113号 WINTER 目次を見る
目 次
はじめに
近年、失活歯の支台築造法については多くの研究がなされ、その結果、従来の鋳造金属支台築造法と比較した場合、コンポジットレジンによる支台築造法(以下、レジンコア)は、その理工学的性質が、歯根破折や脱落を防止する上で優れていることがわかり、現在ではレジンコアが支台築造法の主流となりつつある。
また、レジンコアは審美的な面においてもメタルコアよりも優れており、オールセラミッククラウンやハイブリッドセラミックスクラウンに代表されるメタルフリーの歯冠補綴処置においても、レジンコアの色調を歯質の色調にあわせることでクラウン接着時の色調変化を心配する必要がなくなった。
現在、支台築造用のコンポジットレジンは各メーカーから発売されているが、今回新たに発売されたクリアフィルDCコアオートミックス(クラレメディカル社:図1)は、既存品と比較して操作性を向上させており、直接口腔内でコンポジットレジンを築盛していく、いわゆる直接支台築造法において、チェアータイムが短くなるよう工夫され、臨床医にとって非常に使いやすいものとなっている。
また、操作性を向上させながら、理工学的性質は従来のDCコアと比較して同等かそれ以上の性能を有しており、まさに「進化」した築造材料といえるだろう。
本稿では、このクリアフィルDCコアオートミックスの特徴、ならびに、これを使用した臨床例について報告する。
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図1 クリアフィルDCコアオートミックスキット。
色はデンチンのほかホワイトがある。
クリアフィルDCコア オートミックスの特徴
DCコアオートミックスは光重合と化学重合のどちらでも硬化する、いわゆるデュアルキュア型コンポジットレジンで、その最大の特徴は、手練和不要の簡便性とチェアータイムの短縮にある。従来の築造用コンポジットレジンはペーストの採取に始まり、ペーストの練和、CRシリンジへの塡入、ペースト吐出、築盛といった工程が必要で、通常のレジン充塡と比較した場合、操作が煩雑であった。
このDCコアオートミックスは、従来の煩雑な作業ステップを短縮化するために、シリンジ先端にミキシングチップを取り付けることで、ベースとキャタリストが押し出される際に自動で練和されるようになっている(図2)。
従来の築造用コンポジットレジンは手練和であったため、練和時に気泡が混入しやすく、その結果として、気泡によるレジンの硬化不良や接着不良が引き起こされる可能性があった。
しかし、DCコアオートミックスはオートミックスシステムを採用しているため、練和時の気泡の混入はなく、安定した理工学的性質が期待できる(図3)。このDCコアオートミックスはミキシングチップの先端にガイドチップを取り付けることで、直接口腔内への適用が可能になり、また操作時間が約3分で、再度ペーストを押し出せばさらに操作時間は延長されるので、積層充塡や複数歯の支台築造も十分な余裕をもって操作することが可能である。
DCコアオートミックスには、それ自体に接着能力はなく、したがって支台築造を行うためには、歯質と接着させるシステムとの併用が必要である。
一つの方法はキット販売されているクリアフィルライナーボンドⅡΣを併用した直接支台築造法である(図1)。ライナーボンドⅡΣはレジン充塡から補綴物の接着、前装冠やセラモメタルクラウンの修理など様々な用途に使用できる多目的なデュアルキュア接着性レジンである。
もう一つの方法はパナビアF2.0(クラレメディカル社:図4)を併用した直接支台築造法である。この方法は、ポスト孔とポストの形態が近似して、パナビアのペーストが必要以上に厚くならない場合や、カリエスリスクが高く、フッ素徐放による二次齲蝕予防を期待するケースなどに適する。
パナビアF2.0を用いる場合、象牙質へのより高い接着性と耐久性を得ることを目的として、象牙質の前処理として柏田らが考案したADゲル法を用いる方法がある1)(図5)。
ADゲル法とは40%リン酸ゲルと10%次亜塩素酸ナトリウムゲルを作用させることで象牙質のスメア層と有機質を可及的に除去する方法で、これによりパナビアF 2.0のペーストが象牙細管内に深く侵入し200~300μmもの長さのレジンタグを形成することで、接着力と耐久性を向上させ2)、さらに象牙質内の広範囲にわたってフッ素を徐放して耐酸性層を形成させることで二次齲蝕の再発を予防しようとするものである3)。
これらの接着システムはグラスアイオノマーセメントと比較して非常に高い接着力を示し4)(図6)、十分信頼できる支台築造法であるということができる。
