141号 SUMMER 目次を見る
目 次
- ≫ “まずエンドドンティストを目指されたきっかけとマイクロスコープとの出会いについてお話しいただけますか。
- ≫ 澤田先生のもとで研鑽を積むなかで、どういった経緯で留学という道に繋がっていったのでしょうか。
- ≫ 試験を見事パスし、留学されたわけですが、海外での学生生活はいかがでしたか。
- ≫ 歯内療法のプログラムではマイクロスコープを使うことが前提になっているのですか。
- ≫ エンドドンティストとなって帰国されて、今後先生が目指す診療スタイルとはどんなものなのでしょう。
- ≫ 留学のご経験の中で、日本と海外の違いについてお感じになったことはありましたか。
- ≫ 最後にマイクロスコープの導入を検討しておられる先生方にメッセージをいただけますか。
- ≫ 田中利典先生 略歴
田中利典先生は、2010年にアメリカで歯内療法専門医のライセンスを取得。現在川勝歯科医院(東京都杉並区)副院長として、歯内療法を専門としたクリニックを立ち上げ、日々の診療に携わっておられます。今回そんな田中先生に、アメリカ研修時代のエピソードや今後目指しておられる診療スタイル、さらに今や歯内療法に不可欠なツールとなりつつあるマイクロスコープの有用性についてお話を伺いました。
まずエンドドンティストを目指されたきっかけとマイクロスコープとの出会いについてお話しいただけますか。
2001年に東北大学を卒業した後、東京医科歯科大学に専攻生として補綴講座に入りました。そこで経験を積むうちに、“力のコントロール”とは別の“感染のコントロール”に対して勉強する機会が自分の中で少なくなっているように感じていました。そんな折、お世話になっていた先生を介して、当時医局を出て開業されたばかりの澤田先生をご紹介いただきました。当初は週に一度澤田先生の医院を見学させていただいていたのですが、その頃からすでにマイクロスコープを導入され、歯内療法に特化した診療をされておられました。マイクロスコープを実際に見たのはその時が初めてで、この見学がきっかけで、私も澤田先生の影響で歯内療法という世界に深く関わるようになっていきました。
澤田先生のもとで研鑽を積むなかで、どういった経緯で留学という道に繋がっていったのでしょうか。
大学を卒業してみると、医局の中も含めて海外に留学しておられる先生が多くいらっしゃることを知りました。そんな中で“自分も留学するチャンスがあればいいな”と漠然と考えていました。そのためには英語ができなければ話になりません。そこで、TOEFLの試験を定期的に受けたりもしていました。その後澤田先生と一緒に仕事させていただく中で、澤田先生のこれまでのキャリアや実際に留学された先生方を見て、“私も同じ世界に加わりたい”という意識がさらに強くなっていったのです。そこでまずはTOEFLのスコアが留学の出願条件を満たすまで頑張ろうと本格的に取り組むようになりました。
試験を見事パスし、留学されたわけですが、海外での学生生活はいかがでしたか。
2008年から2年間エンドドンティストのプログラムで留学生活を送りました。アメリカでは4年制大学を卒業した後、さらにメディカルやデンタルの4年制大学に進みます。その先に臨床系大学院であるポストグラデュエートプログラムがあるのですが、ここに私は入りました。したがってすべてのレジデントは歯科医師の免許を持っていて、実際の患者さんを治療することになります。留学当初はやはり言葉の壁が厚く、最初の数ヵ月は大変でした。病院で患者さんを治療する際、ラバーダム下で話されると内容がわかりにくいというのもあるのですが、はじめは患者さんの言っていることが理解できないこともありました。
論文講義では、letalture review(論文レビュー)を毎週行っていました。与えられたトピックを読み込み、その後トピックに対するプレゼンテーションを行います。ですから日々の治療だけではなく、論文を読んだりケースプレゼンテーションの準備をしたりという忙しい毎日でした。ですが自分が根拠とする考え方についてきちんと知識として持っておくために、新旧問わず論文を読んで常に情報に身近に触れる習慣を身に付けることができたのは、まさに留学して得られたことでした。
歯内療法のプログラムではマイクロスコープを使うことが前提になっているのですか。
