128号 SPRING 目次を見る
■目 次
- ≫ はじめに
- ≫ EndoWave
- ≫ “EndoWave All-ranges version”
- ≫ “EndoWave Normal & Narrow canal version”
- ≫ “EndoWave Wide canal version”
■はじめに
近年、マイクロスコープ、3DXマイクロCTの登場により、歯内療法は3次元的なビジュアル化の時代に入ってきており、歯内療法はもはや「見えない領域」を盲目的に行う処置ではなくなってきている。
しかし、日々の臨床においては、常にスピード・再現性・精確性が求められており、Transportation、ファイル破折、Perforationなど様々な問題点に直面しているのが現状である。それゆえ、エビデンスに基づいた根管形成基準を理解し、パターン化されたファイルフローチャートに則って歯内治療を進める必要がある。
Pinedaら1)によると、根管の約98%は彎曲しており、またWuら2)は天然歯において、歯髄腔は根尖側5mmでは元来グレートテーパーを有した楕円形であると報告している。
それゆえ、弾性の乏しい.02テーパーのステンレス・スチールファイルで起炎因子を除去することは多大な時間と優れたスキルが必要であり、一般臨床家がルーティンワークで行うには非効率であり、偶発症を惹起させる危険性が高いと思われる。
超弾性を有し、追従性の高いニッケル・チタン合金(Ni-Ti)製ファイルの有用性については多くの報告がなされているにもかかわらず、ファイルの選択基準、破折の危険性、除去の難しさ、コストパフォーマンスなどにより十分行き届いていないのが現状である。
また、歯内療法は現在においても熟練したエキスパートのスキルに頼るところが大きく、その予後判定には、複雑な根管系、根管形成方法の違いなどが関与しており、不明瞭な部分が多い。筆者らは、2006年より“EndoWave All-ranges version 3、4)”を提唱し、EndoWave 9本を用いることにより、狭窄した抜髄根管から根尖破壊されている感染根管に至るほぼ全ての根管に対応している。今回、“EndoWave All-ranges version”の臨床応用への有用性とKey-pointについて解説する。
■EndoWave
2003年に発売され、2005年にEndoWave ET、LAXをラインナップに加えた第3世代NiTiファイル“EndoWave series”の特長として、次の点が挙げられる(図1)。
1)ACP (Alternative Contact Point )
根管壁への接触点を意図的に不均一にすることにより、根管の「中心軸」の維持を図ることでTransportation(軸のズレ)を防止する。また、Anti-Screwingデザインによってファイルの吸込現象を抑え、ファイル破折防止への工夫がなされている。加えて、臨床的には形成時の捻髪音はファイル交換時期の目安にもなる。
2)Penetration(穿通性)
ブレード断面は三角形態を呈しており、根管壁との接触面積を減少させ、ファイルの推進力をアップさせている。
3)Flexibility(柔軟性)
大きなFluteとACPデザインにより、高い柔軟性を有しており、この特長は先端径の大きな#50/.-01T、#60/.-01TLAXにも認められ、再治療ケース、Wide canalケースへの応用においては特筆すべきものがある。
4)Machinability(切削性)
根管壁切削時にファイルにかかるトルクが小さく、鋭利なCutting edgeを有することにより、切削効率を向上させている。
図1 EndoWave ET & LAX
■“EndoWave All-ranges version”
“EndoWave All-ranges version”は、“Normal & Narrowcanal キット”5本と“Wide canal キット”4本の計9 本のEndoWaveファイルで構成されている(図2、3)。
“EndoWave All-ranges version”の特長
1. 根管を3パートに分けて形成する(Separating Root CanalPreparation)ことによりTransportationを防止する(図4)。
2. 穿通性を利用して、誘導路(Guide pass)を形成することにより、“ Normal & Narrow canal ”の形成を簡略化した。
3. Wide canalを“Triangular pillar type”と“Trapezoid pillartype”に分類することで根管形成を規格化した。
4. 高い柔軟性を有した、先端径の大きなEndoWave LAXを使用することによりApical preparationを可能にした。なお、EndoWave ETは根管口の拡大および根尖部の拡大を担っており、EndoWave LAXは歯髄腔のTaperの計測および根尖部の拡大に使用している(図5)。
図2 “EndoWave All-ranges version”ファイルキット
図3 “EndoWave All-ranges version”ファイルキット
上段は“ Normal & Narrow canal kit ”
下段は“ Wide canal kit ”
図4 Separating Root Canal Preparationの概念
図5 “EndoWave All-ranges version”ファイルフローチャート
■“EndoWave Normal & Narrow canal version”
Step1 Preflaring(根管上部の開拡):EndoWave ET #25/10T、#25/08T
根管の中心軸に沿って、根管を太くするイメージで根管上部の拡大を行う。
Step2 Penetration(穿通):#25/06T、#25/04T
#25/06T、#25/04Tを反復して使用することにより根尖への穿通を図る。#25/04Tでも穿通できない場合には、#10、#15の手用ファイルを使用して誘導路の形成を行う(図6~8)。
Step3 Body shaping(根管拡大):#30/06T
主に根管の中間部のフレア形成を目的に、根管上部から根尖部にかけて連続したテーパーを根管に付与する。
Step4 Measuring of Tip & Taper(歯髄腔の先端径・テーパーの測定):#30/06T、EndoWave LAX #60/-01T
