154号 AUTUMN 目次を見る
大学卒業後、奈良の木原歯科医院、東大阪の本多歯科医院で勤務し、2014年に肥後橋駅のほど近く、至便なエリアにHONDA DENTAL OFFICEを開業しました。内村鑑三の言葉“Dentistry isa Work of Love”をコンセプトに一般歯科はもちろん、咬合治療・インプラント・審美歯科をメインに診療を行っています。
今回、初代パナビアから30年を経て新しく生まれ変わったパナビアV5を用いた臨床を報告しますが、まず大きな改良点として、メーカーの資料によれば、象牙質に対する接着力が大幅に向上したことがあげられます。これまでいくつかの症例で試してみましたが、接着強さに関しては日常生活による咬合圧が加わったときに、どのくらい維持できるかが重要ですから、正直現時点ではわからないというのが実感です。
パナビアはもともと良いセメントですから、V5はその進化版ということでかなり安心感は持っています。
ただ、補綴物本来の構造的なルールを無視して、レジンセメントの接着力に依存しすぎることでトラブルをまねいてしまうことが往々にしてあります。
私自身はそうしたセメントに依存した補綴はできるだけ回避することを念頭に、できるだけクラウンレングスニング(歯冠長延長術)を行って、しっかりと接着できる環境を作るように心がけています。もちろん接着力は高いに越したことはありませんが、どんな症例でも接着力に依存したいわゆる「セメント頼み」という補綴治療ではいただけません。
そういう意味では、下記に掲載しているケースのように、患者さんの解剖学的な理由でレングスニングをしても支台歯の高径が確保できない場合や、咬合面ラミネートによる咬合高径再構築など、通常のセメントの接着力では心許ない、まさに“接着力頼み”なケースでその真価を発揮するセメント材料と言えるのではないでしょうか。
個人的に今後試してみたい症例としては、前歯部のファイバーポストの接着力です。これまで補綴物とともに脱離してしまうケースが少なからずあったのですが、パナビアV5を使うことでどれだけ維持できるか、今後の経過を観察していきたいと思っています。
有髄歯に対しての歯髄への刺激については、症例がまだ集まっていないので何とも言えませんが、レジンセメントを使用する際、セメントの除去性を気にする先生が多いと聞きます。
その点でパナビアV5は一塊になってポロポロと取れてくれますからとても作業が楽になりました。ただ、補綴物セットの当日は縁下に出血があるので細かな部分まで取り除くことは難しいですから、次の週に余剰セメントチェックで必ず来院してもらってマイクロスコープでチェックするようにしています。確認してみると補綴物と根面の間に一層だけうっすらと残っていることが多く、前歯部ならキュレットやエステティックバーで取っていきます。不安なのは臼歯部の2級インレーのコンタクト直下部分ですが、探針で探りながらキュレットで地道に取っていきます。それでも心配な時はデンタルを撮ってさらにチェックします。取り残してしまうと人工の歯石を付けてしまうようなものですから、細心の注意を払って取り除くようにしています。
色調はアミンフリーで安定性に優れた5色のペーストが用意されていますが、私の場合は透明性の高いクリアかバランスの良いユニバーサルを主に使っています。特にガラスセラミック系のインレーに関しては有髄歯が多く切除量も少ないので、下地の色を拾ってくれますからセメント自体の色はとても大切です。
また、操作性については、余剰セメントの除去性の向上のほか、これまで2液だったセルフエッチングプライマーが1液になり、アシスタントワークが簡便になりました。
レジンセメント選択のポイントは接着性の高さに加えて簡便な操作性に尽きます。パナビアV5はそうした条件をクリアしたセメントとして今後が楽しみですね。これからも引き続き私が歩んでいくであろう補綴・咬合の分野において、力強くバックアップする存在になってくれることを願ってやみません。
図1 支台歯咬合面観。
図2 支台歯頰側面観。セメントが入り込まないように歯肉圧排。
図3 クリアフィルセラミックプライマープラスで処理した補綴物接着面へのセメント注入。
図4 オートミックスで補綴物の接着は比較的簡単。
図5 装着後、咬合面観。
図6 圧排糸をはずしてセメント除去した後の頰側面観。
図7 set前。ファイバーポストコア。
図8 set前。模型上での状態。
図9 set前。頰側面観。
図10 set前。咬合面観。
図11 set後。支台歯修正後の咬合面観。
図12 同、頰側面観。
目 次
モリタ友の会会員限定記事
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