163号 WINTER 目次を見る
■はじめに
近年、セルフエッチング接着システムでは、2ステップ、1ステップともに、良好な接着性能を発揮するシステムが発売され(本誌158号、162号に掲載)、直接法コンポジットレジン修復、すなわちダイレクトボンディングへの信頼性はますます高まっている。本稿では、特に2級修復へダイレクトボンディングを応用する意義と、臨床上のポイントや勘どころについて紹介する。
■さよなら銀歯
歯冠修復物が長年にわたり機能するためには、当然接着が重要である。ダイレクトでもインダイレクトでも、生体と生体材料である修復物との良好な接着が得られなければ、その修復治療は二次う蝕の発生や脱離を招く。接着性能の高いコンポジットレジンセメントの登場によってインダイレクトボンディングへの期待が大きく高まっているが、現時点では、なおダイレクトボンディングの歯質接着性のほうが優れる1)。臼歯隣接面(2級修復)については、ダイレクトボンディングとインダイレクトボンディングの臨床成績に有意な差がないことが報告されており、MIの理念に基づいて、健全歯質を可及的に保存することが可能なダイレクトボンディングを行うことが推奨されている2)。
■それでも2級修復は難しい
ダイレクトボンディングにおける材料学的な発展、すなわち接着システムとコンポジットレジンの進化には目を見張るものがあるが、依然として、臼歯咬合面(1級修復)と比較し、臼歯隣接面(2級修復)に対するダイレクトボンディングは技術的難易度が高い3)。適切なコンタクトの再現、隣接面の解剖学的形態の回復、適切なマージン適合性の獲得をクリアすることが2級修復の成功のための要件であり4)、技術や経験によって大きく左右される。これらが達成され、長期的にはマージンの変色、う蝕の再発、コンポジットレジンの破折のリスクが低減される。
■2級修復のポイント
筆者の考える2級修復の臨床上のポイント、勘どころについて、以下の点について紹介する。
㋐プレウェッジはきほんのき
修復の成功のための最初にクリアするべきステップは窩洞形成である。プレウェッジ(図2)は、隣接面窩洞形成中の歯間離開、歯間乳頭の保護を目的とし、隣在歯隣接面を傷つけること無く、歯肉側マージンの緻密な窩洞形成が可能となる5、6)。2級修復でも、必須と言っても過言ではなく、是非行いたいテクニックである(図3)。
㋑2級マトリックスシステムの使用
窩洞が小さい場合や、歯根間距離が近接している場合は、トッフルマイヤーリテーナーや透明のプラスチックテープをマトリックスバンドとして使用して修復可能である(図4)。しかし、2級ダイレクトボンディングを行う準備としては、コンポジタイト3Dマトリックス(ギャリソン)などのマトリックスシステムを用意しておくべきだろう。なぜなら、術者の予想に反して、窩洞が大きくなると、適切なコンタクト、隣接面の解剖学的形態、適切なマージンの獲得が上述の方法では不可能なためである。2級マトリックスシステムは、①隣接面形態の再現を可能にする湾曲したマトリックスバンド、②歯間離開を行い、同時にマトリックスバンドを保持するマトリックスリング、③歯間離開、および歯肉側マージンへのマトリックスバンドのフィットを向上させるウェッジ、以上3つの要素から成る(図5、6)。これらが上手く設置できると、副次的に防湿の効果も得られる。コンポジタイト3Dマトリックスの一番の特長は、コンポジタイト3Dリテーナー(マトリックスリング)が他の製品と比較し非常に堅牢で、確実に歯間を離開してくれる点である。スリックバンド(マトリックスバンド)は、内側のコーティングが硬化後のコンポジットレジン離れを良好にし、充填後ストレスのない撤去を可能にするユニークな設計である。また、昨年発売されたフュージョンウェッジ(図7)は優れもので、歯肉側マージンのクオリティが向上する。なぜなら、ウェッジ本体に付いている柔らかい樹脂のフィンがマトリックスを窩壁により密着させ、従来のウェッジと比較し、隣接面歯肉側マージンのフィットが格段に向上し(図8、9)、充填するコンポジットレジンの溢出を防止してくれるからである。一方で、3要素をすべて一つのメーカーに統一する必要はなく、様々なメーカーのものを組み合わせて、自分の臨床と合う独自のマトリックスシステムスタイルを確立されるのも良いと思う。
㋒近遠心の辺縁隆線がポイント
