164号 SPRING 目次を見る
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ 「カタナ® 3Dプリンター DWS-020D」とは
- ≫ 造形方式
- ≫ 造形精度
- ≫ 造形システム
- ≫ 模型造形用レジンラインナップ
- ≫ まとめ
はじめに
近年、デジタルデンティストリー技術の発展は目覚ましく、日本市場においては2014年4月にCAD/CAM用レジンブロックが保険適用されるなど、歯科治療のデジタル化が進んでいる(図1)。画像診断やインプラント治療では特にデジタル化が加速しており、また口腔内スキャナーを活用する検討も進んでいる(図2)1, 2)。
世界では数多くの口腔内スキャナーが販売されているが、国内においてもクラスⅡ管理医療機器として承認される口腔内スキャナーも増えてきており、今後、普及していくと予想される。
これまでのCAD/CAM修復では、印象材を用いて口腔内の印象を採得し、石こう模型を製作後、模型を卓上スキャナーによりスキャンすることで支台歯のデジタルデータを得ていたが、口腔内スキャナーを使用することで、直接口腔からデジタルデータを得ることが可能となる。
この治療ステップの利点としては、印象材を使用しないことにより、患者の負担軽減や交差感染防止がなされ、印象材や石膏などの医療廃棄物の削減に繋がる。
また、歯科医院と歯科技工所とのコミュニケーションがデジタルデータの送信のみになり、治療時間の短縮を図れることなどが挙げられる(図3)。
口腔内スキャナーの普及により、石こう模型なしで最終補綴物を製作することが可能となるが、多数歯欠損のコンタクト調整や陶材の築盛などに作業用模型が必要になると考えられる。この作業用模型の製作において活用されるのが3Dプリンターである。
3Dプリンターは工業界を中心に使用されている装置であり、切削加工と比べ材料ロスが少なく、さらに、一度に多くの造形物を製作することができる利点がある。
前述したように、口腔内スキャナーが普及し始めている環境下、弊社では新たな治療ステップに対応すべく、3Dプリンター「カタナ® 3DプリンターDWS-020D」の上市に至った(図4)。
以下に「カタナ® 3DプリンターDWS-020D」の特長を解説したい。
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図1-1 カタナ® デンタルスキャナーE3
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図1-2 歯科用CAD/CAMマシンDWX-52DC
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図2 口腔内スキャナー「TRIOS 3 オーラルスキャナ」
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図3 口腔内スキャナー導入による治療イメージ
「カタナ® 3Dプリンター DWS-020D」とは
「カタナ® 3DプリンターDWS-020D」はイタリアDWS社で開発された光造形3Dプリンターである。DWS社は、2007年の創業時より宝飾品のワックスパターン製作など小さな造形物を作ることに特化し、宝飾業界を中心に小型かつ高精度の3Dプリンターを世界60カ国以上で販売しており、その技術は高く評価されている。
「カタナ® 3DプリンターDWS-020D」はガルバノスキャナー方式と呼ばれる精度の高い造形方式を採用しており、付属の専用ソフトウェアNAUTA+とFICTORを併せて使用することで、模型に求められる複雑な形状と高い適合精度を得ることが可能である。造形方式などの詳細について次項目から説明する。
造形方式
3Dプリンターの造形方式は表1に示すようにASTM(米国材料試験協会)で7種類に分類される3)。歯科分野では、樹脂の造形には主として液槽光重合(vat photopolymerization)と材料噴射(material jetting)方式、金属の造形には粉末床溶融結合(powder bed fusion)方式の3Dプリンターが用いられており、「カタナ® 3DプリンターDWS-020D」では、液槽光重合方式を採用している。
一般的に液槽光重合方式の露光方法としては、DLPプロジェクターとガルバノスキャナーが使用される。DLPプロジェクターを用いた3Dプリンターは、X-Y面を一括して面で硬化するため短時間で造形が可能である。
しかしながら、図5のイメージに示すように、光のドット位置(光照射位置)が固定されてしまう。
一方、ガルバノスキャナーを用いた3Dプリンターでは、モーターでガルバノミラーと呼ばれる反射ミラーを動かすことによりレーザー光を走査し、線で硬化させる。そのため、レーザー光の走査に時間がかかるものの、外周部(造形後に表面に露出する部分)をなぞって硬化させることが可能で、造形物表面に滑らかさを付与することができる。
また、液槽光重合方式には吊り下げ式(自由液面法)と吊り上げ式(規制液面法)の2種類の造形方法がある。吊り下げ式とは、樹脂が入ったタンク内に設置されたプラットフォームにタンク上面から光を照射しながらプラットフォームをタンク内の樹脂中に沈めていく方法であり、硬化面が開放系であるため自由液面法と呼ばれる(図6)。
