142号 AUTUMN 目次を見る
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ 1. 知覚過敏の原因と治療の手順
- ≫ 2. 現在市販されている知覚過敏抑制材の課題
- ≫ 3. 知覚過敏抑制材の必要条件
- ≫ 4. 臨床からみた新規開発の知覚過敏抑制材「ティースメイト® ディセンシタイザー」の特長
- ≫ 5. 用途
- ≫ まとめ
はじめに
高齢になっても多くの生活歯を有する患者さんが増加して、象牙質知覚過敏(以下:知覚過敏)も増えている。最近では、テレビのCMで取り上げられたり、NHKの人気番組「ためしてガッテン」などでも放映されて、一般の人々の間でも認知されるようになったためか、「歯がしみる」と訴えて来院する患者さんが目立つようになった。
知覚過敏抑制に対する臨床での需要が増すにつれて、歯科材料メーカーから、種々の知覚過敏抑制材が開発・市販され、現在入手できる材料は十数種に及んでいる。しかし、それらの製品には、効果があまり感じられないものや、効果が処置後短時間しか持続しないものが少なくないばかりか、なかには数回繰り返して処置している間に症状が悪化するもの、材料が剥離して処理面が汚くなるものもあり、満足のいく材料が少ないのが現状である。
こうした従来の知覚過敏抑制材の問題点を克服すべく、クラレノリタケデンタル株式会社が研究・開発に取り組んでいた知覚過敏抑制材(商品名「ティースメイト® ディセンシタイザー」)がこのたび市販されたので、紹介したい。
1. 知覚過敏の原因と治療の手順
知覚過敏は、エナメル質やセメント質が何らかの原因で失われて象牙細管が露出したところに、外部から刺激が加わって細管内の組織液が移動することによって発症すると言われている。知覚過敏の治療は、これらの原因を取り除くことによって行われる。
「歯がしみる」原因は、う蝕、歯周病、磨耗・咬耗、歯冠・歯根破折、咬み合わせの異常、歯根露出、くさび状欠損、酸蝕、窩洞形成、機械的歯面清掃など、さまざまである。これらのうち、歯と歯周組織の疾患によるものは的確に診断し、適切な歯科治療を行うべきである。
知覚過敏抑制材の使用は、これらの疾患の除外診断を行い、象牙質の露出によって「しみる」場合、すなわち歯ブラシによる磨耗、歯周炎による歯肉退縮、くさび状欠損、酸蝕、機械的歯面清掃(スケーリング、ルートプレーニング)などの症例に対して行うべきである。
2. 現在市販されている知覚過敏抑制材の課題
現在市販されている知覚過敏抑制材は、大きくシュウ酸系、レジン系、グルタルアルデヒド系に分けられる。タイプごとに特長があり、臨床での課題も分かれる(表1)。
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表1 現在市販されている知覚過敏抑制材の課題
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図1 シュウ酸系知覚過敏抑制材
処理前の象牙細管と比較して細管口径が大きくなっているのが認められる。
<写真提供:クラレノリタケデンタル(株)> -
図2 シュウ酸系知覚過敏抑制材の処理(人歯)
処理直後には象牙細管が封鎖されているが、人工唾液*)に浸漬(3日)させると封鎖物が溶解して、再び象牙細管が開口する。
<写真提供:クラレノリタケデンタル(株)>
- *)組成:
- CaCl2 (1.5 mM), KH2PO4 (0.9 mM), 2‑[4‑(2‑Hydroxyethyl)‑1‑piperazinyl] ethanesulfonic acid (一般名称:Hepes, 20 mM), NaCl (150 mM))
- 出展:
- 日本歯科保存学雑誌,49, 168‑177(2006).
