153号 SUMMER 目次を見る
目 次
- ≫ 米国審美修復のトレンド
- ≫ 審美修復を成功させるためのポイント
- ≫ 審美歯科材料としてのジルコニアの位置づけ
- ≫ 高透光性ジルコニアの可能性
- ≫ 審美修復に用いるセメントの選択基準
- ≫ 今後の修復治療の方向性とマテリアルに期待すること
審美歯冠修復技法は、従来の材料の改善や新しい材料の開発に伴って、めまぐるしい発展を遂げている。そこでこのたび学会講演のため来日したアメリカにおける審美歯科修復のオピニオンリーダーDr. Chicheをお迎えし、最新歯冠修復技法とマテリアル選択の動向や将来展望について、山﨑長郎先生が伺った。
Georgia Regents University
Center for Esthetic and Implant Dentistry
College of Dental Medicine
Dr.Gerard J Chiche
SJCDインターナショナル会長
原宿デンタルオフィス院長
山﨑長郎
米国審美修復のトレンド
山﨑 まず最初に、米国における審美歯科の最新トレンドについてお聞かせいただけますか?
Chiche 現在のトレンドとして言えることは、着実にオールセラミックスの症例が増えて、メタルセラミックが減ってきているということです。以前、大規模な歯科技工所の現状を調査したところ、オールセラミックスクラウンを使用した実績が飛躍的に増加していることがわかっています。現在、その割合は50%にのぼり、増加の傾向は年々顕著になっています。そして何より審美歯科への人気がかつてなく高まっているため、患者さんの期待も大きくなってきています。
山﨑 日本ではメタルセラミックスがおそらく80%、オールセラミックスは20〜25%といったところだと思います。それにしても米国ではメタルセラミックスは50%にまで減っているのですね?
Chiche その通りです。その中でフルジルコニアクラウンは大きな市場シェアを獲得しつつあります。その理由として、例えば大臼歯の修復をする場合、フルジルコニアクラウンを選択することでジルコニアが持つ強度を活用できること。さらに、支台歯形成の方法もメタルクラウンと基本的には変わらないこと。これらのことが追い風となってジルコニアの普及が広がっているのではないかと考えています。
審美修復を成功させるためのポイント
山﨑 審美修復を成功させるために重要なポイントは何だとお考えですか?
Chiche まず重要なことは治療計画です。そしてその治療計画の最初に行う「診断」が特に大事になります。審美的状況をどのように診断するか、そして意図した改善を視覚化するシステムをどのように作り出すか、さらにセラミックを用いて、それをどのように実現するかということで、内容はいたってシンプルなのです。
米国での治療計画のたて方は患者さんが好む審美的スタイルに基づいています。例えば米国の場合、患者さんは長い歯冠長を好まれますから日本よりも歯冠長の変更を加えることが多いと思います。その結果、歯の見える部分が多くなり、スマイルが少し大きくなる傾向があります。ただ、もちろん患者さんによって好みのスマイルデザインは千差万別です。若々しい、輝くようなスマイルを作ろうと思えば、スマイルラインのデザインは私たちが考えるよりはるかに重要になります。こうした要素をすべてデザインし、患者さんに試していただく。そして最終的な補綴物は歯科技工士と連携して製作していくことになります。
山﨑 Chiche先生は診断が重要とおっしゃいましたが、まさに私も同意見です。ところで、例えばDr.ChristianCoachmanが創設された「デジタル・スマイル・デザイン」に代表されるような審美性の分析をデジタル化する流れについてはどのようにお考えですか?
Chiche 私たちは審美性の分析には2つのやり方を用いています。1つは今お話にあった診断のデジタル化です。
この方法はワックスアップを行わずに基本的な情報を迅速に視覚化することが可能で、より多くの表情をすぐにコンピュータ上で作り出せますから患者さんに具体的なイメージを提供することにも役立ちます。もう1つの方法は従来のワックスやレジンによる3次元的なモックアップです。
デジタル化による診断は、その多くは患者さんに情報を伝え、ラボとコミュニケーションをとるためのツールであり、使い方さえ誤らなければ素晴らしい診断ツールとなり得ます。コンピュータ上でデザインすることを好む若い世代に今後ますます普及するでしょう。一方で、診療経験を持つ現在の世代の歯科医師においては、おそらくワックスやレジンによる3次元的なモックアップにより診断を行うことが、現時点ではより一般的なのではないでしょうか。
審美歯科材料としてのジルコニアの位置づけ
山﨑 現在日本ではジルコニアがポピュラーになりつつあるのですが、これについてどう思われますか?
