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追従性と折れにくさを実現したNiTiファイル「JIZAI」 世界一の品質を追求するマニーの開発現場に密着

マニー株式会社 執行役会長 齊藤 雅彦/開発本部 デンタル開発グループ マネジャー 畔柳 晋作/生産本部 国内生産1グループ マネジャー 本橋 幸子/プロダクトビジネス本部 国内デンタルグループ 大久保 一成/プロダクトビジネス本部 グローバルマーケティング グループ 主任 プロダクトスペシャリスト 栃本 勇人/栃木県宇都宮市 いのまた歯科医院 院長 猪俣 正裕

[写真]

追従性と折れにくさを実現したNiTiファイル「JIZAI」
世界一の品質を追求するマニーの開発現場に密着

エンジン用NiTiファイル「JIZAI」は、世界一の品質を追求するマニー株式会社が長年培ってきた叡智を注ぎ込んだ製品です。優れた「追従性」と疲労破折を起こしにくい「耐久性」という性能を兼ね備えた「JIZAI」。その開発・製造ストーリーを、齊藤雅彦執行役会長をはじめ、開発者や生産担当者など、各部門の視点からお届けします。

目 次

世界一の品質を追求する、ものづくり企業の原点とは
開発・設計・製造・営業に携わる方々に、マニーの軌跡や“ものづくり”への想い、今後の展望について伺いました。

[写真] 齊藤 雅彦さん
執行役会長
齊藤 雅彦さん
長年培ってきた独自の微細加工技術から誕生した「JIZAI」

私たちのユニフォームの背中には「THE BEST QUALITY/IN THE WORLD, TO THE WORLD」という文字が書かれています。世界一の品質を世界のすみずみまで届けるという想いを、すべての社員が背負い、日々の開発、生産、販売に取り組んでいます。
当社の歴史は、1956年にアイド縫合針の製造販売を開始したことから始まりました。当時の縫合針は鉄製であったため、錆びやすくて折れやすいという欠点がありました。そこでステンレス製縫合針の開発を独自に進め、1961年には世界で初めて18-8ステンレス縫合針の製造に成功しました。創業以来、一貫して小型医療器具の開発・製造に特化したメーカーとして当社は歩み続けています。
デンタル領域においては、1976年からステンレス製歯科用クレンザーとブローチを、1979年からはリーマ・ファイルの製造・販売を開始し、その後もさまざまな製品を世に送り出してきました。そして、2020年よりエンジン用NiTiファイル「JIZAI」がそのラインナップに加わりました。

  • [写真] 「THE BEST QUALITY/IN THE WORLD, TO THE WORLD」と背中に書かれたユニフォーム
    「THE BEST QUALITY/IN THE WORLD, TO THE WORLD」と背中に書かれたユニフォーム。世界一の品質を世界に届けるという想いを社員全員が背中に背負っている。
  • [写真] 開発・生産の現場に長年従事してきた齊藤執行役会長
    開発・生産の現場に長年従事してきた齊藤執行役会長は、今でも技術フェローとしてNiTi材を用いた製品の開発チームとともに現場の第一線に立つ。

「JIZAI」のネーミングは、“思いのままに扱える”という意味を持つ「自在」に由来しています。複雑に湾曲した根管であっても確実に追従し、なおかつ圧倒的に折れない製品をつくること。この2つが、「JIZAI」開発の命題でした。一方で、NiTi材は加工が難しい材料として知られ、現在、日本でNiTiファイルの製造を行っているメーカーは当社のみです。長年培ってきた独自の微細加工技術を注ぎ込み、生まれたのが「JIZAI」だと言えます。
当社では世界一の品質を担保する取り組みとして、半年に一度「世界一か否か会議」を開き、徹底した性能比較評価を行っています。この取り組みの根底にあるのは、「臨床で本当に役立つ製品を届けたい」という信念です。今後もその姿勢を守り、よりよい治療の実現に寄与していきたいと考えています。

[写真] 畔柳 晋作さん
開発本部
デンタル開発グループ
マネジャー
畔柳 晋作さん
開発本部
“使いたい”を形にした「JIZAI」の挑戦

NiTiファイルは破折しやすいという印象をお持ちの先生も多いと思います。確かに世の中に登場した当初、破折トラブルが多く報告されたことは事実です。その原因の一つは、NiTi材という新しい素材に対し、当時はまだ処理技術が十分に成熟していなかったことが挙げられます。しかし、NiTi材が持つ超弾性や形状記憶特性には、従来のステンレス材では困難だった根管形成を実現できる、その可能性を強く感じていました。
「JIZAI」の開発にあたって意識したことは、日本の先生方に実際に使っていただけるファイルをつくることです。そこでまず実施したのが、アンケート調査でした。どのようなファイルであれば、満足していただけるのかを徹底的に調べました。その結果、もっとも多かったのが「折れないファイル」を求める声でした。切削効率が良かったとしても数回の使用で折れてしまうようでは、保険診療が中心の日本には馴染みません。

