182号 AUTUMN 目次を見る
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千葉県柏市
有限会社オーテクノフィールド
歯科技工部長
御厩敷 真也
コバルトクロム合金は歯科補綴物合金として以前より扱われてはいたものの、高温鋳造に対応した専用鋳造器が必要であるなどの理由から、取り扱いには多少なりとも難点がありました。しかし、近年では歯科鋳造用金銀パラジウム合金をはじめとした歯科補綴物合金の価格が高騰していることを受け、比較的安価であり、クラスプなど硬度がありメタルとして性能が高いコバルトクロムが注目されるようになりました。
こうしたことを背景に、当技工所でも3年ほど前に高融点金属に対応した歯科技工用高周波遠心鋳造器「サーモトロールⅢ」を導入しました。
複雑な形状の鋳型でも先端の細部にまでしっかりと溶湯が入り、メタルに置き換わる、それが「サーモトロールⅢ」を使用した率直な感想です。コバルトクロム合金は鋳造収縮率が大きいなどの理由から、適合精度を高めるためには石膏模型製作や鋳造など、さまざまな工程で相応の注意が必要です。
特に鋳造工程は、鋳込みが完了するまでの間に膨大な時間がかかり、鋳造欠陥を起こせば時間も材料も無駄になるため、信頼が置ける鋳造器を選択する必要があります。
鋳造欠陥にはいくつかの原因があり、いわゆる“なめられ”と呼ばれる、辺縁が丸みを帯びる「湯まわり不良」は起こりやすい欠陥の1つです。鋳造器には大きく分けて、遠心鋳造器と真空加圧鋳造器がありますが、「サーモトロールⅢ」は遠心力による高い鋳込み能力によって湯まわり不良が起こりにくい印象があります。
これは個人的な経験則ではありますが、当技工所においては鋳造器側のトラブルでこれまで欠陥を起こしたことはなく、主な欠陥の原因としてはキャストのタイミングが関係していました。逆にいえば、キャストのタイミングが見極められるか否かが成功の鍵だといえます。
具体的なタイミングについて、図5~9で説明したいと思います。図5は融解したメタルの表面に膜が張り、“シャドー”ができ始めた状態です。その後、シャドーは徐々に周辺から消えていきます(図6、7)。そして、表面の膜が割れ始め、ポンと弾ける瞬間がキャストの適切なタイミングとなります(図8、9)。時間にすると0コンマ何秒といった短い時間です。
メタルが完全な融点に達していないと、鋳型の細部まで溶湯が流れ込む前に金属が凝固し、先端部分が欠落してしまいます。また、十分な融解が必要ではあるものの、キャストタイミングを少しでも超過するとオーバーヒートとなり、焼き付きが起こるため、適合が悪くなります。
こうしたタイミングは毎回、オペレーター自身が目視窓から確認して見極める必要があります。タイミングを掴むまではトライ&エラーを繰り返さなくてはならないと思いますが、一度、コツを掴めば、それほど難しいことではありません。
貴金属相場の著しい高騰が続くなか、これからコバルトクロム合金の取り扱いを検討している歯科技工所は多いのではないでしょうか。これまで接したことのないマテリアルを扱うことは、技術職である歯科技工士にとってはハードルが高く、コツを掴むまでには導入期間を設ける必要もあります。しかし、「サーモトロールⅢ」は価格帯が安く設定されているため、導入のハードルはその分、低いものと思います。
また、リングをセットしてから鋳造までにかかる時間は短時間であり、200Vの電源が用意できればアルゴンガスなどのボンベも不要のため、場所を取らないといったメリットもあります。
今後もコバルトクロム合金のニーズは高まることが予想されます。そうした中、高融点金属に対応した鋳造器の導入を考えている方にとって、コストパフォーマンスがよく、信頼のおける「サーモトロールⅢ」は強い味方になってくれると思います。
図1 「サーモトロールⅢ」はW460×D390×H390mmとコンパクト設計。ボンベ類が不要のため、限られたスペースにも設置が可能。-
図2 メタルをルツボに投入後、回転の重心が回転軸にかかるようにバランスウェイトを調整。 -
図3 メルトキーを押すと金属融解が始まる。高周波による高速昇温のため、短時間で金属が融解される。 -
図4 融解が始まると表面に膜が張り、シャドーができはじめる。 -
図5 シャドーは周辺から徐々に消えていく。 -
図6 完全にシャドーが消えた状態。 -
図7 膜が割れ始める。 -
図8 膜が弾け割れた瞬間。このタイミングが適切なキャストタイミングとなる。 -
図9 サーモトロールⅢでキャスト後研磨した金属床。 -
図10 鋳造時の巣なども無く無事にキャストが完了した。
「サーモトロールⅢ」を用いたコバルクロム合金の融解の様子はこちらでご覧いただけます。
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