127号 WINTER 目次を見る
■目 次
■はじめに

1965年よりオッセオインテグレーテッドインプラントが臨床応用され、1980年代までは、下顎のオトガイ孔間に5~6本のインプラントを埋入し、臼歯部にボーンアンカードブリッジで、骨のあるところにインプラントを埋入する外科主導型治療が主流であり、機能回復に主眼を置いたものであった。
当時は、局所に骨欠損があると、インプラント治療はしばしば禁忌症となっていた。
1980年代になると、非吸収性、吸収性のメンブレンが登場し、骨誘導再生(Guided Bone Regeneration:GBR)法の研究が始まった。
1990年代になると、GBR法の確固たる研究結果により、骨再生は予知性の高いものとなり、適応症の拡大とともに審美的領域においても天然歯同様のインプラント補綴ができるようになった。
2000年代になるとPDGF(GEM21)が登場し、またインプラント埋入ポジションの確立、インプラント周囲のソフトティッシュマネージメントの理論および手技も確立し、インプラント治療は格段に予知性の高いものとなり、欠損補綴の第一選択肢になってきたといっても過言ではない。
本稿ではSPIシステムを用いて審美領域におけるハードティッシュとソフトティッシュマネージメントについて解説したい。
■SPIシステム
SPI(SWISS PRECISION IMPLANT)システムの発端はヨーロッパのレーダーマン先生と医科界で著名なマティスメディカルAGとの技術サポートで誕生したHA-TI DENTAL AGのHA-TIインプラントの即時負荷の研究から始まった。
著書においてはその評価も高いものを得ておりHA-TIデンタルからトーメン・メディカル(スイス)が買収し、上部構造の互換性のあるSPIが開発され、2002年に発売され日本国内では2004年より販売開始となった(図1)。
このシステムの特長としては、名前にもあるようにPRECISION(精密)を売りにしており、時計メーカー、航空機の高度計などを手がけるREVUE THOMMENの技術提供をうけ、より精密な商品を製作することを可能にしている。
特にアバットメントとインプラント体の接合部分はインターナルHEXを採用し、その回転遊びは1.8°以下(直径4.5以上)マイクロギャップも5μ以下というところまでに仕上がっている。それによりアバットメントとインプラント体が強固にとまりアバットメントスクリューの緩みを極限まで抑えられている(図2)。
また、シンプルなデザインをもとに、外科から補綴まで一本のドライバーで修復できるなど、少数のインスツルメントでインプラント修復ができ、かつ補綴物は幅広い修復オプションをなしており、印象から最終セットまでがワンパッケージング化されたものからアバットメントをカスタマイズし、審美的な修復を実現、またアタッチメントを使用しオーバーデンチャーまで、応用が可能となっている。
当システムの開発諮問メンバーの中にはDr.グルンダーやDr.メルリーなど著名なDrが名を連ねられ、その支持のもと製品化がなされているため、インプラントメーカーとしてはまだ、認知度の低い中、数多くの著名なスタディーグループから注目を浴びている。
インプラント体の仕様としてはエレメント(二回法)、ワンタイム(一回法)、コンタクト(コニカルシリンダー)、ダイレクト(即時負荷)と4タイプのインプラント体を有しており、すべて共通のインスツルメントで埋入が可能である。
素材は純チタンで表面処理にはサンドブラストと酸処理がなされており、上下顎平均12週のヒーリング期間で修復できるようになる。(海外の情報によると、表面処理は新しく改良され、日本でも薬事認可が下り次第、新発売する予定とのこと。)
ドリルはディスポーザブルタイプを採用し、常に新しく切れ味の良いドリリングで先端部が一段階細くなっており、1ステップ前のドリルの太さに同調しているため、常にガイドされながら形成可能になっている。また、ベクトドリルはインプラント床形成と同時に自家骨を採取できるため、重宝している。
サイズは直径がエレメントφ3.5、4.5、5.0mm、ワンタイムφ5.0、6.0mm、コンタクトφ3.5、4.5、5.0、6.0mm、長さは8.0(☆)、9.5、11.0、12.5、14.0、17.0mmがある(☆8.0mmはコンタクトになし)。実際の使用感覚としてはセルフタップの際、スレットが片側0.35mmと大きく出ているため初期固定をしっかりと得られる感覚がある(タップの山谷径)。
日本仕様に発売された、エレメントプロファイルドリル(カウンターシンクバー)を使用すると、その分深く入れられ、その形状が二次オペ以降のパーツの放流を模倣しており、それによりボーンスキャロップ形成され、粘膜の薄い日本人に対しても審美性を高められるようになっている。
