159号 WINTER 目次を見る
■はじめに
近年、審美修復材料としてジルコニアがその代表格として臨床実績をあげているのは周知の事実である。また、メタルセラミックの市場規模は年々減少傾向にあり、逆にジルコニアが高い伸びを示している。
ジルコニア修復物は、PFZ(ジルコニアコーピングに専用ポーセレンを築盛したクラウン)、FZC(ジルコニア単体で製作したクラウン)に大別される。FZCは当初、対合歯(天然歯)の摩耗や経年劣化などネガティブな意見も散見されたが、研究機関からのデータにより、十分に研磨を行った場合、天然歯の摩耗が最も少ない材料であることが証明され、使用されるケースが増加してきている。
材料としてのジルコニアは、白色からカラードジルコニアになり、同時に高透光性化が進み、市場ニーズに合わせ進化してきた。
またFZC用に開発された高透光性マルチレイヤードジルコニア カタナジルコニアML、またさらにジルコニアの透光性を上げた超高透光性マルチレイヤードジルコニアUTML、STML (クラレノリタケデンタル株式会社:図1)は、効率的に審美修復物を製作するために開発された商品である。
歯頸部から切端部までグラデーションが付与されており、ポーセレンをレイヤリングすることなく自然な色調が得られるよう設計されている。
ただ、クラウンの形成量で色調が左右されることも事実であり、また審美的要求が高いケースにおいてはステインなどでキャラクタライズすることも少なくなかった。その場合、セラビアンZRエクスターナルステイン/セラビアンZRプレスLF エクスターナルステインで対応してきたが、ステイン焼成時にジルコニア自体の色調に影響が少ない焼成温度の低いステインが望まれてきた。
ついに2016年10月21日、同社初のFZC用ステインとしてセラビアンZR FCペーストステイン(図2)が発売された。
本稿では上記材料の特性、使用上の注意点を解説していきたい。
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図1-1 カタナジルコニアディスク
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図1−2 色調の異なるジルコニアを積層したマルチレイヤードジルコニア。
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図2 セラビアンZR FCペーストステインキット
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図3 透過率のグラフ
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図4 機械的特性:曲げ強さ
■カタナジルコニアUTML、STML、MLの特徴、使用上の注意点
ジルコニアの選択
現在、カタナジルコニアはFZC用として3シリーズのマルチレイヤードジルコニアが発売されており、それぞれ異なる透光性、機械的特性を有している。ケースによって使用するジルコニアを使い分けることで、前歯修復からブリッジ修復まで対応可能となっている。
透光性はUTML、STML、MLの順に低くなり(図3)、機械的特性はML、STML、UTMLの順に低くなる(図4)。
基本的に、UTMLは前歯クラウンやラミネートベニア、STMLは臼歯クラウン、MLはブリッジの修復に適している(図5)。
色調構成
カタナジルコニアマルチレイヤードディスクは、UTMLシリーズにはVITAクラシックスタンダードシェード16色とEA1、ENWという切端から中央の彩度を抑えた色調のエナメルシェード、計18色。
STMLシリーズはA1~A3.5とNWの計5色、MLはA Light、A Dark、B Lightの3種類がラインナップされている。各シリーズによってラインナップされている種類が異なるため注意が必要である(図6)。
色調選定
各シリーズの持つ透光性によりカバーできる支台歯が異なる(図7)。屈折率の高いジルコニアは、臼歯部においては明るく見える傾向にあるため、UTML、STML を使用する場合は目標色より1ランク暗いシェードを選択するとよい。
またグレーズ仕上げと研磨仕上げのクラウンの色調が同一シェードのジルコニアを使用しても異なるため注意が必要である。
UTML、STMLはグレーズ仕上げで目標シェードになるよう設定されている。研磨仕上げの場合は暗くなるため、1ランク明るいシェード選択する必要がある。MLは研磨仕上げで目標シェードになるよう設定されているため、グレーズ仕上げの場合はステインを使用し、彩度を調整する。
色調の絶対的要素が形成量によって左右されるFZCは、天然歯の透明感、細かなキャラクターを再現するにはステインが必要となる。
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図5 推奨用途
MLはフルジルコニア修復の製作に適したマルチレイヤードタイプ、HTはフレーム製作に適したモノカラータイプである。
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図6 色調構成
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図7 色調選定の目安
■:目標色と同一のシェードを選択することで対応可能。
■:目標色よりも1つ明るいシェードを選択することで対応可能(ステイン併用)。
