111号 SPRING 目次を見る
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ エステニアC&Bの新技術
- ≫ エステニアC&Bの特徴
- ≫ 最後に
はじめに
昨今の歯冠補綴領域において、審美性、あるいは生体為害性から金属排除の方向にある。また患者サイドの要求も多様化、高度化している中、1997年2月、臼歯部にも適用可能な機械的強度と審美性を兼ね備えたハイブリッドセラミックス「エステニア」を上市した。
ハイブリッドセラミックスは、平均粒径2μmの微粒子フィラーと0.02μmの超微粒子フィラーを大量に充填し、さらにフィラーの表面に特殊表面処理を施すことで、マトリックスとの一体化を図り、機械的強度、耐摩耗性、硬さなどの物理的特性を向上させた。
これにより、従来の硬質レジンとポーセレンの良さを併せもつ新しい歯冠修復材料として評価され、歯科診療領域において、新たな修復材料として確立された。さらに、歯科診療において、「エステニア」が普及するにつれ、その特性を活かした用途の拡大、高い審美性などが求められつつある。
そこで、市場の状況、ニーズを把握するため、「エステニア」使用中の技工士の方を対象にアンケート調査を実施した(図1)。
図1aの通り、強度全般にわたって、高い評価が得られている。ドクターからの指示(材料の指定)も多いことから、臨床において、「エステニア」の有効性が確認できる。一方で「エステニア」の改良要望については、圧倒的に色調の改善を望む声が多かった。
今回、「エステニアC&B」では、「エステニア」の強度を維持しながら、新規技術の導入によりフィラーを改良し、抜本的な色調の見直しを図ると共に、新たに繊維強化複合材「EGファイバー」を導入することにより、ブリッジにおいてもメタルフリー化を実現した(図2)。
エステニアC&Bの新技術
「エステニアC&B」は、「エステニア」の優れた特徴を生かしながら、マトリックス部分に高密度に配合されている超微粒子フィラーをさらに微細化し、また、マトリックス自体の透明性の向上を図った(図3、4)。
さらに微粒子フィラーについても、表面を改質することにより、屈折率をマトリックスに近似させることに成功した(図5)。これにより、フィラー含有量や機械的強度を維持したまま、課題となっていた審美性の向上を達成することができた。
エステニアC&Bの特徴
1.機械的強度
1)フィラー含有量
クラレ独自のフィラー表面処理技術を導入し、無機フィラーを92wt%と非常に高密度に配合されている(図6)。
2)圧縮強さ
エナメル質以上の強度を有するので、臼歯部に加わる高い咬合圧に対応できる(図7)。
3)曲げ強さ
ポーセレンの約3倍があることから、ポーセレンに比べ割れにくい特徴がある(図8)。
4)硬さ
対合歯に対しても、非常にやさしく、金合金と近似した硬度のため、ポーセレンの様に対合歯を摩耗される心配はない(図9)。
5)弾性率
金属に比べて弾性率が歯質に近いことから、修復した歯へのダメージが軽減されるため、歯牙の破折などを防ぐことができる(図10)。
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図1a エステニアの選択理由
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図1b エステニアの改良要望点
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図2 メタルフリーブリッジ(口腔外写真)
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従来品 -
エステニアC&B
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従来品 -
エステニアC&B
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図5 微粒子フィラーとマトリックスの屈折率
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図6 フィラー含有量の比較
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図7 圧縮強さ(MPa) -
図8 曲げ強さ(MPa)
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図9 硬さ(Hv)
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図10 弾性率(MPa)
2.審美性
1)透明性・質感の向上
従来品は、マトリックス中に複数の粒径のフィラーが存在することによって、光が散乱し、白濁して見える課題があった。よって、臨床ケースにおいて、切縁部やインレーマージン部の透明性不足が指摘されることもあった。これは、トランスペアレントが物性面の問題から最表層に使用できないことも1つの要因であった。
そこで、「エステニアC&B」では、図3~5の通り、マトリックス中の超微粒子フィラーの均一化、表面改質微粒子フィラーの導入などによって、透明性が向上すると共に、より天然歯に近い質感となった。またトランスペアレントについても、透明性を維持しながら強度の向上を図り、最表層に使用できるようになった(図11、12)。
2)簡便な色調再現システム
(1)ジャケットクラウンの色調再現近年、コンポジットレジンコアが普及し、失活歯のケースにおいても、メタル色を呈していないことが多く見られるようになった(図13)。
この場合、必ずしもクラウン内面をオペーク材で裏層する必要がなく、新たに導入したオペーシャスデンチン(デンチンより透明性を抑えたペースト)を用いることで、築盛操作が簡略化されると共に、不透明のオペーク材を必要としないため、修復物自体が歯質に近い質感が表現できるようになった(図14~16)。
(2)インレーの色調再現
従来品では、エナメル質の透明性がやや不足していることから、築盛量が多くなると修復部が白っぽくなることがあった。そのため、エナメルの築盛量を厳密にコントロールしたり、また窩洞内側にトランスペアレントを築盛するなどの工夫がされていた。
そこで「エステニアC&B」では、インレーの色調再現の簡便化を図るため、ベース色となるサービカルトランス(図17)を新たに導入した。これは下地の色調をある程度透過するため、エナメルとの2層築盛で歯質と調和した色調表現ができるようになった(図18、19)。
3)色調のバリエーション
「エステニアC&B」は色調再現性の向上に伴い、臼歯部はもとより、前歯部へ適応が増えると予想される。
ポーセレンと異なり硬質レジンは、ペースト同士を混ぜて使用できず(気泡の混入、物性低下など)、また、ステイン材によるキャラクタライズについても、表層での使用は耐久性の面で劣ることから薦められず、また、限られた色調数では、個性的な色調の表現に限界があるとされてきた。
