178号 AUTUMN 目次を見る
Clinical Report
歯周病治療におけるEr:YAGレーザーの臨床的有用性
キーワード:歯肉縁下デブライドメント/根分岐部デブライドメント/重度歯周病/垂直性骨吸収
■目 次
- ≫ はじめに
- ≫ Er:YAGレーザーとは
- ≫ Er:YAGレーザー導入~歯周病治療~
- ≫ Er:YAGレーザーの歯周病治療への実際
- ≫ 症例供覧
- ≫ まとめ
■はじめに
本邦においてさまざまな歯科用レーザーが臨床応用されるようになってから久しい。主にEr:YAGレーザー、Nd:YAGレーザー、CO2レーザー、半導体レーザー、アルゴンレーザー等があり、これらのレーザーは、それぞれの機器の発する光線の周波数によってその特徴が大きく分かれ臨床応用される分野が異なる。レーザーは20世紀最大の発明とも言われ、その研究は古く、1960年にはMaimanにより光の発信が報告されて以降、多岐に亘る領域に使用され、ますますその応用範囲は広がっている。医療においてもさまざまな症例にその適応症が勘案され、歯科臨床にも広く使用されるようになっている。当院では2017年からEr:YAGレーザー「Erwin AdvErL EVO」を導入しており、その使用用途は硬・軟組織問わずさまざまな症例に対応している。そして、このレーザーを適用することで症状の緩解や治療成績の向上を経験している。Er:YAGレーザーは、1988年に歯科臨床応用の研究がスタートして以降、いくつものプロジェクトと臨床治験を重ね1996年にEr:YAGレーザー(Erwin)が国内でデリバリーされるようになった。自院に「Erwin AdvErL EVO」導入後、硬・軟組織に対してのさまざまな臨床例のある中で、使用することによって非常にアドバンテージを感じているのが歯周病治療であり、今回この歯周病治療にフォーカスを当ててクリニカルレポートとして症例を供覧し考察したいと思う。
■Er:YAGレーザーとは
各歯科用レーザーは前述のようにそれぞれの特有の波長を持っていて、その波長によりさまざまな性質を示す(図1、2)6)。Er:YAGレーザーの波長は2,940μmでフリーランニング・パルス波のレーザーで現存する歯科用レーザーの中で最も水分を含む生体組織への吸収が多く組織の蒸散を効率的に行い表層での作用のため発熱も非常に少なく抑えることのできる機種である。歯牙、歯肉等の硬・軟組織両方にアプローチすることができる。組織浸透性はあまりなく不用意に深部の組織にダメージを与えること無く使用時の安全性が担保される。さらに表面吸収率が高いため歯質への照射時は、アパタイトの水分子に光エネルギーが吸収され、即座に水分が蒸発、蒸散することにより組織内の水分子の気化に伴い内圧が亢進し、微細な爆発(microexplosion)を惹起することにより硬組織の切削が効率よく施行できる。
21種類もの照射チップがあり先端部の石英素材の直径や照射する範囲や光の広がりに違いがある。う蝕処置用、歯周処置用とそれぞれの症例に合わせたチップ選びが可能となる。筆者が歯周外科処置において主に使用しているものを示す(図3)。ご覧の通りのチップは細長く深い歯周ポケットでも根面のデブライドメントがしやすいのが特徴である。
平成30年にはレーザーの保険適用の内容が改められ、施設基準が設けられている。簡単に紹介すると、①硬組織疾患:う蝕除去、くさび状欠損の表層除去。②歯周疾患:歯周ポケット内への照射、歯石除去、ポケット掻爬、歯肉整形、フラップ手術。③軟組織疾患:小帯切除、歯肉切開・切除、口内炎の凝固層形成、色素沈着除去とかなり広範囲の適応症を認め、その有用性は国が認めていることがうかがい知れる。
図1-
図2 -
図3 筆者が歯周外科処置で主に使用しているチップ。
■Er:YAGレーザー導入~歯周病治療~
当院では、1999年に開業して以来、一次医療機関が成すべき正しい在り方は何かと考察し研鑽を積む中、最も重要な治療の一つに歯周病治療の成功というものがあると判断している。審査診断から始まり、状況によっては患者教育に多くの労力を費やすこともある。各患者の性格や多少のイレギュラーな状況があるにせよ、今となっては、細菌学の進展による原因論はほぼ明確な形になっているように思われる。日常臨床において歯周疾患の原因(バイオフィルム、不良肉芽、歯石)の除去がいかに大切であるかは疑いの余地がない。重度に進行した骨吸収を伴った歯周疾患は、深い水平、垂直の骨吸収の存在がある。大臼歯領域であれば分岐部病変を併発していることも少なくない。シビアな症例ほど根面に付着した汚染物質をデブライドメントが困難な状況に陥っていることが多い。総じて口腔衛生が不良になりやすい隣接面、解剖学的形態が複雑な根分岐部や歯列不正のある部位等は歯周病的な問題が進行しやすい。非外科的アプローチ、外科的アプローチ問わず、そういった部位をデブライドメントする場合、もちろん従来のようにさまざまな形のハンドインスツルメントや超音波スケーラーを駆使して処置するのだが、隣接面、根分岐部や最後臼歯遠心部が垂直性の骨吸収を伴い進行している部位は従来の器具だけではハンドリングは困難を極める。如何にせよそもそも清掃困難な部位であるがゆえに器具が到達しにくい。そこでこのEr:YAGレーザーを適用することで、チップの形状は、直径わずか0.4mm~0.8mmで、全長は長いもので30mm程度ある。重度に進行した入口の狭くて深い垂直性骨吸収あるいは、根分岐部病変のハンドインスツルメントの届きにくい部位でもほとんど到達し目的の部位を触り、デブライドメントすることができる。状況によっては先端チップが非接触でもその効果が期待できる優れ物である。この効果を認識する前は、従来の方法のみで不良肉芽と歯石除去にひたすら時間と労力を費やし、上記のような状況下の改善にいそしんでいた。実際に、この効果を知ってしまうとこの機器を使わずにはいられなくなる。現在となっては、歯周病の改善目的の歯周外科において全症例でEr:YAGレーザーを使用するようになった。余談ではあるが、マイクロスコープやルーペ等拡大視野でこの処置をした場合、細部の到達性やデブライドメントの達成度合いを確認をしながら処置することができ、その差を実感できる(図4)。筆者が歯周治療で主に使う出力は、20pps×40mJから高くて20pps×50mJとしている。
図4 SRP、歯石除去の様子
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モリタ友の会会員限定記事
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