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歯間ブラシ サイズチェッカーの必要性の背景 その意義とは?

愛知学院大学短期大学部歯科衛生学科 稲垣 幸司

キーワード:歯間清掃/歯間ブラシ サイズチェッカー

目 次

はじめに

本邦では、これまで経験したことのないような超高齢化社会を迎え、自分の歯で物を噛み、多くの人と楽しく会話をすることの重要性が、歯科界はもちろん、一般社会においても強く認識されている。
したがって、口腔を健康に保つことは、単に食物を咀嚼するという観点からだけでなく、全身の健康に関連し、食事や会話を楽しむ等、より豊かで快適な人生を享受するために必要不可欠である1)
歯周炎における組織破壊は、口腔内細菌叢の量的・質的構成異常(dysbiosis、ディスバイオシス)の結果誘発される炎症反応で、歯周炎罹患組織では歯周ポケットが形成され、嫌気性細菌が増殖している。歯周ポケット内面の一部では上皮細胞の連続性が破壊されることにより潰瘍面が形成され、易出血性になり、歯周組織だけでなく全身的に軽微であるが、慢性的な炎症状態を持続させ、様々な疾患の発症・進行リスクを高めると考えられている1)
その結果、糖尿病、妊娠合併症、心血管疾患、代謝性疾患や肥満、関節リウマチ、特定の癌、呼吸器疾患、アルツハイマー病を含む認知症等、50以上の全身疾患が歯周炎と独立して関連していることが判明してきた1~4)

歯科疾患実態調査結果からみた口腔疾患の現状

2016年歯科疾患実態調査5)によると、毎日歯を磨く者の割合は、およそ95%以上で、毎日複数回歯を磨く者の割合も年々増加し、77%となっている。
一方、う蝕をもつ者の割合は、5~10歳の年齢階級では10%程であるが、20歳以上の各年齢階級では、急激に増加し、どの年齢層も8割以上である。過去の調査と比較すると、5歳以上25歳未満の各年齢階級では減少する傾向を示したが、45歳以上では、特に、高齢者になるほど、より増加傾向を示している。
次に、歯周病所見は、15歳未満では、歯肉に所見のある者、検査対象歯のない者は少ないが、15歳以上ですでに、約7割、30歳以降から、約8割の者が歯肉に所見がみられ、およそ8割の国民が歯肉炎を含めて歯周病に罹患しているといわれている。さらに、4mm以上の歯周ポケットを持つ者の割合(歯周炎)は、30歳以降で2割以上、45歳以降で3割以上、55歳以降で4割以上となり、2005年同調査と比較すると、30~60歳代では低くなる傾向を示したが、65歳以上の高齢者層では高値を示している5)
すなわち、多くの国民が、う蝕や歯周病にならないために、毎日、歯を磨いているにもかかわらず、う蝕や歯周病の罹患率は高く、むしろ増加傾向にある。

国民の口腔疾患の背景に潜む課題 ―歯間清掃の現状―

その疑問を解く鍵が、歯間清掃用具の使用頻度とその使用法、適応時期にある。歯周病とう蝕の共通の好発部位は、歯間部である。その歯間部の清掃は、歯ブラシだけでは不可能であり、歯間清掃用具が必須となる。
一方、歯間清掃用具の使用頻度は、健康日本216)では、歯周病予防のための40、50歳における歯間清掃用具使用者の2010年目標値を、50%以上としているものの、1999年保健福祉動向調査によると7)、約25%(35~44歳36%、45~54歳32%)程度である。その後の2010年国民健康・栄養調査8)では、デンタルフロス約13%、歯間ブラシ約20%に留まっている。
さらに、2016年歯科疾患実態調査5)では、歯間清掃を行っている者は約31%と、1999年から2016年にかけて、それほど、歯間清掃用具使用者が増えていないのが現状のようである。
男女別にみると、ほぼすべての年代で女性の方が歯間清掃を行っている者の割合が高く、特に、40~70歳代の女性は、5割以上が歯間清掃を行っているが、最大でも、55~59歳で、約63%である。

