127号 WINTER 目次を見る
■目 次
■はじめに
近年、歯冠修復の分野ではジルコニアコーピングを用いたクラウンブリッジ、インプラント修復の分野でも、その中間構造としてジルコニアアバットメントが応用されている。これらジルコニア素材は、従来のオールセラミックスに比べてはるかに高い機械的強度を示すとともに、高い審美性を有する優れた素材である。
現在、各社ジルコニアシステムに相応したレイヤリングポーセレンが開発され、それぞれ特色をもった色調再現がおこなえるよう、工夫されている。ただし、メタルセラミックスとほぼ同様の工程で作業が進められるため、いわゆるセラミストに製作が委ねられる現状がある。折りしも歯科技工士数が激減するなか、卓越した築盛技術を駆使するまでもなく、基本的なワックスアップ技術さえ持ち合わせていれば安定したクオリティを維持できるプレストゥジルコニアシステムが、ノリタケデンタルサプライより発売された。
本システムは、手技あるいはCAD/CAMにより得られたジルコニアコーピング等に合った熱膨張係数をもち、かつ40色からなるインゴットを核とするプレスシステムである(図1)。周知のとおり、ノリタケシェードは20色であるが、インゴットに各シェードごとのハイトランス・インゴット(インゴットH)とロートランス・インゴット(インゴットL)が用意されるため、使用方法(用途)は大きく2つに分かれる。
まずインゴットHであるが、通常は表面ステインで着色して仕上げるステイン法として用いる。システムとしては、ジルコニアコーピングのベース色を調整する「シェードベースステイン」、埋没に使用する専用「フォーマー」、および「リング」、インゴットをプレスするための「ディスポプランジャー」、プレス成形されたものに着色するための「CZRプレスLF エクスターナルステイン」、そして着色後に全体をコーティングする「CZRプレスLF グレーズ」である(図2)。
次にインゴットLであるが、こちらはレイアリング法に用いる。システムとしては、ジルコニアコーピングのベース色を調整する「シェードベースステイン」、「フォーマー」、「リング」、「ディスポプランジャー」、そしてプレス成形されたものの上にレイアリングするための「CZRプレスLF ポーセレン」、および「CZRプレスLF インターナルステイン」である。もちろん、「CZRプレスLF エクスターナルステイン」も併用できる(図3)。
インゴットHは、その色調再現のほとんどを表面ステインにたよるため、色調自体は従来のCZRポーセレンより彩度が低く透明度が高い。インゴットLは、セラミストが築盛する外形回復からカットバックされたデンチンの色と形を表現するため、色調自体は従来のCZRポーセレンとほぼ同等か、やや透明度が高い程度である。
どちらにしても、基本的なワックスアップは最低限の条件になるが、レイアリング法を採用するに至っては、むしろセラミストが築盛するポーセレンワークに比べて気泡の混入が少ない、安定した補綴物になり得る。
本稿では、CZR プレスシステムの基本的な使用方法を紹介する。
図1 プレストゥジルコニアシステム
図2 インゴットH(ハイ・トランス)
図3 インゴットL(ロー・トランス)
■1. プレステクニックをおこなう際の注意点
ジルコニア(イットリアを添加した部分安定化ジルコニア)の特性として、温度が高いと強度が著しく低下することがあげられる(表1)。すなわち、コーピングを削除調整する際にはメーカー保証の最低限の厚みを保持する必要がある。もし、それ以上に薄く調整してしまうと、プレス圧によってコーピングが割れてしまうおそれがある。また、コーピングのマージンに鋸歯状の凹凸があっても、割れの原因を助長することになる。
以上の点に注意してプレステクニックを応用してほしい。
表1 Flexural Strength at High Temperature
■2. インゴットHを使用したプレスクラウン
前述したように、基本的にはステインにて色調の調整をおこなう方法である。
以下、アトラス方式にてステップを紹介する。
図4 作業模型上のコーピングの状態。本症例では、ほぼ均一に0.5mmほどショートマージンである。
図5 マージン付近をスムーズに削除、調整する。
図6 2気圧以下でアルミナ50μmのサンドブラスト処理をおこなう。
図7 アセトン洗浄(10分)しているところ。
図8 洗浄したコーピングに直接ワックスアップして、歯冠の回復をおこなう。
図9 専用フォーマーにスプルーイングをおこなう。スプルーの太さは最低3.3mmの直径のものを使う。湯口からの距離は3mmが目安。フォーマー上面に対して30~60度の傾斜角をもって植立する。
図10 プレス用埋没材で、気泡を巻き込まないよう埋没する。メーカーでは、ウイップミックス社PC15を推奨する。
