148号 SPRING 目次を見る
■目 次
- ≫ 人間そっくりの外観とリアルな反応ヒト型患者ロボットが臨床実習の臨場感を高める
- ≫ 「技能・知識偏重、患者不在」の歯科臨床教育。その限界と矛盾を解決するために。
- ≫ スキルラボを新設、実習シミュレータの開発に着手。
- ≫ 客観的な評価をフィードバックし、コミュニケーション・スキルをアップ。
- ≫ 手術から介護・福祉・看護、事故防止まであらゆるトレーニング実習に活路を開く。
人間そっくりの外観とリアルな反応ヒト型患者ロボットが臨床実習の臨場感を高める
日本歯科大学生命歯学部
学部長 羽村 章 口を開けてくださいと促すと口を開く。痛い時は左手を挙げて「あっ!」と叫ぶ。「どうなさいました?」と問いかけると「痛いです」と反応する。「麻酔は効いてきましたか?」と尋ねると「効いてきました」と答える、麻酔が効いた状態で「大丈夫ですか?」と聞くと「だいひょうふでふ」と答える。そんなリアルな表情・動き・会話でリアクションする、若い女性患者そっくりの実習用ロボットがついに誕生。日本歯科大学生命歯学部の臨床教育システム・ロボット工学・モリタの技術が融合して開発された歯科教育用患者ロボットシミュレーションシステム シムロイドだ。歯科臨床教育の未来を指し示す衝撃のイノベーションを追った。
■「技能・知識偏重、患者不在」の歯科臨床教育。その限界と矛盾を解決するために。
歯科治療の多くは敏感な口腔内において患者の明確な意識下で行われる本質的に非可逆性・生体侵襲性を伴う医療行為だ。治療技術の良否が治療の質を決定づけるために、歯科臨床は治療技術の革新に挑戦してきた。次世代の歯科医師を育てる歯科臨床教育は医療の質と安全を求めつつ、常に新たなイノベーションをめざして進化を遂げてきた。
しかし、国内の歯科大学歯学部で行われている歯科臨床教育は、「技能・知識偏重、患者不在」が温存されている状況だ。
つまり、第1に、知識・技能の習得にウエイトが置かれ、患者に接する対応能力や姿勢など、フェース・ツー・フェースの技能習得の訓練・評価がシステム化されていない。第2に、日本の歯科医師国家試験は筆記試験だけが実施され、技能試験も接遇試験もないため、臨床能力の評価を総合的かつ客観的に行えない。第3に、実習用ファントムや口腔模型による基礎実習は、基本的な診療手技や技工操作の習得には役立つが、臨場感は実感しにくい。第4に、臨場感のある臨床基礎実習を行うためには、模擬患者の協力が必要であるけれども、模擬患者数や症例の種類が限定されるために、歯学生が実習時間内に十分な臨床能力を習得することは容易ではない。特に、模擬患者を利用しての抜歯や歯冠形成などの侵襲的な歯科処置を行うことは不可能である。
■スキルラボを新設、実習シミュレータの開発に着手。
これらの問題点を克服するために、日本歯科大学は共用試験(CBT・OSCE)をクリアした歯学生が自己学習できる、診療環境を再現したスキルラボを附属病院の2階に設置するとともに、2004年、故渋井尚武教授(日本歯科大学附属病院・前副院長)を中心とする研究チームが実習シミュレータの開発を始動。2005年〜2007年に文部科学省の「医療人GP(Good Practice)/体感型人体模型による擬似的診療体験」に採択され、開発が軌道に乗った。
「2007国際ロボット展」出展の好機と相まって、2009年〜2011年に独立行政法人科学技術振興機構(JST)の「独創的シーズ展開事業」の補助金を得たことが追風となり、羽村 章学部長をコアメンバーとする開発が一気に加速。
以来、足かけ8年。生命歯学部、モリタ、ロボット開発のココロの3社共同プロジェクトが推進役となり、2012年10月に完成を見たのがシムロイドだ。
■客観的な評価をフィードバックし、コミュニケーション・スキルをアップ。
人間そっくりの外観とリアルな反応(表情・動き・会話)を備えたヒト型患者ロボットのシムロイドは、どのような特長と有用性があるのだろうか?
「音声認識機能を備え、 実習生の言葉に反応してロボットが動く。口腔内センサー(ICチップ)と連動し、診療動作に鋭敏に反応する。人間に近いスキン材(熱可塑性エラストーマ)を採用している。この3点がポイントです」。研究開発のキーマンとして情熱を注がれてきた羽村学部長。
歯科用ユニット(スペースライン イムシア タイプⅢまたはソアリック)、ロボットの動作を制御し、臨床実習シナリオのプログラミングと実習の記録・再生・評価を行う専用ソフトウエア(タッチパネル方式のGUI /グラフィカルユーザーインターフェース)、動画記録用CCDカメラ2台、音声認識用マイクで構成されるシムロイド。
専用ソフトウェアが実習行為を時系列に記録・再生し、教官が評価コメ ントを追加できるので、客観的なフィードバック学習が可能だ。英語の音声認識も搭載ずみ。基本的技能とともに診療態度やコミュニケーション・スキルの向上を図れ、患者中心の全人的医療の実現に貢献できる未来志向のシミュレータと言えるだろう。
「特に秀逸なのは、実習後に自分の映像を見ながらフィードバックできる評価システムです。治療器具の配置から本人が自覚しない手技の癖、態度・しぐさ・話し方までがそのまま記録されますから、ロボットが受けた負担や反応をモニター上で確認したり、自分のPCに転送して実習の履歴を冷静に見直したりして、不安を取り除きながらセルフ・トレーニングできるのが大きな利点です」。
■手術から介護・福祉・看護、事故防止まであらゆるトレーニング実習に活路を開く。
シムロイドを用いた支台歯形成、う蝕や歯周病の治療、ブラケット装着などの実習後に、録画映像で実習のフィードバックを行った実習生や研修医は「自分の姿勢が悪いことに驚いた」、「ファントムよりも緊張感があった」、「口腔内に集中するあまり、ロボットの顔に近づき過ぎた」、「患者への配慮や声がけの重要性に気づいた」とコメントしている。
「全人的医療を担う歯科医師を養成する」、「世界に先駆ける歯科臨床教育のイニシアチブをとる」という高い目標を掲げて、華々しくデビューしたシムロイド。将来、高齢者や子供の患者ロボットの開発も視野に入っている。そのイノベーションの進化は歯科医療のみならず、医科手術・介護・福祉・看護のトレーニング、医療事故防止のトレーニングなどへと活路を次々と広げていくに違いない。
臨床実習机160台を活用し、主として3〜4年生を対象に行われている基礎実習。この実習室にはシムロイドを設置したブースが3室ある。
チェアユニットから供給される圧搾空気によって、口・まぶたの開閉、首・眼球の左右上下運動、左手の上下運動が滑らかに駆動。自然な発語ができるスピーカーも内蔵。
共用試験(CBT・OSCE)に対応するオリジナルのシナリオを作成してプレインストール、オペレータは専用ソフトウェアを活用してロボットを可動し、記録・評価を制御する。
座位も水平位も自在に。ロボット本体を取り外して、臨床実習用のユニットとしても活用できる。
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