134号 AUTUMN 目次を見る
■目次
■はじめに
即時重合レジンは、日常の臨床において、最も使用頻度の高い歯科材料の一つである。そのため、多忙なチェアサイドにおいて、その特性が暫間補綴物の完成度を大きく左右する。
一般に最終補綴物を装着する前には、スペースの維持や支台歯の保護のため暫間補綴物が必要となる。
特にプロビジョナルレストレーションは最終補綴物の機能を可能な限り模倣するため、印象採得を行い、間接法で作製する。
しかし、初期の段階では暫間補綴物(いわゆるテンポラリークラウン)が必要になるため、チェアサイドにおいて短時間で患者の要求に応えられる必要がある。
2009年2月に、新しい即時重合レジン「プロビスタ」(サンメディカル株式会社)(図1)が発売された。
そこで、今回「プロビスタ」を 同社の先行品である「メタファスト」と比較して、その有用性について検討した。
図1 プロビスタ A2セット
■色調
歯冠色6種類(ブリーチングホワイト・A1・A2・A3・A3.5・インサイザル)、歯肉色2種類(ピンク・ファイバーピンク)とカラーバリエーションが豊富なため、色調が合わせやすくなった(図2)。
また、オペーク色(オペークアイボリー・オペークピンク)も登場し、暫間補綴物へのディスカラレーションのコントロールも容易になった。
以前は歯冠色のカラーバリエーションが少なかったため、審美的要求の高い患者に対して、満足できる暫間補綴物を作製するのが困難であった。
そのような場合、筆者は一旦口腔内で暫間補綴物を作製し、その後唇面にカットバックを行い、硬質レジンを築造していた(図3~5)。
現在では、プロビスタを用いることにより、短時間で容易に色調を合わせることが可能となったため、直接法にて暫間補綴物を作製し(図6、7)、さらに審美的な要求があるときは、間接法にてプロビジョナルレストレーションを作製している。
また、支台歯の唇面のクリアランスが少ない場合では、暫間補綴物の切端付近に支台歯のディスカラレーションが見受けられる場合がある。
そのような場合は、内面のレジンをラウンドバーにて一層除去し、オペークアイボリーで内面から築盛を行うことにより、短時間で遮蔽が可能となった(図8~10)。
図2 プロビスタのカラーバリエーション。
豊富な歯冠色とオペーク色により審美的要求に応えやすくなった。
図3 1 12に対して暫間補綴物を作製するが、患者から切端の透過性が低いとの訴えがあった。
図4 そのため、唇面にカットバックを行い、硬質レジンで築盛を行った。
図5 硬質レジン築盛後の 1 12正面観。以前はこのような手法で審美回復を行っていた。
図6 直接法では、粉/液比を小さくした緩い混和泥をティッシュペーパーの上で圧接すると余剰モノマーが吸収され、グローブに付着しにくくなる。
図7 支台歯に直接圧接・付形を行い、硬化熱を利用してウォッシュアウトを行い、仕上げる。
図8 プロビスタを用いた簡単な審美回復法。支台歯のディスカラレーションがある場合、暫間補綴物を作製後、審美エリアの内面をラウンドバーにて一層削去。
図9 オペークアイボリーにて内側から築造を行う。短時間で簡単に支台歯の遮蔽ができる。
図10 側切歯には切端付近にディスカラレーションはあるが、オペークアイボリーを用いた中切歯にはない。
■操作性
プロビスタは粉液の馴染みが良くチクソトロピー性に優れているため、義歯修理や、暫間補綴物の追加築造のように筆積み法で部分的にレジンを追加する際、垂れることなく思い通りの築造が可能である(図11)。
また、シリコンコア法等における混和法においても、標準粉液比で高い流動性が確保でき、軽い撹拌で混和作業が完了するため気泡が混入しにくい。
筆積法、混和法にかかわらず、簡単に色ムラや気泡の極めて少ない暫間補綴物が作製できる。
図11 暫間補綴物を作製する際、筆に採る液を少なくすることでプロビスタは垂れにくく築造しやすくなる。また筆に採る液を多くすることでフローの良い状態も作り出せる。
■物性
硬化体はビッカース強度・曲げ強度共に向上したにもかかわわらず、最大点歪の数値は従来の即時重合レジンと同程度を維持したため、しなやかさを保ったまま耐摩耗性や耐久性が向上している(図12、13)。
