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Interview

MCIと認知症の兆候を見逃さないために~歯科で気づける、その変化~

横浜市青葉区医療法人社団緑成会 横浜総合病院横浜市認知症疾患医療センター センター長 長田 乾

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  • [写真] 横浜市青葉区 医療法人社団緑成会 横浜総合病院 横浜市認知症疾患医療センター センター長 長田 乾
    横浜市青葉区
    医療法人社団緑成会
    横浜総合病院
    横浜市認知症疾患医療センター
    センター長 
    長田 乾

認知症診療に長年携わっておられ、著書などを通じて、歯科受診や口腔ケアの重要性を発信され、日本認知症学会認定専門医・指導医である長田乾先生に、認知症と口腔疾患の関係性などについてお話を伺いました。

軽度認知障害(MCI)と認知症の違いについて教えてください

MCI自体は認知症ではありません。正常な認知機能と認知症の中間に位置するグレーゾーンで、認知症の初期段階とも言われます。時々もの忘れをするなど、本人や周囲が気づく程度の認知機能の低下が見られるものの、日常生活は問題なく送れる状態をMCIと言います。一方、認知症は、一人で電車に乗れない、ゴミ出しができないなど、日常生活に支障があり、軽度、中等度、重度と進行します。MCIのおよそ4分の1は将来、認知症に移行すると考えられています。

MCIから回復することはあるのでしょうか

適切な対策を行うことで改善する可能性はあります。また、2024年から保険適用が開始された抗アミロイドβ抗体薬は、アルツハイマー病の発症に関与しているアミロイドβを脳内から除去する薬で、MCIや軽度の認知症の進行を抑える効果が期待されています。日本国内ですでに約8,000人以上がこの点滴治療を受けており、認知症は早期に介入して治療を行う時代が到来したとも言えます。

歯科医院でも、認知症の兆候に気づくことはあるのでしょうか

アルツハイマー型認知症では日付や曜日に疎くなるので、もっとも多い症状は予約日に来なかったり、約束していない日に来院したりといった予約の間違いです。認知機能が衰えると無頓着になるため、身だしなみにも変化が現れます。例えば、お化粧をしなくなる。髭の剃り残しが目立つ。爪の中が汚れている。お風呂を嫌がるので尿臭がする。あるいは、歯磨きの回数が減る場合もあり、歯科医院ではそこで変化に気が付くかもしれません。このような兆候が見られる方には一度、専門医への受診をお勧めしてください。ただ、難しいのは本人が問題を感じていないケースが多い点です。その際には家族に普段の様子を聞いて、確認をするのも有効です。

協力が得られにくいなど、対応が難しい認知症患者さんに対してスムーズに診療を進めるポイントはありますか

認知症の人は、理屈で説明してもなかなか納得しないので、その対応には「北風と太陽」の例えのように肯定的な心構えが大切です。認知症の方は、多くの場合、家族から「もっとしっかりしなさい」などと注意される場面が多く、感謝されたり褒められたりする機会が少なくなっているので、まずはご本人の現状を肯定することが肝心です。「80歳でこんなに元気なんて立派ですね」「歯が残っていて素晴らしいですね」などと声をかけ、「今の健康を維持するために専門医を受診してはいかがですか?」と持ち掛け、診療に前向きになってもらうように促します。「部屋の中に子供が見える」「玄関に誰かいる」など幻覚を訴える場合には、その幻覚の世界に少し入ってあげることです。誰もいない場所に人がいると主張されるのであれば、「お知り合いのお子さんですか?」「何色の服を着ていますか?」などと会話を数回往復するだけで、安心してもらえることがよくあります。

咀嚼は脳への血流が促進され、認知症予防に有効だと言われています。

筋肉は活動量が増えると血流が増加します。一方で、脳内には普段から潤沢に血流があり、血流の総量はほぼ一定に保たれています。例えば、噛むという行為で、感覚野や運動野などの領域の血流が増えますが、 それは脳血流の総量が増えるのではなく、脳領域の活動量に応じて脳血流の分布が変わるということです。まずは脳が指令を出し、そのために必要な血流が供給されて噛む行為が行われます。つまり、血流が促進されるのは結果であって、脳が活動すること自体が重要なのです。特に咀嚼は、顎や口の運動を司る領域や、歯や粘膜といった感覚を司る領域などを活性化させるため、認知症予防にはとても有効です。

