153号 SUMMER 目次を見る
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ チタンアバットメントサービスの利点
- ≫ 作業内容
- ≫ まとめ
はじめに
本稿では、昨年11月より始まった(株)カタナプロダクションセンター(以下KPC)におけるカタナチタンアバットメントの模型送付によるフルデザインでの発注方法及び技工所での作業手順について解説を行う。
チタンアバットメントサービスの利点
新たに開始されたカタナチタンアバットメントサービスではすでにカタナスキャナー(SC-3、SC-4、SC-5)のアバットメントデザイナー(アドオンモジュール)所有者からのデータ送信による加工、模型送付によるフルデザイン、D-Scanからの加工、という3種の方法をユーザーは選択できる。また、対応アバットメントは図1で示す4社の各サイズを選択することができ、また、今後の拡張性も高く、ユーザーにとっては非常に有益なサービスと考えられる。サービスを利用するにはカタナユーザー登録(モリタ社)が必要であり、登録が済むと模型送付ユーザー用の専用の注文書と規定書が送付される。
注文書にある「フルデザイン」を選択すると、専門知識を有するオペレーターが3Shape社アバットメントデザイナーを用いてデザインを行い、独自に開発された専用の5軸加工機によってアバットメントが作製される(図2)。フルデザイン選択の模型送付ユーザーは、クラレノリタケデンタル社より提供される専用のCADビュワー(3Shape 3D Viewer)を用いてKPCにてデザインされたアバットメントや模型などを自身のPCで確認することができ、可能な限り希望形状に近いものが納品される。
今ケースではフルデザインでの加工を委託し、作業のフローに重点を置いて説明を行っていきたい(図3)。
フルデザインサービスをご利用いただく利点としては
- 1)ラボ内での作業時間の短縮
・KPCを利用することにより、発注後、他の作業に時間を割ける。 - 2)設備などの負担が必要ない ・専用の機器の導入を行わずにアバットメントの作製ができる。
- 3)コストの削減 ・ラボ内での作業時間が圧倒的に少なく、鋳接製品と比較しても圧倒的に価格面で優位である。
以上が考えられ、今まで受注できなかった部分をKPCを利用することによって新たなラボのサービスツールになることを期待したい。
図1 インプラントメーカー各社の対応アバットメント(2015年3月現在)
図2 カタナチタンアバットメントの加工後の状態。最大のメリットは加工後の表明性状が滑らかなことである。
図3 ユーザー側、KPC側の各作業内容
作業内容
<ユーザー側>
▼模型作り 模型作りのフローと注意点
①② 印象材の中の印象用コーピングがスクリューを締めるときに、ずれないようにアナログをペンチでしっかりホールドし、ドライバーでネジ締めを行い、石膏を流す。
③④ 元の位置にしっかり収まりやすいように2本ずつダウエルピンを平行に立てる。接合部がしっかりと確認できるように三次埋没法を行い、二次石膏はダウエルピンを覆う形で一次石膏との確認ができるような注ぎ方を行う。
⑤⑥ ガムの作製の場合は、底面を平らにして隣接は垂直になるようにガムをカットし、石膏を流すと元に戻りやすく安定の良いガム模型ができる。
▼注文書作成
導入時に送付されてきた専用注文書(右図)に必要事項を記入する。もし、同一の形状に複数のアバットメントが存在する際は、デザインの希望と歯式、インプラントシステム名を記載した注文書を一本ずつに対して一枚ずつ(重複する内容の記載は一枚書いてあればよい)記入する。
▼模型発送準備
アバットメントの立ち上がりをヒーリングキャップの大きさでいくことにしたので外側の点線のところまでガムを広げる。 ※写真⑧と⑨を添付して指示書に丸印をすると立ち上がりのところの形態が加工センターで分かりやすくなる。
