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Field Report

メタルフリーを実現するCAD/CAM技術の方向性と合致した接着テクノロジー

東京都新宿区 医療法人社団研整会 西新宿歯科クリニック 理事長 草間 幸夫

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接着性レジンセメント「スーパーボンド」はフィラーを含有していないMMA系レジンセメントであるため、CAD/CAM冠の装着には向かないという話が以前はよく聞かれました。しかし、コンポジット系レジンセメントと比較すると柔軟性と粘り強さがあり、修復物に加わる衝撃を吸収するなど、実際には破折や脱離は少なく、当院でもそうしたトラブルはほとんど見られません。
スーパーボンドの応力に対する抵抗性は破折や脱離を防ぐ上では重要で、例えるならば、硬い歯科材料と柔らかい人間の組織とを手繋ぎしてくれる、そんなイメージに近いものだと思っています。
接着性についても、拡散促進モノマーである4-METAの高い接着力のほか、まだ仮説の域を出てはいませんが、重合開始剤に使用されるTBB(トリ-n-ブチルボラン)がマトリックス成分にくっつくのではないかと示唆する報告もあり、実際の臨床経験からも脱離しにくい実感があります。
2017年12月から下顎6番に限定して大臼歯におけるCAD/CAM冠が保険に適応されるようになりましたが、特に防湿が困難な大臼歯に対しては、ジルコニアであれ、オールセラミックであれ、スーパーボンドは有用ではないかと思います。
CAD/CAM冠の脱離を防ぐのには、この防湿が重要なポイントとなり、基本的にはドライな接着環境を確保することが必要です。しかし、実際には歯肉縁下のようにラバーダムやその他の防湿器具が使用できないケースは多々あるものです。そのような水分や空気が存在する環境下であってもTBBは重合が開始され、湿潤した口腔内でも高い接着性を示すため、通常の接着性レジンセメントのようにシビアになる必要がありません。
ただし、生活歯の場合にはセルフエッチングプライマー「ティースプライマー」を、失活歯でコンポジットレジンが詰められている場合にはコンポジットレジン部に「スーパーボンドPZプライマー」を塗布するといったプライマーの塗り分けは重要になります。また、CAD/CAM冠に対しては、サンドブラスト処理を行い、無機フィラーを露出させることとシランカップリング処理が欠かせません。
スーパーボンドの歴史は、矯正歯科用接着材料として発売された1982年に始まり、当院でも開業以来、幅広い用途で活用してきました。その間、安全性に関するさまざまな病理学的・細菌学的な研究が行われ、多くの臨床報告や長期経過報告も発表されてきました。例えば、増殖した新生骨が硬化したスーパーボンドに接着することが報告されるなど、その生体親和性の高さはよく知られるところです。
金属には金属アレルギーや細菌付着性などの問題があるため、当院ではCAD/CAM技術を活用したメタルフリーを基本的なコンセプトとしています。スーパーボンドは安全面に注力する当院の診療方針とも合致した材料だと言えるでしょう。近年、タービンの使い回しの問題が各報道機関で取り上げられるなど、安全に対する社会的な意識は高まり続けています。事実、来院される患者さんの中には金属アレルギーや生体親和性を気にされる方が増えています。体に悪いことを極力排除したいという日本人のニーズは今後も増すことが予想され、そうした時代において、歯科医師が活用できる材料のひとつがスーパーボンドであると考えています。

  • 図1 患歯は5 FMCの不適合で、CAD/CAM冠にすることとした。
    図1 患歯は5 FMCの不適合で、CAD/CAM冠にすることとした。
  • クラウンを除去した様子。メタルコアは金属色でディスカラーを起こす恐れがあるため除去する。
    図2 クラウンを除去した様子。メタルコアは金属色でディスカラーを起こす恐れがあるため除去する。
  • 直接法でCRコアをビルドアップし形成を行う。軸壁には3〜4mmのリテンションをつける。
    図3 直接法でCRコアをビルドアップし形成を行う。軸壁には3〜4mmのリテンションをつける。
  • 形成後の咬合面観。マージンのショルダーは全周1mmの幅を持たせ、咬合面と軸壁との面角はラウンドシェープに丸める。
    図4 形成後の咬合面観。マージンのショルダーは全周1mmの幅を持たせ、咬合面と軸壁との面角はラウンドシェープに丸める。
  • 模型上でCAD/CAM冠の作製を行う。食片圧入防止のため、面コンタクトを付与してもらう。高度に研磨をすることで表面の劣化を抑制できる。
    図5 模型上でCAD/CAM冠の作製を行う。食片圧入防止のため、面コンタクトを付与してもらう。高度に研磨をすることで表面の劣化を抑制できる。
  • 口腔内試適と調整が終わったら接着処理の直前に30〜50μmの粒径のアルミナを用い、0.1〜0.2MPa(1〜2バール)の圧力でサンドブラスト処理を行う。その後に無水エタノールで超音波洗浄を行う。
    図6 口腔内試適と調整が終わったら接着処理の直前に30〜50μmの粒径のアルミナを用い、0.1〜0.2MPa(1〜2バール)の圧力でサンドブラスト処理を行う。その後に無水エタノールで超音波洗浄を行う。
  • 十分に乾燥させたクラウン内面に2液を混和したスーパーボンドPZプライマーを薄く一層塗布する。
    図7 十分に乾燥させたクラウン内面に2液を混和したスーパーボンドPZプライマーを薄く一層塗布する。
  • 支台歯の歯牙の部分にはティースプライマーを塗布して20秒間待ち、その後乾燥させる。
    図8 支台歯の歯牙の部分にはティースプライマーを塗布して20秒間待ち、その後乾燥させる。
  • 支台歯のCRコアの部分に選択的にスーパーボンドPZプライマーを薄く塗布する。
    図9 支台歯のCRコアの部分に選択的にスーパーボンドPZプライマーを薄く塗布する。
  • モノマー液4滴にキャタリストV1滴を、冷却したミキシングステーション(別売)上のダッペンディッシュで良く攪拌し、素早くクラウン内面に混和泥を盛り支台歯に圧接する。
    図10 モノマー液4滴にキャタリストV1滴を、冷却したミキシングステーション(別売)上のダッペンディッシュで良く攪拌し、素早くクラウン内面に混和泥を盛り支台歯に圧接する。
  • 活性化液を含ませた筆で余剰セメントを素早くふき取るように除去する。
    図11 活性化液を含ませた筆で余剰セメントを素早くふき取るように除去する。
  • 隣接面の余剰セメントは修復物をしっかり圧接しながらフロス(ライオン歯科材DENT. e-flossなど)を用いて効率良く除去する。完全硬化まで5分以上保持したまま待ち、最後にハンドスケーラー(YDM 余剰セメント除去器など)を使用して完全に除去する。
    図12 隣接面の余剰セメントは修復物をしっかり圧接しながらフロス(ライオン歯科材DENT. e-flossなど)を用いて効率良く除去する。完全硬化まで5分以上保持したまま待ち、最後にハンドスケーラー(YDM 余剰セメント除去器など)を使用して完全に除去する。

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