2級修復では、適切な近遠心の辺縁隆線が固有咬合面を決定する(図10)。コンポジットレジンの隆線を、残存する隆線と確実に一致させる。この辺縁隆線の位置が適切でなければ、コンポジットレジンの破折リスクを高めることにもつながりかねない。しかし、この調整は意外と難しい。適切な隣接面形態の回復のためには、上部鼓形空隙、頰舌的鼓形空隙を意識して調整する(図11、12)が、ポイントは、プレウェッジテクニックに対してポストウェッジテクニックというべきか、ウェッジを挿入し、わずかに歯間離開させて行うことである(図13、14)。これにより少なくともマトリックスバンド一枚分の空隙は確保可能で、そこに研磨用ディスクを挿入し研磨する。バーによるラフな形態修正後、一筋の辺縁隆線を出すためには、ディスクの研磨システムを用いることをおすすめする(図13、14)。筆者は、さらにダイヤモンドペーストを用いてブラシで最終つや出し研磨を行っている。
㋓セレクティブエナメルエッチングの効果
患者の口腔内にある、術後、一定の時間が経過した2級修復を注意深く観察すると、頰舌側のマージンの劣化(適合性の悪化や着色)が生じていることがある。
隣接面の回復を行う2級修復の場合、マトリックスの形態と、歯質が本来持っていた形態は完全には一致しない。つまり、残存歯質の曲率とマトリックスの曲率が、頰舌側で一致しないため、頰舌側で窩洞マージンをオーバーして充填され、最終的な修復物マージンができ上がる。
したがって、頰舌側のマージンは、未切削のエナメル質となるので、接着性能を向上させる7)という観点から、残存歯質の頰舌側、マトリックスバンドが覆う部位に対して、リン酸を用いた選択的なエナメルエッチングが必要であると筆者は考えている(図15)。セルフエッチングシステムの酸性度は低く、未切削エナメル質への脱灰効果が弱いためである。セレクティブエナメルエッチングには、長期的なマージンの変色の出現率を低下させる効果も期待される(ただしゼロにはできない)8)。
ただし、象牙質にエッチング材が付着した場合、接着性能が低下するだけでなく、術後疼痛など大きなトラブルにつながる可能性があるので、Kエッチャントジェルシリンジなどのシリンジに入ったジェルタイプのエッチング材を使用すべきだろう(図16)。
図1 インレー脱離症例。ダイレクトにするか?インダイレクトにするか?
図2 プレウェッジを行うことによってできる僅かな歯間空隙により、隣在歯隣接面を誤って削ること無く、歯間乳頭を排除し歯肉側マージンの窩洞形成を仕上げることができる。
図3 フュージョンウェッジを用いてプレウェッジを行い、窩洞形成を行う。
図4 窩洞が小さい場合や、歯根間距離が近接している場合は、トッフルマイヤーリテーナーや透明のプラスチックテープをマトリックスとして使用することができる。
図5 コンポジタイト3Dリテーナーを装着後、黄色丸部分にウェッジを挿入する。
図6 2級マトリックスシステムは、マトリックスリング、マトリックスバンド、ウェッジの3要素から成る(コンポジタイト3Dリテーナーを例に)。
図7 フュージョンウェッジ(ギャリソン)。柔らかい樹脂であるフィンが付いたウェッジがマトリックスを窩壁に密着させ、従来のプラスチックウェッジと比較し、隣接面歯肉側マージンのフィットが格段に向上する。
図8 従来のウェッジを使用した場合、マトリックスバンドと歯肉側マージンの間に隙間が生じることがある。
図9 フュージョンウェッジを使用した場合、独自設計のフィンによって、マトリックスバンドと歯肉側マージンとの適合性が向上する。
図10 隣接面のダイレクトボンディングでは、近遠心の辺縁隆線(白線)をいかに形態回復するかがポイントとなる。
図11 頰舌的な鼓形空隙をバーでラフに調整する。
図12 上部鼓形空隙をバーでラフに調整する
図13 ウェッジを挿入すると、歯間が離開し、研磨スペースが生じる。
図14 ポストウェッジというべきか、隣接面の研磨は、ウェッジを挿入してわずかに歯間離開させてから行うのがポイント(上顎左側第1、2小臼歯間隣接面を研磨している)。
図15 頰舌側のエナメル質については、マトリックスバンドを装着する前に少し広めに行うことがポイント。マトリックスによる充填限界である赤線程度まで行っておくのが無難だろう。
図16 マージンのエナメル質を選択的にリン酸エッチングし、接着性を高め、マージン変色のリスクを低減する。Kエッチャントシリンジ(クラレノリタケデンタル)を使用。
