178号 AUTUMN 目次を見る
長崎県長崎市
医療法人 有光会 ありた小児歯科・矯正歯科
院長 有田 光太郎
食べる・話すなどの機能に異常が認められる、いわゆる口腔機能発達不全症の子どもたちが増えています。
ガムトレーニング導入のきっかけは、片咀嚼の影響から臼歯部に左右差が見られるお子さんに、ガムを噛んでもらったところ、それまで片側しか当たっていなかった犬歯が半年ほどで両側とも当たるようになり、正中のバランスも取れるようになったことがきっかけです。不成咬合を予防するためには口腔周囲筋のバランスや、舌がよく動く、口唇が閉じる、左右均等に噛むことが大事であることは経験から理解していたので、先の症例成果をもとにガムトレーニングの裾野を広げていきました。その際、口唇圧や舌圧の測定を行うと目に見えて数値が上がってくることも分かってきて、「これは使える」と自信がついてきたところです。
当院のガムトレーニングでは、20~30分ガムを噛んでもらうので、ちょうどそのくらい味が長持ちする製品が欠かせません。噛んでいるあいだ十分美味しく感じられて、おやつ感覚で楽しみながら続けられることがポイントです。当院では味持ちの良い「ポスカF」を以前から使用していますが、3種類ある味の中でもストロベリー味が一番人気で、子どもたちも継続して噛んでくれています。子どもたちが楽しみながら続けられるガムトレーニングの良さだと感じています。
トレーニングの際には、最初に舌圧と口唇圧を測ります。その後ガムを1粒噛んでもらって口を閉じて左右で噛めるかどうかを診ます。それができれば最初の1ヵ月はクリアです。「口を閉じて左右で噛んでね」とだけアドバイスして1ヵ月後に来てもらって変化を調べます。変化を記録するための用紙に、気づいたことや改善点などを記入し来院ごとにチェックします。ガムトレーニングの良いところは「見える化」です。普段、歯科医師は義歯のフードテストなどを除けば実際に食べるところを見ることはほとんどありません。ところがガムを目の前で噛んでもらうことで、うまく噛めていない原因が少し見えてきます。たとえば、ガムを渡すと最初は固いので噛みやすい方から噛み始めることが多くて、最初に噛み始めた方が片咀嚼の可能性が高く、そこから普段噛んでいる状況が推察できます。また、ガムが固くて噛めないとか、噛んだ後に唾が飲み込めないなどの機能的な問題も見えてきます。さらに「口の右側にあるガムを左側に移してみて」と言うと、なかには顔や口を歪めて動かす子どもがいる、そういった問題点を親御さんと一緒に確認できるので、うまく機能していない部分の共有ができるんです。
最初、親御さんは心配されますが、1日20~30分噛めれば、先述した問題はほとんどクリアできます。口を閉じて食べられない子が口を閉じて食べられるようになった。「すごいね‼」とどんどん褒めてあげて、同時に数値も測定しているので親御さんたちも「良くなっているんだ」と可視化もできます。数値だけでなく、食べることや飲み込むことで生活の一部が垣間見える、そこがガムトレーニングの大きな魅力だと思います。
トレーニング期間は3、4ヵ月を一つの区切りとして考え、最初の1ヵ月で噛めるかどうかを診ます。噛めない子どもには無理せず違う方法でアプローチを試みます。一方、噛める子どもには次回来院時にガムを丸めたり口蓋にくっつけたりを追加で行ってもらい、3ヵ月ほどで数値の評価と噛み合わせの評価を行います。
ガムトレーニングの効果を親御さんに説明し、実際に変化がある子どもたちの写真を見せると「ガムでこんな変わるんですか?」と皆さん一様に驚かれます。全員に大きな変化があるわけではありませんが、口唇圧・舌圧はほぼ上がってきますので、良くなっているところを見つけて褒めてあげることがポイントです。トレーニングは自宅で行いますが、まずは噛めるようになることが大事で、口を開けながら噛んでいても数値は上がってきますから、あまりトレーニングを強調しすぎない方がいいでしょう。おやつの代わりになって、テレビを見ている20~30分の間噛めるようになる、そこが一つのゴールと考えています。
このガムトレーニングは、ガムを噛んでもらうことで機能面での向上が期待できる比較的取り組みやすいトレーニングです。まずはお子さんを診る機会が多い小児歯科の先生方にぜひ試していただきたいですね。
図1 ガムトレーニングの進捗を記録するための用紙。
有田先生のご厚意によりガムトレーニングの記録用紙をご使用いただけます。ダウンロードはこちら-
図2 唾液をうまく飲み込めない子ども。 -
図3 ガムが噛める子どもには「ガムを丸める」「ガムを口蓋にくっつける」行為を追加で行う。 -
図4 カンファレンスコーナーにて親御さんにガムトレーニングについて説明を行う。 -
症例1-1 初診時6歳1ヵ月の女児。過蓋咬合や口呼吸、歯ぎしり、いびきなどの症状が見られる。 -
症例1-2 初診から約1ヵ月経過。舌圧:25.9P、口唇圧:4.3 10.5 10.3(N) -
症例1-3 初診から約3ヵ月経過。舌圧:30.6P、口唇圧:19 12.7 12.5(N) -
症例2-1 12歳3ヵ月の女児。定期健診で来院。右側側切歯の交叉咬合。片側咬みが見られる。舌圧:36.2P、口唇圧:8.8 11.3 10.5(N) -
症例2-2 トレーニング開始から約2ヵ月経過。 -
症例2-3 トレーニング開始から約4ヵ月経過。 -
症例2-4 トレーニング開始時、2ヵ月後、4ヵ月後の正面観。
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