189号 SUMMER 目次を見る
目 次
- ≫ まず訪問歯科診療に取り組むようなった経緯からお聞かせください
- ≫ 週のうち何日訪問歯科をされているのでしょう
- ≫ 外来診療はされていないのですね
- ≫ 訪問歯科を上手に取り組むための秘訣があれば教えてください
- ≫ 居宅や訪問先ではどの程度の処置が可能なのでしょうか
- ≫ 具体的にどんなところが難しいのでしょう
- ≫ 今後、長縄先生が歯科臨床において目指すところをお聞かせください
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歯科医師・現代美術作家
長縄 拓哉
「歯科医師」と「現代美術作家」、2つの顔をお持ちの長縄拓哉先生。本誌185号(2023年6月1日発行)では「歯科医療とアートとの融合」をテーマにお話を伺いました。今号では、長縄先生のライフワークでもある訪問歯科診療の現場に同行し、歯科臨床の取り組みについてお話いただきました。
まず訪問歯科診療に取り組むようなった経緯からお聞かせください
勤務先の大学病院で口腔外科に携わるなかで、顔面の痛み(口腔顔面痛)を訴える患者さんにたくさん遭遇しました。ただ、その痛みの原因や診断がつきにくく、有効な治療法もないため治療が長期化することも多くて、患者さんはだんだん通院が億劫になって来なくなってしまうんです。そうして顔を見なくなった患者さんは“自宅でどう過ごしておられるのだろう”と気になったのがきっかけです。
週のうち何日訪問歯科をされているのでしょう
現在は週に2日診療しています。そのうち1日は今回の山本歯科医院(千葉県船橋市)さんで、もう1日は都内にあるクリニックの訪問診療を担当しています。
外来診療はされていないのですね
私はどうも一つの場所にとどまっているのが苦手な性格で、自分から動いて患者さんに会いに行く方が性に合っているようです(笑)。ただ、最近は私と同じような働き方を選ぶ先生も増えていると聞きます。そもそも痛みを予防するためにはクリニックで待っているだけでなく、自ら伺って患者さんの生活の中に入り込んでいくことが必要です。その選択肢の一つとして訪問歯科があったという感じでしょうか。
外来を長くやっておられる先生は院外に出ることに抵抗がある方もいらっしゃるようですし、逆に訪問歯科を長くやってきた先生は外来診療に不安を感じることもあるでしょう。そこは“持ちつ持たれつ”で良い関係を築けることが多いと感じています。
交通事故により頸椎を損傷したKさん。その後遺症で手に麻痺が残り、自身での口腔ケアが難しくなったため訪問歯科を依頼された。
長縄先生が週に一度、訪問歯科を担当する山本歯科医院に勤務する歯科衛生士の高田さん。訪問歯科は週に2日、それ以外の日は外来を担当。
「手が不自由になる前は、むし歯がなくても定期的に歯科医院に通っていました」と終始笑顔でお話くださったKさんと処置後に記念撮影。
訪問歯科を上手に取り組むための秘訣があれば教えてください
訪問歯科の場合、例えば“根管治療が上手”とか、“う蝕治療や歯周治療が得意”などといった専門性は実はそれほど必要ではなくて、トータルな対応力が求められると考えています。それはある意味、一般病院の歯科医師として勤務しているケースと似ているのかもしれません。血圧が高いとか急に出血したとか、または病状について看護師さんと会話するとか、とにかく普段開業医の先生方が行っている仕事内容も関わる人もかなり異なると思います。その点で、私の場合は大学病院の口腔外科病棟に勤務していた経験が活きていると、日々感謝しています。
居宅や訪問先ではどの程度の処置が可能なのでしょうか
![[写真] 必要な器材を車のトランクに積み込み、訪問歯科の出発準備を整える長縄先生と歯科衛生士の高田さん](/academic/dentalmagazine/wp-content/uploads/sites/2/2024/06/189-15_staff02.jpg)
必要な器材を車のトランクに積み込み、訪問歯科の出発準備を整える長縄先生と歯科衛生士の高田さん。取材班の同行は午前中のお2人のみだったが、午後からも引き続き病院や居宅などをまわられた。
1ヵ月に訪問できる回数が限られていますし、水が出せず暗くて患部が見えづらいことも多く、難易度は高いと思います。可搬式ユニットなどの専用設備があれば、ある程度は外来と変わらない処置が可能ですが、その際でも患者さんのコンディションに左右されることも多いので、常に全身の状態を見ながら細心の注意を払う必要があります。最近では若い先生がアルバイトで訪問歯科に取り組まれるケースもあると聞きますが、なかなか難しいのではと少し心配な部分もあります。
具体的にどんなところが難しいのでしょう
訪問歯科の場合は、患者さんだけでなく、そのご家族の方とコミュニケーションを取る機会も多いので、ある程度の人生経験も必要になってきます。また、「きちんと丁寧に治してあげよう」という意識が強すぎると、治療時間も自然と長くなっていきます。その間患者さんはずっと口を開けておかなければなりません。短い時間で処置を終わらせることも大事で、患者さんへの負担を減らす点からも決して無理はせず、時には妥協するという選択も必要になります。いろんな意味で余裕というか人生経験が豊富な方のほうが訪問診療には向いていると思いますし、患者さんやそのご家族も安心して任せられるのではないでしょうか。
今後、長縄先生が歯科臨床において目指すところをお聞かせください
まずは「口腔ケアに関心を持つ人を増やす」ことが最重要課題だと考えています。例えば患者さんのご家族が口腔の健康やケアに関心がなかったとしても、訪問看護師さんやケアマネージャーさん、ヘルパーさんたちの中から口腔ケアに積極的になってくれる人がたくさんいれば、ご家族に頼らなくても地域に頼ることができる。それが、結果的に口腔ケアに関心を持つ人が増えていくきっかけにつながると考えています。私が以前から取り組んでいる『BOC(Basic Oral Care)プロバイダー』(医療・介護者向けの口腔ケア資格講座)はそうした発想がもとになって生まれました。まだ道半ばではありますが、BOCプロバイダーをはじめ歯科における遠隔医療や、さらには絵を描く創作活動など、アプローチする対象に合わせていろんなチャンネルを持ち続けながら、今後も試行錯誤を続けていきたいと思っています。
昨年90歳になられたというIさん宅を訪問。山本歯科医院には3、4年前から通院していたが、最近足を悪くされ通院が難しくなり訪問歯科を依頼された。
「自宅に来てもらうようになって外出する際の緊張感が薄らぎ、心にゆとりができた」とIさん。長縄先生は終始聞き役に徹する。
「長縄先生はとにかく話しやすいし、きちんと診てくださるので安心して任せられる、月に一度来てもらうのが楽しみ」とにこやかに話されるIさんと処置後に記念撮影。
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