153号 SUMMER 目次を見る
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ 「ウォッシャブルセップ」とは
- ≫ 「ウォッシャブルセップ」の特長
- ≫ 使用方法
- ≫ 使用用途
- ≫ おわりに
はじめに
近年、歯科用レジン系材料はめざましい発展を遂げ、様々な場面で使用されるようになった。例えば、歯髄の保護や術後疼痛を抑える目的で、形成後の歯面にレジン系材料を用いてコーティングや裏層を行う症例が増加している。これらの処置後には、仮封材などにより機能性や審美性を一時的に回復することが一般的であるが、その処置にレジン系仮封材料を用いると、レジン同士が接着して除去できなくなることが問題となる。
その対策として、一般的には白色ワセリン等の油性分離材を使用されることが多いと聞く。しかし白色ワセリンは油性の軟膏であるため水洗での除去が困難であるうえに、塗布や除去の確認が目視では難しいという欠点がある。また完全に除去できなかった場合は被着面に残留し、後の接着阻害因子になることが考えられる。
しかし口腔内で使用でき、水洗で簡単に除去が可能な分離材は多くはないのが現状である。
「ウォッシャブルセップ」とは
この度発売する「ウォッシャブルセップ」は、口腔内で使用できる水溶性の歯科用分離材である(図1)。
「ウォッシャブルセップ」の前身は「スーパーボンドセップ」であり、修復物装着時に「スーパーボンド」の余剰レジンを簡単に除去する目的で2002年に発売された。
余剰レジンの除去だけでなく、レジン系材料で処置した窩洞とレジン系仮封材の分離や、テンポラリークラウン作製時の支台歯とレジンとの分離などの用途へも使用できる。
使用機会の増加にともない、「ウォッシャブルセップ」は「スーパーボンドセップ」の性能はそのままに、容量を増やし、装いも新たに発売するに至った。
今回は「ウォッシャブルセップ」の活用術を弊社製品群とともに紹介する。
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図1 ウォッシャブルセップ
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表1 「ウォッシャブルセップ」塗布回数による被膜の厚さと色の関係
※白い練和紙上に「ウォッシャブル セップ」を塗布した状態を撮影
「ウォッシャブルセップ」の特長
1)口腔内での使用が可能
「ウォッシャブルセップ」は主にエタノールと水溶性ポリマーを主成分とする。この水溶性ポリマーは化粧品や医薬品など様々な分野に用いられ、身近なところでは歯磨剤などにも使用される口腔内使用が可能な成分である。
2)被膜の形成が容易
「ウォッシャブルセップ」は適度な粘性を有した液体で、筆などを用いて均一な厚みで塗布することが可能である。塗布した「ウォッシャブルセップ」をエアーブローにて乾燥させると、成分中のエタノールが揮発して水溶性ポリマーの被膜を簡単に形成することができる。
3)高い分離効果を発揮
均一な厚さの被膜を形成することで分離効果が得られる。重ね塗りをすることで被膜の厚さを変え、さらに分離効果を高めることもできる。被膜の厚さは色調の濃淡で確認することができる(表1)。
4)水洗による除去が可能
「ウォッシャブルセップ」の成分はすべて水溶性であるため、使用後は水洗で簡単に被膜を除去できる。そのため、その後の接着操作において阻害因子になる可能性は極めて低い。
使用方法
1)被膜の形成
① 塗布
筆などを用いて分離させたい部位に均一に塗布する。
② 乾燥
弱いエアーブローにより被膜を乾燥し、均一な層を形成する。被膜が動かなくなったら強いエアーブローを行い、被膜を固化させる。「ウォッシャブルセップ」の塗布直後に強くエアーブローすると被膜に凹凸が生じるため、良好な分離効果が得られない場合がある。さらに分離効果を高めたい場合は、再度重ね塗りをする。
2)使用後の被膜除去
使用後は、被膜の色が見えなくなるまで水洗して除去する(目安30秒間)。隅角などの細部に入り込み、水洗だけでは除去し難い場合は、水に浸した綿球で擦りながら除去を行う。
使用用途
1)修復物装着時の余剰レジンの分離(図2)