Chiche 米国においても修復治療におけるジルコニアの位置づけはますます重要になっていて、その中で私たちは特にフルジルコニアを多く使用しています。フルジルコニアクラウンは、例えば、術後経過を見ていく中でリハビリテーションを行うケースや咬合力が強い患者さんのケース、さらに破折リスクが大きいと考えられる患者さん等に非常に有効です。現在では、大臼歯部のクラウンの80%はフルジルコニアを使用しています。さらに、小臼歯の症例にも活用していますが、小臼歯は大臼歯と違って審美的な問題も考慮していかなくてはなりません。その場合には、頰側にセラビアンZRなどのポーセレンをレイヤリングすることで解決しています。
山﨑 個人的には咬合をコントロールすることが難しいと考えているのですが、その点はいかがでしょうか?
Chiche 確かにおっしゃる通りで、例えば3Shape社製の高品質なスキャナーを使って非常に精度の高い咬合形態を作成することは可能ですが、ジルコニアがもつ強度のために、口腔内での調整に時間がかかるケースも少なからずみられます。
それでもなお米国でジルコニアが選択されている理由として2つのことがあげられます。1つは強度が高いため厚みをそれほど必要としないことです。大臼歯の場合、e-maxなどに代表される二ケイ酸リチウムでは1.5 mmの厚みが必要とされています。これがさらに咬合力が強い患者さんの場合などリスクの高いケースでは、最も薄い裂溝部分が1.5 mmということであり、咬頭部ではもちろんさらに厚くなります。歯科技工士が1.5 mmをコントロールするためには、支台歯の削除量はそれより少し厚くする必要があり、確実に1.5mmを得るために必要な形成量は1.5〜2.0 mmとなります。これがフルジルコニアになると、そこまでの厚みは必要としないのです。
もう一つの利点は、材料自身に強度があるため、セメンテーションが容易なことで、つまり、接着強度にそれほど頼らなくてもいいということです。ジルコニアの接着については後で詳しくお話しましょう。
セラビアンZRを用いたジルコニアクラウンの症例(21 12)
歯科技工士:青島仁 写真提供:Dr.Gerard J Chiche
高透光性ジルコニアの可能性
山﨑 高透光性のジルコニアの可能性についてはいかがでしょう?
Chiche ジルコニアを活用した審美性の研究は現在確実に進歩しています。私たちが望む究極の目標とは、ジルコニアの強度を保ちながらシリカ系セラミックの透光性を獲得したいということです。つまり、ジルコニアがその強度をある程度まで維持できる限り、よりシンプルな方法で接着することが可能になりますから、透光性を加えたジルコニアは市場に大きな影響を持つでしょう。そうなれば小臼歯への適用だけでなく、前歯部への応用にもつながっていきます。理想的なオールセラミックス修復とは、最大の透光性、高い強度でセメント合着するだけというシンプルなものです。
最近、前歯部にも応用できるということでクラレノリタケデンタルが開発し国際デンタルショー(IDS)にも出展された透光性の高いマルチレイヤージルコニア製品を見る機会がありましたが、そのクオリティの高さは非常に印象的でした。
高透光性マルチレイヤージルコニア新製品
写真提供:クラレノリタケデンタル
審美修復に用いるセメントの選択基準
山﨑 ジルコニアなどオールセラミックス審美修復に用いるセメントの選択についてはいかがでしょうか?
Chiche セメントの選択は非常にシンプルにすることができると考えています。私たちの大学の医局で使用しているシステムでは、ジルコニアを使用する場合、接着材は使わずにセメントのみです。
Panavia SA Cement Plus(日本販売名:SAセメントプラスオートミックス)に代表されるようなセルフアドヒーシブレジンセメントは接着性モノマーを含んでいて、Dr.Markus Blatz の過去の研究によれば、サンドブラストの使用により、ジルコニアに対して良好な接着強度をもたらすことが知られています。さらにその他の研究によれば、従来のアイオノマー系セメントよりも4倍以上の保持力をもたらすこともわかっています。この場合、ジルコニアとセメントが一体になっていると考えても良いかもしれません。
山﨑 私は何度かジルコニアを臼歯部に用いたのですが、その際、レジン強化型グラスアイオノマーセメントを使用しました。ただ、前歯部については透光性が必要になりますから話が違ってきます。前歯部と臼歯部には大きな隔たりがありますね。
Chiche そうですね。ただ厚さ約0.8mmを超える一般的なクラウンのケースは、セメントの色はあまり考える必要がないというのが多くの研究者が示唆するところですから、私の場合、薄いベニアのケースを除けばほとんどセルフアドヒーシブセメントを使用しています。
山﨑 ところでChiche先生はPanaviaSA Cement Plusをよく使われるのでしょうか?