#30/06Tにて根管形成を終えた後、根尖部でのフィット感により根尖部における歯髄腔の短径を把握する。その後、#60/-01Tを手指で回転することなく根管に挿入し、下記の計算式を用いて、Taperを計測する(図9)。
Measuring of Tip & Taper
Tip :#30/06Tの根尖部でのフィット感で根尖孔径(短径)を計測する。
Taper:#60/-01Tの到達深度でTaperを算出する。Taper=(#60-#30 )/Δmm = # 30/Δmm
<Δ:#60/-01Tの到達深度> Step5 Root canal form(歯髄腔の形態)
図10を参考にして、根管の形態を把握する。つまり、#30/06Tが根尖部においてtightであった場合には、#60/-01T LAXの到達深度に応じて“Normal & Narrow type”、“Triangular pillartype”に分類する。また、looseであった場合には、“Trapezoidpillar type”を選択する。臨床的には、図11の簡易型分類表を用いると効率的である。“Normal & Narrow type”のケースでは、根管長径部分を化学的、機械的に形成・洗浄(3 Dimensional ApicalPreparation)を行い(図12)、根管充填に移る(図13、14)。
“Triangular pillar type”、“Trapezoid pillar type”のケースでは、下記の“EndoWave Wide canal version”に従って形成を進める。
図6 EndoWave Normal & Narrow canal kit
図7 EndoWave Normal & Narrow canal kitの穿通性
図8 EndoWave Normal & Narrow canal kitの穿通性
図9 Measurement of Taper degree
図10 Classification of root canal
図11 Measurement of Taper degree (簡易型)
図12 3Dimensional Apical preparation
図13 症例1 Narrow canal case
図14 症例2 Narrow canal case
■“EndoWave Wide canal version”
Step6 Apical preparation(根尖部の形成)
Apical preparationにおいては、図15に示す通り、“Triangularpillar type”ではEndoWave ETを、“Trapezoid pillar type”ではEndoWave LAXを使用する。つまり、“Triangular pillar type”では#60/-01T LAXが-3mm・-4mmに到達した場合、それぞれ#25/.10T・#25/.08T ETを根尖に届かせ、“Normal & Narrow type”と同様に仕上げ形成を行い即日根管充填を行う(図16~18)。
“ Trapezoid pillar type”では、#35/.06T 、#40/.06T 、#50/-01T LAX、#60/-01T LAXが無理なく進む位置まで拡大を行う。なお、#40/.06T以上の太いファイルを使用する際には、Working lengthは根管長より-1mmの位置にとどめ、形成限界は#60/-01T LAXを用いて-1mmまで拡大した際の大きさと規定している(図19、20)。
また、臨床症状や根尖病変の有無などから更なる起炎因子の除去、根尖外への積極的なアプローチが必要とされるケースにおいては、EMAT(Electro-Magnetic Apical Treatment電磁的根尖療法5))を応用して根尖部の殺菌を図り、骨芽細胞の増殖を促進させることにより、根尖部の加速度的な治癒を図っている(図21~24)。
図15 Wide canal 別apical preparation
“ Triangular pillar type ”
EndoWave ETでapical preparation
“ Trapezoid pillar type ”
EndoWave LAXでapical preparation
図16 症例3 Triangular pillar canal case
図17 症例4 Triangular pillar canal case (3DX)
図18 症例5 Triangular pillar canal case (3DX)
図19 症例6 Trapezoid pillar canal case (3DX)
図20 症例7 Trapezoid pillar canal case (3DX)
図21 症例8 EMAT Chronic Periapical lesion case
図22 症例9 EMAT Acute Periapical lesion case
図23 症例9 EMAT Acute Periapical lesion case(3DX)
図24 症例9 EMAT Acute Periapical lesion case(3DX)
- 1) Pineda F, Kuttler Y: Mesiodistaland buccolingual roentgenographicinvestigation of 7275 root canals; Oral Surg.Oral Med.Oral Pathol OralRadiol Endod, 33:101-110,1972.
- 2) Wu MK, R'oris A, Barkis D, Wesselink PR. : Prevalence and extentof long oval canals in the apical third. ; Oral Surg.Oral Med.Oral PatholOral Radiol Endod, 89:739-743,2000.
- 3) 住友孝史、堀口敦子、富永敏彦: EndoWaveシリーズを用いたWIDE canalsにおける臨床的応用(抄);第27回日本歯内療法学会学術大会抄録集44,2006.
- 4) 富永敏彦: 根管形成の新たな潮流“EndoWave All-ranges version”;日本歯科評論68, 90-91, 2008.
- 5) 富永敏彦、湯本浩通、松尾敬志: Electro-Magnetic Apical Treatment(抄);第29回日本歯内療法学会学術大会抄録集65, 2008.
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