歯内療法のプログラムではマイクロスコープのトレーニングは必修科目となっています。これは1998年、学会主導で各大学のプログラムが整理されたからで、それ以降に卒業したレジデントはマイクロスコープを使った治療がスタンダードになっています。おもしろいもので一度マイクロスコープを使った治療を経験すると、それなしでは治療できなくなってしまいます。「暗くてよく見えない」ことが治療を進めていく上で不安要素になるのです。そういう意味では、アメリカでは確実な、そして正確な治療にはマイクロスコープが必要であると、患者さんも含め誰もが意識しているのだと思います。
エンドドンティストとなって帰国されて、今後先生が目指す診療スタイルとはどんなものなのでしょう。
現在は他の先生にご紹介いただいた患者さんに根管治療を行い、治療が終われば元の医院にお帰りいただいています。患者さんには治療のたびに場所を変える不便をおかけしますが、根管治療に限らず、それぞれの分野のスペシャリストによる治療が、最終的に患者さんにとって良い結果に結びつくことは間違いありません。その土壌づくりの部分で私ももっと一般の先生方に情報発信していきたいと思っています。
留学のご経験の中で、日本と海外の違いについてお感じになったことはありましたか。
経済大国といわれる日本ですが、残念ながら技術や知識、マーケットが国内に留まっていたり、国内向けの情報発信しか行われていないと感じることがよくありました。歯科の場合も、一部の研究・発表論文は日本国内だけにとどまり、国際的に認められにくいことが多いようです。例えば今、歯内療法の世界ではリジェネレーションやリバイタライゼレーションなど、感染した歯髄を生かして残す治療法が1つのトピックになっていますが、この考え方は日本では以前から議論されてきたように思います。それが何かのきっかけで海外に出て、新しい歯髄保存治療という分野を創造しています。日本発の情報が世界のスタンダードになるかもしれないと考えると残念だし、もどかしく思います。もっともこのような問題は、国や学会、団体として取り組んでいくべきことかもしれません。
最後にマイクロスコープの導入を検討しておられる先生方にメッセージをいただけますか。
まさに「百聞は一見に如かず」。私も留学して初めて日本について深く考えることができたように、マイクロスコープを使って根管を覗いたりカリエスを覗いたりするだけで、診療に対する考え方がガラッと変わるかもしれない、これはそんな機会を与えてくれるツールだと思います。もちろん使いこなすテクニック等を学ぶ必要はありますが、ぜひ実際に覗いて、衝撃を受けてほしいと思います。検討されているのなら、迷わず導入していただきたいですね。
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川勝歯科医院のスタッフの皆さん。田中先生の左隣が奥様の川勝紀子院長。歯内療法をはじめとした高い専門性で患者さんの健康維持に貢献している。
- 2001年
- 東北大学歯学部卒業
東京医科歯科大学補綴科入局 - 2004年
- 澤田デンタルオフィス勤務
- 2006年
- 米国ペンシルバニア大学歯学部コンベンショナルエンド
ドンティクスおよびマイクロサージェリーコース修了 - 2008年
- 米国コロンビア大学歯学部歯内療法専門医課程入学
- 2010年
- 米国コロンビア大学歯学部歯内療法専門医課程卒業
米国歯内療法専門医 川勝歯科医院 副院長 - 2011年
- 日本歯内療法学会 認定専門医
- ◆米国歯内療法学会(American Association of Endodontists)会員 認定専門医
- ◆日本歯内療法学会 会員 認定専門医
- ◆国際外傷歯学会(International Association of Dental Traumatology)会員
- ◆米国歯内療法学会財団(American Association of Endodontics Foundation)研究費助成対象者(Spring 2009)"Identification and Isolation of Dental Pulp Stem Cell from Granulation Tissue"
- ◆米国歯内療法学会 指導医筆記試験合格(American Board of Endodontics Written Exam)(June 2010)
- ◆米国歯内療法学会誌 論文掲載(JOE September 2011)"Cells Isolated from Inflamed Periapical Tissue Express Mesenchymal Stem Cell Markers and Are Highly Osteogenic"
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