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図9 光学印象画面。乾燥状態での光学印象が可能となるため、マージン部の光の乱反射が抑えられ極めて精度の高い光学印象が可能。
■セラビアンZR FC ペーストステインの特徴、使用上の注意点
セラビアンZR FC ペーストステインは、カタナジルコニア表面に塗布可能なペーストタイプのステインである(図8)。広範囲に均一に塗布することが容易で、より簡単にスピーディに作業することが可能である。
またセラビアンZR上にも使用可能であり、通法のレイヤリング修復物やラスター陶材等を表層に一層築盛するライトレイヤリング修復物にも対応できる。
ステインのベース組成の透光性向上により、従来品と比較し修復物の透光性低下を抑制することができる。
セラビアンZR エクスターナルステインを網羅し、新たに透明感を表現するGrayish Blue、Light Gray、蛍光性付与、コントロールするのためのFluoro、明度を上げる表現に使用するValueや、Glazeは従来から販売しているものと同等以上の機械的特性をもつ(図9、10)Clear Glaze(図11)も追加され、歯冠全体に高い透明感のある艶を付与したり、他の色調と混合して色の濃さを調整することも可能である。
グレーズ2種、ステイン25色の全27色と豊富な色調がラインナップされている(図12)。
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図9 機械的特性:ビッカース硬度
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図10 機械的特性:破壊靭性
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図11 色度板
従来のステインよりも透光性を向上させたClear Glazeをラインナップに追加した。
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図12 セラビアンZR FC ペーストステイン 全27色
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図13以下に、カタナジルコニアとセラビアンZR FCペーストステインを用いたフルジルコニアクラウンのケースをアトラス形式で紹介する。
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図13 左:天然歯 右:FZCの断面イメージ図 FZCの色調は厚みで左右される。マージン付近は彩度不足(赤マーク部)、最大豊隆部は明度不足(緑マーク部)、また切縁、臼歯部は咬頭部は白浮きする傾向がある(青マーク部)。
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図14 焼結後、形態修正し、唇面にアルミナサンドブラスト処理(50μm/0.2MPa以下)、アセトンにて脱脂した状態。舌側面は鏡面研磨している。ノリタケカタナジルコニアUTML A2。
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図15 1回目ステイン:まず歯頸部から象牙質様にグラデーションさせるようにA+を塗布する。
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図16 その後、透明感を表現するために切縁部にBlueとClear Glazeと混和したものを塗布する。Blue、Grayは強い表現になりやすいので注意が必要である。最初は淡くBlueを塗布し、ここで一度焼成する。(焼成温度750°C、1分係留)
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図17 2回目ステイン:マージン部は特に彩度、赤みが不足するため マージン部にCV2+Pinkを塗布する。
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図18 歯冠最大豊隆部は明度に注意が必要である。Value+ A++Clear Glazeを混和した物で表現する。マメロン部にはMamelon Orange2+White、透明感の濃淡をつけるためにBlueを塗布する。完了後、焼成する。(焼成温度750°C、1分係留)
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図19 3回目ステイン:色調確認後、Clear Glazeを30μm以上の厚みに塗布し焼成する。艶が不足している場合は追加塗布し、焼成する。
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図20 パールサーフェース Z,C,Fなどで艶を調整し完成。
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96* kPa=72cmHg
図21 セラビアンZR FCペーストステインの焼成スケジュール
※ フルジルコニア修復以外にも「セラビアンZR」、「セラビアンZRプレス」に使用可能であるが焼成条件が異なるので注意が必要である。
目 次
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