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139号 WINTER 目次を見る

Clinical Report

ビタ社リアルライフを使用した臨床

兵庫県姫路市開業 北道 敏行

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■目 次

■はじめに

筆者がセレックシステムと出会ったのは2008年である。セレック3の導入に始まり、2009年Blue eos+in Labの導入、2010年セレックACの導入とセレックの魅力に取り付かれている。日々施術する直接法のなかで、今回はビタ社リアルライフ(図1)を使用した臨床をレポートする。
今回レポートするビタ社リアルライフは長石系のVITA MarkⅡ(ビタ社)をベースに、反射効果や高い蛍光性はそのままにエナメル層内部に球状のデンチンコアを入れることによりデンチン:エナメル比をソフトウェア上で調整可能となっており、それにより天然歯同様の光透過性や色強度が再現可能となった。

  • 図1 ビタ社リアルライフブロック(全シェード)。引っ張り強さ(ISO6872):154±15MPa。
    図1 ビタ社リアルライフブロック(全シェード)。
    引っ張り強さ(ISO6872):154±15MPa。

■VITA Reallifeを用いたCERECの臨床

今回の症例は71歳、女性。
主訴:右上の前歯ののっぺり感が気になる。
治して欲しい。
現症2に硬質レジン前装冠が接着されており、明度、彩度、色相ともに不調和がみられる。プラークコントロールは良好で歯周組織の状態は特記事項なしと判断した(図2)。
先ず口腔内に接着されている硬質レジン前装冠、メタルコアを除去する。CERECに関わらずオールセラミック修復は合着ではなく接着性修復であるため、極力歯肉縁上もしくは歯肉縁ラインになるようにマージンラインを設定する必要がある。今回の症例は、患者の希望によりOne‑day Treatmentであったためビルドアップによるクラウンレングスニングを行い、マージンラインを歯肉縁下から歯肉縁上に再設定を行いVITAReallife を用い即日修復を行った。ファイバーポストを規定の酸処理後、シラン処理を行う。
コアホールを形成後、接着操作のためビルドアップテクニックを併用し歯肉縁上になるようにマージンラインの設定を行った。オールセラミックス修復は基本的に接着に依存するため歯肉縁下では完全な接着を行うことは困難である。不完全な接着操作はやがて歯質と修復物の間にリークを発生させ、再治療へとつながる。筆者は全ての縁下症例(ただし縁下0.5mm内に限る)にビルドアップテクニックを行っている。
ファイバーポスト植立後に光重合を行い、オールセラミック修復に好ましい歯台支形成を行う(アドヒーシブデザイン)。筆者は支台歯形成にはCERECバーセット(マニー)を使用している。このバーセットはJSCAD監修のCEREC用バーセットでありCERECスキャニング特性、修復物のミリング特性を充分に検証考察され設計されたバーである。
スキャニングにはVITA社のビタパウダースキャンスプレー(図3)を用いて行った。パウダー缶を振って攪拌し、支台歯に対して45°の角度より唇面、舌面より均一になるように軽く吹き付ける。支台歯と隣在歯を含む反対側同名歯までのパウダリングが終了した後、速やかにCEREC ACのBlue Camを使用して口腔内直接光学印象を行った(図4)。
修復物の設計にはCEREC AC(Ver3.84)を使用してチェアサイドにて行った。この際、筆者は極力患者さんに設計過程を「見て、聞いて、感じてもらう」ように心がけている。形成画面、対合歯、バイトが表示されたCEREC AC画面(図5)。形成状態、対合歯、バイトの採得状態をそれぞれ3Dモデルで確認ができる。
CEREC AC上で表示される3Dモデルを示す。実際に咬合器にマウントされた状態と同様のマウント画面(図6)。この状態でCEREC AC上で咬合状態の確認と様式調整が可能である。