近年、CAD/CAMを利用したポーセレンやハイブリッドレジンによる修復物の使用が増加しつつある。
CAD/CAMで作製された修復物の装着には接着性レジンセメントを用いることが必須であるが、特に隣在歯が金属修復物の場合、接着性モノマーの影響により隣接面の余剰レジンの除去が困難になる場合がある。
そこで修復物を装着する前に、余剰レジンが付着しそうな隣在歯や修復物表面に「ウォッシャブルセップ」をあらかじめ塗布することで、装着後の余剰レジンを容易に除去でき、治療がスムーズに行える。
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図2 修復物装着時の余剰レジンの分離
2)レジン面窩洞の仮封(図3)
① レジン裏層面の仮封
裏層材にはグラスアイオノマー系材料や水酸化カルシウム系材料など様々な種類のものがあるが、最近ではレジン系裏層材が普及しつつある(例えば、歯科裏層用高分子材料「バルクベース」、図4)。
「バルクベース」は、深い窩洞に対して積層充填することなく一括で充填することができる低重合収縮レジン系裏層材である。新規開発されたLPSモノマーを配合することで極めて低い重合収縮を実現し、「バルク裏層」が可能になった。
間接法の場合は「バルクベース」で裏層後、しばらく窩洞を仮封する必要がある。その際、レジン系仮封材を用いると「バルクベース」表面と接着するため、仮封材の除去が困難になる。そこで、窩洞内面にあらかじめ「ウォッシャブルセップ」を均一に塗布することで仮封材の除去が容易になる。
② レジンコーティング面の仮封
形成後の生活歯を様々な刺激から保護するため、露出した象牙質にレジンコーティング材(例えば、歯科用シーリング・コーティング材「ハイブリッドコートⅡ:図5)を塗布する処置がある。
「ハイブリッドコートⅡ」は薄く、硬く、しなやかで丈夫な被膜を形成するコーティング材で、露出した象牙質を保護することができる。
しかし、レジンコーティング後の窩洞にレジン系仮封材を用いるとコーティング面と接着し、仮封材の除去が困難になる。この場合も窩洞内面に「ウォッシャブルセップ」をあらかじめ塗布することで、レジン系仮封材を容易に除去できる。
最近では、CAD/CAM を利用したポーセレンやハイブリッドレジンによる修復物を装着する症例が増加している。しかし金属修復物と比較して歯質の形成量が多く、歯髄に近接した象牙質の露出が多くなるため、知覚過敏などの術後疼痛が生じるリスクが高い。このような症例に象牙質コーティングは特に有効と考えられる。
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図3 レジン面窩洞の仮封
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図4 バルクベースセット
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図5 ハイブリッドコートⅡ セット
3)その他
テンポラリークラウンの作製時にも、即時重合レジンが支台歯に接着し、撤去が困難になる場合がある。そのようなケースにはあらかじめ支台歯に「ウォッシャブルセップ」を均一に塗布しておくことでテンポラリークラウンの着脱が容易になる。
なお、テンポラリークラウンの作製時に「ウォッシャブルセップ」を併用する場合は、餅状の即時重合レジンを用いて作製することをおすすめする。
おわりに
今後、歯科用レジン系材料がより多くの場面に用いられることにより、口腔内使用が可能で、使用後の除去も簡単な分離材の必要性が高まると予測される。
今回紹介した「ウォッシャブルセップ」は口腔内で使用でき、水洗で除去が可能な歯科用分離材である。
さらに、水色の被膜により塗布状態や除去時の確認が目視で行える確実性も有している。
是非、この機会に高い分離性と除去性を兼ね備えた「ウォッシャブルセップ」をご使用いただき、今後の診療にお役立ていただければ幸いである。
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【 宮森 沙耶香 】モリタ友の会会員限定記事
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