159号 WINTER 目次を見る
前編では疾患の構造・実態や歯間部歯肉の構造から歯間ブラシの選択基準について解説した。
後編では歯間部のプラークコントロールについて具体的な歯間ブラシの使用法について解説する。
■歯間ブラシの使用法、歯間ブラシの挿入方向
歯間ブラシの歯間部挿入は、歯間乳頭を損傷させないように、近遠心的には、頰側・唇側中央部の接触点下から挿入をはじめ、頰舌側的には、頰側・唇側から、舌側・口蓋側に向けて、歯冠側方向に挿入すると安全である(図10a)。
逆に、頰側・唇側から歯頸部方向に歯間ブラシを挿入すると、歯間乳頭を損傷させ、痛み、出血を伴うことになる。また、臼歯部になると、歯間ブラシを近心から挿入しやくすくなり、そのまま挿入すると、挿入部の歯の近心隣接面にワイヤーがあたり、ワイヤーが曲がり、歯間部歯肉が損傷し、痛み、出血を伴うこともある(図10b)。
歯間ブラシ使用時の出血に対しては、炎症の消退に伴い改善することを伝えるが、歯間ブラシの歯間部挿入時の痛みや出血は、患者の歯間ブラシ使用、定着に対するマイナスイメージを与えることになるため、事前にその可能性を説明しておく必要がある。
図10 歯間ブラシの挿入方向
a:近遠心的には、頰側・唇側中央部の接触点下から挿入をはじめ、頰舌側的には、頰側・唇側から、舌側・口蓋側に向けて、歯冠側方向に挿入する。b:近心から挿入すると(黄矢印)、挿入部の歯の近心隣接面にワイヤーがあたり、ワイヤーが曲がり、歯間部歯肉を損傷させやすい。
■歯間ブラシ挿入後の把持と使用法
歯間ブラシは、L字型を用いて、歯間部に挿入し、接触点直下から舌側・口蓋の歯頸部にワイヤー部分をそっと沿わせて,ゆっくりと2〜3mmほど数回動かして、プラークを取り除く。
以下に、上下顎に分けて、留意点を解説する。
■下顎
歯間ブラシを挿入後(図11a)、接触点直下から舌側の歯頸部にワイヤー部分を沿わせるために、歯間ブラシ把持部を下顎咬合平面よりも上方に上げる必要がある(図11b)。
しかし、そのままの把持では、その後の操作ができないため、把持する手を下方から持ち変える(図11c)。
その位置を保ちながら、接触点直下から舌側の歯頸部に適合させたワイヤー部分をゆっくり2〜3mmほどのストロークを行う。
図11 下顎の歯間ブラシの挿入方向と把持法
a:歯間ブラシを歯間に入れているだけで、毛先が歯頸部にあたっていないばかりか、歯間乳頭押し下げている。b:歯間ブラシが歯頸部に当るよう、ハンドルの角度を変えたが、把持が不十分である。c:歯間ブラシを持ち変えることで、接触点直下から舌側の歯頸部にワイヤー部分を沿わせ、的確な操作が始められる。
■上顎
歯間ブラシを歯間部に挿入後(図12a)、接触点直下から口蓋の歯頸部にワイヤー部分を沿わせるために、歯間ブラシのハンドル部の角度を調整する。すなわち、歯間ブラシのハンドル部を下口唇方向に変えることで、接触点直下から口蓋の歯頸部にワイヤー部分を沿わせ、的確な操作が始められる(図12c)。その位置を保ちながら、接触点直下から口蓋の歯頸部に適合させたワイヤー部分をゆっくり2〜3mmほどのストロークを行う。
図12 上顎の歯間ブラシの挿入方向と把持法
a:歯間ブラシを歯間部に入れて歯間乳頭部を圧迫しているだけで、毛先が歯頸部にあたっていない。b:歯間ブラシが歯頸部に当るよう、ハンドルの角度を変えたが、親指が口蓋側への適合を阻害している。c:歯間ブラシを持ち変えることで、接触点直下から口蓋の歯頸部にワイヤー部分を沿わせ、的確な操作が始められる。
■歯間ブラシ消耗の評価
歯間ブラシが、定着(毎日、歯間ブラシを使用)した段階で、最初は、歯間ブラシが折れたり、曲がったりすることが多い。しかし、この過程は、歯間ブラシを定着して使用した結果であり、技術の改善を促す前に、誰もが通る過程であること、歯間ブラシが定着したことを賞賛すべきである。
その後、技術の改善を計る。すなわち、歯間ブラシが折れたり、曲がる段階では、歯間ブラシ植毛部の根元部分を中心に消耗し、ワイヤーが曲がっている(図13a)。