一方、吊り上げ式とは、樹脂トレー上部に設置されたプラットフォームとトレーに挟まれた樹脂にトレー下面から光を照射しながらプラットフォームを引き上げていく方法であり、強制的に硬化面が平面になるため規制液面法と呼ばれている。吊り上げ式は、吊り下げ式と比較して少量の樹脂で造形することが可能であり、またトレーごと樹脂を容易に交換できるメリットがある(図7)。
「カタナ® 3DプリンターDWS-020D」は、ここまで説明した造形方式のうち、露光方法にガルバノスキャナー、液槽重合方式に吊り上げ式を採用した3Dプリンターで高い造形精度と使いやすさを兼ね備えている。
造形精度
表2に「カタナ® 3DプリンターDWS-020D」の仕様を示す。「カタナ® 3DプリンターDWS-020D」では、高精度な造形を実現するために、幅50μmのレーザー光を使用している。レーザー光の幅は造形精度に大きく影響を及ぼし、幅が大きいと模型のマージン等の細かな部分の再現が難しくなる。
図8に「カタナ® 3DプリンターDWS-020D」で造形した模型の写真を示す。50μmのレーザー光をガルバノスキャナーで走査して造形した模型表面は非常に滑らかで、実使用上、十分な精度を有している。
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図4 カタナ® 3DプリンターDWS-020D
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表1 3Dプリンターの造形方式3)
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図5 ガルバノスキャナーとDLPプロジェクターの特徴
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図6 吊り下げ式のイメージ図
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表2 仕様一覧
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図7 装置寸法 吊り上げ式のイメージ図
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図8 造形した模型
造形システム
模型の造形においては、まず口腔内スキャナーで読み取ったデジタルデータを模型データへ加工するCADソフトウェア(例:Model Builder (3shape社))を用い、造形する模型のSTLデータを製作する。
その後、得られたSTLデータを「カタナ® 3DプリンターDWS-020D」に標準装備されているソフトウェアであるNAUTA+とFICTORを用いてネスティング、出力を行う(図9)。
NAUTA+は模型データへのサポート付与や複数の模型データのネスティングを行うソフトウェアであり、オートサポート機能等が搭載されている。FICTORは3Dプリンターの操作やNAUTA+でネスティングしたデータを3Dプリンターへ出力するソフトウェアである。また使用する樹脂に対応した標準パラメーターが設定されており、走査スピード等の設定変更はFICTOR上で行うことが可能である。
このようにCADソフトウェアによる口腔内スキャンデータからの模型データ製作、NAUTA+およびFICTORでの模型データのネスティング、出力のプロセスを完全にデジタル化することが可能である(図10)。
模型造形用レジンラインナップ
最後に、「カタナ® 3DプリンターDWS-020D」用の模型造形用レジンのラインナップを図11に示す。様々な色調を揃え、使用用途に応じて色調を選択することが可能である。
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図9 NAUTA+、FICTORの操作画面
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図10 造形の一連の流れ
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図11 「カタナ® 3Dモデルレジン」ラインナップ
まとめ
「カタナ® 3DプリンターDWS-020D」は、高い造形精度と使いやすさを兼ね備えたシステムであり、口腔内スキャナーの普及による歯科治療のさらなるデジタル化をサポートするものと考える。
本製品が少しでも歯科治療の発展に貢献できれば幸いである。
- 1)QDT 別冊 デジタルデンティストリーイヤーブック2016.
- 2)QDT 別冊 デジタルデンティストリーイヤーブック2017.
- 3)ASTM international, Designation: F2792− 12a, StandardTerminology for AdditiveManufacturing Technologies..
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