168号 SPRING 目次を見る
キーワード:フレーム用ジルコニア、HT・LT、透光性と遮蔽性のバランス
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ LTの性能(適度な遮蔽性と信頼性のある強度)
- ≫ HTとLTの推奨症例と製品構成
- ≫ HTとLTの使用例
- ≫ 短時間焼成
- ≫ まとめ
はじめに
近年、さまざまな分野でデジタル化技術が進み、歯科材料領域においてもCAD/CAM技術の導入によって、材料および補綴物の製作方法に大きな変化が起こっている。
CAD/CAM技術が導入される以前の審美補綴は、鋳造された金属フレームに陶材を築盛して焼き付ける方法が一般的であった。この方法では、金属の色調が透けて補綴物全体が暗い仕上がりになったり、オペークを使うことで明るい仕上がりになる代わりに奥行きのない平坦な色調の補綴物になったりした。さらに、歯肉が退縮した際に歯肉縁上に金属部分が露出する、いわゆる「ブラックマージン」が発生するなど、審美的には多くの問題が残っていた。
また、金属アレルギーや貴金属価格の高騰など審美面以外の問題もあり、歯科材料領域においても「脱金属」を望む声は高まっていった。
このような状況において、CAD/CAMによる無機材料の加工技術が審美補綴領域にも導入され、ジルコニアなど高強度な無機材料のフレームが注目をあびることになった。
当社もフレーム用ジルコニアとして、「ノリタケカタナ® ジルコニアHT(図1左、以下HT)」を発売し、「セラビアン®ZR(図2)」と併用することで多くの審美補綴で用いられてきた。
HTは透光性のあるジルコニアで、この材料をフレームに用いることにより、支台歯の色調を活かした奥行きのある高い審美性の補綴物作製が可能となっている。
しかし、実臨床では、必ずしも支台歯の色調を活かせるようなケースばかりでなく、変色歯や金属支台歯など、支台歯の色調を遮蔽しながら審美的な補綴物に仕上げることを要求されるケースもある。
このようなケースに対応したフレーム材料として、新たに「ノリタケカタナ® ジルコニアLT(図1右、以下LT)」を発売した。これにより、当社ではHT、LTの2種類のフレーム用ジルコニアをラインナップし、より多様な審美要求に応えられる材料を提供することになった。
本稿では、新製品であるLTの性能、HT、LTの臨床での推奨症例・使用例およびHT、LTの焼成条件について解説する。
図1 ノリタケカタナ® ジルコニアHT(左)とLT(右)
※HT:ハイトランスルーセント
LT:ロートランスルーセント
図2 セラビアン®ZR アソートメントキット
LTの性能(適度な遮蔽性と信頼性のある強度)
LTは変色歯や金属支台歯など、支台歯の色調を遮蔽するため、HTよりも低い透過率に設定されている。しかし、透過率が低すぎると支台歯の色調を完全に遮蔽できる代わりに、フレームでの反射が強く不透明になり、奥行きのない色調の補綴物になってしまう。
そこで支台歯の色調を遮蔽しつつ、補綴物に仕上げた際に可能な限りの透光感がでるように、透光性と遮蔽性のバランスをとった設定となっている。
図3に「金属支台歯」、「金属支台歯+HT製フレーム」、「金属支台歯+LT製フレーム」の3つの写真を示した。「金属支台歯+HT製フレーム」は金属支台歯の影響を受けて暗くなっている。一方、「金属支台歯+LT製フレーム」は、「金属支台歯+HT製フレーム」よりも金属色を遮蔽して、明るい仕上がりになっていることが写真からもわかる。
図4にHTとLTの透過率を示した。LTはHTよりも透過率が約11%低く、この透過率の違いによってLTは支台歯の色調の遮蔽が可能になっているといえる。
また、図5に示したとおり、機械的強度についてもフレーム用途として充分な実績のあるHTと同等である。したがって、LTはフレーム用ジルコニアとして信頼性のある強度を有していると考えられる。
図3 HT製フレームとLT製フレームの比較(フレームの厚みは0.4mm)
図4 HTとLTの透過率の比較
図5 HTとLTの機械的強度の比較
HTとLTの推奨症例と製品構成
HTとLTのそれぞれの推奨症例を図6に示した。
HTは、支台歯色を活かしたいケースや、陶材の築盛スペースが確保できないケースのように透光性が必要な症例に適している。
一方、LTは変色歯や金属など支台歯色を遮蔽したいケースに適している。
HTとLTはそれぞれ10、12、13の3種類の色調ラインナップ(図7-1)があり、それぞれ「セラビアン®ZR」と組み合わせることで、図7-2に示すような最終補綴物の色調を再現することができる。
図6 HTとLTの推奨症例
図7-1 HTとLTのラインナップ
図7-2 セラビアン®ZRとの組み合わせによる目標シェード
HTとLTの使用例
HTとLTのそれぞれの使用例について、以下に実臨床のケースで示す。
1) LTの使用方法例
LTの使用例を図8に示した。臨床例としては、初診時の写真のように、上顎中切歯のメタルボンドのマージン部に間隙が確認され、審美性の改善を行った症例である(図8①)。
支台歯が金属であることからフレームにLTを選択し(図8②)、築盛陶材に「セラビアン®ZR」および「セラビアン®ZRプレスLF」を用いている。
図8③に示すように、比色結果としてA3を目標色とし、LT13を選択してフレームを作製した。この時点で金属支台歯であるにも関わらず、ある程度金属色の遮蔽ができていることがわかる(図8④)。
