139号 WINTER 目次を見る
■目 次
- ≫ はじめに
- ≫ 歯科医師が考えなくてはならないこと
- ≫ 症例供覧
- ≫ おわりに
■はじめに
近年の日本においては少子高齢化の中、訪れる患者の年齢も徐々に高齢化してきたと感じられる。昔であれば年齢とともに歯を失い部分義歯から総義歯へと移行していくことに対して、患者も術者も何の疑問も感じずに歯科治療が行われてきたが、インプラントが登場してからというもの、いくら高齢になったからといってもできれば義歯は入れたくない、と思うのは患者の正直な願いである。
われわれ歯科医師は過去において、あまりにも対症療法的な治療を行ってきたことにより治療をしたところだけがまた悪くなっていく、ということを繰り返してきたのではないだろうか。
現在の臨床においてインプラントは必要不可欠なものになり、高齢になったとしても固定式の歯で何でもおいしく食べることができ、ひいては成人病の予防にもなる、という治療ができれば国民全体に受け入れられるものになると考える。
今回は、比較的よくコントールされてきた70歳になる男性患者の第一大臼歯欠損に対して、どのように考え歯科治療を行うべきか、ということを述べてみたい。
■歯科医師が考えなくてはならないこと
過去の日本における歯科治療は、おもに削る、つめる、かぶせる、それが抜歯になりブリッジを入れる、部分義歯になる、総義歯になっていく、という流れで、歯医者に行けば行くほど、歯を喪失するスピードは加速的に速くなっていく、というパターンが多かったと思われる。
特に昔であれば、80歳になればもう総義歯で当たり前、と思われていたのが、現在ではその年齢になっても固定式の歯で噛みたいという人も増えてきて、またそれが可能な状態になってきた。
インプラント治療とは、失った歯を回復して噛めるようにする、ということよりも、残存している歯を将来にわたっても残していく、ということが本来の目的であろう。
高齢化時代になってわれわれ歯科医師が考えなくてはならないことは、欠損歯をどうするかではなく、その周辺の残存歯をいかにすれば長期的に残していくことができるのかを考えることである。
■症例供覧
今回の患者は70歳であり、今までにメンテナンスを行ってきた患者であるが、6の無随歯が歯根破折を起こし残念ながら抜歯となった。
選択肢としては従来の考え方であれば、①ブリッジ、②義歯、③インプラントというようになるであろう。
しかし現在の、「残存歯の保護」という考え方からすると、①インプラント、②義歯、③ブリッジとなる。
患者にそのように説明し、欠損部にはインプラントを用いることとした。
筆者はチタンインプラント、HAインプラントなど、今までにおよそ6種類のものを使ってきたが、基本的に骨の安定しているケースにはチタンインプラント、即時埋入や骨の条件の悪いところにはHAインプラントを用いるようにしている。
この患者の場合、抜歯後の即時埋入は適さない条件であったので、骨の治癒を待ちチタンインプラントであるSPIを用いることとした。
欠損となった6 に対して5、7を削ってブリッジにすれば、その支台歯の予後は極端に低くなり、将来はその歯も欠損となってしまうリスクを高めることとなる。
よって単独のインプラントを使って欠損部を回復することが、このようなケースの場合最適であろう。
70歳男性、歯列は理想的とは言えないが比較的安定した状態でメンテナンスを行ってきた。高齢になればなるほど1本の歯に対する処置の方法を誤ると次々と崩壊を助長することになるので、適応症の選択をまちがわないように診断することが重要である。
インプラント処置として即時埋入を行うのか待時埋入を行うのかということも重要な診断となる。特に複根管の場合は抜歯窩の状態をよく考慮する必要がある。
70歳男性、左下第一大臼歯の歯根破折により抜歯となる。1本義歯かブリッジかインプラントの選択が必要である。
抜歯後4ヵ月待ってSPI インプラントを埋入。前後の歯の条件を考慮して欠損部には単独のインプラントを埋入した。抜歯後の治癒は順調であり、頰側の骨吸収も正常範囲内である。
印象コーピング装着時の頰舌側観。印象コーピングを装着することにより、フィクスチャーの方向が理解できる。
インプラント周囲歯肉の成熟とプロビジョナルレストレーション。天然歯根とはちがいインプラントは真円形である。プロビジョナルを使ってプラットフォームからクラウンの形態を考慮することにより、最終補綴物へと移行する。
カスタムアバットメントと最終補綴物。カスタムアバットメントを用いることにより、クラウンの形態をできるだけ天然歯に近づけることができるようになる。
治療後の状態。インプラントの使用における最大の目的は「残存歯を保護する」ということである。適切にインプラントを用いることによって欠損を拡大していかない、という考えが本当の意味でのMIコンセプトということにもつながってくる。
術後のデンタルX線。
術前~術後のパノラマ。
■おわりに
たった1本の単純なケースであるがインプラントの初心者や基本的なインプラントの使い方を学ぶには最適なケースであろう。術前の状態よりも予知性は高くなり残存歯の保護となるインプラントの使い方ができたのではないかと思う。
今後ますます高齢者が増えてくる中、適切にインプラントを使用できる歯科医師が増えることを願う。
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