3. 知覚過敏抑制材の必要条件
これまで市販された知覚過敏抑制材は、臨床で使用してみて、抑制効果、生体親和性、効果の持続性、処理面の汚れ、その他においても必ずしも満足できるものではなかった。
そこで、筆者が臨床使用において必要と考える知覚過敏抑制材の必要条件について列挙してみた。
- ①生体親和性が高い
- ②象牙細管を確実に封鎖する
- ③象牙細管の封鎖物が簡単には溶解せず、抑制効果が持続する
- ④即効性である
- ⑤象牙質の表面をプラークが付着しやすいような粗造にしない
- ⑥繰り返し使用しても象牙細管がさらに開口しない
- ⑦歯肉縁に近い部位を処理しても材料が歯周ポケット内に残存しない
このたび市販された「ティースメイト® ディセンシタイザー」は、従来の知覚過敏抑制材が具備していなかったこれらの要件を満たす材料として期待される。
4. 臨床からみた新規開発の知覚過敏抑制材「ティースメイト® ディセンシタイザー」の特長
1)生体親和性が高い
リン酸カルシウムのペーストは生体への親和性の高い弱アルカリ性であり、歯質や歯肉に対してやさしい材料である。このため、従来製品で課題となっていた酸による歯質の脱灰や、皮膚刺激性の強さなどもなく、安心して使用できる。
2)封鎖が確実である
粉材と液材を混和したリン酸カルシウムのペーストを象牙質面に擦り塗りすることによって、約30分後には自己硬化し象牙細管を封鎖する。
リン酸カルシウムは徐々にハイドロキシアパタイトに転化していき、それによって象牙細管の封鎖はより確実になる。
3)歯質と歯周組織への為害性がない
象牙質に擦り塗りした後の余剰ペーストは水洗で簡単に除去できるため、従来製品のように、象牙質表面を粗造化してプラーク等がつきやすくなることもなく、綺麗な歯面を維持することができる。
また、歯周ポケット内に入った余剰ペーストも簡単に水洗できるため、炎症を起こす心配もない。
4)操作が簡便である
光照射を必要としないため、光が届きにくい部位にも使用しやすい。
また、ペーストが識別性のある白色なため塗り残しが少なくなり、処置後には材料が残らないので、患部の審美性に影響しない。
5. 用途
露出象牙質における知覚過敏の処置<症例1>
「ティースメイト® ディセンシタイザー」の、臨床における知覚過敏への用途と使用例を紹介する。
<用途>
歯ブラシ磨耗、歯肉退縮、酸蝕、歯周炎等によって露出した象牙質、および機械的歯面清掃(スケーリング、ルートプレーニング)後の象牙質。
症例1
露出象牙質における知覚過敏の処置知覚過敏の治療を一年以上にわたって受けてきたが、症状が改善しないとの訴えがあった。
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① 繰り返しての使用のために、象牙質表面に層状態になっていたシュウ酸系知覚過敏抑制材をスケーラー等で除去し、清掃した歯面
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③ ティースメイト® ディセンシタイザーで処理:唾液や汚れを清掃し除去した歯肉縁部位の象牙質に、付属のアプリケーターブラシでペーストを擦り塗り(30秒間)。 -
② ティースメイト® ディセンシタイザーの液材と粉材とを混和。
液材、粉材の計量採取後、付属のアプリケーターブラシで15秒以上混和。
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③ ティースメイト® ディセンシタイザーで処理:唾液や汚れを清掃し除去した歯肉縁部位の象牙質に、付属のアプリケーターブラシでペーストを擦り塗り(30秒間)。 -
④ 水洗によって余剰ペーストの除去、歯周ポケット内も十分に洗浄する。 -
⑤ エアブローによって効果の確認、1回の処置で改善しない場合には③~④を繰り返す。次の来院時症状が十分改善していない場合には、さらに1、2回の通院による処置を行う。
2)補綴修復治療における形成象牙質の処置<症例2>
<用途>
有髄歯にクラウンを合着する際、形成が歯髄近くまで及んだ支台歯に接着材を用いてクラウンを合着する前の処置として用いる。形成が歯髄近くまで及ぶと、咬合痛が起こることがある。
メーカーの添付文書には、形成象牙質の処置について、特定の合着材やADゲル法についての記載はないが、ここでは、ADゲル法を用いてパナビア®F2.0で合着する方法について述べる。ADゲル法の併用により接着強さは増強されるが、それでも各ステップの処理が十分でないと咬合痛の可能性を排除できない。そこで、合着の前処理として、ADゲル処理後に「ティースメイト®ディセンシタイザー」のペーストを歯髄に近い支台歯に擦り塗りしている。
なお、ADゲル法で処理後に「ティースメイト® ディセンシタイザー」で処理しても、接着強さは変わらない(表2)。
また、パナビア®F2.0で合着後も象牙細管は、「ティースメイト® ディセンシタイザー」で封鎖されている(図3)。
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表2 人歯象牙質剪断強さ(パナビア® F2.0)
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図3 ADゲル処理面及びパナビア®F2.0で合着後の割断面 <写真提供:クラレノリタケデンタル(株)>