異常がないことを確認したならば、3Dモデルのトリミングをソフトウェア上で行う。この際3Dモデルの拡大縮小も可能であるので作業自体は非常に快適に行うことができる。印象モデルのトリミングが終了した後、対合歯のトリミングを行う。
トリミング完了後、ソフトウェア上でマージンラインの設計を行う(図7)。設計にはCAD/CAMの専門的な知識は一切必要なく、ソフトウェアのオートマージン機能により熟練度に関係なく誰もが簡単に行えることがCERECの魅力でもある。
マージンラインの設計終了後、バイオジェネリックにより両隣在歯と反対側同名歯を参考に患者それぞれが持つ固有の歯の特徴を再現する。図8にバイオジェネリックによる初期提案歯を示す。反対側同名歯に注目してもらいたい。遠心側の隆起を同様に再現してきているのが分かる(図9)。また、CERECでは形成前の歯の形態の複写や反対側同名歯の反転複写も可能である。
今回はバイオジェネリックソフトウェアによる設計を用いた(CEREC Ver3.80以上、MC‑XL以上が必要)。修復物の設計が完了したならば、マテリアル選択の項目からVITA RealLife(RL‑14/14)を選択する。
CEREC AC上には仮想リアルライフブロックが半透明の状態で表示され、そのブロック内には設計した修復物が表示される。初期提案状態は100%エナメルのポジションで表示される(図10)。
表示された初期提案状態の仮想ブロック内のジャケットクラウンはTOOL内のPOSITIONツールにより仮想ブロック内を三次元的に移動させることが可能であり、従来よりリアルにシェード効果の再現が可能となった。回転ツールでは歯軸を中心とした回転と近遠心方向軸を中心とした回転が可能である(図11)。
100%エナメル(イニシャルポジション)ではジャケットクラウンのエナメル切縁はほぼ確認されない。
またエナメル質と象牙質の配分差がほぼ見られなくシェードの差が単純で、クラウンの色相は高い(図10)。
75%エナメルのポジションではエナメル質と象牙質の比率配分が天然歯とほぼ同様となる。オリジナルの3Dマスターシェードと同様の配分比である(図12)。50%エナメルのポジションでは象牙質にあたるコアの部分(デンチンコア)の比率が多くなりやや色相が高くなってくる(図13)。25%エナメルのポジションではミリングされたジャケットクラウンにエナメル質の部分はほぼ確認できない。色相がかなり高くなる(図14)。
図15のようにリアルライフブロックは非常にシェード効果の再現性に優れ、ファーネス等を設備していない歯科医院においても、審美性的効果をより上のステージへとサポートしてくれるブロックである。
シェードの決定にあたり筆者はデジタルカメラを多用する。実際は口腔内が湿潤した状態でのシェードテイクを行うが、シェードに迷った場合は自身の第一印象を大切にしながらもデジカメ画像を利用する。デジタルカメラ画像のカラー情報をモノクロ画像にした状態でまず明度の確認を行い、先ずは明度ありきでブロックのカラーを決定している(図16)。
我々歯科医師が臨床現場において、特にOne‑dayTreatmentの場合、この方法が最も簡単で確実であると思われる。残念ながら内側性窩洞(インレーやオンレー)修復時に用いるブロックガイドによるシェードの判断や、ブロック自体を用いたシェードの決定は不可能であると思われる。明度を基準にブロックカラーを決定した後は、3D Master Shade Leneartypeを使用して細部の確認を行っている。
まずケースの上段のバリューガイドで明度の選択を行う。次に下段のクロマ/ヒューガイドで色相と彩度を決定する。つまりブロックの選択にあたり、明度(明るさ)の決定が第一と考えている。
色の鮮やかさに関係する彩度は後々のアドバンステクニックや、セメントによる彩度の調整で再現可能である。セメントによる彩度の調整はトライインセメントを使用してダイコアマテリアルに装着し、修復物表面を湿潤させた状態で直接口腔内での比較デジタル写真を撮影し、彩度を抜いたモノクロ画像で色調の確認を行うことも可能である。また、カットバックテクニックにより明度の中間域などのさらなる色調の再現も可能となる。しかし、明度の違いだけは後々での調整は著しく困難となると経験上思われる。