審美的な面においては、DCコアオートミックスはデンチン色が登場し、エステニアC&Bやオールセラミックなどの歯冠補綴物の色調に影響を与えないよう配慮されている。またホワイト色は、歯質との明確な識別が可能であるため、再治療時の除去操作が容易にできるようになっている。また、十分な色調の遮蔽性があり、ADポストⅡ(クラレメディカル社)などの既製金属ポストを併用する場合でもポストの色調は透過しにくくなっている(図7)。
DCコアオートミックスの粘性はペースト状で従来品よりもポスト孔内への塡入がしやすく、しかも垂れにくいため、歯冠部の築盛時に形態がくずれにくい。
その他、良好なX線造影性があること、また形成時の切削感が象牙質のそれと類似しており、支台歯形成がスムースに行うことができるといった特徴もある。
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図2 ミキシングチップ(右)とガイドチップ(左)。
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図3 曲げ強さ。従来品と同等以上の理工学的性質を示している。(クラレメディカル社提供)
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図4 パナビアF2.0。
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図5 ADゲル法で用いるK- エッチャントゲルとADゲル。
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図6 人歯象牙質に対する初期接着強さ(森田ら、文献4)より引用改変)
G I :グラスアイオノマーセメント
ⅡΣ:ライナーボンドⅡΣ
P F :パナビアフルオロセメント
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図7 デンチンとホワイトの色調
DCコアオートミックスを用いた支台築造の臨床例
臨床におけるDCコアオートミックスを用いた、基本的な直接支台築造法を2例紹介する。
1症例目(図8)は、接着システムとしてクリアフィルライナーボンドⅡΣを併用した直接支台築造法である。
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図8a 根管形成後 。
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図8b ADポストⅡの試適。ポストの径は適合するサイズより1サイズ小さめとし、DCコアオートミックスで周囲が包埋されるようにする。
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図8c ライナーボンドⅡΣ プライマーA , Bを混和して塗布。30秒後エアーブロー。ペーパーポイント、ブローチ綿花等で余剰プライマーを除去。
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図8d ADポストⅡの処理。表面が汚染されている場合はエタノール清掃かサンドブラスト処理を行ってからライナーボンドⅡΣプライマーA, Bを混和、塗布する。
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図8e ボンドA , Bを混和し、デュアルキュアタイプにして歯質に塗布。ボンド層を均一にするためエアーブローを行った後20秒間光照射。
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図8f DCコアオートミックスの準備。シリンジ先端にミキシングチップとガイドチップを取り付ける。
根管形成後、ADポストⅡの試適をするが、ポストの径は根管壁周囲に一層コンポジットレジンを介在させたほうが望ましいため、適合するサイズより1サイズ小さめのポストを選択する。ADポストⅡは既にサンドブラスト処理されているので、表面が汚染されていなければそのまま使用することができるが、試適をして表面が汚染された場合は、消毒用エタノールで清掃した後、可能ならサンドブラスト処理を行う。
歯質はライナーボンドⅡΣプライマーA、Bの混和物を塗布する。この間ADポストⅡにも同様にこのプライマーを塗布しておく。ADポストⅡは卑金属でありプライマー中の接着性モノマーであるMDPによってDCコアオートミックスとの接着が可能になるため、アロイプライマー(クラレメディカル社)を塗布する必要はない。なお、ポストにファイバーポストを用いる場合は、表面をリン酸処理、水洗乾燥させたのち、プライマーA、Bとポーセレンボンドアクチベーターを加えた3液の混和物を塗布しシラン処理を行う。
歯質に塗布したプライマーは十分にエアーブローを行い、根管内に溜まったプライマーはブローチ綿花またはペーパーポイントでよく拭き取る。
続いてボンドの塗布であるが、ポスト孔内は照射器の光が透過しにくいためAとBを混和してデュアルキュアタイプにし、化学重合でも硬化できるようにしておく。