図1 SPIシステム。左から、エレメント、コンタクト、ワンタイム。
図2 5μ以下の適合精度。
■GBR法の成功条件
GBR法を成功させるためには以下の条件を満たす必要があると考えられる。
- 1. 骨形成細胞の供給がある。
- 2. 血液の十分な供給がある。
- 3. 治癒期間中、創傷部位の機械的な安定を維持する。
- 4. メンブレンと母床骨表面の間に適切なスペースを維持する。
- 5. バリアメンブレンによって形成されたスペースから軟組織の細胞を排除する。
■インプラントの歯間乳頭の形成
現在、インプラント治療は長期的安定性、機能性そして審美性が求められている。
その中でも前歯部にいたってはより審美性が求められ、その審美性が長期安定するには唇側に十分な厚みの骨と歯肉が必要であり、インプラントの歯間乳頭を形成するためには次のような因子が関与する。
- 1. 隣在歯の歯槽骨頂の高さ
- 2. 歯肉のバイオタイプ
- 3. 欠損部顎堤の吸収状態
- 4. 隣接する修復物と歯間乳頭の距離
以上を踏まえ骨造成とティッシュマネジメントを行った症例を提示する。
■症例
- 患者:
- 42歳 男性
- 初診:
- 2004年7月
- 主訴:
- 1 の動揺と歯肉退縮の審美障害
- 治療計画:
- 1 の抜歯と同時にソケットプリザベーションを行い、唇側骨の保全を図る。
粘膜の治癒を待って、SPIの埋入と同時に水平・垂直的GBRを行い、さらに口蓋から有茎で結合組織を唇側まで翻転させ、軟組織の造成を行う。
図3、4 初診時の口腔内。1 の歯肉の退縮と動揺、23 の根面露出が認められた。
図5 SPIベクトドリルで採取した自家骨。様々なシステムを使用しているが、ベクトドリルはインプラント床形成と同時に自家骨を採取できる。
図6 採取した自家骨。
図7 SPIコンタクト直径φ4.5mmを埋入後、インプラントの唇側および遠心部の骨が不足している。
図8 骨量が不足している唇側と遠心部に自家骨移植を行った。
図9
図10 インプラントカーバーキャップの上部にも骨をのせ、非吸収性メンブレンを設置しチタンスクリューピン(モリタ社)で固定した。
図11 2 の骨退縮があるため、根面処理を行ったのち、口蓋より結合組織を有茎で翻転させた。。
図12 1 の歯肉の増大と2 の根面被覆を行った。
図13、図14 2 の歯槽骨の吸収がある場合に、インプラントの埋入のみでは歯間乳頭の再現が得られずブラックトライアングルができる。
図15 2 の挺出を行い、歯槽骨頂の骨レベルを改善することにより、歯間乳頭を再現することができる。
図16 2 の挺出を行い、歯槽骨頂の骨レベルを改善することにより、歯間乳頭を再現することができる。
図17 初診時のX線写真
図18 挺出を行ったことにより2 の歯槽骨頂の位置が歯冠側に回復している。
図19 上部構造装着時の口腔内写真
図20 上部構造装着時の口腔内写真 正面観。
図21 上部構造装着時の口腔内写真 側方面観。
■まとめ
上顎前歯部のような審美領域にインプラント修復を行うには永続的な機能性と審美性が求められる。長期的に安定するには、インプラント周囲に2mm以上の骨と、その骨を維持するために厚い歯肉が必要となる。
目 次
モリタ友の会会員限定記事
- CLINICAL REPORT 我、レーザーと共に戦えり<その9> -Er:YAGレーザー応用による 歯周ポケットバクテリア・フリーをめざして-
- CLINICAL REPORT SPIシステムの臨床 -インプラントに必要な骨造成とソフトティッシュマネージメント-
- TREND WATCHING 「西洋医学・東洋医学の融合」をめざして 『口腔内科学』の研究・教育・臨床応用を精力的に推進
- TECHNICAL HINT 各種症例に対応した ノリタケ カタナ ジルコニアフレームについて / インプラント間の分割を必要としない カタナジルコニアフレームの製作方法
- TECHNICAL REPORT エステニアC&B 1. 臼歯・前歯編 -臼歯部でも「白い」と言われない確実な色調再現と 前歯の審美的な色調再現-
- TECHNICAL REPORT プレストゥジルコニア ~ノリタケCZRプレス~
他の記事を探す
モリタ友の会
セミナー情報
会員登録した方のみ、
限定コンテンツ・サービスが無料で利用可能
オンラインカタログでの製品の価格チェックやすべての記事の閲覧、臨床や経営に役立つメールマガジンを受け取ることができます。
商品のモニター参加や、新製品・優良品のご提供、セミナー優待割引のある、もっとお得な有料会員サービスもあります。