また、反応性有機質複合フィラーを添加したことにより、切削時に硬化体がバーにまとわりつくことなく、さらに研磨時に滑沢な面を容易に得られるようになった。
図12 ビッカース硬度が向上し、耐摩耗性が向上した。
図13 最大歪み点の数値は従来の即時重合レジンと同等で、しなやかさを失わずに物性を向上させている。
■両者の比較
プロビスタとメタファストで作製した暫間補綴物を同一患者の同一部位に1週間装着し、その後、切端部咬耗面と唇面の表面性状の変化を顕微鏡にて観察した。
ポリマー粒子の大きさにはメタファストもプロビスタもあまり違いがなく(図14、15)、重合完了後、艶出し研磨まで行っても研磨した表面には大きな違いが見られなかった(図16、17)。
しかし、各々の暫間補綴物を1週間機能させた後、顕微鏡にて拡大し観察すると、唇面においてメタファスト表面は、全体的に摩耗した面積が広く大きく、一部えぐれたような部分が観察された(図18)。
それに対し、プロビスタ表面は摩耗したと見られる面積が少なく、また均一に摩耗していた(図19)。
即時重合レジンは、粉材であるポリマー(PMMA)と液材であるモノマー(MMA)を混和すると、ポリマー粒子は完全に溶解するのではなく、表層のみが溶解して重合が完了する。
つまり、重合完了した即時重合レジンは、表層のみ溶解した粉材部分のポリマー(PMMA)と、モノマーである液材が重合した部分(MMA→PMMA)から成っている。
このことは、水と氷を容器に入れ冷凍庫で冷却すると、でき上がった氷(重合完了した即時重合レジン)は、冷やす前の氷(ポリマー)が完全に溶けないまま水(モノマー)と一緒に凍結している状態をイメージすると解りやすい。
全体的に柔らかい硬化体(PMMA)が咬耗などによって摩耗し、長期間使用していると、その摩耗した部分に着色物が沈着し、暫間補綴物が変色する(図20)。
しかし、プロビスタは多官能モノマーとそれに反応する反応性有機質複合フィラーを添加しているため、マトリクス部分とフィラーが化学的に結合し、マトリクス部分の硬さが大きく向上することによって硬化体全体が咬耗・摩耗の影響を受けにくくなっている(図21)。
上記の理由から、プロビスタで作製された暫間補綴物は、長期に使用するプロビジョナルレストレーションにおいても変色が少なく艶が長持ちすると思われる。
実際にメタファストと比較して、プロビスタで作製されたプロビジョナルレストレーションは長期間使用しても咬耗・摩耗や着色が少なく、歯垢染色を行ってもプラークの付着が少ないと実感している(図22、23)
図14 メタファストのポリマー粒子(左側)と研磨面(右側)<光学顕微鏡像×500倍>。
図15 プロビスタのポリマー粒子(左側)と研磨面(右側)<光学顕微鏡像×500倍>。
図16 メタファストで作成された暫間補綴物。
図17 プロビスタで作成された暫間補綴物。
図18 メタファスト製暫間補綴物咬耗面<光学顕微鏡像×200倍>。摩耗した面積が広く、一部がえぐれたようになっている。
図19 プロビスタ製暫間補綴物咬耗面<光学顕微鏡像×200倍>。摩耗した面積が少なく、摩耗面も均一である。
図20 メタファスト硬化体の概念図。ポリマー部とマトリクス部分の硬度の違いから、経時的にマトリクス部分が先にえぐれる傾向にある。
図21 プロビスタ硬化体の概念図。反応性有機質複合フィラーによりマトリクス部分の硬度が向上して均等に摩耗するため、耐摩耗性が向上し表面艶が失われにくくなった。
図22 同一患者で半年間使用したメタファスト製暫間補綴物。
図23 同一患者で半年間使用したプロビスタ製暫間補綴物。
■おわりに
今回発売されたプロビスタによって、チェアサイドで容易に審美的な暫間補綴物を作製することが可能となった。
また、口腔内で長期間使用しても、着色や摩耗等の経時的変化が少なく、プラークの付着も少ないことがわかった。
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