⑦ 初めの時はガムだとレプリカの歯肉の回りが分かりにくいため石膏で立ち上がりの位置を確認していく。
⑧ 印象用コーピングで印象がされるのでガムの立ち上がりがストレートになっている(写真⑦の石膏模型の内側のライン)。
⑨⑩ 口腔内では、写真⑨と⑩のヒーリングキャップが入れてあり、ヒーリングキャップの状態に歯肉が落ち着いているものが写真⑦の石膏模型の外側の点線のところになる。
<KPC側>
▽模型受領
KPCでは模型が届き、受領即日(午前受付の場合)に開梱、梱包品リストの作成、専用注文書の確認を行い作業に移る。カタナチタンアバットメントでは模型の分割が無くてもスキャン、デザインができる。また対合模型があれば同時にスキャンを行い、デザインに反映させることも可能であり、最終外形を考慮しアバットメント上部形状をデザインすることができる。
▽スキャン作業からデザイン作業
(デザイン時の指示書との整合性を取る作業からデータの送信)
スキャンを行う前に必ず模型の状態(咬合関係・ガムの調整具合)、指示書等に記載の隣接歯・対合歯の治療計画の有無を確認し作業を開始する。
スキャン中は着脱を要するガム・スキャンアダプターの浮き上がりに気を付けながら作業を行う。
【アバットメントデザイン】
3Shape社「アバットメントデザイナー」を起動し、最初に唇・頰側方向、加工方向を決定する。
デザイン工程
オーダーフォーム作成時、製作する2本のアバットメントを“グループ化”してあるので、片方のアバットメントの傾斜角(着脱方向)を決定するともう一方のアバットメントは自動的に平行性の取れる角度に補正される。これまでスキャン用のレジンアップにミリングをかけていた作業から開放され、大幅な作業時間短縮が見込まれる。
フルデザインで注文する場合、アバットメントの形状に関する詳細を専用注文書に記入されているため対合歯の送付を必要としないが、同梱されている場合は同時にデータとして取り込みデザイン時に対合関係の確認・微調整を行うことが可能となる。
- ① プラットフォームからの高さと傾きを設定
⑪ 専用注文書で指定された高さ・角度を上部構造の着脱方向を考慮しながら付与し、デジタルメジャーを用い設定値の確認を行う。 - ② マージン位置の設定
⑫ マージンの設定は、4ヵ所のポイント(オレンジ色)を指定された位置へ配置する。歯肉縁下への設定は、ポイントをクリックした際に出現するグリッドを利用する。研磨しろを考慮し、若干歯肉に埋没する位置に設計してある。フルデザインの場合、レジンアップを読み込み製作するD-Scanと違い図中のオレンジ色のラインで示す“マージンファイル”が存在する。よって加工時もこのデータを加工する指令が出ているため、鮮明にマージンが削り出される。 - ③ シャンファーマージン形態の付与
⑬ “レギュラー”を選択すると0.8mm程度の幅で設計を行う。ただし、インプラント体が細いサイズの場合スクリュー径とマージン位置の関係により、“ライト”しか選択できない場合がある。 - ④ エマージェンスプロファイルのデザイン
⑭ 模型送付の注文においてエマージェンスプロファイルの設計は、基本的には模型上で形成されたガムの形状に添わせる形態となるので多くの場合選択する必要はない。ただし、ガムが形成されてない場合は印象用コーピングの形状に対してのデザインとなるので、KPCより送信される「カタナチタンアバットメントデザインデータ」での確認が必要となる。
【デザインデータ確認】
専用注文書の記入情報を元にデザインされたアバットメントのデータは、e-Mailにて件名「カタナチタンアバットメントデザインデータ」が添付され、即日ユーザーへ送信される。
ユーザーは受信したデータを「3Shape 3D Viewer」を用い、PC上でデザインを確認することが可能となる。
デザイン確認後、修正希望箇所がなければ「加工開始」、修正があればその旨をメールにて返信する。この「加工開始」をもって初めて受注完了となり製作に移る。