症例2
補綴修復治療における形成象牙質の処置有髄支台歯にジルコニアセラミッククラウンを合着する際、形成が歯髄近くまで及んだ症例。
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有髄歯へジルコニアセラミッククラウンを合着する際、術後に起きる咬合痛などの違和感を避けるために、前処理としてティースメイト® ディセンシタイザーを用いた。
- 接着強さを増強するために前処理としてADゲル法を用いた
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① 支台歯の処置をし易くするためにバキューム装置装着後、Kエッチャントゲルで処理 10秒間水洗、エアブロー乾燥。
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② ADゲルで処理する(1~3分間)、水洗。
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③ マイルドエアブロー乾燥(水分が少し残っていてもティースメイト® ディセンシタイザーでの処理に影響はない)。
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④ 付属のアプリケーターブラシで咬合面に擦り塗りする(30秒間)。
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⑤ 処置面積が広い場合には綿球で咬合面に擦り塗りする(30秒間)。
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⑥ 水洗で余剰ペーストを除去してから、ぬらした綿球で10秒間擦り洗い。
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⑦ エアブローで乾燥。
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⑧ ティースメイト® ディセンシタイザーで処理、水洗、エアブロー後の支台歯。この後、通法に従ってパナビアF2.0で合着する。
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⑨ 歯髄刺激遮断処置を行いADゲル法を用いてジルコニアセラミッククラウンを合着。1ヵ月後も歯髄刺激や咬合痛などの違和感はない
3)ホワイトニングによる知覚過敏への処置<症例3>
<用途> ホワイトニングによって発症した知覚過敏に対する処置。
症例3
ホワイトニングによる知覚過敏への処置-
① 上顎前歯 ホワイトニング処置前。
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② ホワイトニングを行う。
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③ ホワイトニング処置後に、エアー・冷水に対して知覚過敏を発症した。
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④ ティースメイト® ディセンシタイザーの液材と粉材とを混和。付属のアプリケーターブラシで擦り塗りする(30秒間)。
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⑤ 水洗で余剰ペーストの除去。
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⑥ エアブローによって効果の確認。1回の処置で改善しない場合には④~⑤を繰り返す。次の来院時に症状が十分改善していない場合には、さらに1、2回の通院による処置を行う。
まとめ
今回発売された知覚過敏抑制材「ティースメイト®ディセンシタイザー」は、従来の知覚過敏抑制材とは全く異なるタイプの材料であり、多くの特長を有する。
知覚過敏の発生部位は歯肉縁の象牙質部位であることを考えれば、知覚過敏抑制材は生体組織に無害であることが最も重視されなければならない。その点、製品の主成分であるリン酸カルシウムは時間とともに象牙細管内でハイドロキシアパタイトに転化することから、高い生体親和性が大きな長所である。また、即効性で、効果に持続性もあるため抑制効果が高く、操作も簡便である。さらに、歯の表面に残らず審美性を損なうこともないなど、多くの点で優れた性質を有している。
将来的には、適度なフッ素徐放性をもたせて予防的な歯面修復に利用できるようにすれば、歯質、特に歯面に起こるトラブルを最小限に減らせるのではないかと考える。
また、この材料は歯と同じハイドロキシアパタイトだが、現在は白墨程度の硬さしかない。将来、短時間で硬化し、かつ硬さを増すことができるようになり、さらには再石灰化によって修復部位周辺の歯質の強化や周辺歯質との一体化ができるようになれば、トゥースウェアや根面う蝕に対しての表面修復や予防的処置の可能性が広がってくる。
将来に向けて大きな期待の持てる材料であると言えるであろう。
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