149号 SUMMER 目次を見る
目 次
1. はじめに
歯冠用硬質レジンは、操作性、硬化物の審美性や機械的強度および金属接着性などの特性が著しく向上し、修復材料として確固たる地位を築いています。国内では、1986年に前歯部前装ブリッジが保険適用され、1992年には単冠にまで適用が拡大されたことから急速に普及が進み、今やわが国の歯科臨床において欠かせないものとなっています。
当社では1989年に歯冠用硬質レジンとして「セシード」を発売しました。本品は世界で初めてオペークを含む全ての構成品を1ペースト光重合タイプとした製品で、その優れた操作性、強度、金属接着性により多くの先生方に高く評価され、硬質レジンのスタンダードとして広く認知されました。
その後も操作性を改善した「セシードⅡ」、色調再現性を向上させた「エプリコード」を発売し、先生方のニーズに応える努力をしてまいりました。
このたび新しく発売した「セシードN」は、使いやすさをさらに進化させた新しいタイプの硬質レジンです。以下に本品の特長と使用方法について紹介します。
2. セシードNの商品構成
「セシードN」は、「マルチカラーシステム」と「ワンボディシステム」の2つのシステムから構成されています。
「マルチカラーシステム」は、従来の硬質レジンと同様の製作方法をベースに使いやすさを向上させたシステムです。
一方「ワンボディシステム」は、ボディレジンの積層・研磨操作が不要の当社が推奨する使いやすさを追求した新しい修復システムです(図1、2)。
図1 「セシードN マルチカラーシステム スタンダードセット」
図2 「セシードN ワンボディシステム スターターセット」
3.「ワンボディシステム」について
本システムは、各々2色のオペークレジン(ユニバーサルオペーク<UO>、ホワイトオペーク<WO>)とボディレジン(ユニバーサルボディ<UB>、ホワイトボディ<WB>)および8色のカラーコートを主構成品とし、関連接着材料としてオペークプライマー、カラーコートプライマーから構成されています。従来システムに比べ少ない色調数でビタの色調表現が可能となっており、初期導入のコストが低く抑えられるとともに、マイナーシェードの有効期限切れによる廃棄リスクも軽減できるリーズナブルな構成となっています(図3、4)。
今回、このシステムを可能にするため、新たに「専用のボディレジン」と「カラーコート」を開発し、ボディレジンの積層無しで質の高い色調表現を可能としました。
1)専用のボディレジン
天然歯の光学特性は、エナメル質がほとんど光を透過させる性質を持っているのに対し象牙質はかなりの光拡散性を有しています。「セシードN」のボディレジンは2種の表面処理有機複合フィラーと表面処理バリウムガラス、および表面処理シリカフィラーを配合したハイブリッドタイプのコンポジットレジンで、光拡散性を有するフィラーの配合比率をコントロールすることにより天然歯に近似した色調表現を可能としています。
一方、ワンボディシステムに用いるボディ(UB、WB)については、単層で適度な透過性、質感の表現が可能となるようマルチカラーシステムのボディとエナメルの中間の光拡散性と透明性を付与しています(図5、6)。
2)カラーコート
次に、「カラーコート」は多官能アクリレートと表面処理シリカ系マイクロフィラーを配合したコンポジットレジンで、従来の表面滑沢材に比べ優れた硬度と耐摩耗性を有しています(図7、8)。
さらに、シランカップリング剤を配合した「カラーコートプライマー」と併用することにより、「カラーコート」とボディレジンが強固に一体化されます(図9)。従来の表面滑沢材では経時的に摩耗や剥離が生じ耐久性に不安がありましたが、硬度、耐摩耗性に優れる「カラーコート」と接着性を有する「カラーコートプライマー」を組み合わせることで、口腔内における高い耐久性が期待できます(図10)。
3)技工術式
図にワンボディシステムの基本技工術式を示します(図11-①~④)。
4)色調再現のポイント
図は、カラーコート用いたビタA系色の再現例ですが、目標とするビタシェードガイドを参考にA+を歯頸部寄り2/3に薄く塗布します。重合後クリア−1を切端から歯頸部にかけて薄く塗布、光重合し完成させます。このようにボディペーストの積層築盛に比べ色調表現が容易に行えます。ユニバーサルオペーク(UO)とユニバーサルボディ(UB)を合わせた色調はA2シェードより若干明度が高い色調を発色します。その後A+で色調の微調整を行います。
さらに追加色としてサービカル1、2、インサイザルブルー、ホワイト色を取り揃えていますので、より高度な色調表現にも対応できます(図12、13)。
なお、本品は口腔内用の光照射器で重合できますが、クリアについては「クリア−1」の替わりに「クリア−2」を使用してください。
図3 ワンボディシステム色調構成表
