182号 AUTUMN 目次を見る
Clinical Report
Er:YAGレーザーが可能にする天然歯の保存
キーワード:天然歯保存/Er:YAGレーザーを活用した歯周組織再生療法
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ インプラントと天然歯の共存
- ≫ Er:YAGレーザーを活用した歯周外科手術
- ≫ 症例1
- ≫ 症例2
- ≫ 多くの天然歯が保存できる時代へ
はじめに
歯周病が進行している患者でも条件が揃えば歯周基本治療による非外科的な対応や歯周組織再生療法に代表される外科的対応により個々の天然歯歯周組織の安定を得ることが可能です。さらに、欠損部に対してインプラント治療が応用できれば天然歯を切削して連結する歯周補綴を回避できるだけでなく、臼歯部サポートを獲得することで従来の歯周治療では行えなかった天然歯の予知性を高めることができる時代となりました。だからこそ、歯周病患者さんを拝見させていただくたびに、抜歯してインプラント治療で機能回復しようか、歯周治療を行って天然歯として保存しようか…、私も皆さんと同じく日々悩みながら歯科臨床を行っています。
インプラントと天然歯の共存
2004年に初めて白鳥歯科インプラントセンターでインプラント埋入手術を担当させていただいてから18年、藤沢歯科ペリオ・インプラントセンターを開業して12年が経過しました。
年間250~300本前後のインプラント治療に携わる中で、インプラント治療によって天然歯が保存できたという症例を経験しながらも、自分で治療計画を立案し、埋入手術から補綴処置を行って、メインテナンスまで関わる症例ではインプラント周囲炎や脱落はないはず…、と思っていても、ある一定数行えば確率論として様々なことを経験することとなります。特に歯周病の既往歴のある患者は将来の歯周病再発リスクが存在するだけでなく術後5年目や7年目にインプラント周囲炎の発症リスクが高くなると論文でも示されており1、2)、程度の差はあれ私自身の臨床実感とも一致するところです。
そこで現在は、「インプラント治療が良い」とか、「天然歯を保存した方が良い」という観点ではなく、将来、インプラントと天然歯が共存する環境で患者さんの咀嚼機能と歯周環境を良好に保ちながらメインテナンスしやすいか?といった視点で治療計画を立案しています。天然歯の予知性を高める部分に必要最小限のインプラント治療を活用して、歯周組織の安定が臨める部位に歯周組織再生療法を適応するなど、メインテナンスのしやすさと将来の再治療しやすい環境を考慮した歯周治療が大切だと思います。
Er:YAGレーザーを活用した歯周外科手術
天然歯歯周組織を良好な環境に改善するために歯周外科の術式を検討しますが、従来では適切なデブライドメントを行うことのできるWidman改良法や歯周ポケット減少を目的とした切除療法しか選択できませんでした。しかしエムドゲイン(EMD)や骨移植材を併用した歯周組織再生療法の登場により、骨欠損状態を切除するのではなく、増大させることで骨の平坦化ができるようになりました3)。
さらにEr:YAGレーザーを活用することで既存の器具では取り切れなかった炎症性肉芽組織の除去を効率的に行い、器具が届きづらい歯根遠心部や幅の狭い骨欠損内、分岐部などへのアクセスが可能となって、確実なデブライドメントが期待できるようになりました。また、Er:YAGレーザーを活用した歯周組織再生療法では,注水による明視野での手術が可能となるだけでなく、術部に炭化層が残らないことと根面にスメアー層が形成されないことから、歯周組織の再生に対して有利に働きます4~6)。今までであれば経験を積まなければ達成できないような歯周組織の再生がEr:YAGレーザーの活用によって飛躍的に高まるのではないかと感じています。
そこで今回、Er:YAGレーザーを活用して歯周組織再生療法を適応した症例を提示しながら歯周病患者における天然歯保存の可能性について、その治療戦略を考察してみたいと思います。
症例1