歯間ブラシの根元部分が消耗する理由は、歯間ブラシの挿入後、接触点直下から舌側・口蓋の歯頸部にワイヤー部分を沿わせずに、頰側・唇側隅角部に沿わせるからである。この使用法では、接触点直下から舌側・口蓋の歯頸部のプラークは残存する。
したがって、前述の歯間ブラシ挿入後の適用角度や位置付けに留意して、接触点直下から舌側・口蓋の歯頸部にワイヤー部分を沿わせて、軽くストロークするだけで、プラークは除去でき、ワイヤーは曲がらなくなり、歯間ブラシ植毛部の中央部分がわずかに消耗する程度となる(図13b)。
現行の歯間ブラシは、根元部分に応力が集中して、ワイヤーが曲がったり、折れやすい。そのため、歯間ブラシの根元部分の応力を分散させるため、テーパーノズルとして、耐久性を向上させ、曲がりにくく、歯間部への挿入性も向上させたものができあがっている(図14b)。
図13 歯間ブラシの消耗
a:歯間ブラシの根元部分を中心に消耗し、ワイヤーが曲がっている。b:歯間ブラシのワイヤーが曲がらずに、中央部分が消耗している。著者が1日2回1週間使用した歯間ブラシである。
図14 歯間ブラシネック部の改良
a:歯間ブラシの根元部分に応力が集中して、ワイヤーが曲がったり、折れやすい。b:歯間ブラシの根元部分の応力を分散させるため、テーパーノズルとして、耐久性を向上させ、曲がりにくく、歯間部への挿入性も向上させた。<ライオン(株)データ>58歳男性、歯間ブラシLを使用し、ワイヤーは曲がり、根元部分が消耗している(c)。歯間ブラシテーパーノズルMに変更したところ、ワイヤーが曲がりにくいため、根元部分がより消耗している(d)。現在、適切な使用法を指導している。
■歯間ブラシ誤用の評価と対応歯頸部の歯質欠損に注意!
前述の歯間ブラシが曲がったり、植毛部の根元部分を中心に消耗する症例では、植毛部が、接触点直下から舌側・口蓋側歯頸部に沿わずに、歯頸部から離れて、セメントエナメル境あたりを中心に、歯頸部セメント質(図15赤矢印)を磨耗させる。
したがって、先述のように、歯間ブラシのワイヤー部分を接触点直下から舌側・口蓋側歯頸部に沿わせるように、ハンドル部分の調整を指導する(図16)。
患者自身は、痛みがなく無自覚であるため、歯科医師、歯科衛生士が留意しておく必要がある。
図15 歯間ブラシの誤用による歯頸部歯質欠損例(赤矢印)
a:70歳男性、b:62歳女性、c:59歳男性、d:70歳男性
図16 歯間ブラシの誤用に対する対応
a:歯間ブラシハンドル部の角度を調整して、接触点直下から舌側歯頸部に沿うように指導した。b:歯間ブラシのワイヤー部分が歯頸部から浮いて、歯頸部の磨耗を生じさせていたので、歯頸部に沿うように指導した。
■おわりに
最後に、中等度の慢性歯周炎(45歳男性 主訴:歯肉出血)に対して、歯周基本治療時に歯間ブラシが定着し、現在、サポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)を継続している初診から27年間良好に経過している長期症例を呈示する1)(図17〜18)。
初診時、歯間ブラシは使用していなかった(表1)。
歯周基本治療時、辺縁歯肉の急性炎症の消退に伴い、歯間ブラシを導入し、その後、約27年間、適切に適応することで良好にSPTを継続している。
図17 歯間ブラシ定着長期症例 45歳男性
a:初診時1989年6月、b:SPT開始時(1992年11月)、c:SPT継続時(2016年2月)
図18 歯間ブラシ定着長期症例 45歳男性
a:初診時、歯間ブラシ不使用(1989年6月)、b:SPT開始時(1992年11月)歯間ブラシ定着、c:SPT時(2010年3月)歯間ブラシSSは、適切に使用されている。d:SPT時(2016年2月、初診から27年経過)
表1 口腔清掃習慣の推移
- 1)安藤和枝、日比麻未、千田美和、早川純子、山口みどり、稲垣幸司、野口俊英:歯の病的移動を伴う慢性歯周炎症例の長期臨床経過.日歯周誌,49(3):250-256, 2007.
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