155号 WINTER 目次を見る
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ 前歯修復物まで適応可能な透光性
- ≫ マルチレイヤー技術
- ≫ 製品構成・色調設定
- ≫ 臨床用途、部位に適した機械的特性
- ≫ より質の高い治療の提案
- ≫ まとめ
はじめに
列近年、デジタルデンティストリー技術の発展により歯科医療が変革しつつある。とりわけ画像診断やインプラント修復における手術支援、上部構造体の作製などで、当該技術の導入が進んでいる。補綴歯冠修復においても、従来の鋳造法に代わり、CAD/CAM装置が出現したことで、ジルコニア等の高い機械的特性を有するセラミックスの加工が可能となり、メタルフリー修復の普及が加速した。当社もこれまでメタルフリー修復のための、コーピング(フレーム)用未焼成ジルコニア「カタナ®ジルコニア」KTシリーズや、仮焼ジルコニア「カタナ®ジルコニア」HTシリーズを展開している。
また、最近ではジルコニアのみで作製されるモノリシックな修復物(フルジルコニア修復物)の使用も増加している。当社は、2013年にフルジルコニア修復物の作製を主目的としたマルチレイヤードタイプの仮焼ジルコニア「カタナ®ジルコニア」MLを発売した。マルチレイヤードジルコニアは、異なる色調を積層したジルコニアディスクであり、フルジルコニア修復物を簡便に作製できることから好評を得ている。
このような環境の中、「カタナ®ジルコニア」の新たなシリーズとして、高透光性タイプのUTML(Ultra Translucent MultiLayered)/STML(Super TranslucentMulti Layered)の開発に至った(図1)。
本品で作製された修復物はエナメル質に近似した透光性を有し、これらのラインナップの追加により、臼歯部における使用が中心であったフルジルコニア修復物を前歯部にまで適用することが可能となる(図2、3)。
以下にその特長を解説したい。
前歯修復物まで適応可能な透光性
当社は、ジルコニア粉体からディスク成型まで全てを自社で一貫製造している歯科材料メーカーであり、本品の開発において、これまで培った技術、ノウハウを結集し、透光性を向上させている。
図4に各シリーズの透過率を示す。既存のHT/MLに対して、透過率がSTMLで24%、UTMLでは42%向上している。ジルコニアは本来、3つの結晶相を持っており、室温では単斜晶が安定的に存在するが、酸化物の添加により、室温で安定な結晶相を正方晶、立方晶に変えることができる(図5)。
これらの構造の中で高い透光性を示すのは立方晶であり、本品では、酸化物の選定、添加量の調整を行い、構造中の立方晶比率を高めることで優れた透光性を付与している。
これまで前歯修復物として、陶材焼付前装冠(PFM、PFZ)や、ガラスセラミックスをプレス法で作製した修復物が使用されてきた。
本品を活用することにより、審美性に優れる前歯修復物をCAD/CAM装置を用いて作製できるようになり、歯科技工所での作業の効率化も期待できる。
マルチレイヤー技術
ジルコニア開発において、高透光性の技術に加えて重要な技術の一つはマルチレイヤー技術である。ディスクをマルチレイヤー化することで、切削加工、焼成するだけで歯頸部から切縁部にかけて色調のグラデーションを有するフルジルコニア修復物を作製することが可能となる。
グラデーションの付与により、単色のジルコニア、ガラスセラミックスを使用した場合と比べてステイニング作業の簡略化が期待できる。
マルチレイヤードディスクの開発・製造では、これまでの陶材開発で培った独自の着色技術が生かされており、顔料添加量を低減することで各層の収縮をコントロールしている。
また独自の製造法で各層にギャップのないグラデーションを付与している(図6)。そのため、適合に優れた滑らかなグラデーションを持つ修復物を簡便に作製することができる。
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図1 「カタナ® ジルコニア」UTML/STMLシリーズ -
図2 各シリーズの推奨用途 -
図3 UTML/STMLで作製されたフルジルコニア修復物
ラミネートベニア:カスプデンタルサプライ山田和伸先生 前臼歯クラウン、インレー:フィールデンタルラボラトリー冨田佳照先生 -
図4 各シリーズの透過率
*無着色ジルコニア(原材料)を使用
測定波長:700nm 試験片厚み:0.5mm
<クラレノリタケデンタル(株)測定> -
図5 ジルコニアの結晶相造変化 -
図6 滑らかなグラデーション
製品構成・色調設定
UTMLには16色の「スタンダードシェード」、2色の「エナメルシェード」、STMLには5色の「スタンダードシェード」が準備されている(図7)。