Chiche ええ、よく使います。PanaviaSA Cement Plusのメリットは何より余剰セメントが取りやすいことなのですが、私はその特性を利用してユニークな方法を用いています。
例えば、下図のように前歯6本のクラウンを接着する場合、余剰セメントを1歯ずつではなく連続して取っていくために、歯間部にもセメントを追加塗布し、2、3秒光照射します。こうすることで余剰部分は一塊で簡単に取ることができます。臨床家にとって、時間に支配されず、それどころか逆に時間をコントロールできることは大変大きなメリットではないでしょうか。この度、さらに高い接着強度を備えたパナビアV5という新製品が発売されるそうですね。
山﨑 ジルコニアの場合、接着にそれほど頼らなくてもいいという先ほどのお話からすると、さらなる接着強度は必要ないようにも思えますが…。
Chiche 確かにジルコニアを使ったケースの多くでは、過度な接着強度は必要ありませんが、例えば富士山のように大きくテーパードして形成された状況では話は違ってきます。Dr. JohnBurgessの研究成果によれば、大きくテーパードされた形成上で従来のアイオノマー系セメントを使用した場合、レジンセメントほど良好な接着性能が得られないと結論づけられています。このことは優れたレジンセメントはその維持力において確実に違いを生み出しているということを意味します。従来のアイオノマー系セメントよりはるかに堅固で、同時に象牙質に対しても強固に接着します。
いくつかの報告を見る限り、新製品パナビアV5では象牙質に対する接着をさらに改善するために多大な努力を行っているようです。今後こうした優れた性能を持つレジンセメントは、広範囲にわたって用途を広げることが可能になるでしょう。
セルフアドヒーシブレジンセメント「SAセメントプラスオートミックス」(クラレノリタケデンタル)
(海外販売名「Panavia SA Cement Plus」)
Panavia SA Cement Plusを使うと余剰セメントが一塊で取りやすい。
写真提供:Dr.Gerard J Chiche
新製品 接着性レジンセメント「パナビアV5」(クラレノリタケデンタル)
今後の修復治療の方向性とマテリアルに期待すること
山﨑 では最後に修復治療およびマテリアルの今後の方向性についてどのようにお考えですか?
Chiche 私たちの多くが尊敬するリーダーの一人、Dr. Gordon Christensenは、「新製品は3つの属性を備えている場合に市場で勝者となる」とよく言っておられます。その3つの属性とは、“faster”(迅速かどうか)、“easier”(簡便かどうか)、“better”(優れているかどうか)です。このうち1つか2つの属性を備えている場合、成功する可能性はありますが、3つすべてを備えていれば市場での成功は揺るぎないものになるでしょう。
セメントについて言えば、シンプルな材系で、操作が簡便、接着力が高い、という性質が求められます。その視点から私の個人的な意見で言えば、パナビアV5は上記3つの属性を兼ね備えた高性能なセメントであり、その市場性はとても高いと感じています。
セラミックについては、近い将来、ジルコニアと二ケイ酸リチウムのどちらかを選択しなければならない方向へと向かうトレンドがあると考えています。なぜなら、今後ジルコニアがさらに透光性を増すことで、適応する症例範囲が増え、確実に用途に重複が生じるからです。そして、将来的にこうした新しいセラミック材料を市場に移行させる上で、歯科技工所の役割は非常に大きいとも私は考えています。さらに、こうした新製品が急増していく過程で、ゴールドやメタルセラミックが減少していく現象は避けられないとも感じています。
山﨑 Chiche先生からは約20年前から多くの示唆をいただいてきました。本日はお越しいただきありがとうございました。お話しできて光栄に思います。
Chiche 私こそ山﨑先生とお話しできて素晴らしい時間をすごすことができました。ありがとうございます。
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