189号 SUMMER 目次を見る
Field Report
口腔機能発達不全症への取り組みとガムを用いた口腔機能トレーニング
目 次
- ≫ 林志穂 副院長
- ≫ 梶岡幸枝 歯科衛生士
- ≫ 高橋麗香 言語聴覚士
- ≫ 保護者の方にもお話を伺いました
- ≫ 症例紹介
名古屋市昭和区
坂井歯科医院
-
副院長
林 志穂 -
歯科衛生士
梶岡 幸枝 -
言語聴覚士
高橋 麗香
<林志穂 副院長>
口腔機能発達不全症は、器質的に異常はないが、「食べる機能」「話す機能」「その他の機能」が十分に発達していないか、正常に機能獲得ができていない状態をいい、将来的に、咀嚼、嚥下、呼吸、顎顔面の成長に大きく影響することがわかっています。以前から小児/矯正歯科の領域ではよく知られている症状で、私自身も愛知学院大学の小児歯科学講座医局員時代から、先輩方と口唇閉鎖不全の研究に取り組んできました。その後、当院でも歯並びに問題を抱える子どもを対象にした自費の口腔筋機能療法(MFT)を提供していました。
2018年の歯科診療報酬改定により、口腔機能発達不全症に対する算定が可能になったことで、本腰を入れて評価対象の裾野を広げました。多くの子どもを指導するためには、誰でも指導できる医院システムが必要です。従来の歯科医師1名体制から歯科医師、歯科衛生士、言語聴覚士のチーム体制で基盤を整えました。
口腔機能発達不全症が疑われる場合、おもに「口が開いている」「食べるのが早い/遅い」「指しゃぶりを長くしていた」「発音がおかしい」などの特徴が見られます。しかし、多くの患者さんや保護者は、それが医療従事者の関与が必要な状態だとは認識していません。そこで、当院ではホームページや待合室のモニターで口腔機能発達不全症について啓蒙し、気づきを促しています。また、初診の問診票には潜在的な口腔機能発達不全症を見つけ出す質問項目を加え、積極的に聞き取る工夫を行っています。これにより、最近は口腔機能を主訴とした患者さんが増えてきました。同時に歯並びには関係なく、噛む力、飲み込む力、話す力に関わる舌力の弱い(“ポタン舌”と私たちは呼んでいる)子どもが多く存在することにも驚きました。
開業50年を迎えた坂井歯科医院。3世代続く医院のロゴマークには「人の和」「多職種の和」「地域の和」で、みんなの幸せをつくるという想いが込められている。-
当院では初診問診票の口腔機能の項目にチェックがあると、歯科医師による「口腔機能発達不全症」チェックリストの診査に移行します。診断基準を満たし、口腔機能発達不全症と診断され、説明を受けた親御さんは、不思議なことに「私のせいではなかった」とホッと胸をなでおろされます。実は“くちゃくちゃ食べ”や、食形態を調整している子どもは意外に多く、親御さんは「自分のしつけが悪い」「どこに相談すればいいかわからない」といった悩みを抱えているケースがあります。
診断がつき、さらにチェックリストの該当項目が3つ以上で、月1回の指導管理の対象になります。当院は口唇閉鎖力と舌圧を上昇させるトレーニングと、食事指導を組み合わせ、多角的なアプローチを行っています。それに加え、近年採用しているのが、とき歯科(青森市)の土岐志麻先生が提唱するデンタルガム『ポスカF』を使ったガムトレーニングです。これが非常に大きな成果を上げています。子どものタイプによっては、家庭でのトレーニングの継続が難しい場合もあります。ストロベリー味やマスカット味のガムトレーニングはおやつ感覚で受け入れられやすく、他のトレーニングは苦手でも、「ガムトレーニングならできる」という子どもへの舌圧強化のサポートになっています。奥歯でものを噛む経験がない子どもにとっては、奥歯を使って噛む訓練になります。そうして奥歯で食べものを砕いてすりつぶせるようになると、飲み込みやすくなり、栄養吸収も良くなります。また、普段からデンタルガムを噛むことで唾液の分泌量が増え、う蝕を防ぐ効果も期待できるなど、ガムの役割は多く、助かっています。ガムトレーニングは、一般の歯科医院でもすぐに導入しやすいと思います。
こうした楽しいアイテムを取り入れて、その他のトレーニングにも促していくと、早い子どもでは半年程度で口唇閉鎖力と舌圧が変化します。たとえば、食べるのが遅い子どもは、スムーズに食べられるようになるなど、日常生活でも大きな改善がみられます。また、舌圧と口唇閉鎖力の測定結果をグラフ化し、その数値を子どもに見せてあげることで、トレーニングへのモチベーションや、本人の自信につなげています。子どもたちの改善をみて、私たちも大変やりがいを感じて、「もっとたくさんの子ども達に良い解決策を提案したい」という思いがどんどん膨らんでいます。口腔機能発達不全症はより早い段階でその機能の修正、回復を行うことが重要とされているため、愛知県歯科医師会で推進されている0歳児からの口腔育成事業を受けて、離乳食の摂食指導にも取り組んでいます。今後は地域の小児科医、歯科医、保育士、保健師、助産師との多職種連携により、お口の機能面で潜在的に困っている子どもと保護者をサポートする活動にも力を注いでいきたいと考えています。
<梶岡幸枝 歯科衛生士>
自身の出産で子どもに関わる楽しさを実感し、一般の歯科衛生士から小児歯科認定歯科衛生士を目指し、取得しました。我が子の成長と重ね合わせながら、小児歯科の知識を深めたいと思っています。
当院で長く歯科衛生士として患者さんと関わる中で、もともと子どもの舌の動きに関心がありました。また、成人の顎関節症や食いしばり、歯ぎしりなどの緊張を緩めるためのマッサージをしている経験から、口腔機能発達不全症のお子さんを見極める際は、とくに舌の動き、頰や唇の筋肉の緊張度、会話中の発音など、お口まわりの動きをチェックしています。
トレーニングでは、お子さんと適度な距離を保ちつつも、「歯科医院のやさしいお姉さん」として、お子さんたちの好きなことを引き出し、共感し、たくさん会話できる雰囲気を心がけています。そのなかで、多くのお子さんが右肩上がりの成果を上げて卒業されていきます。一方で、成果が落ちたり、横ばいになる場合は、必ずトレーニングのモチベーションが上がらない原因が隠れています。
たとえば、ある男の子との会話の中で、「お兄ちゃんにトレーニングの姿をからかわれるから、見せたくない」という悩みを抱えていることが分かりました。そこで、トレーニングをお風呂でやってみることを提案すると、安心してトレーニングに集中することができ、その後の成果が大きく変化しました。お子さんがつまずいてしまった時、「どうしてできないのかな?」「どうしたらできるようになるかな?」と、お子さんと一緒に考えていく。そのためにも、コミュニケーションはとても大切だと感じています。
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