。-
図4 初診時CT水平断:歯頸部付近では唇側骨が喪失している。 -
図5 初診時CTボリュームレンダリング画像。 -
図6 3Dプリンターで作製した術前の骨模型。 -
図7 BioNa®によるシミュレーション結果:理想的な位置にインプラントを設置すると唇側部には骨が不足していた。
③ GBR時
2019年10月にGBRを行った。全層弁剥離にて術野を明示したところ、術前診査で得た情報と相似した骨形態を呈していたことから、インプラント埋入時に使用するサージカルガイドを術部に設置して骨の不足量を目視で確認した(図8)。骨面に残留する肉芽組織を徹底除去し、骨穿孔させることで骨髄性の出血を促し(図9)、骨移植材を填入した後に(図10)、Tiハニカムメンブレンを設置した(図11)[注:図11の状態は表裏が逆である。厳密にはTiハニカムメンブレンは表裏が存在しており、設置には注意が必要である(図17に示す除去した後の面が正しい表面である)]。Tiハニカムメンブレンを設置して、その上から吸収性コラーゲンメンブレンで覆った後に(図12)、減張切開によりフラップのテンションを十分に除去したのちに縫合した(図13)。術後は良好に経過し、初期経過では翌日、1週間、2週間、3週間、1ヵ月でフォローした。全ての期間で創部の裂開や疼痛はなく、術後感染を疑う所見も認められなかった。ここでは誌面の都合上2週間経過後のものを提示するが(図14)、インプラント埋入が行える6ヵ月後まで創部の裂開やメンブレンの露出は起こらなかった。
図8 GBR時口腔内所見:サージカルガイドを設置して骨の不足量を目視した。-
図9 皮質骨への穿孔:骨髄性の出血を促すことで術部へは細胞と生理活性物質が供給される。 -
図10 GBR術中所見:サージカルガイドを参考にして必要な位置に必要な量の骨移植材を填入した。 -
図11 メンブレンの設置:ここで試適した状態は表裏逆である(図17に示す除去したものが正しい表面)。 -
図12 コラーゲンメンブレンの設置:必要に応じてコラーゲンメンブレンを設置することもある。 -
図13 縫合後:減張切開を加え、過剰なテンションを加えないように注意して縫合した。 -
図14 術後2週間経過時:全ての治癒期間中で創部の裂開や感染は認められなかった。
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