図11 本埋没材では、15分後に850℃のリングファーネスに挿入する。焼却されたワックス成分やガスが出やすいよう、とくに大型の鋳型や、本数が多い場合は、やや斜めに設置する。
図12 ワックスの焼却後、インゴットHを湯口側にセットし、その上からディスポプランジャーを挿入する。
図13 プレス終了の状態。市販されているファーネスに対応するスケジュールはメーカーより指定される。
図14 ガラスビーズ50μm・最大2気圧で埋没材を取り除いているところ。マージン方向からブラストノズルを当てないよう注意する。
図15 得られたプレストゥジルコニアクラウン。
図16 エデンタマルチカットを使って、スプルーカットをおこなっているところ。
図17 通常、気泡さえなければストレスなしに適合する。
図18 やや粗めのシリコンホイール等で表面をスムーズに調整する。
図19 CZRプレスLF エクスターナルステイン「A+」でシェードの調製をおこなう。
図20 840℃で固定焼成する。
図21 表面にCZRプレスグレーズを一層塗布する。このとき、インターナルステインリキッドを用い、やや固め(メイプルシロップ状)の粘性を保ったまま塗りつける。図では、向かって右半分がグレーズ材を塗布した表面。
図22 840℃でCZRプレスグレーズを焼成し、完成したインゴットH・ジルコニアクラウン。
■3. インゴットLを使用したプレスクラウン
次に、インゴットLを使用したプレスクラウンの製作について述べる。
基本的には、求めるクラウンの基調色およびポジションの決定はプレステクニックを応用し、微妙な透明層やコントラストはCZRプレスLFのエナメル、トランス(ラスター)ポーセレンをレイヤリングして回復する。
以下、アトラス方式にてステップを紹介する。
図23 パレット上でシェードベースステインをインターナルステインリキッドで練和する。
図24 コーピング洗浄後、シェードベースステインを塗布しているところ。近日発売予定のペインティングインスツルメントKY型は、簡単に薄く均一に塗布できる。
図25 焼成前にシェードベースステイン用のシェードガイドを用いて色調のチェックをおこなう。
図26 コーピングのシェード処理が終了した状態。
図27 図26の上に直接ワックスを盛り上げ、通法により、ワックスアップを完了させる。
図28 あらかじめ採得したインデックスでプレスポーセレンの厚みを確認。このとき、従来法でのカットバック形状よりやや大きめに調整する。プレスの成功率を高めるためには0.8mm以上のスペースを確保することが望ましい。
図29 必要であれば、CZRプレスLFポーセレンのエナメルを築盛・焼成し、指状構造の調整をおこなう。
図30 CZRプレスLF インターナルステインでシェードの微調整をおこなう。
図31 CZRプレスLFポーセレンの築盛。本材には、現在エナメルおよびトランス、そしてオパールセンスをもつラスターポーセレンがラインナップされる。
図32 図31の焼成後。規定の焼成温度は840℃(係留1分)だが、表面に少しツヤが出るくらいに温度調整し焼成すること。
図33 完成したインゴットL・ジルコニアクラウン。筆者の場合、ある程度シリコンやパールサーフェスCで滑択な面を得ているので、825℃(係留20秒)のスケジュールである。
図34は、インゴットHを使用したクラウン(図22)をシェードチェックしているところである。
CZRプレスLF エクスターナルステイン「A+」を使うことで、ほぼ所望するシェードがえられた。
図35は、インゴットLを使用したクラウン(図33)をシェードチェックしているところである。
ここでは、クラウン内面にレジンで製作した仮想の支台を入れてある。セメントスペース分には、クラレメディカル社のエステティックセメント・トライインペーストクリアを用いた。
とくに、カタナジルコニアとプレスセラミックとのコンビネーションにおいては、クラウン単体では光の透過がおこるため、最終的なシェードの確認はこのような操作も必要に応じておこなうとよい。
図34
図35
■おわりに
以上、CZRプレスシステムの使用法について解説した。プレスシステム自体は目新しいものではないが、ジルコニアという素材をポーセレンで完全に覆うことができ、加えてマージンは全周にわたって気泡のないポーセレンであり、審美性と親和性においては、これまでにも増して有意と考えられる。また、歯周軟組織を成熟させて審美修復に移行するプロビジョナルクラウンの重要性が唱えられる現在、その形状を陶材築盛法ではなくワックス(や場合によってはレジン)で成型できることは、形状再現性の正確さの点からも意義が大きい。ただし、チェアサイドでの歯頸部マージンの形成は十分な幅を要すること、ラボサイドではインゴットおよびプレスファーネスの準備が必要となる。
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