つぎにDCコアオートミックスの塡入操作に入るが、ここで事前にシリンジの先端にミキシングチップとガイドチップを取り付けてレジンをポスト孔内に塡入する。ポスト孔がガイドチップの径より小さい場合は、別途根管塡入用としてニードルチューブに練和したDCコアオートミックスのペーストを入れてポスト孔に塡入する。
塡入が終わったら気泡を混入させないようにゆっくりとADポストⅡを挿入し、根管中央に配置させて光照射し、ポストを固定する。このとき、ポスト孔深部は照射器の光が届きにくいが、化学重合の硬化は図3に示すとおり理工学的性質がやや劣るため、頬(唇)舌側2方向から十分光照射をする。
ポスト固定後歯冠部の築盛を行う場合、DCコアオートミックスは操作時間に余裕があるため引き続き使用が可能である。しかも、フローが比較的良好でしかも垂れにくいため、築盛時に形態を保持しやすい。ただし、築盛時に深さが4mmを超える場合は光の透過深度の関係から積層しながら築盛を行ったほうが望ましい。
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図8g ポスト孔内へDCコアオートミックスを注入。ガイドチップがポスト孔内に入りにくい場合は別途ニードルチューブを使用する。
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図8h 気泡を混入させないようADポストⅡをゆっくりと挿入しポスト孔の中央に配置させ、頬舌側2方向から十分な光照射を行う。
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図8i DCコアオートミックスは操作時間に余裕があるため、引き続き歯冠部の築盛を行うことができる。
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図8j 化学重合のみでも硬化するが、物性を高くするには十分な光照射をしたほうがよい。
深度が4mmを超える場合は積層しながら光照射する。
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図8k 支台歯形成を行いコンポジットレジン支台築造を終了する。
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図8l エステニアクラウンをパナビアF2.0で接着し歯冠補綴処置が完了。
2症例目(図9)は、接着システムとしてパナビアF2.0を併用した直接支台築造法である。
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図9a 根管形成後 。ポスト孔は漏斗状ではなくADポストⅡの形態に近似しているほうが望ましい。
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図9b ADポストⅡの試適。径は適合するサイズより1サイズ小さめのもので、長さはポリクラウンに収まるが十分な長さが必要である。
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図9c ポリクラウンの試適。マージン部が適合するようにトリミングをしておく。
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図9d 接着前の処理として歯質にADゲル法を適用する。K- エッチャントゲルを塗布し10秒後水洗、乾燥。
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図9e ADゲルを塗布し60秒以上経過した後、水洗、乾燥。ポスト孔内は洗浄針などを用いてよく水洗する。
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図9f パナビアF2.0を使用。EDプライマーⅡを塗布し30秒後エアーブロー。ポスト孔内の余剰プライマーはブローチ綿花またはペーパーポイントで拭き取る。
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図9g ペースト練和後、ニードルチューブを使用してポスト孔内に注入する。
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図9h 気泡が混入しないようにADポストⅡをゆっくりと挿入する。
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図9i ペーストをポスト頭部および歯質にまんべんなく薄く塗り広げる。
ADポストⅡの試適を行うが、前歯の場合はポリクラウンを用いて歯冠部の形態を整えたほうが容易であるため、ポリクラウンの試適も行う。