注文書への記入情報量が多いほど、データ修正の回数を減少させる結果となる。
-
⑮〜⑱ 3shape 3D Viewerを用いてユーザー側にてデザインを確認していただく。
▽加工から出荷
カタナチタンアバットメント専用加工機は、24時間徹底した温度管理及び定期的なメンテナンスが行われている。
純チタンディスクから、一度の加工でインプラント体との接合部・スクリューアクセスホールも同時に削り出されるが、その加工時間は1時間に満たない。
⑲⑳ 加工後、専用洗浄剤を用いて加工物の洗浄、エマージェンスプロファイル部に付与されるサポート部の切削(写真)を行う。
▽検品
-
㉑〜㉔ 電子顕微鏡を用い、接合部の嵌合状態、アクセスホール内部の加工状態を確認する。KPC所有のインプラントレプリカ上での適合、お預かりした模型上での適合を確認し、さらに、各社より販売されている純正スクリューを用いた締結確認作業を行う。カタナチタンアバットメントでは、対インプラントフィクスチャーをメインに設計されているためインプラントレプリカ上での適合感とフィクスチャー上での適合感において僅かな差が見られるが、口腔内での適合感を重視し、製作している。
<ユーザー側>
▼ユーザー側デザイン確認
㉕ KPCからカタナチタンアバットメントが手元に戻ってきた状態
㉖ 戻ってきたアバットメントの立ち上がりの角度をヒーリングキャップと比べて確認を行ってみる。立ち上がりの状態が再現されているのがわかる。
㉗㉘ 模型にアバットメントを戻した状態。ショルダーや軸面など、3shape 3D Viewerで確認した状態と全く同じ状態の確認ができる。色々なメーカーにアバットメントをお願いしてきたが、写真でもわかるように軸周りの光の影が綺麗にミリングされてきたアバットメントは初めてで、マージンの位置も設定通りで良い状態だ。
㉙㉚ 高さも上から見た四角いアバットメントの形態も3shape 3D Viewerで確認した通りに出来上がっており、理想的な仕上がりだ。
㉛〜㉝ ミリングを再度行ったが、一層表面をなぞっただけで全ての工程が完了した。今まで取り扱ってきたアバットメントは手元に戻ってきてから、かなりミリングを行う必要があり、時間と能力を必要としてきたが、短時間で完了できたことに非常に驚いた。写真㉗と㉝や㉘と㉜を比べても軸面の光の状態と形に変わりはない。
▼完成
㉞ 最終補綴物を製作するとき口腔内で止めた位置関係と模型が合っているかの確認を行い、合っていない場合は、アバットメントの移植を行う。
㉟ 上部構造はフルジルコニアクラウンを選択。クラウン形態のWAX-UPが完了し、スキャニングを行う。色調はカタナジルコニアMLのA Darkを選択。
㊱ ジルコニアとアバットメントの適合が完了した状態。
㊲ カタナジルコニアMLクラウンが完成した状態。セラビアンZR ステインとEグレーズで仕上げた。
まとめ
今サービスの開始により新たなデジタル歯科技工の道が開かれてきたと感じられる。
インプラント技工には経験、知識、技術が不可欠であることには変わりは無いが、デジタルに置き換えられることでコスト面、時間面で大きく改善される側面もある。
専門設備、技術者の部分をKPCに委託することで一定の品質が担保された技工物が提供される。
KPCを技工所のパートナーとしてうまく利用していくことで新たなラボビジネスの形が構築されることを強く期待したい。
また一定の品質を持った技工物を安定的に供給できることで人的な要素による変化も改善されていくと思われる。
今後ますます歯科におけるデジタル化が進み、技工従事者が減少していく中でKPCのサービスを日々の臨床のなかに取り込むことで大きな設備投資費用を抑えながらもデジタル時代の潮流を上手くラボに反映していくことができればと思う。
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