99号 SUMMER 目次を見る
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■2. 軟組織の切開・切除
Er:YAGレーザーは、水に対して炭酸ガスレーザーの10倍ほどの吸収率をもつ。そのため照射組織表面でほとんどのエネルギーが吸収されてしまい、周囲組織への熱傷害がもっとも少なく、その切開創は鋭利である。
しかし熱凝固層が少ないので、組織に対する凝固止血能が劣り、炭酸ガスレーザーや半導体レーザーに比べ、出血への対応が必要になってくる。
したがって、発売された当初、アーウィンでも、症例によっては、従来同様に縫合を行っていたが、症例を重ねるにつれて、案外他のレーザーと同じように縫合なしでも十分満足な結果を得られることがわかった。
また注水下では、麻酔なしに処置できる症例も多いこともわかってきた。ここでは現時点における代表的な術式をあげる。
上唇小帯切除例
上唇小帯の高位の付着による歯間離開は 稀ではない(図7)。従来の方法では鋼刃メスで切開し、縫合を行っていたわけであるが、レーザーの使用により、簡単に処置できるようになった。
局所麻酔下において、上唇を上方に張りながら、小帯を伸展させ、起始部すなわち歯槽部歯肉に近い部位を、パネル表示で80~120mJ/pulse 10ppsで、軟組織用チップ(無水下)を用いてレーザー照射し、上唇を剥がすように切離していく。術中、注意深く切開していくと出血はほとんどないが、血管の多い組織に到達するとやはり出血は免れない。
また、このレーザーはパルス発振のため、切開線は不連続になる。したがって、同じ部位を何回か照射する操作が必要であり、やや操作時間が延長する傾向がある。術直後はしばらく血液がにじんでいるが、比較的短時間に血餅ができる(図8、9)。
しかし、面白いことにこの血餅も間もなく創面から脱落し、ごく薄い変性層に覆われた側面が露出する。縫合は不要である。
術後の経過は非常によく、術後1週~2週で治癒する(図10)。
この症例では、局所麻酔下で処置を行っているが、無麻酔下で注水しながら、60~100mJ/pulse 10ppsで処置も可能である。ただ無麻酔下なので止血時間は遅延する。
粘液嚢胞切除例
粘液嚢胞は、再発を防ぐ意味でも嚢胞を傷つけずに一塊として除去することが望ましい(図11)。したがって、たんに膨隆部分を蒸散するのではなく、嚢胞まるごと周囲組織から切り離すように除去する。嚢胞は粘膜組織深部にまで達していることが多いので、麻酔は深部までしっかりとを奏功させておく必要がある。
続いて、パネル表示60~100mJ/pulse 10ppsで、軟組織用チップ(無水下)を用いてレーザー照射した。まず嚢胞辺縁に沿って、チップの先端を組織に接触させないよう注意しながら、全周にわたって深さ1ミリ程度の切開を加える(図12)。
その後、ピンセットで嚢胞上部をつまみあげ、茎の部分に照射しながら、少しずつピンセットで引き上げると、次第に嚢胞の全貌が観察されるようになり、最終的に一塊として除去される(図13)。除去後、創面に粟粒腫様の小嚢胞が残っていれば、再発の可能性があるので、同じ要領で除去する。縫合はせず、開放創のまま終了する。投薬は原則的に行わない。術中、確かに出血は認められるが、銅刃メスで処置するよりはるかに少なく術野も十分得られた。また、他のレーザーのような熱による創面の収縮がないため、創面に陥凹感がなく、表面にはごく薄い凝固変性層がみられた。止血には思ったほど時間はかからず、血餅が創面を被覆するかたちとなった(図14)。しかし、レーザーの性質上、血液が飛散しやすく、施術時間も多少延長される難点もある。術後の経過は良く、2週程度で治癒する(図15、16)。したがって、治癒のはやさからすると、術中の出血という欠点があるが、十分臨床への応用が期待できると思われる。
図7 上唇小帯付着異常。7歳女児。
図8 上唇小帯切除、術中(60~100mJ/pulse 10pps 無水)。
図9 上唇小帯切除、術直後。やや出血はするが縫合は不要である。
図10 上唇小帯切除、1週後。ほぼ新生した上皮に覆われる。
図11 下口唇粘液嚢胞。8歳女児。
図12 下口唇粘液嚢胞、術中(60~100mJ/pulse 10pps 無水)。嚢胞境界部にレーザーによる切開をいれる。
図13 下口唇粘液嚢胞、術中。ピンセットで直胞上部を掴み、夏胞茎部に照射する。
図14 下口唇粘液嚢胞、術直後。嚢胞摘出後、血餅が創面を覆う。縫合は不要。
図15 下口唇粘液嚢胞、1週後。上皮の新生がみられ、一部偽膜がみられる。
図16 下口唇粘液嚢胞、2週後。新生した上皮に完全に覆われる。
■おわりに
以上、代表的な“Erwin"の使用法を詳細に説明した。このほかに歯周組織への応用、歯内治療への応用もはかられている。
ただ、このレーザーを使用すればするほど、奥の深いレーザーだと実感させられる。簡単に使用できるようにみえる歯の切削でも、照射法と照射条件の組み合わせによって全く異なった感想を得ることになる。また軟組織への応用にも、一見、術式は簡単なようにみえるが、出血を少なからず伴うので、十分な知識と練習が必要になってくる。
従来の方法に比べ、術式は簡単になり、治癒などの経過もよいので、簡単に誰でも同じような処置ができるような錯覚に陥りやすいが、実はその効果的使用法は単純ではない。したがって臨床で “Erwin"を使用する場合(他のレーザーもそうだが)、各々の症例に対して安易に使用するのではなく、レーザーの生体に与える効果に対する理解と結果の予想をもってはじめて、使用して欲しいと思うのである。
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