48歳女性。臼歯部の咬合時痛を自覚して来院。現病歴としては、長い間、歯科医院を受診したことはなく、全体的な歯周病が気になっていた。特に最近になって右下奥歯をはじめ、臼歯部における咬合時痛を自覚。全身既往歴に特記事項は無い。初診時の口腔内写真を図1-1に示すが、全顎にわたって歯石が沈着し,歯肉の発赤・腫脹を認めた。16・27・45・47には深い垂直性の骨欠損と大臼歯部にⅢ度の根分岐部病変を認め(図1-2)、歯肉からの出血と排膿を認めた。広範型慢性歯周炎ステージⅢグレードBの歯周炎と診断して、確定的な歯周外科処置を含む歯周治療を計画した。27・45・47は保存不可能なため抜歯を行い、下顎前歯部ならびに、上顎大臼歯部は歯周基本治療を行いながら歯の予知性を判断した。16はⅢ度の根分岐部病変を有し、根尖に及ぶ骨欠損を認めた(図1-3)ため抜歯を検討したが、歯肉レベルが保たれていたことから、歯周組織再生療法を適応して経過良好であれば歯の保存を検討した。歯内療法を先行し、数ヵ月の治癒期間をおいてから、Er:YAGレーザーを用いて不良肉芽の除去とデブライドメントを行って、EMD+骨移植材による歯周組織再生療法を行った。図1-4に示すとおり、遠心頰側根は術中のルートリセクションを検討するほど周囲の歯槽骨は吸収が進行していた。根分岐部病変における不良肉芽をEr:YAGレーザーを用いて除去し(図1-5)、歯根面のデブライドメントを行った(図1-6)。この遠心頰側根を支えとして吸収性メンブレンを設置したのちに、EMD+骨移植材による歯周組織再生療法を適応し、フラップを閉じた(図1-7)。3ヵ月の治癒期間をおいた後、この遠心頰側根のみ根切除を行い、プロビジョナルレストレーションにて機能と歯周組織の安定を確認した。45にインプラント埋入を行うと同時に隣接する天然歯周囲に歯周組織再生療法を適応した。3ヵ月の治癒期間を経てから最終補綴物を装着、SPTへ移行した。3ヵ月ごとのSPTを行い、現在6年が経過している。全顎的に歯周組織は安定し、良好に経過している(図1-8~10)。
図1-1 初診時の口腔内写真。全顎的にプラーク、歯石の沈着、歯肉の発赤・腫脹を認めた。特に上顎両側大臼歯部や下顎右側臼歯部に著しい炎症所見が確認できる。-
図1-2 初診時のパノラマX線写真。上顎両側大臼歯部に垂直性の骨欠損を認め、特に16・27・45・47は根尖に及ぶ骨吸収像が観察される。(使用CT:Planmeca社製CT) -
図1-3 上顎右側の口腔内写真。16は根尖におよぶ歯周組織の破壊が観察される。 -
図1-4 フラップを剥離した時の口腔内写真。なるべく歯肉を切除しないようにフラップを剥離し、不良肉芽と歯石、骨欠損状態を確認する。
図1-5 Er:YAGレーザーを用いた根面のデブライドメント。Er:YAGレーザーを用いて不良肉芽を除去し、超音波スケーラーで歯石を除去すると頰側遠心根の周囲には骨が存在しないことが確認できる(注水、PSM600T、20pps、50mj)。-
図1-6 EMDと骨移植材を併用した歯周組織再生療法。徹底的な根面のデブライドメントを行った後、EMDを塗布。遠心頰側根を支えとして吸収性メンブレンを設置し、その内方と骨欠損部分に骨移植材を充填する。 -
図1-7 歯周組織再生療法終了時の口腔内写真。Er:YAGレーザーによりⅢ度の根分岐部病変における不良肉芽の除去や根面のデブライドメントが、短時間で可能となる。 -
図1-8 SPT移行6年経過時の16口腔内写真。歯周外科から3ヵ月の治癒期間をおいて遠心頰側根のみ抜根。その後、プロビジョナルレストレーションにて歯周組織の安定を確認してから最終補綴に移行し、現在6年が経過する。 -
図1-9 SPT移行6年経過時の口腔内写真。プラークコントロールは良好で、全顎的に歯周組織は安定している。特に歯肉の炎症が強かった上顎右側大臼歯部や下顎右側臼歯部の歯周組織は良好に経過している。 -
図1-10 SPT移行6年経過時のX線写真。全顎的に歯槽硬線が明瞭となり、根尖に及ぶ骨吸収が観察された上顎右側大臼歯部の深い垂直性骨欠損は改善し、骨の平坦化が認められる。
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