本症例は患者さんの希望と事情によりこれらのアドバンステクニックは用いず直接法(Simple doing)となった。今回、形成歯の支台歯の色調の再現についてはイヴォクラ社のダイマテリアルを使用した。
ブロックの選択後、ミリング行程に移行する。ミリング完了後、研磨の行程に移行する。研磨バーはセラムダイヤを使用している。最終仕上げにはPハイブリッドやスーパースターを使用しており、非常に深みのある研磨結果が容易に得られる。研磨終了後、セラミックスチーマーで修復物を洗浄する。本セットに先立ちセメントの選択を行う。筆者はファンクショナルとエステティックな機能をを兼ね備えたクラレ社エステティックセメント(図17)を主に使用している。エステティックセメント(フルキット)にはトライインセメントがクリア、ユニバーサル、ブラウン、ブリーチ、オペークの5種類が用意されており、本セットに先立って色彩の調整や軽度の明度の調整確認が可能である(図18)。
オールセラミック修復はメタルボンドと異なる面がある。メタルボンド修復はメタルコーピングのメタル色を隠すためオペーク色でメタルコーピングを一度覆い隠してあるため、僅かな厚みの焼成型セラミック層の中で色調の再現を余儀なくされる。しかし、CERECに代表されるオールセラミック修復はメタルコーピングによる光の遮断がないため、修復物自体の厚みや支台歯の色調によって接着後の色調がずいぶんとかわってくる。つまり修復物全体が光の透過層であり反射層でもあり、吸収層でもあるということである。
すなわち、一見同じ修復物であっても使用するセメントの色調により全く異なった見え方になってしまうということがいえる。そのためにトライインセメントによる色調の確認は修復物のでき上がりに大きく関係し、我々歯科医師サイドの責任も大きくなる。次に修復物の接着行程に移る。修復物の被接着面の処理であるが、筆者はリン酸 Kエッチャントゲルを使用している。リン酸 Kエッチャントゲルの残留が無いよう洗浄する。洗浄が完了したセラミック修復物を充分に乾燥させ、被接着面にシランを塗布し一分間放置、充分にシラン剤を修復物に浸透させる。浸透後、ドライヤー等を用いて一分間加熱処理を行いシラン処理を終了する。
修復物被接着面の接着処理と並行して、チェアサイドでは接着歯面の処理を行う。そのためには接着の絶対条件である防湿に注意する。ラバーダムは必須である。充分な防湿を行った後歯面の接着操作に移行する。
接着歯面処理が終了した後接着に入るが、接着性レジンセメント練和の際には必ずニードル練和で行う。これは微細気泡の混入を防止するためである。修復物と歯面の間(閉鎖空間)に気泡が混入するとその部位の接着は不完全となる。よってセメントの量は必要かつ充分すぎる量を使用する必要がある。実際の接着操作時の写真を示す。充分な量のセメントが修復物マージンよりフローしているのが分かる(図19)。
光照射に関しては当院では光照射器を2台用いている。先ず初めに出力モードをLOWに設定してランニング照射を行う。この際クォーターテクニックで4方向から2、3秒素早く間欠的に照射することにより余剰セメントを過不足なくきれいに一魂として除去することが可能である。
その後本照射に移行する。モードをHIGHにして修復物の全方向より充分な紫外線を照射する。この際、注意事項としては、重合深度は照射器と歯面の距離に比例して浅くなる、つまり接着力が低下するということである。照射器を極力歯面にあてがうように充分注意している(図20)。
また照射時間であるがセラミックスの厚み、シェード、トランスなどにより一概には言えないが、当院では210秒間の連続照射を行うようにしている。210秒の照射時間でもデュアルキュア型のレジンセメントで97~98%の重合率で、残りの2%は化学重合で2~3日かけて完了するとの報告がある(図21)。
図22に接着完了直後のリアルライフを示す。乾燥により隣在歯の変色が確認されるが、24時間後には本来の色調に回復する。
図22にセット3日後のリアルライフを、図24に最終研磨完了時の写真を示す(比較として、1はP社のジルコニアジャケットクラウン)。即日修復で、しかも研磨のみの調整でここまでの審美性の回復が可能となった。
今後のCERECの発展、進化を想像すると胸の高鳴りが押さえられない今日この頃である。