歯間部歯肉の組織構造 ―歯間部歯周組織が頑強であればいいのですが!―

歯間部歯肉はコルと呼ばれ、形態的には鞍状形態(凹面形態)をしている(図1)。このくぼみに、プラークが停滞しやすく、かつ、歯肉は構造的に角化が粗な弱い上皮組織で被覆されていることから、歯周病関連細菌が停滞、侵入しやすく、歯ブラシだけでは、除去できないため、歯間清掃用具を適切に用いないと、う蝕、特に、歯周病に罹患しやすいことになる。
症例は、歯間清掃を怠り、歯間部が歯周炎に罹患し、慢性に経過した典型的な歯周病患者(歯周病新分類9、10) 広汎型慢性歯周炎 ステージⅣ、グレードC、図23)である。歯周基本治療を行い、再評価後、47歯だけは抜歯に至るも、現在は27歯の歯周ポケットは改善され、サポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)に移行した(図4、5)。本症例の歯周ポケット炎症面積を算出した歯周炎症表面積(Periodontal Inflamed Surface Area、PISA)11) は、1999年初診時、PISA 1,738.8mm2から、19年後の2018年SPT時、PISA 22.7mm2と改善された(図5)。したがって、歯科医師や歯科衛生士は、歯周基本治療時に、う蝕や歯周病の好発部位である歯間部への歯間清掃用具の使用を徹底し、適切な使用を継続させることが急務である。

  • [写真] 歯間部歯肉の形態
    図1 歯間部歯肉の形態。
  • [写真] 初診時の口腔内写真
    図2 54歳女性。初診時の口腔内写真、デンタルX線写真(1999年12月)。
  • [図] 初診時の歯周組織検査所見(1999年12月)
    図3 初診時の歯周組織検査所見(1999年12月)。歯間部を中心に深いプロービングデプスがみられていた
  • [写真] SPT時の口腔内写真(73歳時、2018年3月)
    図4 SPT時の口腔内写真(73歳時、2018年3月)。
  • [図] 歯周炎症表面積
    図5 SPT時の口腔内写真(73歳時、2018年3月)。*PISA:歯周炎症表面積(Periodontal Inflamed Surface Area)11)

歯間清掃用具導入の救世主、登場! その名は!?「歯間ブラシ サイズチェッカー」

歯間清掃用具の効率的かつ歯周組織への損傷の少ない使用法は、拙稿12~14)、拙書15)を参考にしていただきたい。国民の8割が罹患する歯周病を予防するためには、歯肉炎が発症しやすい若年期での歯間清掃用具の確実な導入と定着による歯間部炎症のコントロールが重要である。そこで、その目的達成のために考案した「歯間ブラシ サイズチェッカー(measuring instrument for selecting proper interdental brush size、(株)YDM)(図6表1)」を紹介する。 

  • [図] 歯間ブラシ サイズチェッカー拡大図
    図6 歯間ブラシ サイズチェッカー拡大図。
  • [表] 歯間ブラシ サイズチェッカーの仕様
    表1 歯間ブラシ サイズチェッカーの仕様

「歯間ブラシ サイズチェッカー」の出番は? いつ、どんな時に!

歯肉退縮がなく、歯間乳頭部に空隙(ブラックトライアングル)がないようにみえ、まさか、歯間ブラシが挿入できるとは思わない歯間部(図7)に、歯間ブラシ サイズチェッカーを適用する。歯間ブラシ サイズチェッカーにより、歯間ブラシの挿入が可能であるか、挿入できる場合に、どのサイズの歯間ブラシを選択するべきかを判定できる。
歯間ブラシのサイズは、DENT.EX歯間ブラシ(ライオン歯科材(株))では、4S(最小通過径0.6mm~)~LL(最小通過径2.2mm~)までの7種類があり、歯間部のサイズに応じて選択する(図8)。一般的に、歯間ブラシは、歯周病に罹患した患者が使用するというイメージがあるが、ワイヤー強度の向上に伴い、極細の4SやSSSタイプが追加され、健康な歯周組織や軽度の歯肉炎症例に対しての適応が可能になった12~15)

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