  • [写真] 開発本部、生産本部、プロダクトビジネス本部が同一フロアに集約
    開発本部、生産本部、プロダクトビジネス本部が同一フロアに集約。部署間の距離が近いことで、スムーズな連携が生まれる。
  • [写真] 半年に一度開催する「世界一か否か会議」の様子
    半年に一度開催する「世界一か否か会議」の様子。オンライン参加を含め全社員が参加し、自社製品が世界一と思えるか否かを社員一人ひとりが厳格に判断する。

実は、“折れない”ことだけを追求するのであれば、特定の性能に特化すればよいだけなので、それほど難しくはありません。しかし、「JIZAI」に求められたのは、使用中の破折しない強靭さに加え、さらには複雑な根管にフレキシブルに追従するという高い柔軟性の両立でした。それぞれの性能はトレードオフの関係にあり、そのバランスをいかに取るのかが、開発の鍵となりました。
「JIZAI」には大きな特徴があります。それは「ラジアルランド」を有した刃部です。根管壁に対して三角形や四角形のような点で接触するのではなく、ランド(面)で接触させることで、過剰にガリガリと削らずに、根管壁に沿わせたスムーズな切削を実現します。
しかし、刃部の接触面積を広く取りすぎると、ファイルにかかる負荷が増し、破折のリスクが高まります。逆に、狭くしすぎると、今度は追従性やねじりに対するトルクが不足し、根管内でうまく回転しなかったり、変形しやすくなったりします。大切なことは、相反する性能を両立させるバランスです。

[図] 「JIZAI」の大きな特徴がラジアルランドを有した刃部
「JIZAI」の大きな特徴がラジアルランドを有した刃部。ランド(面)を有すことで過度な食い込みを抑えている。

そのバランスを導き出すために、社内での機械的試験に加え、根管模型を使用した官能的な試験をKOL(Key Opinion Leader)の先生方に依頼し、そのフィードバックをもとに調整を繰り返しました。このプロセスは根気のいる作業で、使用した根管模型の数は数千では足りないほどです。そうして理想的なバランスを探し出しました。
あらためて、KOLの先生方には感謝の言葉しかありません。特に、かつてNiTiファイルの折れやすさについて厳しいご意見をくださった先生から、高い評価をいただいた瞬間は、開発者として今でも忘れられない出来事です。
「JIZAI」の開発には、もう一つ新たなチャレンジがありました。それは開発体制の見直しです。当社はものづくり企業という性格上、開発主導でプロジェクトが進む傾向があります。その結果、世の中のニーズとズレが生じてしまうことがこれまでに何度かありました。

[写真] 「JIZAI」の刃部をチェックする畔柳さん
「JIZAI」の刃部をチェックする畔柳さん。「やわらかい材料は削ろうとしても、削る力に押されて逃げてしまうので微細加工が難しい」と話す。

前述のように、「JIZAI」は日本の先生方に実際に使っていただくことを目指した製品です。開発者の独りよがりな製品にしないために、営業や生産といった他部門の有志に声をかけ、「本当に役立つ仕様とは何か」を多角的に議論しました。会議を重ねるうちに、それぞれの部署が自分たちの強みを持ち寄るようになり、最後は部署の垣根を越え、ひとつのチームとして同じベクトルに向かって動き出しました。
ステンレスのように硬い材料に比べ、NiTiは超弾性と柔軟性を持つため、精密な加工には高度な技術を要します。さらに、温度の影響を受けやすいことから取り扱いが難しい材料です。生産ラインに載せる際にも多くの課題を乗り越えなくてはなりませんでした。無事に販売へと、こぎ着けられたのは、各部署と一丸となって取り組んだ結果だと思っています。
特異な性質を持つNiTiという材料には、まだまだ研究の余地があります。「JIZAI」についても、現時点で持てるすべてを出し切って開発に当たりましたが、コンセプトの根底にある「折れにくいこと」「追従性に優れていること」を担保した上で、今後はバリエーションを増やすなど、さらなる開発を進めていきたいと考えています。

高根沢工場で行われている「JIZAI」製造工程の一部をご紹介
  • [写真] 線材
    マニーでは、金属加工の中でも「板材」ではなく、細い金属の棒状材料である「線材」の精密加工を得意とする。
  • [写真] 成形工程
    成形工程:専用の機械に線材のコイルをセットし、巨大な砥石を押し当てることでテーパー形状に加工していく。
  • [写真] 顕微鏡で長さやエッジの状態を確認
    刃溝研削工程後、顕微鏡で長さやエッジの状態を確認する。
  • [写真] 乾燥
    熱処理炉で高温処理を行った後、水で冷却し、乾燥させる。

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