オペーク(UO、WO)とボディ(UB、WB)および4色のカラーコート(A+、B+、C+、クリアー1)で、ビタの主要シェードを表現できます。その他、個性的な色調表現に用いる色調(4色)や口腔内で使用するクリア色(クリアー2)から構成されています。
図4 色調表現方法
ワンボディシステムは、オペークの上にボディを単層で築盛しカラーコートで色調表現するシステムです。
図5 ボディレジンの光拡散性
マルチカラーシステムのボディ(A3B)とエナメル(E3)は天然歯を目標に異なる光拡散性を有しています。一方、ワンボディシステムのボディ(UB、WB)は単層で表現できるよう、それらの中間の光拡散性を有しています。
図6 色度板(左からE2、UB、A2B)
ワンボディシステムに用いるボディレジンは単層で再現するため、エナメルとボディの間の透明性を付与しています。
図7 電顕写真
カラーコートは、表面処理シリカ系マイクロフィラーを配合した光重合型コンポジットレジンです。
図8 表面硬さ
フィラーの配合により従来の表面滑沢材に比べ表面硬度が向上しています。
図9 カラーコートとボディレジンの接着
シランカップリング剤を配合したカラーコートプライマーにより、カラーコートとコンポジットレジンの接着性が向上します。(グラフは、37℃水中1日後の接着強さ)
図10 カラーコートの耐久性(歯ブラシ摩耗試験40,000回後)
カラーコート塗布面はボディレジン研磨面や従来の表面滑沢材に比べ優れた滑沢耐久性を有しています。
図11 ワンボディシステムの技工術式
①プレオペーク、オペークの塗布・重合 ②ボディレジンの築盛・最終重合、形態修正 ③カラーコートプライマー、カラーコートの塗布 ④重合、完成
図12 色調表現例
シェードガイドを見ながら、A+を歯頸部寄り2/3の部分に塗布します。その後、切端から歯頸部にかけてクリアー1を薄く塗布します。
図13 カラーコートの色調
4.「マルチカラーシステム」について
本システムは、「エプリコード」と同様、ボディレジンの積層築盛により製作するものですが、以下の点について使いやすさを向上させています。
1)オペーク操作の簡略化
オペークの操作は、前装冠の予後を保証する上で非常に重要な操作です。オペークは金属色を隠すために高い遮蔽度が要求されます。しかし、これは光重合レジンの場合には硬化特性の低下につながるため、使用にあたっては塗布・重合を数回に分けて行う必要があり操作が煩雑になります。
「セシードN」では、オペークプライマーは、オペークの金属接着と重合促進の2つの機能がありますが、新たに硬化特性に優れるプレオペークを開発し操作性の改善を図っています。
本品はリテンションビーズ下部に流し込みやすい性状と高い硬化深度を有するオペークで、ボディオペークを塗布する前に使用することにより、後に塗布するオペークの塗布回数を減らすとともにオペークの重合時間短縮が可能となっています(図14)。
また、サブミクロンフィラーを配合することにより表面に露出した場合にも良好な研磨性と滑沢耐久性を有しています。
2)ボディペーストの付形性向上
さらに、ボディペーストについても従来品から改善を図っています。デンチンは歯冠の基本的な形態、色調を再現することと、硬化した面が後で積層するペーストと馴染み易いことが重要です。
「セシードN」ではデンチンについては形態保持性を重視しながら適度にモノマーが浮くように調整し、エナメルについては薄く伸ばし易くべたつきの少ないペースト性状に調整しています。これにより気泡混入の少ない補綴物の製作が可能となっています(図15)。
3)厚みによる色調変化の抑制
臨床では症例や部位により厚みが異なることから、常に安定した色調を再現することは至難の業です。マルチカラーシステムでは、このような影響を軽減するため、オペーク、デンチンの色調を最適化し前装部の厚みによる影響を軽減し、安定した色調再現が行えるよう配慮されています(図16、17)。
なお、エナメルについてはシェードガイドとの適合性を重視し従来品「エプリコード」に比べ透明性を調整しています。そのため、「エプリコード」をお使いの方で同様の透明性を求める場合には、TE1、TE2をご使用ください。
図14 プレオペークの硬化特性
プレオペークはオペークに比べ硬化特性が高いため、オペークプライマーとの接触硬化に加え確実に重合硬化します。
図15 ペーストの付形性
図16 色調の厚みによる影響
図17 マルチカラーシステムでの表現例
おわりに
弊社が「セシード」を発売し今年で25年になりますが、保険点数の見直しや審美修復の選択肢の拡大等、硬質レジンを取り巻く環境は大きく変化しています。「セシードN」が皆様の修復治療に貢献し、硬質レジンの新たなスタンダードとして広くお使いいただけるよう切に願っています。
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