136号 SPRING 目次を見る
■目 次
- ≫ はじめに
- ≫ ボンドフィル SBのコンセプト
- ≫ ボンドフィル SBの概要
- ≫ ボンドフィル SBの臨床
- ≫ おわりに
■はじめに
4‑META/MMA‑TBB レジン(スーパーボンド)は発売以来30年にわたり、基本モデルを変えることなく広く臨床に用いられている。当初は矯正のブラケット装着1)に応用され、その後も修復物の装着2)はもとより、直接歯髄覆髄処置、歯周治療の暫間固定、破折歯に対する接着技法3)さらに最近では、外科的処置のパック材4)にいたるまで、その適応範囲を広げている5)。
このように広範囲に用いられる要因としては、重合開始剤・TBB(トリ‑n‑ブチルボラン)の働きにより、水分と空気の存在する接着界面から重合が開始される優れた特長(図1)が挙げられる。
すなわち窩洞の深部から自己重合が開始されることにより、最も弱いとされる接着界面がこの樹脂により守られ、生体を保護するために良好な臨床成績を残していると考えられる。
この優れた特性を継承した修復用接着材料が開発されれば、臨床現場で悩みの多い症例が減少するのではないかという期待を抱かせる。
この度、この優れた特性を活かした接着充塡材「ボンドフィルSBTM」(サンメディカル株式会社)が発売された。
そこで本稿では、ボンドフィル SBの概要に加え、歯頸部う蝕、Tooth wear、パッチ修復、フィッシャーシーラント、リペアーなど、通常の修復では脱落しやすいケースを中心としたボンドフィル SBの臨床応用について解説する。
図1 接着性レジンの重合開始剤の特長
■ボンドフィル SBのコンセプト
ボンドフィル SBは、スーパーボンドの技術を発展させて、単に接着材の機能のみならず充塡材として機能化すべく、複雑で応力がかかる部位や修復方法に悩む症例に対して、簡便な前処理で優れた接着修復が可能であり、且つ、修復物自体が応力緩和できる機能(Stress Buffer)を有した、しなやかさも兼ね備えた化学重合タイプの自己接着型コンポジットレジンを目指して開発された。
■ボンドフィル SBの概要
今回、発売されたボンドフィル SBのセット構成品(図2)は、エナメル質と象牙質を一括処理可能なセルフエッチングプライマー「ティースプライマー」、反応性有機質複合フィラーを配合する「ライト」と「ミディアム」の2色の粉材、接着性モノマー4‑METAと特殊な高疎水性モノマーを加えたMMAベースの液材、重合開始剤(TBB)を含む「キャタリストV」からなる。
接着システムの基幹となるティースプライマーには、4‑METAに加え、還元剤、水、アセトンなどが含有され、水洗不要でエナメル質と象牙質の一括処理が可能で、高い接着強さを発揮させる特長を有する。
リン酸溶液(レッド)や10‑3溶液(10%クエン酸―3%塩化第二鉄溶液・グリーン)による処理歯面(pH 約1)と比較して、ティースプライマーのpHは約3と高く、一般的セルフエッチングプライマーのpHが約2であることから、その水素イオン濃度は10倍ほど薄く設定されている。そのために、歯質脱灰能が低いことはSEM像(図3)からも確認できるが、その接着強さは、リン酸処理エナメル質、10‑3処理象牙質と同等の値を示し非常に優れている(図4)。
この歯質に対する侵襲がより少なく、作用時間(10~30秒)やその後のエアブローにも影響を受けにくいという特性が臨床使用に対し期待感を抱かせる。エッチング効果だけに頼らない新たな接着のあり方を追求してきたメーカー独自の技術を駆使した製品といえる。
特筆すべきもうひとつの特長は、TBBの優れた重合特性を活かしながら、吸水量の低減とスーパーボンドに近似した硬化体のしなやかな物性を獲得し、さらに反応性有機質複合フィラーの配合による表面硬度と耐摩耗性の向上が挙げられる。
そのため、充塡材料としての適用のみならず、接着装着材料としても認可され臨床応用が可能となった。被着体の違いによる前処理と接着強さの関係(表1)から推察して、幅広い臨床応用範囲が期待できる。
図2 ボンドフィル SBセット構成品-
図3 各種歯面処理後のSEM像
※ティースプライマー処理後、表面をアセトン洗浄 -
図4 各種歯面処理によるボンドフィルSBの接着強さ(MTBS) -
表1 各種被着体への前処理と接着強さ
■ボンドフィル SBの臨床
【症例1:歯頸部う蝕:図5、6】
上顎小臼歯頰側歯頸部に以前充塡されていた光重合コンポジットレジンが脱落し冷水痛を訴える。
歯面表層を軽くダイヤモンドポイントで研削し、ティースプライマーを塗布後、エアブローをした。その後、ミディアム粉材をオーバー目に充塡した。
硬化後、カーバイドバーやスーパーファインダイヤモンドポイントを用いて形態修正、シリコンポイント(CRポリッシャーPSなど)で最終研磨、術後に冷水痛は消失した。