また、本症例は明度が低い症例であり、金属支台歯を遮蔽する目的でLTを選択したことで明度が上がるため、築盛陶材により明度を低く調整をすることが重要なポイントである。
まず、仮想支台歯を製作し、金属色遮蔽度を確認した(図8⑤)。フレームの厚みにもよるが、金属支台色の遮断が不足している場合にはシェードベース(以下SB)を第一層目に築盛する必要がある。その後の築盛においては、通常の方法で良いかと思われるが、全体的に明度が上がってしまうためにインターナルステイン等でその対処をすることもある。
本症例では、金属色が歯冠半分程度であるためにSBは使用せず、彩度を調整するためにシェードベースステインSSA3を使用した。
その後、歯冠形状再現のためにオペーシャスボディOBA3、ボディA3B、エナメルE3、ラスターLT1を用いて築盛を行った。さらに、ラスターLT-NaturalやT-Blueなどを用いて細部の再現を行い、最終補綴物が完成した。
図8⑥にセメンティング後の状況を示した。完成した補綴物は、金属支台歯の影響を感じさせない、奥行きのあるものになっていることがわかる。
図8の症例は、古家豊先生(株式会社カロス)よりご提供いただいた症例である。
① 初診時の写真
(上顎中切歯のメタルボンド)
② 支台歯の状況
③ 目標色決定
(目標色としてA3を設定)
④ ジルコニアフレームの試適
(A3を目標にLT13を選択)
⑤ 遮蔽度確認用仮想支台
⑥ 完成、接着後
2) HTの使用例
HTの使用例を図9に示した。臨床例としては、初診時の写真のように左下中切歯のスペースに補綴隙が確認され、審美性の改善のため生活歯のまま右下中切歯から左中側切歯の3ユニットブリッジを適用した症例である(図9①、②)。
フレームにはHT、築盛陶材には「セラビアン®ZR」を使用している。
本症例では、図9③の模型に示したとおり右下中切歯の修復スペースが非常に少なく、支台歯の色調に全く問題がないため、支台の色調をある程度透過させながら調和を図るべくHTを選択している。
目標色をA1とし、HT12を選択してフレームを作製した(図9④)。
まず、下地の調整をするための第一層および第二層は彩度と透光性を調整する目的で、オペーシャスボディOBA1とボディA1Bを1:2で混合したものを使用して築盛した。
この時、第一層目の築盛・焼成後に、インターナルステインA+をフレームマージンのエッジ部分から歯頸部寄り1/3までごく薄く塗布している。これにより、ホワイトラインを隠すだけでなく、グラデーションをほどこすことでA1シェードの雰囲気を作っている。
歯冠の回復は、ボディA1Bにより概形を回復し、カットバック、指状構造の付与を行った後、エナメルE2を築盛した。
内部構造確認のため一度焼成した後、インターナルステインにより、切端寄り1/3のブルーグレー層をインサイザルブルー2で、切縁中央部付近のオレンジ様はサービカル2にて表現した。
焼成後、透明度の高いエナメル色が認められたためトランスルーセントにて全体を覆い、最終補綴物を完成させた(図9⑤)。
図9⑥にセメンティング1週間後の状態を示した。高い審美性を再現できたことが確認できる。
図9の症例は、デンタルマガジン150号で山田和伸先生(株式会社カスプデンタルサプライ/カナレテクニカルセンター)によりご寄稿されたTECHNICAL REPORTを再編したものである1)。
① 初診時の写真
(右下中切歯から左下側切歯の3ユニットブリッジ)
② 支台歯の状況
③ 補綴物作製用模型
(右下中切歯は修復スペースが非常に少ない)
④ ジルコニアフレーム
(目標色をA1としHT12を選択)
⑤ 最終補綴物
⑥ セメンティング1週間後- 図9 HTの使用例(右下中切歯から左下側切歯の3ユニットブリッジケース)
デンタルマガジン150号で山田和伸先生(株式会社カスプデンタルサプライ/カナレテクニカルセンター)によりご寄稿されたTECHNICAL REPORTを再編1)
短時間焼成
HTとLTは通常焼成と短時間焼成の2種類の焼成スケジュールがある(図10)。
通常焼成では焼成時間が約7時間かかるが、2018年6月21日に発売した焼成炉「カタナF-2N(図11)」を用いることで、単冠、ベニア、インレー、アンレーのケースで短時間焼成での焼成が可能になった。
これにより単冠のケースでは約90分という短時間での焼成が可能になっている。短時間焼成の実現で、作業効率の向上に大きく寄与するものと考えている。
図10 HTとLTの焼成スケジュール
図11 カタナF-2N
まとめ
当社のフレーム用ジルコニアとして、従来からのHTに加えて、LTを用意させていただいた。これにより、変色歯や金属支台歯のような支台歯色を遮蔽したいケースにも対応し、様々な臨床ケースにおいて高い審美性の補綴物が作製できるラインナップになったと考えている。これらの製品を通じて、患者の満足度が高い審美補綴に寄与できれば幸いである。
- 1)山田和伸:ノリタケカタナジルコニアHTを応用したジルコニアオールセラミックス修復の技工. デンタルマガジンVOL.150, 72〜75, 2014.
- 2)増田長次郎:今日から実践包括的審美歯科技工機能的咬合面形態とポーセレンレイヤリング. 医歯薬出版, 2016.
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