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連載:歯科衛生士に必要とされる医科の知識 <第1回>バイタルサイン

京都光華女子大学短期大学部歯科衛生学科 助教 尾形 祐己(歯科衛生士、看護師)

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目 次

  • [写真] 京都光華女子大学短期大学部歯科衛生学科 助教 尾形 祐己(歯科衛生士、看護師)
    京都光華女子大学短期大学部歯科衛生学科
    助教 尾形 祐己
    (歯科衛生士、看護師)

はじめに

みなさんのクリニックでは、生体情報モニターをはじめとした“バイタルサイン”を測定するための機器を備えておられますか。歯科外来診療医療安全対策加算1(外安全1)の施設基準では、経皮的動脈血酸素飽和度測定器(以下、パルスオキシメーターと記す)や血圧計の設置が規定されています1)。そのため、多くのクリニックの診療室にこれらの機器が導入されているようです。“バイタルサイン”を測定することは、患者さんの現在の状態やその変化を知るために重要です。しかし、日々の臨床の中で十分に活用できなかったり、学生時代に測定方法は学んだものの、使い方があやふやになってしまっていたりする方もいらっしゃるかもしれません。せっかく設置されているモニターや機器を有効に活用し、日々の臨床に生かすために、バイタルサイン測定の基本を振り返ってみましょう。

バイタルサインとは

まず、バイタルサインについて復習します。バイタルサインは、体温・血圧・脈拍・呼吸といった、生命活動や健康状態を示す重要な指標です。さらに「意識レベル」を含める場合もあります。歯科治療は患者さんに不安や恐怖を与えることがあり、これらがストレスの原因となります。ストレスは血圧を上昇させる因子としても知られており、医療現場で血圧を測ると普段より数値が上がる「白衣高血圧」はその一例です。加えて、歯科治療に伴う痛み刺激や薬物投与などにより、血圧の変化以外にも身体にさまざまな変化が生じます。多くの場合、患者さん自身の予備力でカバーするため深刻な事態に陥ることはありませんが、高齢者や障害者など予備力が低下していたり、糖尿病や高血圧症の患者さんであったりすると生命の危機を招く状態に陥る可能性があります。そうならないためにも、患者さんの普段の状態を把握すること、最近の体調の変化を確認することが重要です。それでは、実際にパルスオキシメーターや血圧計の使用方法を見ていきましょう。

実際の機器の使い方

①パルスオキシメーター

パルスオキシメーターは経皮的酸素飽和度(以下、SpO2と記す)を簡易的に測定することができ、新型コロナウイルス禍で広く知られるようになりました。皮膚の外から赤色光を当て、酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの比率を求めて動脈血の酸素飽和度を測定し、酸素の供給状態を評価するのに使われます。医療機関だけでなく、家庭にも普及しており、使い方は分かっている、という方もおられると思います。パルスオキシメーターのセンサー部をプローブといいますが、大別するとクリップ型(図1)のものと、テープ型(図2)のものがあります。クリップ型は一般的に知られているタイプで、クリップを指に装着し測定するものです。一方、テープ型のものはセンサー部分の発光部が爪側、受光部が指の腹側になるように巻きつけて測定します。いずれのタイプも、プローブの発光部と受光部が適切な位置(図3)にあることが必要です2)。SpO2の正常値は96%以上とされています。パルスオキシメーターを使用する際に注意すべき点についても押さえておきましょう。爪にマニキュアや汚れなどがあると、光が遮られ正確な値が測定できません。こういった場合、マニキュアを除去してもらう、汚れをとるなどの他に、何もついていないのであれば足の指で測定するという方法もあります。

  • [写真] クリップ型のパルスオキシメーター
    図1 クリップ型のパルスオキシメーター(写真提供:日本光電株式会社)
  • [写真] テープ型のパルスオキシメーター
    図2 テープ型のパルスオキシメーター(写真提供:日本光電株式会社)
  • [図] 発光部と受光部の適切な位置
    図3 クリップ型、テープ型ともに、プローブの発光部と受光部が適切な位置にあることが重要。
②血圧計

次に、血圧計の使い方を見ていきましょう。学校の生理学実習などで血圧測定法を学んだ際、触診法や聴診法を学んだ方が大半だと思いますが、近年はボタンを押せば自動で測定してくれる上腕式血圧計が普及しています。帯状のマンシェットを上腕に巻いて血圧を測定しますが、この中に測定時に空気で膨らむゴム嚢と呼ばれる部分があります(図4)。多くの血圧計では、このゴム嚢の中央を示す印がマンシェットに描かれています。ゴム嚢の中央が上腕動脈の上に来るように腕に巻いていきましょう。この時、マンシェットの下端が肘関節より2~3cm上方の位置で、指が何とか1~2本入る程度にしっかり巻くことがポイントです(図5)。上腕動脈は心臓と同じ高さになるように測定する必要があります3)。チェアユニットのバックレストの角度によって患者さんの肘の高さが低い場合は、タオルを肘の下に敷くなど工夫してください(図6)。ゴム球(送気球)で加圧するタイプの場合は、患者さんの普段の収縮期血圧に20~30mmHgを加えた値まで加圧しましょう。診察室での成人の血圧の正常値は、収縮期血圧が<120mmHgかつ拡張期血圧が<80mmHgとされています4)。血圧計を使用する際に注意すべき点ですが、血液透析用の内シャントが入っている腕にマンシェットを巻くとシャントが閉塞するリスクがありますので避けましょう。また、乳がんの手術などで腋窩リンパ節を切除した既往のある場合は、同側の腕で測定するとリンパ浮腫のリスクがありますので、反対側の腕で測定します。

  • [写真] 上腕式血圧計
    図4 上腕式血圧計。ゴム嚢の中央(○印:矢印部分)が上腕動脈の上に来るように腕に巻いていく。
  • [図] 上腕式血圧計を巻く際のポイント
    図5 上腕式血圧計を巻く際のポイント
  • [写真] 上腕動脈が心臓と同じ高さになるように、肘の下にタオルなどを敷いて調整
    図6 上腕動脈が心臓と同じ高さになるように、肘の下にタオルなどを敷いて調整する。

まとめ

本稿では、バイタルサインの概要と、パルスオキシメーターや血圧計の使い方について振り返りました。これらの機器をしばらく使っていないという方は、患者さんに使用する前に一度、スタッフ同士で測定してみましょう。その時、測定方法を確認するだけでなく、患者さんの目線で体験することも重要です。また、さまざまな医療機器を駆使して患者さんの状態を把握することも大切ですが、まずは患者さんの様子をよく見て、話を聞いて、状態をアセスメントすることを私たち歯科衛生士は心がけたいですね。

参考文献
  • 1) 近畿厚生局 基本診療料の届出様式(施設基準毎に必要な様式を掲載したもの)2025年3月13日検索 https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kinki/shinsei/shido_kansa/shitei_kijun/h30/kihon_r06k.html
  • 2) 日本光電 正しくお使いいただくためにSpO2プローブ装着のポイント 2025年3月13日検索 https://medical.nihonkohden.co.jp/iryo/point/spo2point/point.html
  • 3) 医療情報科学研究所 編;診察ができるvol.1 身体診察.メディックメディア;2023;39-43.
  • 4) 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会;高血圧治療ガイドライン 2019.特定非営利活動法人日本高血圧学会;2019;18

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