148号 SPRING 目次を見る
■目 次
■はじめに
ちょうど今年で卒後10年目になるが、う蝕治療においてメタルインレーを用いたケースはおそらく数えるほどしかない。補綴治療におけるメタルコア築造もほとんど実施した記憶がなく、直接法のレジンコアで対応するか、もしくは補綴せずに修復治療で済んでしまう場合も多い。我々の世代の歯科医師にとっては、国内にとどまらず、世界各所でMinimal Interventionのコンセプトは臨床の根底として受け入れられている。日々新しい材料が開発されており、その地道な進歩に驚かされ、また開発に携わっている方々の情熱には畏敬の念を禁じ得ない。
超高齢社会を迎えた現代において、日々治療をしながら常に頭をよぎるのは「この患者さんの歯を、100歳までおいしく食事ができるように持たせるためにはどうすればいいのだろう」ということである。治療室で健全歯質を切削することが我々の仕事ではないことはもはや議論の余地はないと思われる。長い人生の中では、長距離走のペース配分で歯を健康に使える時間を5年、10年、20年と埋めていくべきではないだろうか。
歯を1本でも多く、健全な状態で残すことは我々の大きな使命であり、コンポジットレジン修復はその役割を果たすローリスク・ハイリターンなツールであると考えていただければ幸いである。
■症例:シェーグレン症候群に伴う 多発根面カリエス
70代女性。2006年7月に検診にて受診した当時は2に根管治療がなされているものの、他の下顎前歯には特に問題は見られなかった。2008年に当科を受診した際に口渇を訴えたため、口腔外科を紹介、受診したところ、シェーグレン症候群と診断された。
2010年5月に再度検診で当科を受診した際には、下顎前歯根面に歯髄に及ぶ根面う蝕が認められた。すなわちこの数年間において急速に根面カリエスが進行している様子が伺える。
歯頸部の残存歯質が少なく、歯冠ごと破折するリスクも考えられた。通法に則れば、歯冠を削除し、根管治療を行いコア植立、形成後前装冠の合着となる症例と思われる。しかし良好なフェルールは得難く、また叢生もあるため補綴処置後の清掃にも注意が必要となる。
そのためこの症例においては、歯冠をそのまま保存し、可及的に歯質保存に努めることとした。頰側歯頸部より根管治療を行い、健全歯質は可及的に保存しコンポジットレジン充填で処置を終えた。
通法のコア〜前装冠の処置と比較して、
・削除歯質量は最低限に抑えられている
・治療回数は1回で終えることができた(通法では5〜6回の来院が必要)
・今後も補修やメンテナンスが可能であり、前装冠による処置と比較して、カリエスリスクのコントロールも容易である。(前装冠では補綴物下にカリエスが進行しても発見が遅れ、脱離時には抜歯せざるを得ない場合が多い)
など、多くの利点がある治療法である。
術後には徹底したTBIで日常のメンテナンス習慣の改善を促し、カリエスの再発防止に努める。この症例では隣接根面にカリエスが集中したため、歯間ブラシにDENT.システマ薬用歯間ジェル(ライオン歯科材)を併せて使用いただくよう伝え、その後根面カリエスの発生は見られない。
先にも述べたことではあるが、我々の目的は「きれいな補綴物を入れること」ではなく、「歯を一生食事に困らないように保全していくこと」であると考える。接着材料に対する正しい理解と、柔軟な考え方をもってすれば、様々な新たな対応が可能なのではないだろうか。
図1 2006年7月来院時のレントゲン写真。
図2 2010年5月来院時のレントゲン写真。
図3 の根管治療。歯冠部切縁側はそのまま温存することとした。
図4 根管充填完了後、隣在歯をマスキング。
図5 クリアフィル メガボンド(クラレノリタケデンタル)で処理後、コンポジットレジン充填。
図6 充填完了直後。
図7 治療後のレントゲン写真。2にも今後同様の処置が必要である。
図8 治療後の正面観。破折を予防するため、最終的には下顎前歯部をスーパーボンドC&B(サンメディカル)にて固定した。
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