■UBQとクリアフィル® マジェスティ® ESフローを併用した2級ダイレクトボンディング臨床例
30歳男性の2級ダイレクトボンディング症例を供覧する(図17〜22)。
-
図17 30歳男性。上顎左側第一大臼歯近心にう窩が認められた。 -
図18 う窩を開拡すると中等度の感染歯質が認められた。 -
図19 う蝕除去後、接着操作を行う。窩洞にまんべんなく接着材を行き渡らせるためには、必要十分な量を塗布する。 -
図20 1ステップシステムでは、溶媒の除去が接着性能を上げるためのコツである。 -
図21 クリアフィルマジェスティESフローA1を充填。 -
図22 修復終了。適切な隣接面形態が回復された。
■最後に
今回、2級窩洞におけるダイレクトボンディングにフォーカスして、その意義と臨床上のポイントについて述べさせていただいた。著しい材料学的進歩によって適応症が拡大し、大いなる可能性を感じるダイレクトボンディングである9)が、基本的な術式である2級窩洞症例でさえ、隣接面の陥凹が強い場合など、完璧な修復が行えない場合も存在し、臨床的に悩むこともある。しかし多くの症例で、技術の研鑽を積み、高機能、高接着性材料を選択することによって、理想的な修復に近づけることはできると思う。口腔内で修復物を完成させるダイレクトボンディングを極められるように、術者である我々は絶えず努力し研鑽を積んでいかなければならない。本稿が、一人でも多くの読者の先生方の参考になり、多くの患者さんの健全な歯が守られることにつながれば幸いである。
■謝辞
本稿イラストの作図を行って下さった東京医科歯科大学う蝕制御学分野畑山貴志先生に感謝の意を表する。
- 1)明橋冴, 高橋礼奈, 二階堂徹, 田上順次. 新しいレジンコーティング材料を用いたレジンセメントの象牙質接着の向上効果. 特定非営利活動法人日本歯科保存学会学術大会プログラムおよび講演抄録集. 2016;144回:39.
- 2)Fennis WM, Kuijis RH, Roeters FJ,Creugers NH, Kreulen CM. Randomized control trial of composite cuspal restorations; five-year results. J Dent Res. 2014;93(1):36-41.
- 3)Goodchild JH. Class II composite placement is difficult! Solutions to help overcome the clinical challenges. Dent Today.2013;32(11):110, 2, 4, 6-7.
- 4)Shuman I. Excellence in class II direct composite restorations. Dent Today. 2007;26(4):102,4-5.
- 5)保存修復学21第5版: 永末書店;175.
- 6)三橋純. 【これが決め手!マイクロスコープの臨床】マイクロスコープの臨床活用の"決め手" コンポジットレジン修復 臼歯部隣接面へのCR修復. 日本歯科評論. 2017(別冊2017):98-103.
- 7)Kanemura N, Sano H, Tagami J. Tensilebond strength to and SEM evaluation of ground and intact enamel surfaces. Journal of dentistry. 1999;27(7):523-530.
- 8)Peumans M, De Munck J, Van Landuyt K, Van Meerbeek B. Thirteen-year randomized controlled clinical trial of a two-step self-etch adhesive in non-carious cervical lesions. Dent Mater. 2015;31(3):308-314.
- 9)保坂啓一, 高橋真広, 中島正俊, 田上順次.文献&臨床でひもとくCR修復総まとめ. ザ・クインテッセンス2015.08.1654-1679.
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