図8にUTML、図9にSTMLの色調設定を示す。UTMLは既存の歯科用ジルコニアの中で高レベルの透光性を有している。「スタンダードシェード」、「エナメルシェード」ともに全層にわたり高い透光性を付与しており、前歯クラウン、ラミネートベニアの作製に適している。「エナメルシェード」は、切端部から中央部の彩度が抑えられており、ステイニングにより透明感を際立たせることのできるシェードである。
一方、STMLでは、色調のみならず透光性のグラデーション(歯頸部の透光性を低減)が付与されている。そのため支台歯から受ける影響を低減する設計となっており、臨床における様々な色調の支台歯に対し安定した色調表現が可能となっている。図10にUTML/STMLで対応可能な支台歯色調を示す。
本品は、グレーズ、ステインを併用してフルジルコニア修復物を簡便に作製することを第一の目的として開発されているが、陶材を併用することによって、より審美的な修復物を作製することも可能である。図11に併用可能なグレーズ、ステイン、陶材を示す。
臨床用途、部位に適した機械的特性
歯科材料メーカーである当社は、ジルコニアのみならず陶材、レジン系歯冠修復材料等の開発を通して、臨床用途や部位に応じて必要となる機械的特性についてノウハウを蓄積してきた。
臼歯単冠クラウン等に使用される歯冠用硬質レジン(エステニア®等)は約200MPa、臼歯単冠クラウン、前歯3本ブリッジに使用される高強度ガラスセラミックスは約400MPaの曲げ強さであると報告されている。
図12にそれぞれのシリーズの曲げ強さを示す。UTMLで約550MPa 、STMLで約750MPaの曲げ強さを有し、十分に臼歯での使用に耐えうると考えられる。また立方晶の割合が高いジルコニアは劣化しにくいことが報告されており、本品は長期にわたり機械的特性を維持することが期待できる。
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図7 製品構成 -
図8 UTMLの色調設定 -
図9 STMLの色調設定 -
図10 対応可能な支台歯色調 -
図11 併用可能なグレーズ、ステイン、陶材 -
図12 曲げ強さ
*無着色ジルコニア(原材料)を使用
ISO 6872:2008準拠(3点曲げ試験)
支点間距離:30mm 試験片サイズ:40×4×3mm
<クラレノリタケデンタル(株)測定>
より質の高い治療の提案
前歯に適用可能な高透光性、臼歯に使用できる機械的特性は材料自体に求められる特性であるが、ディスクを加工するCAD/CAM装置、完成した修復物を接着するためのセメントの選択も重要である。当社は、ディスクに加えCAD/CAMシステム、セメント材料とを組み合わせたトータルシステムを提供し、より質の高い治療を目指している。
1)加工システム
カタナ®CAD/CAMシステム(図13)では、世界トップブランドである3Shape社製のスキャナーを採用している。スキャナーは高精度、高効率であることはもちろんのこと、専用のデザインソフトに含まれる豊富なアナトミカル・データライブラリーを用いることで修復物を短時間でデザインすることが可能である。また加工機として採用しているローランドディー.ジー.社製のDWX-51Dでは、オートマティックツールチェンジャー(ATC機能)を搭載し、ジルコニア用に設計されたφ2.0mm(粗加工用)とφ0.8mm(精密加工用)の工具(カタナドリル:図14)を、自動的に切り替えることにより、高精度で、かつ高効率な連続切削加工が可能となる。
2)セメント材料臨床においてUTML/STMLの高い透光性を生かすためには、組み合わせて使用するセメント材料にも優れた審美性が要求される。
今春に発売された「パナビア® V5」は、透明性(不透明性)、明度、彩度を変えた5シェードと、試適時に最終装着時の色調を確認するためのトライインペーストを有し、本品との併用に適したレジンセメントである(図15)。
試適、調整後に、修復物、支台歯表面を清掃し、ジルコニア表面を付属の「クリアフィル®セラミックプライマープラス」、歯質を「パナビア® V5トゥースプライマー」で処理する簡便なステップにより、審美的な修復が可能となる。
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図13 カタナ® CAD/CAMシステム -
図14 カタナドリル -
図15 「パナビア® V5」
まとめ
「カタナ®ジルコニア」UTML/STMLは、高い透光性を有し、これまで臼歯中心に使用されてきたジルコニアの適用を前歯部まで広げる製品である。またマルチレイヤー化により、簡便に効率よく修復物が作製可能である。
先生方の今後の治療において、お役に立てていただければ幸いである。
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