このように咬合側方圧が強く、光重合コンポジットレジンでは脱落しやすいような症例でも確実に充塡ができる。
【症例2:切端咬耗:図7~10】
下顎前歯切端部に咬耗を認める。高齢化に伴い、今後このようなケースは増えるものと思われる。光重合コンポジットレジンでは脱落するケースは少なくない。
ダイヤモンドポイントを用いて一層歯質を研削する。ティースプライマーで歯面処理後、ライト粉材で築盛した。
硬化後、形態修正、最終研磨を行った。
反応性有機質複合フィラーを配合することにより、耐摩耗性にも優れているため、ブラキシズムによって強い応力が加わる切端においても応用可能である。
【症例3:臼歯部咬耗:図11、12】
下顎臼歯部咬合面に咬耗を認める。高齢化に加え、近年の多くの菜食に用いられるドレッシングの酸成分や野菜に含まれる土壌のシリカ成分などに咬耗が加わったこのようなケースもよく目にするようになった。
ダイヤモンドポイントを用いて歯質を一層研削する。ティースプライマーで歯面処理後、ライト粉材で築盛した。
硬化後、形態修正し、最終研磨を行った。耐摩耗性にも優れるため、強い咬合圧が加わる部分においても用いることが可能である。さらに、硬化体が摩耗した場合でもダイレクトに追加築盛することが可能である。
【症例4:パッチ修復:図13、14】
上顎臼歯部に装着されている接着ブリッジの近心口蓋側咬頭部分が咬耗し、一部カリエスを認める。
MIの概念より、カリエスの除去をしっかりと確認したうえでティースプライマーにて歯面処理後、ライト粉材で築盛した。
硬化後、形態修正し、最終研磨を行った。
このように光の届きにくい部位においても、TBBの重合特性によりしっかりと接着、充塡することができる。
【症例5:フィッシャーシーラント:図15~18】
上顎第一大臼歯の歯面清掃、歯面処理後、ライト粉材で築盛した。
歯面処理はエッチング(リン酸)、セルフエッチング(ティースプライマー)にかかわらず、小窩裂溝部の未研削エナメル質に確実に浸透し、接着界面から重合硬化するため、二次う蝕の発生防止が期待できる。
症例は、ティースプライマーに代えて、表面処理材高粘度レッドのリン酸エッチング材を用いて歯面処理を行った。
【症例6:前装部リペアー:図19、20】
上顎側切歯のレジン前装ポンティック部の破折リペアー。
リペアー部のメタルおよびレジンの新鮮面を一層出し、メタル部には貴金属接着プライマー「V‑プライマー」を塗布し、ミディアム粉材で直接メタルを遮蔽後、表層にはライト粉材を築盛し、硬化後に形態修正、研磨を行った。
直接メタルを遮蔽できない場合は、スーパーボンドの粉材「オペークアイボリー」をボンドフィル SB築盛前に一層盛り付け金属を遮蔽する。
【症例7:修復物の再合着:図21~24】
比較的保持形態のとりにくい脱離した修復物を、患者様の要求で再合着しなければならない場面も臨床現場では多々遭遇する。ボンドフィル SBはその特性を活かし、充塡用途のほかに接着装着材料としての適用も認可されている。
歯質側は軟化象牙質除去後ティースプライマー(またはグリーンでエッチング)処理、脱離金属側はアルミナサンドブラスト処理後V‑プライマーを塗布し、筆積み法にてボンドフィル SBを盛り、修復物の再合着を行った。
図5 症例1. 歯頸部う蝕:術前-
図6 術後 -
図7 症例2. 切端咬耗:術前 -
図8 ティースプライマー塗布
図9 充塡・築盛-
図10 術後 -
図11 症例3. 臼歯部咬耗:術前 -
図12 術後
図13 症例4. パッチ修復:術前-
図14 術後
図15 症例5. フィッシャーシーラント:術前-
図16 エッチング・水洗・乾燥 -
図17 充塡・築盛 -
図18 術後
図19 症例6. 前装部リペアー:術前-
図20 術後 -
図21 症例7. 修復物の再合着:術前 -
図22 筆積盛り付け
図23 再装着-
図24 術後
■おわりに
- 1) 茂木正邦:4‑META/MMA‑TBBレジンの歯科矯正学的研究(Ⅰ)-エナメル質に対する接着性について-.日本矯正歯科学会雑誌、41(2):260~271, 1982
- 2) 中村光夫、松村英雄、中林宣男:スーパーボンドの多目的な臨床応用法.接着歯学、7(1):57~68, 1989
- 3) 入江英彰、真坂信夫:破折歯根の保存方法.デンタルダイヤモンド、27(9):41~45, 2002
- 4) 下野正基、土谷穏史、正岡孝康、杉澤幹雄、衣松高志、山田 了、橋本貞充、真坂信夫:広がる4‑META/MMA‑TBB レジンの臨床応用.歯界展望、114(2):255~275, 2009
- 5) 中村光夫、下野正基、真坂信夫、山本憲廣:新世代のNewスーパーボンドの特長と臨床応用.DMR(デンタル・マンスリーレポート)、No. 214(12), 2009
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