136号 SPRING 目次を見る
■目 次
■はじめに
プラークは、歯面に付着し、多糖体に覆われ、多様な菌種から構成されるなどバイオフィルムとしての特徴を持つことから、口腔バイオフィルムとも呼ばれています。このバイオフィルムを除去する手段としては、従来の歯ブラシによる刷掃に加え、超音波や水流圧など新たな方法も応用されるようになりました。
水流圧を利用して歯面を清掃する口腔洗浄器は、近年、性能が向上し、高い洗浄水圧で断続的に水を噴射する製品が市販されています。しかし、歯ブラシに比べると、プラークを除去する性能は低く、食物残渣を除去することが主な役割とされています。低い評価を受ける理由のひとつとして、口腔洗浄器によるバイオフィルムの洗浄能力が、臨床的なプラーク指数による定性的な評価以外に、ほとんど検討されていないことが挙げられます。
■X線マイクロアナライザー(EPMA)を利用したバイオフィルム洗浄能力の評価
そこで、バイオフィルム洗浄能力を定量的に評価するために、口腔内に留置したエナメル質小片(スラブ)を用いて、口腔洗浄器で洗浄したスラブ上のバイオフィルムをEPMAで観察してみました。この研究には、リコーエレメックス社製のデントレックス(図1)を使用しました。
研究協力者7名(19~24歳)の上顎大臼歯の頰側面に、1対の健全なエナメル質スラブ(2×2mm)を取り付け、スラブ上にバイオフィルムを堆積させるため、2日間ブラッシングを控えてもらいました。
1対のスラブを口腔から取り出し、一方は、デントレックスのノズルをスラブの表面から3mm離して垂直に当て、洗浄水圧707kPa、パルス1773 回/分の条件で、5秒間洗浄しました。もう一方は、未洗浄のまま対照群としました。
各スラブは、凍結乾燥させた後、日本電子社製EPMA(JXA‑8530FA)を用いて2つのステップで観察しました。先ず、スラブ表面を白金でコーティング後、試料面の二次電子像(10kV)を撮影しました。ここでは、同一個人から得られたスラブの画像を紹介します。
未洗浄のスラブ面には、バイオフィルムが厚く堆積しています(図2、3)。一方、デントレックスで洗浄したスラブでは、完全ではないもののバイオフィルムがかなり除去されていることがわかります(図4、5)。
次に、そのスラブをメタクリル酸樹脂に包埋し、機械研磨でスラブの中央部まで削合し、断面を露出させました。そして、鏡面研磨後、カーボン蒸着を行い、断面中央部の反射電子像(10kV)を撮影しました(図6、7)。
スラブの中央部の反射電子像を利用して、バイオフィルムの外形を示す白金の薄層とエナメル質に挟まれたバイオフィルムの面積を画像解析ソフト(Image Pro‑Plus J6.2)で測定し、バイオフィルムの平均厚さを求め、さらに1対(洗浄スラブと対照スラブ)ごとの測定結果からバイオフィルムの除去率を算出しました。その結果、洗浄後のバイオフィルムの厚さ(平均± SD;μm)は2.35 ± 0.70 で、未洗浄の25.04 ± 19.24 より有意に減少(p <0.05,paired t‑test)し、その平均除去率は90.6%でした。このことから、水流圧を利用した洗浄では、完全にはバイオフィルムを除去することはできないにしても、口腔洗浄器が優れたバイオフィルム洗浄能力を有することが明らかになりました。
図1 デントレックス正面にあるつまみを右側に回すと洗浄圧を強くすることができる。今回は、右側のもっとも強いポジションに合わせて使用した。-
図2 洗浄のエナメル質スラブの二次電子像(倍率×40)。バイオフィルムにみられる亀裂は凍結乾燥時の収縮による。 -
図3 未洗浄のエナメル質スラブの二次電子像(倍率×200)。図2の黄色の枠部分を示す。 -
図4 デントレックスで洗浄したエナメル質スラブの二次電子像(倍率× 40)。 -
図5 デントレックスで洗浄したエナメル質スラブの二次電子像(倍率× 200)。図4の黄色の枠部分を示す。 -
図6 未洗浄のエナメル質スラブの反射電子像(倍率×1,000)。バイオフィルムの表面に一致した薄層は二次電子像を得るためにコーティングした白金。底部の白い部分はエナメル質。凍結乾燥時の収縮による亀裂が中央にみられる。 -
図7 デントレックスで洗浄したエナメル質スラブの反射電子像(倍率× 1,000)。バイオフィルムの厚さは大きく減少している。 -
図8 7名から得られた未洗浄の対照群とデントレックスによる洗浄群のバイオフィルムの厚さ。未洗浄のバイオフィルムには大きな個人差がみられる一方、洗浄したときの厚さは2~3μmでほぼ一定である。
■終わりに
口腔バイオフィルムを構成する細菌は、菌体外マトリックスで覆われ、免疫細胞や抗菌物質に抵抗性を示すことから、物理的に除去することがプラークコントロールの基本です。
そのため、プラークコントロールは、ブラッシングと同義語のように使われますが、本来は、う蝕予防の立場からいえば、口腔バイオフィルムの成長や成熟を抑制することにより、う蝕誘発性の高い状態から低い状態に変える(または、う蝕誘発性の低い状態を維持する)ことを意味しています。
物理的プラークコントロールには、単にバイオフィルムを減少させるだけでなく、その構造を破壊し、殺菌剤などによる化学的プラークコントロール効果を高めるといった役割もあります。今後は、口腔洗浄器のバイオフィルム洗浄能力に抗菌洗口剤の使用を組み合わせるハイブリッドなプラークコントロールが期待されるのではないでしょうか。
- 1) 加藤一夫ら:水流圧洗浄器による口腔バイオフィルム除去効果.口腔衛生会誌.60,372,2010.
- 2) Kato K et al.:A Method for Mapping the Distribution Pattern of Cariogenic Streptococci within Dental Plaque in vivo.Caries Res.38,448‑453,2004.
- 3) Sharma NC et al.:Effect of a dental water jet with orthodontic tip on plaque and bleeding in adolescent patients with fixed orthodontic appliances.Am J Orthod Dentofacial Orthop.133,565‑71,2008.
- 4) Barnes CM et al.:Comparison of irrigation to floss as an adjunct to tooth brushing: effect on bleeding, gingivitis, and supragingival plaque.J Clin Dent.16,71‑77,2005.
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