  • 図2 術前写真。
    図2 術前写真。2が対象歯。
  • 図3 パウダリングに使用するパウダリングスプレー。今回はVITA社ビタパウダースキャンスプレーを使用した。薄いパウダー皮膜で精度の高い均一な光学印象が可能。
    図3 パウダリングに使用するパウダリングスプレー。今回はVITA社ビタパウダースキャンスプレーを使用した。薄いパウダー皮膜で精度の高い均一な光学印象が可能。
  • 図4 ビルドアップテクニックで歯肉縁上に設定された修復物マージン。支台歯は接着を考慮したアドヒージブデザインに形成する。パウダリングを行いセレックで光学印象を行う。入院手術を控えた患者の希望は即日審美修復。
    図4 ビルドアップテクニックで歯肉縁上に設定された修復物マージン。支台歯は接着を考慮したアドヒージブデザインに形成する。パウダリングを行いセレックで光学印象を行う。入院手術を控えた患者の希望は即日審美修復。
  • 図5 光学印象画面。右上から形成歯列、中央はバッカルショットによるバイト、対合歯列。それぞれを3Dモデルで三次元的に確認可能。
    図5 光学印象画面。右上から形成歯列、中央はバッカルショットによるバイト、対合歯列。それぞれを3Dモデルで三次元的に確認可能。
  • 図6 マウント写真。セレックソフトウェア上で構成された3Dモデル。三次元的に確認が可能である。
    図6 マウント写真。セレックソフトウェア上で構成された3Dモデル。三次元的に確認が可能である。
  • 図7 トリミングとマージンラインの設定。従来、石膏模型上で行っていた作業工程をPCモニター上で行う。拡大縮小も可能で精度の良い効率的なトリミング作業が数分で可能になった。
    図7 トリミングとマージンラインの設定。従来、石膏模型上で行っていた作業工程をPCモニター上で行う。拡大縮小も可能で精度の良い効率的なトリミング作業が数分で可能になった。
  • 図8 バイオジェネリックによる初期提案画面1。
    図8 バイオジェネリックによる初期提案画面1。
  • 図9 初期提案画面2。舌側面観であるが遠心側のくぼみに注目。反対側同名歯の特徴を忠実に再現している。
    図9 初期提案画面2。舌側面観であるが遠心側のくぼみに注目。反対側同名歯の特徴を忠実に再現している。
  • 図10 イニシャルポジション画面。100%エナメルの初期位置。
    図10 イニシャルポジション画面。100%エナメルの初期位置。
  • 図11 デザインツール。画面右下のデザインツールによりDrの好みに応じたシェード効果を設定可能。上下左右移動と歯軸を中心にした近遠心方向の回転や、近遠心軸を中心とした回転が可能。
    図11 デザインツール。画面右下のデザインツールによりDrの好みに応じたシェード効果を設定可能。上下左右移動と歯軸を中心にした近遠心方向の回転や、近遠心軸を中心とした回転が可能。
  • 図12 エナメル75%位置。
    図12 エナメル75%位置。
  • 図13 エナメル50%位置。
    図13 エナメル50%位置。
  • 図14 エナメル25%位置。
    図14 エナメル25%位置。
  • 図15 シェード効果の再現性に優れている。
    図15 シェード効果の再現性に優れている。
  • 図16 シェードテイクは一番に直感。確認のために、あるいは迷ったらカラー情報を抜いて明度の確認を行う。
    図16 シェードテイクは一番に直感。確認のために、あるいは迷ったらカラー情報を抜いて明度の確認を行う。
  • 図17 クリアフィル エステティック セメント。 <写真提供:西新宿歯科 草間幸夫先生>
    図17 クリアフィル エステティック セメント。 <写真提供:西新宿歯科 草間幸夫先生>
  • 図18 本セットの前にトライインを行う。トライインセメントによるシェード効果が事前に可能なのも本セメントの特徴。
    図18 本セットの前にトライインを行う。トライインセメントによるシェード効果が事前に可能なのも本セメントの特徴。
  • 図19 充分な量のセメントで気泡の混入を最小限に抑える。
    図19 充分な量のセメントで気泡の混入を最小限に抑える。
  • 図20 光重合には照射器を2台使用している。歯随刺激を考慮して必ずエアーで冷却しながら照射する。
    図20 光重合には照射器を2台使用している。歯随刺激を考慮して必ずエアーで冷却しながら照射する。
  • 図21 参考文献。ブロックの厚さ、シェードにもよるが210秒の照射時間で97%の光重合が完了しているとの報告がある。残りの3%は化学重合で時間とともに完了する。
    図21 参考文献。ブロックの厚さ、シェードにもよるが210秒の照射時間で97%の光重合が完了しているとの報告がある。残りの3%は化学重合で時間とともに完了する。改変引用:Hartung von Komposit unter CEREC InlaysM.J. Besek, W.H. Mormann und F. Lutz Vortag auf demSymposium zum 10jahrigen Bestehen der CERECMethodein : Mormann, W., CAD/CIM in AestheticDentistry, ed. W.H. Mormann, Quintessence, Chicago,1996, pp. 347‑360
  • 図22 接着操作完了直後のリアルライフ。
    図22 接着操作完了直後のリアルライフ。
  • 図23 接着後3日後。
    図23 接着後3日後。
  • 図24 最終研磨完了時。
    図24 最終研磨完了時。

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