栄養と認知症に、関連はあるのでしょうか

血中のアルブミン濃度が低いと認知症のリスクが高まることが報告されています。また、アルブミン濃度が下がると免疫力も低下し、感染症のリスクが高まります。アルブミンはタンパク質を摂取すると肝臓で合成されるため、ステーキや焼き鳥といった動物性タンパク質を摂ることがお勧めです。お肉を食べるためには、歯がしっかり機能する必要がありますから、そうした視点からも歯科の役割は重要と考えています。歯科医院でも、患者さんにそうしたお話をしていただけると嬉しいですね。

動物性タンパク質以外にも摂取したほうがよい食品はありますか

摂取する食品の種類が多様なほど、認知機能低下のリスクが下がると言われています。魚介類、緑黄色野菜、海藻類など10種類の食品をバランスよく摂ることが大切です。2~3種類の食品しか摂取しない人に比べて、7種類以上の食品を摂取する人は認知症のリスクが低いことが明らかにされています(図1)。一方で、近年問題となっているのが「孤食」です。ひとりで食事をすることは、単に精神的に寂しいだけではありません。自分ひとりの食事は、調理するのが面倒になり、買い物に行かなくなり、簡単なもので済ませたり、食事の回数が減り、その結果、偏食になるなど、食事の質が低下します。孤食が認知機能低下の始まりだと言われるゆえんです。家族や仲間との食事は社会参加の1つであり、会話をしながら楽しみ、その上で最後はみんなで歯磨きするのが良いかもしれません。高齢者の残存歯数と認知症リスクに注目した研究では、残存歯数が22本以上の人に比べて、20本以下の人は認知機能低下リスクが20倍になることが明らかにされています(図2)。

  • [図] 食品多様性スコア
    図1 食品多様性スコア:肉、魚介類、卵、大豆製品、牛乳、緑黄色野菜、海藻類、芋、果物、油を使って調理した食品10種類のうち、少なくても7種類以上を摂取すると、3種類以下の人と比べて認知症リスクが半減する。Llewellyn DL, et al. T, Curr Alzheimer Res. 7: 91–96, 2010.
  • [図] 高齢者の残存歯数と認知機能:60歳以上の日本人463人を対象にした調査では
    図2 高齢者の残存歯数と認知機能:60歳以上の日本人463人を対象にした調査では、残存歯数が22本以上の人に比べて、20本以下の人は認知機能低下リスクが20倍になる。Saito Y, et al. Annals of General Psychiatry 12: 20, 2013.

長田先生は口腔ケアに「ソニッケアー」を使用されていると伺いました

[写真] 長田 乾20年ほど前から使用しています。当初は歯周病予防が目的でしたが、最近では、高齢になった時に手指のコントロールが難しくなっても、しっかりと磨ける点も有用だと感じています。手指が乾燥しやすい高齢者は、持ち手が滑りにくい「ソニッケアーキッズ」も良いのではないでしょうか。普段とは異なるさまざまな刺激が認知機能の維持には良いと考えられているので、歯ぐきや手に伝わる振動もプラスに働く可能性があります。ただし、認知症になると新しいことを覚えるのが不得意になるので、40代や50代の元気なうちに電動歯ブラシに切り換えて、使い方に慣れておくことが大切です。高齢になる前からの電動歯ブラシを使ったセルフケアの習慣化を、ぜひ歯科の先生方から発信いただければと思います。

あらためて、認知症予防における歯科の役割を教えてください

口腔機能が衰えると食事摂取量や動物性タンパク質の摂取量が減少し、フレイルの誘因となります。また、歯がない恥ずかしさから会話を控えるようになり、外出機会が減り、社会的に孤立します。いずれも認知症を引き寄せる要因です。歯が丈夫でしっかりと食べられることが元気の源であることは間違いありません。高齢化が進む日本において、認知症予防の観点からも歯科の役割は大きいと考えています。また、最近のわが国の調査では、歯科医院へ通院する人は、そうでない人に比べて健康寿命が長くなる傾向が示されています。

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