そこで今回、臨床に即した特殊色(エフェクト色)(図20~22)を充実させ、またエフェクト色は他のデンチン、エナメル等と基本組成が同じであることから、最表層にも使用でき、築盛段階において、細かい色調が表現できるようになった。
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図11 エナメルの透明性比較
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図12 トランスペアレントの透明性比較
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図13 コンポジットレジンコアによる支台築造
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図14 前歯部、臼歯部の基本築盛法
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図15 オペーシャスデンチン(A系色)の色調
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図16 1ジャケットクラウン
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図17 サービカルトランスペアレントの色調 -
図18 インレーの色調再現法(簡便法)
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図19a 56インレー -
図19b 56インレー
3.メタルフリー修復の適応拡大
メタルによる修復は、長年の臨床実績からだれもが安心感を持っている。
一方で金属アレルギー、歯頸部の金属露出、歯肉の変色、或いはオペーク材使用による色調再現の難しさなどの金属に起因する問題も報告されている。また近年、歯科診療領域において、コンポジットレジンコアが急速に普及しており、歯冠部についても、金属を使用しないメタルフリー修復が注目されてきている。
そこで今回、クラレ独自の技術により、特殊表面処理をしたガラスファイバーを用いることで金属フレームを使用しないブリッジが可能となり、メタルフリー修復の適応が拡大した。
1)商品構成
特殊表面処理をしたガラスファイバー「EGファイバー」(前歯部用、臼歯部用)、低粘度の補修用レジン「EGフロー」、光透過性を有するコア材「EGコア」から構成される(図23、24)。
2)機械的強度
(1)曲げ強さ
エステニアC&BとEGファイバーを組み合わせて使用することにより、「エステニアC&B」単体の3倍以上の曲げ強度を有する(図25)。
(2)接着性
エステニアC&Bに対し、EGファイバーは金属より優れた高い接着耐久性を有する(図26)。
(3)耐久性
高強度フレーム材と「エステニアC&B」の一体化により、「エステニアC&B」単体に比べ優れた曲げ耐久性を有する(図27)。
3)フレーム材の製作ステップ
光透過性を有するコア材「EGコア」を用いることにより、特別な装置を必要とせず、簡便な操作でフレーム材、及びブリッジの製作が行える(図28~35)。
4)禁忌症
フレーム材を用いたクラウンブリッジ、インレーブリッジの症例で、2歯欠損以上、または欠損部のスパンが15mm以上となる症例は禁忌症としている。
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図20 サービカルデンチンエフェクトの色調
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図21 トランスペアレントエフェクトの色調
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図22 エナメルエフェクトの色調
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図23 EGファイバーの組成
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図24 EGファイバーセット
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図25 曲げ強さ
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図26 接着力(MPa) -
図27a 破壊回数
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図27b 臨床形態での疲労試験
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図28 1. フレームの設計
スプルーワックスを用いて、フレームの形態を再現する。※ポンティックの下部にフレームが配置されるように設計する。 -
図29 2. EGコアの軟化
熱可塑性EGコアを適当な長さにカットし、熱湯(約80℃)の3分間浸漬し軟化する。 -
図30 3. EGコアの圧接
軟化したEGコアを支台歯に圧接し、スプルーワックス部の印象採得をする。 -
図31 4. EGファイバーの設置
スプルーワックスの長さを参考にEGファイバーをカットし、設置する。 -
図32 5. コアの圧接
EGコアを模型に戻し、その後、技工用光重合器にて60秒間予備重合する。 -
図33 6. EGファイバーの光重合・完成
コアを外し、所定の時間光重合を行いEGファイバーを硬化させる。余剰部分をカーボランダムポイント等で削り、形態修正を行う。 -
図34 EGファイバーのフレーム形態 -
図35 567メタルフリークラウンブリッジ
4.支台形成と合着
エステニアC&Bの支台形成、並びに合着手順は、以下の通りである(図36)。
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図36 支台形成と合着
最後に
当社の歯冠修復コンセプトは、できる限り天然歯に近い物性を有する材料を提供し、残存歯質と強固に接着させ、残存歯質との一体化を目指している。
今回、新たに開発した「エステニアC&B」は、「エステニア」の高い物性を維持し、さらに専用の繊維強化複合材を用いることで、ブリッジにおいてもメタルフリーを実現した。
また、歯冠色を有する接着性レジンセメント、コンポジットレジンコアと組み合わせることで、より天然歯に近い色調再現が可能となり、金属アレルギーの患者への応用、さらに残存歯質や周辺の組織へのダメージを最小限に抑える修復材になるものと期待している。
最後に、快く臨床例のご提供を頂いたカナレテクニカルセンター・山田和伸先生に深く感謝申し上げます。
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