ADポストⅡはポリクラウン内に入る長さで、しかも短すぎないポストを選択する。
パナビアF2.0を用いる場合はペーストにMDPが含まれ接着性を有するので、ADポストⅡは汚染がなければ特に処理をする必要はない。
なお、ファイバーポストを使用する場合は前述の方法と同様にシラン処理を行う。シラン処理は前記の3液を用いる方法のほか、メガボンドプライマーとポーセレンボンドアクチベーターの2液を混和して塗布する方法もある。
今回、より高い接着性と耐久性ならびにフッ素徐放性を得るために、歯質に前処理としてADゲル法を用いた。
ADゲル法による前処理後、EDプライマーⅡを塗布するが、この場合もポスト孔内の余剰プライマーはブローチ綿花やペーパーポイントでよく吸い取る。
パナビアF2.0は指定の方法で練和し練和後ニードルチューブに塡入してポスト孔に注入する。ペースト注入後ADポストⅡを気泡が混入しないよう静かに挿入する。ここで注意する点はDCコアオートミックスと歯質とは直接接着しないため、パナビアF2.0のペーストを介在させる必要がある。このため、ADポストⅡを植立後、筆で歯質とADポストⅡの頭部に、まんべんなく薄く塗り広げる。
この後ADポストⅡがポスト孔の中央に配置していることを確認して光照射を行い、ポストを固定する。
あらかじめ試適しておいたポリクラウンの内面にDCコアオートミックスを注入し、支台歯へ圧接する。このときポリクラウンとDCコアオートミックスは接着しないので、ポリクラウン内面にワセリンなどの分離材を塗布する必要はない。周囲の余剰のレジンは筆でよく拭き取り光照射する。光が十分透過していないことも考慮に入れて、約5分放置し、硬化後ポリクラウンを撤去する。
再度光照射を行い、十分に硬化させた後、支台歯形成を行う。使用したポリクラウンは調整して暫間被覆冠として使用することができる。
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図9j ADポストⅡを中央に配置し光照射をして固定する。
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図9k ポリクラウン内にDCコアオートミックスを注入する。このときポリクラウン内面に分離材を塗布する必要はない。
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図9l 支台歯に圧接し、余剰レジンを筆で拭き取る。
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図9m 光照射を唇舌側2方向から行う。光が透過していない場合も考慮して、約5分放置し、硬化を待つ。
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図9n ポリクラウンを撤去する。再度十分な光照射を行った後、支台歯形成を行い、支台築造が完了する。
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図9o 築造時に使用したポリクラウンは調整して暫間被覆冠として利用することができる。
おわりに
今回、クリアフィルDCコアオートミックスの特徴ならびに直接支台築造法の基本的な臨床例について紹介した。
接着性レジンの接着性が大幅に向上した現在においては、各メーカーともより多くの臨床医に使用してもらえるよう接着システムの簡略化へとその方向が進んでいる。
しかしながら、簡便であるかわりに接着性や理工学的特性を損なっている材料が存在しているのも事実である。これでは簡便性の代償として二次齲蝕などを誘発することになり、接着の本来の意義を失ってしまうことになりかねない。
今回紹介したクリアフィルDCコアオートミックスは操作性を簡略化させながら理工学的性質を損なっていない築造用コンポジットレジンであり、ライナーボンドⅡΣやパナビアF2.0の接着システムと併用することで高い接着力を得ることができるため、優れた支台築造法であるということができる。
- 1)柏田聰明:接着技法を応用した新しい歯科治療の展開. 補綴誌, 41(5):747-762, 1997.
- 2)小玉尚伸:象牙質接着に関する研究-象牙質表面処理が接着性レジンの接着性に与える影響について. 接着歯学, 15:1-20, 1997.
- 3)柏田聰明, 森田 誠, 橋本武典, 加藤正治:フッ素徐放性レジン材料による歯質強化に関する研究. 日歯保存誌, 41(5):918-926, 1998.
- 4)森田 誠, 西村 康, 坪田有史, 阿部菜穂, 福島俊士ほか:各種接着性レジンセメントの象牙質に対
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